46 ギルドマスターは第二回イベントに参加します
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わたしは新たな装備……以前の重装備を勝手に 「白装備」 と命名して、新しい重装備を、やっぱり勝手に 「青装備」 と命名……この青装備を入手して、ご機嫌で第二回公式イベントに挑んだんだけど、もちろん気になることもある。
その中でも一番気になったのはトール君の装備だったんだけど、当日、集合場所で見つけたトール君は見覚えのある装備をまとっていた。
「……それ、クロウの?」
わたしの記憶が正しければ、クロウが今の鎧ムクロに変える前の鎧だと思う。
ちなみにムクロもお礼シリーズの一つで、同じシリーズのドクロをノーキーさんが愛用しているのは蛇足。
わたしの質問を肯定するように、トール君は少しはにかむように笑う。
結構可愛い。
「はい、しばらく貸してもらえることになったんです」
ほんと、珍しい。
このあいだの大斧のレクチャーといい、クロウにしては珍しいことが続いている。
まさか引退とか考えてないわよね?
よぎった不安をうっかり口にしちゃったら……なんで拳骨を落とされるわけ?
しかもクロウの拳骨って……やっぱりHPが減ってる……。
イベント前になにしてくれてるのよ、もう!
「しない。
それはしばらく貸すだけだ、インベントリに入れっぱなしにしてあるから。
自分で装備を決めたら返してもらう」
うん、わかった。
わかったから説明は口だけにしてくれない?
いちいち拳骨落とさないでよー!
「あの、グレイさん、回復しますか?」
「大丈夫、じっとしていれば自然回復するから」
「それもスキルなんですか?
確か、飲食とか、あとナゴヤドームにいると自然回復はしますけど……」
「うん、常時発動スキルの 【守護者の祈り】」
当然といえば当然だけれど、クロウも取得してる。
そういえばこのスキル、前回のイベント中は発動していなかったような気がする。
今回のイベントもHP回復は、スキルもアイテムも使用不可っていうから、たぶんこのスキルも発動しないと思ったほうがいいわね。
ま、バトルロワイヤルで回復ありにしたら終わりが見えないか。
第一回イベント終了後に運営が行ったアンケートで、一番要望の多かったプレイヤー同士のバトルロワイヤル。
それが第二回イベントに選ばれたんだけれど……あ、ストーリー的には
「互いにスキルを磨いて切磋琢磨せよ!」
……となっている。
もちろんこれをいっているのは例のNPC長官。
イベントは運営からの告知だけれど、ゲーム内ではそういう設定ってことね。
トール君、ちゃんと読んだ?
「はい、読みました」
恥ずかしそうな返事も可愛い。
今後公式イベントはエキストラ・クエストと位置づけされるらしく、ウィンドウを見ればエピソード・クエストとは別にカウントされている。
「今回もHPは回復不可。
銃弾、MPは無制限で、装備品の損耗も無し」
ルールを確認するようにトール君がいうと、インカムからカニやんが割り込んでくる。
用事があったとかでギリギリにログインしてきて、さっき集合場所に着いたとは聞いたけれど、人が多すぎてまだ姿は見えない。
でもこの人混みのどこかにはいるらしい。
『これ、今後のイベントでもずっとこのルールってこと?』
うん、それはわたしも疑問に思ってる。
だってもしそうだとしたら、この先もずっと回復系魔法使いの出番がないってことになるから。
まぁこの回復系魔法使いっていうのも、実はちょっとあれなんだけど……回復系魔法使いのことは今は問題じゃないから置いておくとして、基本ルールみたいなものは作らないほうがいいと思う。
もちろんわたしの個人的意見だけど、イベント内容の幅を狭めないためにも、それこそ内容によって柔軟に変えたほうが面白いと思うわけ。
だから今後もなるべく面白いイベントを考えてね。
「ところでカニやん、見つけられそう?」
『無理っぽい。
これ、何人いるんだよ?』
「100人はいるんじゃない?」
ざっと見回してなんとなくの数字を口にしたんだけど、周りにいたメンバーたちは口々にもっといるって。
カニやんからは 『うへ』 という嘆きが返ってきた。
まぁ時間までに見つけられなきゃ見つけられないで、別にいいんじゃない?
前回は団体戦だったからパーティーごとに転送されたけれど、今回は個人戦だから、たぶん転送位置はバラバラにされちゃうと思う。
わたしはバトルロワイヤルだからそう思ってたんだけど、トール君には驚かれちゃった。
「そうなんですかっ?」
「……わからないけど、たぶんね」
個人戦の今回は職種別じゃないから、魔法使いなんてほとんど的。
何度もいってるけれど、魔法使いは近寄られたら終わり。
同じ後衛職の銃士も近寄られたら終わりだけど、射程が半端ない。
特にそこにいる美少年なんて、百発百中で当ててくるのよ。
物凄く可愛い笑顔で容赦なくズドンッて撃ってくるんだから。
速さで剣士に負けて、射程で銃士に負ける魔法使いのどこに勝機があると?
今回の第二回イベントは二時間。
そのあいだエリア内を逃げ回るとか、結構な罰ゲームよね。
「まぁそこは職それぞれじゃない?。
物理攻撃は接近しなきゃ削れないし、銃士に範囲攻撃はないし」
そこにいる美少年は、ズドンと余裕のコメントをくれた。
この人混みのどこかにいるらしいカニやんは、もうほとんどわたしたちを探すのは諦めたみたい。
『だなぁ。
このゲームじゃ魔法使いは火力のごり押し職だから』
「どのみちどこのギルドも主催者は参加でしょ?
僕らもグレイさんは参加しないと、イベント的に盛り上がらないし」
「そうですね、前回イベントの最優秀プレイヤーですし」
そういう称号はありません。
でもイベントは盛り上がるに越したことはないし、10位以内に入れたらまたなにか賞品がもらえるんだって。
うん、10位以内なら入れるかも!
我ながらお手軽な性格
いずれにしたって、このメンバーが転送後もすぐそばにいるっていうのは致命的じゃない。
10位以内とかいう以前に、全員クロウに落とされるのが目に見えてる。
だから転送位置はバラバラにして欲しいっていうのがわたしの本音。
この密集状態で、誰がクロウに勝てるっていうのよ?
「女王は落ちないだろ?」
「そもそも旦那が狙わないし」
今回のイベントはレベル20以上っていう参加条件があってトール君はギリギリだったんだけど、30を越えている脳筋オッサンコンビは余裕の参加。
今回のイベント参加者の中堅層で、たぶんゲームを動かしてくるんじゃないかな?
未だ剣士のトップはクロウ、ノーキーさん、ノギさんの三つ巴だけど、この三人に何かあるとすれば、中堅層の剣士たちじゃないかと思ってる。
もちろん転送時に距離は離されると思うけれど、でも近くにいるなら同じこと。
わたしだって、出来たらクロウには斬られたくない。
でもこの配置で転送されたら絶対に無理。
悪いけど、クロウを交わしつつ他のメンバーをギリギリまで狩ってポイントを稼がせてもらうわ。
「さすが女王」
「喜んで首、差し出させてもらいます」
嘘ばっかり!
絶対だまし討ちにするくせに。
「嘘つきはグレイさんだって同じくせに」
「?」
『クロエ、それ、言っても無駄だから。
たぶんグレイさん、無意識だし』
「あーそうだね」
クロエとカニやんだけでわかり合ってる感じが面白くないんだけど。
しかもこの会話、前にもあった?
なんだか最近、既視感が多くて……歳かしら?
ちょっと首を傾げるわたしは、視界の隅に入る二人に目を留める。
の~りんとココちゃんの二人に。
あの二人の参加にはちょっとあったのよね。
二人ともすでにレベル20台半ばだから参加条件に問題はないんだけれど、ココちゃんの職と参加理由がね。
だって回復系魔法使いで火力がないっていうのに、どうしてバトルロワイヤルなんかに参加するわけ?
しかもの~りんと相談して決めるとか。
いや、の~りん、そこは止めるところじゃないの?
だって、悪いけど絶対守り切れないわよ、の~りんじゃ。
どうして参加に同意しちゃうわけ?
「二人で一緒にいたいんでしょ?」
「こう……二人で試練を乗り越える、みたいな?」
クロエとカニやんはそんなことをいっていたんだけれど……うん、つまり二人にはあの二人の考えみたいなものがわかるってことね。
わたしには全然わからないんだけど……とりあえず個人戦だし、ギルドとしては参加規定にあるレベル20以上なら参加自由ってことにしちゃったから、この規定に触れないココちゃんの参加を止めることは出来なかった。
ココちゃんだけはダメなんて言えないじゃない。
クロエが、刺さなくてもいい釘を刺そうとしたから、さすがにそれは止めたけど。
でも、たぶん、ココちゃんには厳しい結果が待ってると思う。
わかってたけど、止められないのよね。
おまけにわたしの希望どおり、転送位置をバラされれば、の~りんと無事に合流出来る確率はきわめて低い。
わかってないと思うけど……
たぶん、二人はこっそりとパーティーを組んでると思う。
そうすれば一緒に転送されると思ってるのかな?
わたしは無駄だと思ってる。
今回のイベントは個人戦だから、イベントエリアではパーティーシステムは無効だと思うの。
でも全くのぼっちは淋しいからか、エリアチャットとギルドチャットは有効らしいんだけどね。
もちろんイベントエリア外とは通じないのは、公正さを維持するためだと思う。
「どうすればよかったと思う?」
さっき減ったHPが回復しているのを確認しながら、小さくクロウに訊いてみる。
こっちを見たクロウがまた右手を挙げたから拳骨を食らうかと思って身構えたら、頭の上に乗せられただけ。
相変わらず大きな手……なんだけど、これはなに?
どういう意味???
「しばらく放って置けっていわれただろう」
「うん、カニやんに」
「じゃ、放っておけ。
いずれ答えを出すだろう」
そっか、の~りんはもう告白しちゃったんだ。
だからあとはココちゃんが答えるだけ、か……。
見ているだけって……このあいだとは違うもどかしさがある。
思わず溜息を吐いちゃった……ら、運営の音声インフォメーションが入った。
『お集まりのプレイヤーの皆様、大変お待たせいたしました』
早くしろ! と、インフォメーションに合わせて周囲からブーイングが上がる。
わたしの周りは、今回のイベント参加者たちの歓声で俄然騒がしくなる。
盛り上がってきたわね。
わたしも気分を切り替えて、イベントに集中することにする。
とりあえず目標は10位以内ってことで。
『これより 【the edge of twilight online】 第二回公式イベント、プレイヤー同士によるバトルロワイヤルを開催いたします』