461 ギルドマスターは鼻血を出します
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ギルド 【特許庁】 では鉄砲玉と言われるメンバーの一人、ローズ。
不破さんもそう呼ぶ一人ではあるんだけれど、まさか有無をいわせず背中からバッサリ斬りつけるとは思わなかった。
ローズ自身も思っていなかったらしく、隙だらけの背中を不破さんに向けていた。
運営が派遣してきた、いつもの着ぐるみのクマ登場にゲーム内が歓声で沸く中でも、からかってくるちゅるんさんを相手に必死に金棒を振るっている。
どんなに手にしっくりくる武器を持っても、やっぱり技量の差は出るのね。
ちゅるんさんに押されっぱなし。
「これよりプレイヤー全員参加となります、マメ撒き大会を始めたいと思いまーす!」
いつもとは違うクマのノリに、中の人を小林さんではないかとわたしは疑うんだけれど、ちょっと遠くて訊くわけにもいかなくて。
例え訊けたとしても、わざわざ着ぐるみを着て登場したってことは、たぶん本人であっても素直には答えてもらえないんじゃないかな。
だってあの小林さんよ。
訊かれて素直に答えるのなら、はじめから着ぐるみなんて着てこないでしょ?
そもそもあの人、アバターとはいえとっくに素顔を晒してるんだもの。
今さら着ぐるみを着て顔を隠す理由がわからない。
そんなわけで大人しく、なにを言い出すのかと続きに耳を傾ける。
「あ、もちろん自由参加でーす!」
そこはどうでもいいから早く本筋を説明しなさいよ。
もちろん登録不要という話もどうでもいいわ。
ようは参加したければマメを撒けばいいし、参加しないならマメを捨てればいいんでしょ。
「それ、どっちにしろマメ撒かね?」
「撒いてるよな」
ちょっと脳筋コンビは黙っていて頂戴。
ただでさえ周囲のプレイヤーがうるさくて、クマの声が聞き取り辛いんだから。
「すでに節分イベント 【追儺】 は終わりましたが、ゲーム内でとある条件を満たし鬼の姿に変わったプレイヤーはそのままです」
そうね……というか、とある条件って、なに?
鬼のパ○ツを脱がせようとした不届き者のことでしょ?
あえてその言葉を使わないのは運営なりの配慮なのか……もちろんプレイヤーを敵に回さないための言葉の配慮よ。
っていうかね、そういう仕掛けを施した時点でプレイヤーに喧嘩を売ってるんだけどね。
それをわからないよう、遠回しな言い方で誤魔化してる?
あ、これっていつものクマには出来ない難しさだから、中の人が小林さんと交代してるってこと?
なんかわかっちゃった
まぁそんな運営の事情なんて、一介のプレイヤーにはどうでもいいんだけど。
「邪気を帯びて鬼の姿になってしまったプレイヤーを、皆様で、マメも使ってアバターにまとわりつく邪気を祓い、元の姿に戻していただきたいと思います」
それはつまり、鬼アバターのプレイヤーにマメを投げつけろってことよね?
仲間割れを演じろと?
そんなことをしてプレイヤー同士の仲を裂こうとか、最悪な運営ね。
よくもそんなことを企めたものだわ……と思っていたら、運営の目的は別のところにあったみたい。
邪気って……まぁそうね、邪な考えもある意味邪気ね。
実際に鬼アバターになってしまったプレイヤーは、鬼からパ○ツを剥ぎ取ろうなんて邪なことを考えたのよね。
「つまり運営は、くだらんことを考えるプレイヤーに灸を据えたいってことじゃね?」
「だが露骨にそれをやっちゃユーザーの反感を買うから、プレイヤーにさせることでゲームという形に昇華」
「今回は手が込んでるな」
相変わらず頭がいいんだか悪いんだか、よくわからない運営だわ。
先に言っておくと、マメをぶつけられたくらいで反省するかどうかは疑問です。
だってNPCに追い剥ぎするような連中よ。
むしろ反省なんてしないと思うわ。
でももうお仕置きイベントは始まっていて、マメをぶつけてもらわないとJBたちは元の姿に戻れないってことは間違いない。
クマの話によると、どれだけマメをぶつければ元のアバターに戻れるかは個人差があって……つまりランダム。
沢山ぶつけられなければ戻れない人もいれば、それこそ一粒で戻れる人もいるってことらしい。
JBやバロームさんがどのくらいで戻れるかは不明だけれど、しかもバロームさんが鬼アバターになってしまったのはローズのせいらしいけれど、なってしまったものは仕方がない。
ここは諦めて鬼役に徹してください!
ということで始まったマメ撒きで、本来ならば安全地帯であるはずのナゴヤドーム内は阿鼻叫喚……って確か地獄の一つよね。
「女王は参加しないのか?」
「面白そうじゃね?」
「しないだろ?
この人、喪じゃん」
ええ、そうですとも!
カニやんってばよくご存じで……と逆ギレ出来る強さがあればいいんだけれど、もうね、周囲に鬼アバターの男性や女性が一杯で無理!
お願いだから服を着て!
どうしてそんな恥ずかしい格好で走り回ってるのよっ!
みんなも、どうして平気な顔で……いや、全然平気じゃないわ。
凄く楽しそうに笑いながら追いかけ回すって、どんな鬼っ?
マジでこれ、どんな地獄っ?!
「ただの鬼ごっこじゃん」
「イベントだろ?」
「楽しまないと」
つまり、なに?
追うほうも追われるほうも楽しんでるってことっ?
いや、うん、確かにそんな感じではあるけれど、是非ともみんなで楽しんでください。
わたしは無理!
ということでここを離脱します。
だって鬼役たちの露出が高すぎて無理すぎる。
もうね、ルゥを抱えたままクロウにしがみついてるけど、いつまでもクロウに迷惑掛けていられないし、ここから逃げます。
「先にギルドルームに戻る」
クロウがカニやんたちに挨拶するのを訊いて、インカムから、りりか様とハルさんが話しかけてきた。
二人でりりか様のお店奥にある工房でなにか作ったらしく、それをわたしとカニやんに渡したいんだって。
じゃあカニやんと二人で行くから、クロウはみんなと遊んでたら?
「一緒に行こう」
ありがと
そうと決まれば急ぎます。
わたしたち三人と二匹を見送った脳筋コンビは、振っていた手にマメを握りしめていたから参加する気満々ね。
ちょっとだけルゥも参加したそうだったけれど、ごめんね。
ルゥだけを置いていくと大変なことになるし、かといってわたしがこの場に留まるのはもう無理!
というわけで一緒にギルドルームに。
そこには先にハルさんとりりか様が待っていて、なんとルゥとタマちゃんにプレゼントが……
きゃ~~~~~~!!
え? なに、これ? なに、ねぇ、なにこれっ?
タマちゃんは元々茶トラ猫。
だから……といっても鬼のトラジマは黄色と黒だから違うけれど、トラジマはトラジマってことで、可愛いお耳のすぐ後ろに角が来るように合わせて作られたカチューシャ。
可愛すぎる
ルゥはちょっと青っぽい灰色をした毛並みで、しかもクリンクリンの酷い癖っ毛。
だからトラジマパ○ツを穿かせるともこもこになっちゃって、まるでオムツを穿いた赤ちゃんみたい。
癖っ毛の中から一本角を生やしたら、うそ、可愛すぎる。
ちょっと待って、これ……
鼻血が出そう
しかもルゥったらあざといから、わざとわたしの前で可愛いポーズをとって 「きゅ♪」 と可愛い声で鳴くの。
お目々ぱっちりでキラキラさせて……もうこれ、駄目。
死んだ
カニやんは可愛いタマちゃんをSSに収めるのに忙しいし、りりか様はそんな様子を見て満足そうにしている。
ハルさんは、わたしやカニやんが予想以上の反応を見せたせいかちょっと困惑してるけれど、おおむね満足そう……かな?
う、うん、じゃぁわたしもちょっと羽目を外させてもらって床を転げることにするわ。
だってルゥの可愛さが我慢出来なかったんだもん!
ついでに、タマちゃんを撮っている振りをして、さりげなくフレームにルゥも入れているカニやんにも回転アタックしておいた。
「邪魔すんなー!!」
血相を変えて怒られたけどね。
わたしも、撮影の邪魔をしておいて、あとでしれっとルゥが写っているSSを分けてもらったけど。
当然の権利です
そんな鼻血まみれのイベント 【追儺】 が終わるとカレンダーはいよいよ2月に。
本来2月の節分に行なわれるはずの豆まきイベントが1月の末日に行なわれたのは、カレンダーの都合というか、曜日の都合というか。
今年の節分は珍しい2月2日だったんだけれど……何年? いや、何十年かに一度節分がずれるらしい。
ほら、時間も閏年とか閏時間とかでズレを補正するじゃない。
ああいう感じで節分もずれるらしい。
今年がそうだったんだけれど、2日は火曜日で平日。
イベントするには不向きで、じゃあ日曜日に……となる1月31日か2月7日になるんだけれど、2月にはもう一つ大きなイベントがある。
聖ヴァレンタインデー
そっちはバッチリ日曜日になるんだけれど、節分イベントを7日にするとあいだが一週間しかない。
そうなると運営がしんどいのはもちろんだけれど、プレイヤーもちょっと忙しい。
しかもこのヴァレンタインは二つのイベントが同時進行するタイプ。
それで運営は、【追儺】 とのあいだを空けたかったみたい。
結果として 【追儺】 を1月31日に開催して、ヴァレンタインをカレンダー通りの2月14日に開催することにしたらしい。
運命の日
えっと、まぁその、これはわたし個人の重大決心というか、こう……まぁその、うん、ちょっと大きなイベント日です。
ただ日曜日なのでどうしようか考えた結果、国分先輩に訊いてみた。
他力本願過ぎるとは自分でも思うけれど、他にいい方法が思いつかなくて。
困った時の知恵袋
「日曜日がヴァレンタインの場合って、みんな……えっとですね、ほら、会社で義理チョコを渡す場合って、いつ渡すものなんでしょう?」
うちの会社では義理チョコは贈らない習慣があって……実はこれ、お局5の功績というか、なんというか。
以前は、それこそわたしが入社するよりずいぶん前までは、他の会社みたいに義理チョコを配る習慣みたいなものがあったらしい。
でもこういうイベントは男女でフェアじゃないとね。
例えば部署内の女性社員でお金を集めて、男性社員それぞれに義理チョコを渡したら 「こういうのは数がものをいうんだから、それぞれで欲しかったな」 とかいうらしい。
そのくせお返しは 「これ、みんなでわけて」 と量の入っているお菓子を一つ。
そして夕方頃、お腹が空いたから一つ頂戴とかいって、結局自分たちも食べてしまうらしい。
あとヴァレンタイン前に、必死すぎる 「クレクレ」 をされたり、逆にもらうだけもらっておいて、ホワイトデーになると 「こっちからクレっていったわけじゃない」 とか 「もらってあげただけ」 とかいう人もいたりするらしい。
だからって翌年にその人だけ渡さないと露骨に不機嫌になったり……たかだかチョコレート、されどチョコレート。
食べ物の恨みは恐ろしいっていうけれど、それを仕事にまで持ち込まれたらもうお手上げ。
なにかこう……ねぇ、モヤモヤするというか、公平じゃないっていうか。
まぁそんなこんなで女性社員が不満を募らせているところに、お局5が 「義理チョコなんて止めましょう」 と言い出した。
これに意外なほどあっさり女性社員が賛同したのは、それだけ不満を募らせていたってことよね。
決してお局5に人望があったわけじゃないのは間違いないし。
そうしてうちの会社では義理チョコが廃止された。
もちろん個人でするのは自由だし、本命チョコはもっと自由……というわけで、チョコ自体は持ち込まれているらしい。
ちなみにわたしは、両親と兄以外にチョコをあげたことがありません。
あ、あと学生時代は友チョコを沢山あげたわ。
もちろんみんな女の子で、わたしも沢山友チョコをもらいました。
美味しかった
お父さんや兄さんたちがもらってくるチョコも、毎年わたしとお母さんで美味しく頂いてます。
今年は両親と兄と国分先輩。
それに最近仙川さんともよく会うし、彼女にも渡そうかしら? ……じゃなくてですね。
「そりゃ前倒しでしょ」
「ということは土曜日……は休みだから、金曜日ですね」
なるほど、金曜日か。
確かにこういうイベントは繰り下げじゃなく、繰り上げが定番よね。
じゃあ決戦の金曜日ということで……と思ったら、わたしはとある肝心要なことを忘れていたっていうね。
「いつ買いに行く?
よかったら一緒に行かない?」
…………よ、よろしくお願いします。
肝心のチョコレートを買いに行くことを忘れているグレイ。
彼女らしいといえば彼女らしいうっかりですね。
ちなみに前話の後書きで予告していたグレイのショタ疑惑ですが、上手く書けずこのような形に・・・(ただのモフ中毒w
予告詐欺になってしまいましたことをお詫び申し上げます(大汗
というわけで本編は慌ただしくヴァレンタインへ。