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462 ギルドマスターはうっかり額を光らせます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!



前話に続き、リアルグレイ(笑)のお話です。

 いざ出陣!


 きたるヴァレンタインに人生初参戦を決めたわたしは気合いを入れるんだけれど、所詮はヘタレ。

 肝心なことを忘れていたっていうね。


 チョコレート


 ヴァレンタインはこれがないと始まらないっていうのに、用意することをすっかり忘れていました。

 手作りという手ももちろんあるけれど、それだって材料の買い出しが必要なわけで、女子力底辺の喪女には無理です。

 今時チョコレートに限らず、ありとあらゆる料理やお菓子の作り方がネットで簡単に検索出来る。

 それこそ手の込んだ高級料理から簡単なお菓子まで、素材の調達方法から必要な調理器具まで解説してくれる。


 手取り足取り


 本当に世の中には親切な人が多くて、事細やかにお世話をしてくれる……んだけど、わたしには壊滅的なくらい料理のセンスがないというか、不器用すぎるというか。

 家族には 「遺伝だから」 と言われているんだけれど、その遺伝子を提供してくれた疑いが濃厚の母からも笑われている。


 そう、うちの母はお料理が出来ません。

 我が家のご飯は、わたしたち兄妹が子どもの頃からずっと家政婦さんが作ってくれています。

 ちなみに父は、母の女子力が底辺であることを知っていて結婚したそうです。

 まぁその分お仕事人間で、詳しくは知らないんだけれど国家資格を持った公務員で、役職付きの高給取り。

 父も大きな会社の重役とかで、夫婦揃ってお仕事人間。

 それこそ兄たちが生まれるまでは、二人揃って家には寝に帰っているようなものだったらしい。

 生まれてからもあまり変わらなかったみたいだけど、あくまでも本人たちはそう話している。

 父や兄たちは、あまり手の込んだものは作らないけれど、普通には家事をするというか、出来るというか。


 女子力高め


 三人ともお仕事が忙しいから、一人暮らしをしている兄たちも滅多に自炊はしないって話だけれど、もういっそ兄と結婚しようかしら……なんて血迷ってしまうくらいわたしの女子力は低いため、手作りチョコははじめから念頭にありません。

 母みたいに、それが仕事であっても取り柄の一つでもあれば父みたいな相手と結婚出来る可能性もあるけれど、その娘には仕事という取り柄すらないから結婚は無理ね。

 脳筋コンビのせいでお嫁には行けなくなったし、せめて彼氏くらいは欲しい……というわけで、今年のヴァレンタインには気合いを入れていたはずなのに最初で躓いてしまった。


安積(あさか)だしなー」


 ケラケラと笑いながらわたしのうっかりを流してくれる国分(こくぶ)先輩は、今年の初めに歳下彼氏改め二股最低野郎と別れたばっかり。

 そのわりにチョコレートを買う気満々で、すでに色々と調べていた。


 誰に渡すんだろう?


 お店はもちろんだけれど、百貨店の特設会場までくまなく網羅。

 検索でちょちょいと、どこのブランドが出店するとか、去年はここが人気だったとか、今年はここが新作を出してくるとか……ビックリするくらい色々と情報収集済み。

 それを昼休みの食堂で話していたから、わたしの同期で総務の仙川(せんかわ)さんをはじめ、近くにいた女子社員が集まってきてしまった。


 おかげでこの日、公式サイトで発表されるはずだったヴァレンタインイベントの詳細を確認出来ず。

 昼休みギリギリまでを食堂で過ごしてしまい、化粧直しも出来ないまま部署に戻る羽目になった。

 せめてあぶらとりと口紅だけでも直したかったのに……絶対おでこテカってる……。

 大口開けて笑っちゃったから口周りとかファンデがよれてそうで、気になって気になって仕方がない。

 それを隠そうと思ってモニターに顔を近づけ、上目遣いにモニターを見ていたら、取引先から戻ってきた都実(さとみ)課長代理に注意されてしまう。


「安積」


 うん、今日も安定のいい声です……じゃなくてお仕事お仕事。


「はい?

 あ、お帰りなさい。

 お疲れ様です」

「ただいま。

 その姿勢、腰を痛めるぞ」


 その姿勢とは? ……と改めて自分を見てみれば、お尻を突き出すようにデスクにもたれかかるという、実に奇妙なすわり方をしてた。

 ひょっとしてわたし、昼休みが終わってから一時間くらい、ずっとこんな不格好な姿勢で仕事していたってこと?

 となりの席で、口の輪郭にしか口紅が残っていない国分先輩が、声を出さずに笑っている。

 ううん、きっとわたしも同じ状態ね……と思った瞬間、慌てて鼻と口を手で隠す。

 口紅のこともそうだけれど、おでこは前髪で隠れているとしても、鼻の頭もテカってそうで……というか、絶対テカってると思う。

 それを慌てて隠したんだけれど、課長代理には益々怪訝な顔をされてしまった。


 見逃してください!


 怪訝な顔をする課長代理の視線が動いたと思ったら、まだ声を出さずに笑っていた国分先輩が、慌てたように首を忙しく振り出す。

 ああ、そういうことね。

 また国分先輩がわたしに余計なことを言ったんじゃないかって思ったわけだ、課長代理は。

 でも無罪を訴える先輩を見てなにかを察したらしく、今日、わたしが見た中で一番大きく深い溜息を吐く。


「……そんなに気になるなら直してくればいいだろう」

「すいません」


 ちょっと昼休みをギリギリまで有意義に使いすぎて……なんて言い訳は後回しにして、国分先輩と二人、慌てて席を立つ。


「戻ったらやってもらいたいことがある」

「お出掛け前に話してらした資料でしたら、あと少し待ってください。

 直近一年は出来たんですけど、三年くらい戻りますよね?

 二年前のデータがちょっと……」

「いや、参考で使うだけだから去年の分があればいい」

「それでしたら……」


 出来ている。

 だからデータを送信しようとして、片手で顔の下半分を隠し、片手でキーボードを操作しようとするのを見てまた溜め気を吐かれてしまう。


「……先に直してこい。

 留守中のメールチェックを済ませておく」

「すいません、すぐ戻ります!」


 大慌てで向かった先はもちろん女子トイレ。

 幸いにして鼻の頭は光っていなかったけれど、口紅はね。

 どうしても食後は無理でした。


「口紅って、落ちにくいタイプでも油は駄目だなぁ」


 ガッツリカツ丼食べてましたもんね、先輩。

 うん、わたしも天ぷらうどんにしちゃったからバッチリ落ちてます。

 他の人が食べているのを見て、どうしてもエビが食べたくて我慢出来ず。

 人が食べているものって、凄く美味しそうに見えるのはなぜかしら?

 でも大きな出費が控えていることを考えて、明日から節約します。


 明日からね


 並んで鏡の前に立ち、大慌てで化粧を直すわたしたち。

 さすがにお昼休みが終わってから一時間くらいとあってトイレを使用する社員は少なく……みんな、休憩時間の終わりに済ませちゃうからね。

 おかげで他には誰もいなかったんだけれど……


「安積はやっぱり課長代理に渡すんだよね?」

「えっ?!」


 まさかそんなにストレートに訊かれるとは思いませんでした。

 お陰様で口紅がはみ出しました。


 ちょ、ちょっと~


「え? ……って、違うの?

 あ、もちろんチョコの話ね。

 だって、そうだよね?」

「そうって、なにがそうなんですかっ?」


 ああ、駄目だ。

 もう全然動揺が隠せてない。

 へ、平静を装えばいいのに、全然装えなくて声に力が入ってるというか、声が挙動不審になってる。

 ああ、もうこれは駄目。


 バレバレだ


「なにって、だって……うん? ひょっとしてまだ付き合ってないの?」


 バレていると言えばバレているけれど、先を行きすぎてハズレるっていうのはどうなの?

 これはわざと外してきたの?

 だって国分先輩の中ではすでに、わたしと都実課長代理が付き合っていることになってるのよね?

 どこをどうしたらそうなったのでしょうか?

 全然わからなくて返事が出来なかった。

 でも先輩には驚くわたしの様子を見てわかったというか、なんというか。

 声だけでなく 「全身が挙動不審すぎて笑えた」 そうです。


 あぁ~……


「まだなんだっ?!」


 わたしには、そこで先輩が驚く理由がわかりません。


「あの、ちょっと待って下さい。

 どうして、そんな……」

「どうしてって、見てればわかるじゃん。

 あたしも最初は会川(あいかわ)に言われたんだけどさ」

「会川さん?」

「あいつ、ちょっと課長代理フェチなところがあるから」

「どんな変態ですか」


 思わず突っ込んでしまったら 「そんな変態」 と返された。

 まぁこれはたぶん国分先輩の言い方よね。

 確かに会川さんは、ちょっと課長代理の信奉者みたいなところがあると思う。

 例の暴行騒ぎのこととか。

 もちろんあれはそれまでの積み重ねもあったし、会川さん自身も広瀬(ひろせ)君に腹を立てていたってこともあったと思う。


 ちなみに広瀬君は健在です。

 よろしくない噂もちらほら流れてきていて、それを知ってか知らずかはわからないけれど、たまに姿を見掛けると声を掛けてこられてちょっと迷惑をしていた。

 さすがに出向先のお仕事を手伝わされそうになったのは、はっきりお断りさせてもらったけど、あの様子じゃ全然懲りてないと思う。

 そのうち営業社員が全員出払った隙を見て、部署にまでに押しかけてくるんじゃないかと内心冷や冷やしてる。


 あの広瀬君だからね


「たまに自称彼女っていうのが出てくるし、あいつなりに心配してたって、どんな親心だよって感じよね」

「課長代理のほうが歳上ですよね」

「一つか二つね」


 ちなみに 「自称彼女」 っていうのは本当に時々現われるらしく……わたしは見たことがないんだけどね。

 でもいるらしいってことは、この一年くらいは出現していないってことかな?

 文字通り 「自称彼女」 で、勝手に付き合ってるとか社内で言い触らしてまわるらしい。

 国分先輩の話では 「牽制したいんでしょ、周りの女どもを」 だそうです。


「課長代理狙ってる子、多いから。

 まずは周りを諦めさせて、それから本丸を攻略しようって感じ?」

「ゲームじゃないんですから……」


 あきれた


 でも先輩曰く 「ゲームみたいなところもあるんじゃない?」 だそうです。

 まぁね、相手を 「落とす」 みたいな言い方もするし、あながちハズレではないのかもしれない。

 そうやって足下を固めて近づけば、課長代理もなし崩し的に付き合ってくれるんじゃないかって……なに、それ?


「仕事には厳しいけど、人間的には優しそうじゃん。

 ちょっと無愛想だけどさ」

「そうですね」


 確かに優しいと思う……というのは内緒。

 まさかあのお仕事人間がゲームをして遊んでいるなんて、誰も思わないだろうし。

 それこそ会川さんでもね。

 だからこれはわたしだけの秘密でーす。


 ふっふ~♪

ちょっと幸せそうな藍月(グレイの本名)ですが、このまますんなり進むのか?

さりげなく広瀬君の影もあるようですし・・・色々と不安があるうっかり喪女です(笑


次話は現実と仮想現実の二重構成でお届け予定です!(あくまでも予定・汗

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