472 ギルドマスターは警告音で回路がショートします
PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
勝負パ○ツの色は赤
それが世間の常識だと思っていたわたしは、有坂さんの、もうパ○チラでは済まない全開を見て絶句してしまった。
しかも黒地に紫のフリル飾りというその全開パ○ツに、わたしの勝負パ○ツの色は赤という認識まで否定されてしまうし……
泣きたくなってきた
えっと……つまり、なに?
これはひょっとして、世に聞くハニートラップというもの?
これが世に聞くハニートラップなの?
しかも都実課長代理はこれを見ながら階段を上っていたってこと?
ちっとも照れないどころかいつもの鉄面皮。
でも内心じゃデレデレとか……
このむっつりスケベ!!
このままパ○ツに釣られて、ノコノコとどこかに連れて行かれるわけ?
確かハニートラップってそういうものよね?
ちょっとわけがわからないんだけど、拾ったペンを握りしめたわたしは思わず課長代理を睨みつけてしまった。
「……落ち着け」
「落ち着いてます」
「そうは見えないが……泣くな」
まだ泣いてない。
まだ泣いてないけど……泣きそう……。
自分でも何が悲しいのかわからないんだけど、歯を食いしばって堪えていたら不意にペンを握る手を凄い力で引っ張られる。
「いい加減返してよ!」
有坂さんだ。
取り戻すというよりもはや強奪に近い力で、落としたペンをわたしから奪い取った彼女は、わたしに礼をいうどころかここから先は完全に無視。
いないもののように無視をし、頭の上で都実課長代理と話す。
「ありがとうございます、都実さん」
「拾ったのは俺じゃない。
礼は安積に言え」
「そんなことより、このまま少しお話出来ませんか?
あ、コーヒー奢りますぅ。
都実さんってブラックですよね。
わたし、知ってるんです。
それ飲みながらお話ししたいんですけどぉ」
「これから大事な用がある」
「え~少しだけでいいです。
少しって言ってもぉ30分くらいは一緒にいて欲しいんですけどぉ」
「そんな時間はない」
甘いわね、有坂さん。
都実課長代理がどんなお仕事人間だと思ってるのよ?
わたしなんかと違って、課長代理はたぶんそんな陳腐なハニートラップになんて引っ掛からないんだから……たぶん。
だって、ほら、課長代理だって一応男の人だし。
そ、そういうの、全く興味が無いってこともないと思う……たぶん、ね。
しかもむっつりだし
なぜか理由は知らないんだけれど、都実課長代理は仮想現実の中ではむっつりスケベって言われてるのよね。
あ、でも有坂さんのお誘いは断ってるんだ。
あんな、せ……せく……駄目だ、言えない。
言い方を変えるわ。
あんな露出の高い服で誘われてるのに断るんだ。
なんだかよくわからなくなってきた。
「安積、場所を変えて話そう」
「話って……?」
「いいから来なさい。
立てるか?」
有坂さんにペンを引っ張られた拍子にバランスを崩しそうになり、とっさにその場にへたり込んでしまったわたしを無理に立たせる課長代理は、「え~」 とか意味のわからない声を上げている有坂さんに仙川さんの伝言を伝える。
某引っ越し屋さんのCMじゃないけど、さすがお仕事きっちりね。
頼まれたのはわたしだけど。
申し訳ございません
伝言すらまともに伝えられないへっぽこ事務員が、ドナドナと連行されたのはいつもの書庫という名の資料室。
有坂さんさえいなくなればあのまま階段ホールで話しても良かったんだけど、あそこは声が響くから駄目なんだって。
ということで資料室に連行されました。
「誤解されるのは辛い。
弁解させてくれ」
手近にあった机にパソコンを置いた課長代理は自分から話し始める。
「見えたのは不可抗力だ。
見たいとも思わなかったし、見るつもりもなかった」
やっぱり見えたというか、見たというか。
あのスカートの短さで階段なんて上られたら、そりゃ見えるでしょうよ。
「このむっつりスケベ」
言っちゃいけないと思ったけど、口から出ちゃったものは仕方がない。
しかも課長代理ったら、「そうくるか」 と笑ってるし。
なに、その余裕は?
全然弁解なんて必要ないじゃない……っていうか、弁解って何?
全然辛そうじゃないんですけど?
むしろわたしのほうが辛いんですけど?
あ、駄目だ、限界。
涙が出てきた。
嗚呼、貴重な課長の笑顔が滲んじゃう。
もったいない
だって滅多に笑わない人が笑ってるのよ。
これを見逃すと次はいつ見られるかわからない、稀少な笑顔が涙で滲んじゃう。
もったいない!
早く、早く涙を止めないと……と思えば思うほど溢れてくるって、なんでよ、もう!
化粧が崩れてブスになるじゃない!!
「全部、吐き出しなさい。
受け止める」
あ~あ、笑うのやめちゃった。
もっと見ていたかったのに、残念すぎる。
「俺が好きなのは安積だけだ。
待つと言ったのだから返事は待つ。
心変わりをするつもりもない」
……うん? 吐き出せと言いつつ自分が吐き出してませんか、上司様。
わたしが黙り込んじゃったからって、自分のほうが喋ってますけど?
そもそも吐き出せと言われてもなにを言えばいいのかわからないから、代わりにスーツで涙を拭かせてもらおうとしたら断られた。
午後からも一件、取引先と打ち合わせがあるもんね。
このお仕事人間!
こんなことがあって、この数日後に件の人から電話があって国分先輩が撃退。
そしてやってきましたヴァレンタインイベント初日。
日中に定期メンテナンスを終え、その終了のお知らせとともに、今回のイベント内容が公式サイトにて正式に発表された。
この日は仕事が朝から忙しく、運悪く残業……といっても30分くらいで済んだけど。
でも残業で帰宅が遅れ、必然的にログイン時間も遅くなってしまった。
「アールグレイ、ログインしましたぁ~」
『グレイさん、コン~』
『コ~ン』
『コン~』
まぁでもチョコレート争奪戦をするわけじゃないし、出遅れても問題なし。
今日もわたしのログイン挨拶に、狐さんが一杯……じゃなくて、メンバーたちが挨拶を返してくる。
今回のヴァレンタインイベントは、チョコレートを贈りあうという形式をした人気投票と、久しぶりの対人戦の二本立て。
今日から始まるのは人気投票で、投票期間は次の定期メンテナンスまでの一週間と、当初の予定より短くなった。
この変更は今日のメンテナンス終了後に正式発表されたんだけど、どうやら結果発表をバトルロワイヤルと一緒にするためらしい。
集計に時間が掛かるからね。
プレイヤー側にしても、一週間もあれば贈りたい人にはとっくにチョコレートを贈り終え、終盤はバトルロワイヤルに向けてのレベル上げに集中していると思う。
だからこの変更は問題ないんだけれど……ん?
information からアイテムが届いています
何かしら、この表示は。
みんなとログインの挨拶をしている最中、不意にわたしのそばに現われたウィンドウ。
この表示はアイテムが届いていることを示す物だと思うんだけど……うん、まぁ書いてあるそのままなんだけど、おかしいのよね。
普通は誰から届いたか、プレイヤー名が表示されているはず。
そのプレイヤー名がなく、テンプレ部分だけが表示されている。
なにかしら?
普通に考えて不具合よね。
でもこれだけだとウィンドウの表示がおかしいだけに見える。
今までになかったことだけれど、まぁそれだけなら……つまりたいしたことじゃないと思ったわたしは、ポストを開くべくウィンドウをポチったんだけど、刹那、聞こえるはずのない警告音に驚かされる。
え? なに? どうして警告音が鳴るのっ?
ちょっと待って、どうしてポストを開こうとしただけで警告音?
わ、わた、わたし、ポストを開こうと思ってウィンドウをポチっただけよ。
どうしてこれで警告を受けなきゃいけないのっ?
error ポストを開けません
警告音が鳴ったからてっきり警告表示が出ると思ったのに、なぜか出たウィンドウ表示はエラー。
待って、待って、操作ミスとかしてないわよ。
だって表示されたウィンドウをポチっただけじゃない。
ポストを開けたかっただけじゃない。
これはどんな罠よっ?!
「落ち着け、ただのエラーだ」
いや、うん、それはわかってる。
わかってるけど、どうしてエラーが……っていうか、今日もクロウの方が先にログインしてるのね。
どうやらわたし、予想外に鳴った最初の警告音でちょっとパニクっちゃったみたい。
いつの間にか背後に立っていたクロウに止められるまで、何度も何度も不具合ウィンドウをポチり、警告音を何度も鳴らしながらエラーウィンドウを幾つも開いていたらしい。
気がつくと、自分の周りに同じウィンドウが幾つも開いていた。
「あ……」
「大丈夫だ、落ち着け」
「う、うん」
わ、わかった。
その、わかったから手を離してくれない?
あと、その、背後にぴったりとくっつくのはやめ、や、や、め……ああ、もう、自分でなに言ってるのかわからなくなってきた。
「どうした?」
ちょっとクロウ、わかっていて耳元でその声を囁かないでってば!
クロウの声はいい声過ぎるの!!
しかもわたしを落ち着かせようとしてくれているのか、頭を撫でてくれるんだけれど、それ、逆効果だから!
余計に落ち着かないというか、頭に血が昇るというか……。
さっきからもう、どんな意地悪よっ?
駄目だ、頭に血が昇りすぎて気が遠くなりそう。
もうなんなの、この嫌がらせのコンボはっ?!
一度に色々ありすぎて、ちょっと情報の処理が追いつかない……っていうか、頭に血が昇りすぎて思考回路がショート寸前です。
えっと、何が起こってるんだっけ?
意外にあっさりと終わった藍月と都実の痴話喧嘩。
それが焼餅だと藍月が気がつくのはまだまだ先ですが、イベントは進行します。
進行しますが、初っ端から運営がやってくれました。
というわけで不具合勃発です。
原因は・・・