468 ギルドマスターは決戦アイテムを入手します
PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
【暴虐の徒】 の幹部連中に関しては、そんなに 「幹部」 でいたいのなら自分たちでギルドを作ればいいのよ。
それこそ 【暴虐の徒】 に残してきたメンバーも引き連れて。
今なら大絶賛噂の的になって有名になれるわよ。
しかもそれがよくない噂だから、新規メンバーの加入はちょっと期待出来ないけど。
二者択一
だって状況が状況というか、ねぇ……。
それでも入ろうっていうプレイヤーは大方冷やかしよ。
ネタを掲示板に提供するため、サブ垢で潜入……みたいな感じ。
騒ぎが落ち着くまで、新規募集はやめておくことをお薦めするわ。
でも……
「まだ何かあんの?」
あるっていうか、やっぱりちょっと淋しいなと思って。
「何がっ?
今の話のどこに寂しさなんて感じる要素があった?」
な、なぜかカニやんに首を絞められそうな勢いで迫られたんだけれど……それこそなんで首っ? て感じなんだけど、なぜか首を絞めそうな勢いだったのよ。
あの、そのね、今の話の中にはなかったような気はするの。
うん、そこはわたしも納得するんだけど、そもそもわたしが淋しいと思ったのは話の内容とはちょっと離れたところにあって、経緯が経緯だけにライカさんとちゃんとご挨拶が出来なかったってこと。
「……あ、そこ」
うん、そこ。
引退なんてよくある話だし、みんなだってこれまでに色んなゲームをしてきたってことは、サービス終了が理由でもなければ引退してきたわけだし、そういう時ってやっぱりお世話になった人たちに挨拶しない?
「ああ、なるほどね」
『女王らしい話だな』
『可愛いこというねぇ、女王は』
また三人でからかってくるんだから。
どんだけ仲良し小好しなのよ。
まぁそんなわたしの感傷も、「引退する時にはちゃんと挨拶をする」 という形で締めくくられてこの話は本当に終わり。
気がつくともうこんな時間じゃない。
今日も明日も平日だし、そろそろみんなログアウトしないと。
「そうですね」
「ごめんね、トール君。
キンキーやマコト君も。
時間を無駄にしちゃった」
「いえ、そもそも言い出したのは俺ですし……」
ああ、もう!
そこでトール君が申し訳なさそうな顔をしないで。
そもそもこの話、わたしに内緒にしていたらヤバかったのでは?
だってわたし、なにも知らずにチョコを贈ろうとしてたわよ、ライカさんに。
だからトール君が教えてくれたのはよかったんだけど……。
『そこは旦那が』
『見逃さんだろ』
左様でございますか。
ついでに贈り漏れがないか、お仕事が出来る上司様にチェックしてもらおうかしら。
「不破さんとか、問題ない人も消されるからやめた方がいい」
どうして?
「わかってないところが極悪非道」
ちょっとっ?!
え? なんでっ? どうしてわたしが極悪非道なの?
どうしてそうなるのよっ?
ねぇ! どういう意味っ?
ねぇ! ねぇ! ねぇ! ってば!!
わたしにしては結構頑張って訊いたんだけれど、ログアウトするまで誰も教えてくれなかったのはなぜ?
誰かに悪いことをしてしまったからそんな風に言われてるんだと思うと気になって仕方がないわたしに、ログアウト前にトール君が話しかけてきた。
「あの、グレイさん」
なに、トール君。
「明日、シャチ金に付き合ってもらえませんか?」
てっきり極悪非道について教えてくれるのかと思ったら、デートのお誘いだったっていうね。
いいけど……明日かぁ。
明日はちょっと用事があってログインが少し遅くなる予定なのよね。
でも、ま、大丈夫かな。
シャチ金は一周するだけでも時間が掛かるけれど、さすがに一時間とか掛かるわけじゃないし……と安請け合いしたのはちょっとよくなかった。
翌日の用事っていうのは、もちろん仕事が終わったあと。
国分先輩と買い物に行く予定だったんだけど、人が多くてちょっと大変だった。
行き先は言わずと知れたチョコレート売り場。
この日は先輩お薦めの百貨店の催事場に行ったんだけど、本当に人が多くて空気が……薄いわけじゃないんだけど、むしろ濃い?
いや、人口密度が濃いというか、高いというか。
ちょっと気分が……
「安積ーしっかり。
いいのがあったらもう買っちゃった方がいいわよ。
人気のはすぐ売り切れるから」
「ヴァレンタインまで、まだ一週間以上あるのに?」
「あるのに。
こういうのは早い者勝ちだから」
ヴァレンタインのチョコレート商戦に、ガチでの参戦は今回が初めてとなるわたしには、そういう知識というか、経験がまったくない。
いつも家族のチョコレートは通販で買っていたし。
だからそういう意味では国分先輩に習ってよかったと思う。
本当にいつもありがとうございます。
この状況を見ると、一人での初参戦は敷居が高すぎて、たぶん催事場入り口……いや、このフロアに到着した時点で踵を返していたと思う。
お店に入るお客さんのほとんどがこの催事場に来ていた感じ。
それどころかお店に入る前からうっすらと人の流れのようなものが出来ているような感じで、それがお店に近づくにつれ増えていって、勢いを増したというか。
その流れに乗れば、何もせずとも、何も考えずとも、勝手にここまで連れてきてくれたような感じだった。
そのぐらいの人が押し寄せていた。
丁度退社時間だったこともあると思う。
だからといって一度家に帰り、時間を変えて出直すなんて、再度外出する気力も体力もありません。
土曜日や日曜日は、それこそ朝から大変な人混みになって、平日以上に混み合うと聞けばわたしにとってはこれがラストチャンスのようなもの。
国分先輩のいうとおり、売り場に辿り着けた今この時に買わないと。
恐るべし、ヴァレンタイン商戦
「まぁ年に一度のお楽しみだし?
このチャンスを逃したら、次はクリスマスだからね」
女の子側から告白するチャンスってことよね。
そりゃいつでもしようと思えば出来るけれど、なんていうの?
騒ぎの勢いに乗ってというか、流れを利用するというか。
世間の浮かれた空気に便乗するみたいな……うん、まぁわたしもその一人なんだけど。
無茶苦茶便乗しようと思ってます。
だってそうでもしなきゃ、他にいつ、どうやって言えばいいのよっ?
チョコレートを渡す場所とかだってまだ迷ってるし、その時になんて言えばいいのかもわからない。
しかも国分先輩にそれを訊いたら 「は?」 という顔をされた。
泣く……
しかもお店はもちろん売り場にも無事辿り着けたけれど、ここからは問答無用の乱世。
秩序の片鱗もない中を、自力で目的地に辿り着かなければならないって……文字通り戦ね。
ヴァレンタイン商戦
売り子にも戦場だけれど、客にとっても戦場なのがヴァレンタイン商戦のガチさ。
生半な覚悟じゃ踏み込めません。
これを毎年勝ち抜くって、どんなメンタル強面女子? ……と思ったら国分先輩にいわれた。
「毎年参戦してるってことは、ヴァレンタインそのものは負け戦ってことじゃない?」
「……へ?」
「連戦の強者って言えば聞こえもいいけど、結局ヴァレンタイン本戦で負けまくってる負け犬よ。
それでも次の年に参戦しようってんだから、そりゃメンタルも鍛えられるってもんでしょ」
そもそもチョコレート争奪戦は前哨戦で、本戦はヴァレンタインだもんね。
言われてみれば確かにそうかも。
思わず納得し過ぎちゃって返す言葉がありませんでした……が……
「ところで先輩、今年は誰かに渡すんですか?」
先輩が振られた……いや、あれは先輩が振ったというべきか。
だって歳下彼氏改め最低二股野郎は二人同時に付き合おうとしたわけで、先輩はそれをよしとせず破局を選択。
この場合、お別れを選択したのは先輩だから、先輩が振ったってことよね。
もちろんそんなこと、口には出さないけどね。
出さないけど、誰に渡すつもりなのかちょっと気になって……
「安心しなさい、都実課長代理は狙ってないから」
「そ……そっ……え……いえ、そうじゃなくて……」
嗚呼っ!!
そっか、この状況でそんな話をしたらそういう解釈も出来るんだっけ。
彼氏がいるなら一択だけど、フリーなら誰にでも渡せるんだから。
いえ、でもそうじゃなくて……というか、その可能性に及ばないわたしってどんな迂闊?
本番当日にも、それこそチョコレートを家に忘れてくるなんて小学生みたいなうっかりをしそうで、今から怖くなってきた。
まぁ実際には本番当日までにも色々とあるわけなんだけれど、この日はなんとかお目当てのチョコレートをゲット。
人混みに酔いながらも家に帰り着きました。
「なんか、いつもより疲労困憊?」
晩ご飯を食べる気力はなく、少し休憩してからログインしてみればいつものメンバーが揃っていた。
昨日話していたから、わたしのログイン時間がいつもより遅いことは誰も口にしなかったんだけれど、別のことを訊かれる。
「ちょっと人混みに酔ったというか、空気が悪くて……」
お店の中って暖房がガンガンに効いていて、そこに大勢の客が押しかけているものだから……しかもその客がちょっと変な気迫があるというか、意気込みがあるというか。
暖房なんて必要ないくらいみんな燃えていて、その熱気と熱意にやられました。
「先輩と買い物って、そういうこと」
はい、そういうことです。
まぁカニやんはこういうことには勘がいいわよね。
キーワードにわたしの様子を見て見当がつくって、さすがだわ。
「あの、グレイさん、だったら今日は……」
「大丈夫!
約束だし、行くわ!」
またトール君が変に気を遣うから、思わず語気を強めてしまった。
今のわたしはきっと、意気込みすぎてちょっと怖い顔をしていたかもしれない。
よし、行くと決めたからにはパーティを組んで……あ、その前にメンバーを決めないとね。
トール君とわたしに、クロウも行く? ……と訊いてみたら、黙って頷かれた。
じゃああと二人……といってもルゥは駄目よ。
「きゅ?」
わたしの前にお行儀よくおすわりをして何かを待つルゥだけど、さすがにシャチ金は巨獣大せ……んじゃないわね。
ID 【ナゴヤジョー】 に出現するNPCは魚類だから、普通に 【幻獣】 対戦ね。
でもだからといってダンジョン内でルゥが本来の姿に戻ったら、また天井で頭をぶつけて暴れ出しそう。
それはさすがにトール君が危険なので連れて行けません。
わたしにダメだといわれたルゥは、すっかり一緒に行けると思い込んでいたらしく、酷く驚き、元々大きな真っ赤な目をさらに見開いて、それこそ目玉が飛び出すんじゃないかってくらい大きく見開いてわたしを見上げる。
一分も疑っていなかったところが可愛すぎて、もっふりと抱き上げて鼻チューでご挨拶。
「ごめんね、ルゥ。
すぐ終わらせるから、ちょっとのあいだ腕輪の中にいて頂戴」
久々の格納にルゥは泣いて嫌がったけれど、ここは心を鬼にして格納。
残る二名を募ってダンジョンに潜ることにした。
作中で暖房が使われておりますが、まだ2月という設定なのでご了承ください。
ヴァレンタインですからねw




