454 ギルドマスターは槍を奪います
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槍使いが落ち、状況はプレイヤーが有利になったはず。
…………ん? いや、まだか。
そもそも 【幻獣】 が三体もいたわけで、一体くらい落としても全然有利にはなってないわね。
しかもMP無制限のNPCが回復魔法を持っているという、デスゲーム寸前の崖っぷち。
プレイヤーに渡り合える火力が無ければ、NPCはHPも無制限みたいな状態になっちゃってほぼ不死身じゃない。
元々このゲームは 【the edge of twilight online】 というタイトルのせいで崖っぷち運営とか言われていたんだけど、だからってプレイヤーまで崖っぷちに追い込まなくてもよくない?
edge of twilight = 黄昏の水際
舞台が文明滅亡寸前の近未来日本みたいな感じだからなんだろうけれど、運営のセンスがよくわかりません。
プレイヤーまで道連れにしたがる心境もね。
お陰様で槍使い一体を倒したところで、まだまだデスマーチは鳴り止まない。
それどころか耳が痛いくらい高らかに鳴り響いているわよ。
うん、まぁこれは一種の警告みたいなものだったのかもしれない。
槍使いが放り投げた槍をネコババしようとしたJBは、槍使いが落ちて、今度こそドロップとして槍を手に入れられるかも……なんて思ったのかしら。
まぁドロップしたとしても、槍使いが使っていた性能そのままではなくプレイヤー用になるんだろうけれど、とりあえず落とし物は警察へ。
ネコババは駄目よ
「槍使いと一緒に消滅だろ?」
「あった!」
自力で回復を終えた恭平さんが立ち上がりながら呆れた風にいうんだけど、それをかき消すように歓声を上げるJB。
「あるのかよ……」
まぁ普通は持ち主が落とされるとか、死亡状態になると装備も一緒に消滅するもの。
NPCはともかく、プレイヤーは落ちても存在が消滅するわけじゃないから、その場に残された装備をパクられちゃたまったもんじゃない。
特にイベントだと一般エリアに戻されるだけだからね。
落とした装備も一緒に戻してもらわないと困ります。
拾い物パクリが出来るようになると山賊顔負けの追い剥ぎが横行して、ゲーム倫理というか、はっきりいってゲームが崩壊するわ。
海賊でもいいけど
でもJBが拾ったのは持ち主がNPCだし、ドロップの扱いならどこかで廉価版とすり替わっているだろうから問題ないかな。
あるとすれば団体戦の場合、一つしか無い戦利品の拾った者勝ちが許されないってことぐらいかな。
そのことについてはあとで話し合えばいいんだけど、話し合う必要はなかったみたい。
戦利品を片手に持って高々と掲げたまではいいんだけれど、槍がまるで意志があるように、JBの手を振り払うように突如として暴れ出した。
「うわっ?!
なんすか、これっ?」
「放せ、この馬鹿!」
装備であるはずの槍がJBに取得されることを嫌うように……というか、その状態のJBを見るとボディ○レードっていうんだっけ?
あの両手に持ってブレードをブルブルさせるやつ。
あれをやってるみたいに見えるんだけど……うん、まぁJBも脳筋系なんだけど……っていうか脳筋よね。
ちょーっと鍛え方で元祖脳筋コンビには全然敵ってないけど、でも脳筋よね。
トレーニング中?
「違うっすよーっ!!」
「だから放せっていってるだろ!」
助けを求めるJBに苛立たしげな恭平さん。
それを横目に見て……うん、弓使い担は忙しいからね。
担なんて言い方はファンクラブみたいね……とわたしは思ったんだけどカニやんには 「腐らせるなっ!!」 と怒られた。
つまり腐女子の皆様も使う言葉なのね。
いいじゃない、共通語だったら。
何がそんなに嫌なのよ?
っていうか、カニやんはどんだけ腐女子の皆様が嫌いなのっ?
「果てしなく底なしに嫌い」
忙しい弓使い担……じゃなくて、担当のカニやんは……うるさいから言い直しておくわ。
忙しい弓使い担当の一人、カニやんは、勝敗のついた槍使い担……じゃなくて槍使い担当組を横目に見てぼやく。
「JBのそれって、くわえた拾得物は絶対放さないワンコ並みの執着」
「ワンコは可愛いけど、JBだとなぁ~」
弓使い担当のカニやん以上に忙しいはずの剣士担当の柴さん。
まぁ突っ込んでくるとは思ってたけどね。
この人はムーさんともどもカニやん大好きだから。
しかも柴さんは、脳筋にしては遠回しな言い方で多少は気を遣ったのに、それを続くムーさんがぶっ壊してくる。
「全っ然可愛くねー」
うん、そうね。
ちなみにどうしてカニやんより二人のほうが忙しいのかといえば、前衛だからです。
弓使い担当も、前衛のノーキーさんと串カツさんは死にもの狂いの状況です。
槍使いを落としたら、剣士の足止めさえ確実に出来れば弓使いを落とすのは簡単かと思っていたのに……だってほら、弓使いは中距離攻撃型だからね。
接近戦には弱いはず……と思っていたけれど、やっぱりというか、案の定というか、MP無制限っていうのはほとんど不死。
首への直撃だけ器用に回避し、部位欠損さえあっと言う間に自己修復。
削っても削っても落ちない弓使いを相手に、串カツさんはまだ冷静だけど、ノーキーさんは半狂乱って感じ。
ムキになっちゃって……
まるで小さな子どもみたいなノーキーさんなんだけど、そんなに無茶苦茶したら武器の耐久がなくなって折れるわよ。
まぁあれでもランカーだし、インベントリに予備の武器ぐらいは持ってるでしょうけど。
「弓使いより剣士、ちょっと手伝ってくんない?」
「女王、暇だろ?
ちょちょいっとマメ撒きしてよ」
「鬼が集まってきて、ちょっと厳しいかも……」
脳筋コンビを後方支援するの~りんまでが泣き言をいうからどうしたのかと見れば、マジで赤と青の鬼がうじゃっと集まっている。
ここはアキヒトさんを! ……と思ったらゆりこさんたちのところにも結構な数の鬼が集まっていて、学生組の支援はあるけれど、剣士戦のところまで移動することも難しい。
ここは最終兵器の登場よ!
……と思ってルゥを呼ぶんだけど、わざわざわたしの足下に戻ってきたと思ったら、脳筋コンビを応援して欲しいというわたしのお願いにぷいっとそっぽを向く。
えーっと、これはあれね。
たぶん間違ってないと思う。
拒否
「ワンコは飼い主の傍が一番いいに決まってるじゃん。
なぁ、タマ」
なんて呑気に言うカニやんはお仕事の手を止めて、肩に乗せたタマちゃんの頭を大きな手でわっしわっしと撫でちゃうし。
撫でられたタマちゃんは、嬉しそうににゃ~んと可愛い声で鳴いて応える。
もうね、全く戦闘に参加する気のないタマちゃんは、尻尾は二つに割れてるけど化け猫にはなっていない。
だから鳴き声は超可愛くて、二本の尻尾でカニやんの頬とか撫でて 「やめろよ、くすぐったいなぁ」 とか青春ごっこしてるし。
離れたところにいる脳筋コンビに 「下僕め」 とか言われても、全然気にならないくらい幸せモード全開でちょっと羨ましい。
わたしもあとでルゥを目一杯モフってやる。
絶対モフる
ちなみに元槍使い戦の周辺に鬼が少ないのはルゥの戦功です。
これも褒めなきゃだし、目一杯モフってあげなきゃね。
なんだったら今もちょっぴりモフりたい……と思ったら、短い尻尾をピコピコと振りながらひょっこひょっこと飛び跳ねて行っちゃうし。
バイバイ?
えーっ!! だってわたし、マメ持ってないのよ。
せめてルゥにゲロってもらわないと……うん、大丈夫よ。
可愛いルゥのゲロならたぶん大丈夫………………たぶん。
「グレイさんはいいよ、俺たちが行く」
担当する槍使いを落とし、手が空いたからと恭平さんが気を利かせてくれる。
その言葉が複数形なのは、もちろんJBよね。
クロウも手が空いてるけど、恭平さんとJBが剣士戦に行くならクロウは弓使い戦に入ってもらえばいっか。
恭平さんとJBじゃ、串カツさんはともかく、ノーキーさんと一緒は厳しいだろうし……とか考えていたら、JBは脳筋コンビに文句を言っていた。
「俺は可愛くないっすかっ?!」
「可愛くないに決まってるだろ!
とにかくその手を放せ!!」
相変わらずボディ○レードで胸筋を鍛えていたJBに 「ほら、行くぞ」 と急かす恭平さん。
その手が槍に伸びると、同じように別方向から伸びてくる手がある。
この二人目の手は誰かと思ったら……
弓使いっ?!
………………あ? あら? どうしてここに弓使いがっ?!
え? どういうことっ?
いきなりの展開に状況が把握出来ず混乱しちゃったんだけど、わたしの視界を妨げるように前に出て来たクロウに 「下がれ、グレイ」 といわれてちょっと理解する。
槍使いと弓使いは……あ、剣士もね。
三体の 【幻獣】 は似たような古代の衣装を模した装備に角髪っていう髪型なんだけど、ちょっとずつ違っていて、特に弓使いは矢筒を背負っている。
これは一見にしてわかる他の二体との違い。
恭平さんと、ほぼ同時に槍に手を伸ばした二人目の背には矢筒があるから、弓使いで間違いないと思う。
チラリと視線をやれば、クロエと蝶々夫人は無事。
後方から支援するゆりこさんやくるくる、ぽぽも大丈夫。
でも串カツさんはまた殴り飛ばされたのか、梅の木にもたれかかるようにへたり込んでいる。
だいぶんHPの流出があるみたいだけど、蝶々夫人に任せておけばいい。
さっきのこともあるし、たぶん串カツさんは武器だけでなく、防具の耐久もかなり削られているはず。
もう無理は出来ないかな。
ところでノーキーさんはどこに……と思ったら、頭上を飛んでいた。
あとで聞いた話では、弓使いに放り投げられたらしい。
それはそれは気前よく、高々と。
お見事!
中距離攻撃型の弓使いだから接近戦は出来ないんだけど、でもそれは武器を使って攻撃する場合。
素手なら出来るのね。
うん、まぁプレイヤーでもそうなんだけど、相手はNPC。
そう思って油断しまくりだったらしいノーキーさんは隙だらけの腕を取られ、気前よく放り投げられた、と。
でもノーキーさんだからね、ノーキーさんなのよ。
格好悪く放り投げられたはずなのに、まるで体操選手みたいに綺麗な直立姿勢で一回転。
あとはまるで戦隊もののヒーローみたいに、砂煙代わりに雪を舞い上げて格好良く着地を決める。
さすが目立つの大好き 【特許庁】。
ただじゃ転ばないというか、投げ飛ばされないというか。
まぁ目立ったダメージはなさそうだし、放って置いてもいいでしょ。
わたしは着地までを見届けず、クロウのうしろから、今現在一番の危機的状況にある恭平さんとJBを見る。
JBの手から逃れようと足掻いていた槍は、JBが手放すより早く、恭平さんが奪うより早く弓使いが強奪。
とたんに槍は大人しくなったんだけど、それはおそらく持つべき人の手に渡ったから。
弓使いに
そして槍を手にした弓使いの背からは一瞬にして矢筒が消えた……と思ったら豪腕でJBを振り払う。
そして槍使い顔負けの華麗なる槍術で、まずは恭平さんを打ち払う。
剣戟を響かせて躱された……と思ったら間髪を置かず次手を繰り出す。
でもその狙いは恭平さんじゃなかった。
「マジっすかぁ……」
「この馬鹿」
弓使いに腕力任せに振り払われ、体勢を崩してたJBの腹部をザックリ……。
うわぁ、痛そう
一転二転と転げ続ける事態に、振り回されるグレイたちプレイヤー。
でも最後はあっさり終わるかも(大嘘