452 ギルドマスターは腕力でごり押しされます
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クロエの移動に応じ、追いかけるように場所を移した弓使い。
ステータスDEXに反応する弓使いは、他のプレイヤーからどんなに攻撃を受けても、直接攻撃に対する応戦ぐらいしかしなくて、現時点で……あるいはその感知範囲内にいる一番DEXの高いプレイヤーを落とすまで、その攻撃目標を変えることはないからね。
あまり時間が無いこともあるし、肩に担いだ銃を下ろして猛ダッシュをしたクロエは、その位置が、他の二体を回復魔法の有効範囲から外したところで足を止める。
そして後ろから来る弓使いを振り返ると、隠れる場所もない雪原で銃を構えた……と思ったら照準器に弓使いを捉え、引き金にかけた指に力を込める。
攻撃開始の合図
さすがは攻撃行動の一番速い銃士。
しかもクロエはセブン君と共にそのトップを張る実力者だもの。
クロエに呼応して足を止めた弓使いが、矢をつがえるより早くその眉間を撃ち抜く。
クロエに万が一のことがあれば次に狙われることがわかっているというか、決まっているため、安全圏で待機していたくるくるとぽぽも銃撃を開始。
釣り作戦を速やかに行なうため、反撃はせず、背中から弓使いに射られ続けたクロエの回復は回復系魔法使いの最高峰である蝶々夫人に任せ、攻撃職の総攻撃が始まる。
邪魔になる鬼の退治はルゥの豆鉄砲と学生組の担当。
他のメンバーで槍使いと剣士の足を止め、弓使いのフォローにまわらせないようにする……んだけど、実は槍使いの槍が投擲武器だったっていうね。
知らなかったわたしは、これの直撃を食らって落ちそうになったんだけど……ほんっとに痛かったんだから。
でもおかげで 【素敵なお茶会】 のメンバーはもちろん、先に遭遇していた 【特許庁】 のメンバーもこのことは知っていたはず。
すぐあとでわかることだけれど、不破さんが落ちたのはこの槍の直撃。
でもそれだけを聞けば、接近戦職である剣士の不破さんが魔法使いより貧弱ってことになっちゃうんだけど、もちろん直接の原因というだけで、ローズとかバロームさんが色々やらかしてくれたのが遠因。
そんなことでもなければあの不破さんが、槍の一撃くらいで落ちるわけないもの。
そもそもぶっ刺されるなんてこと、無いわよね。
だってホストみたいななりをしてるけれど、あれでランカーの一人だもの。
そういえば真田さんもいないけど、どこかで落ちたのかしら?
あとで聞いてみようっと。
まぁそんなわけで槍使いが、弓使いに直接攻撃を仕掛けようとすれば、フォローに回れなくても自分の槍を投げて援護しようとすることはわかっていた。
だから高火力の二人を対弓使いに回していたんだけれど……それこそぶっ刺さっても落ちないようにね。
たとえ一人が落ちてももう一人いるから大丈夫、という意味ももちろんあった。
あえて言わないけど、きっとメンバーたちにはそう思われていたはず。
小心者の考えそうなことなんて、バレバレだもん。
だからあえて言わないけれど、あえて隠す必要もない。
全体総括なんて体よく前線を外されたわたしに代わり、弓使いを担当するカニやんが得意とする氷水魔法で弓使いの足を止めたところに、その両側から斬り掛かろうとするクロウとノーキーさん。
愛剣・砂鉄から長刀・屍鬼に持ち替えたままのクロウと、いつもの大剣を大きく振り上げるノーキーさん。
実はこの配置、弓使いを挟んでこそいるけれど、互いに相手の間合いに入っているのよね。
もちろんノーキーさんがとち狂ってクロウに斬り掛かろうとすれば、 【クロノスハンマー】 あたりで動きを止めて、カニやんにとっちめてもらうわ。
弓使いは 【幻獣】 だから闇属性の魔法は効かないけれど、足止めはクロエがやってくれるだろうし。
「いやいやいや、俺、範囲に入ってるから。
巻き込み必死の距離だから」
あれ? そう?
「ボケた振りして試すなよ。
あんたの範囲魔法は俺らと広さ、全然違うから」
だから前線を外されたんだとかなんだとか色々言われたけれど、長くなりそうなのでスルーすることにした。
でもノーキーさんは意表を衝くのが大好きすぎる要注意人物だから、ついつい対弓使い戦を注視してしまったわたし。
でも範囲魔法の巻き込み防止が目的の前線外しだったら、全体総括なんて建前だし構わないはず……と思ったら甘かった。
「槍、行った!」
槍使いの足止めを担当していた串カツさんの声でチラリと対槍使い戦を見れば、丁度ちゅるんさんが丸腰になった槍使いに斬り掛かろうとしているところだった。
この直後、わたしは槍使いが投げた槍を追うために視線を外してしまったから、なにが起こったのかはわからない。
「俺が斬る!」
そんなことを言っていたノーキーさんの背後から飛んでくる槍に、対応したのはクロウ。
目の前にいる弓使いをスルーし、ついでにノーキーさんもスルーしてその背後に回り、凄い勢いで飛んでくる槍を屍鬼で打ち払う。
刹那、耳障りな剣戟が響く。
仮想現実なら手で受け止めるとか、現実じゃ絶対に出来なさそうなことでも出来そう……なんて考えてしまうけれど、よほど角度とタイミングを合わせないとぶっ刺さります。
思いっ切りぶっ刺さります
クロウなら出来そうなんだけど、屍鬼で打ち払うという安全策は、クロウらしいといえばクロウらしい堅実な策よね。
でもクロウには別の物が見えていた。
わたしが飛来する槍を追って視線を外した直後、対槍使い戦で起こったことが見えていたの。
だからクロウは槍を打ち払った屍鬼をすぐさま切り返し、眼前に迫ってくる槍使いに備える。
…………は? 槍使い?
え? 待って待って、どうして槍使いがクロウの前にいるの?
だって槍使いの足止めは、ちゅるんさんと串カツさんの二人がしているはず。
どうしてっ? ……と思って対槍使い戦が行なわれていたはずの場所を見れば、大量のHPを流出させながら梅の木にもたれかかるように雪の上に座りこんでいるちゅるんさんと、雪に突き立てた剣を支えに立ち上がろうとしている串カツさんの姿があった。
なにが……っ?
「あたしはいいわ。
串カツをよろ~」
おそらく蝶々夫人の回復量をもってしても間に合わないと判断したちゅるんさんは、ゆりこさんに、串カツさんの回復を依頼。
クロエの回復に付いている蝶々夫人に 「サブマス、お先ぃ~!」 と陽気な挨拶をして落ちた。
ここで主催者ではなく副主催者に挨拶するところに、【特許庁】 の歪んだ組織図というか、独特な人間関係が見える。
でも実際、ちゅるんさんの判断は間違っていなかったと思う。
あまりの流出量にゆりこさんとキンキーの師弟コンビで回復に掛かるけれど、そんな間もなくちゅるんさんは落ちた。
継続ダメージではなかったため、わたしが見た時にはHPの流出こそ止まっていた串カツさんだったけれど、相当量を失ったらしい。
レベルの都合上、MPの最大値が低いキンキーは、串カツさんを回復するために何回かポーションを使った自身のMPを回復していたし、ゆりこさんも。
いや、まぁ串カツさんのHP最大値も結構……というか、かなり高いだろうから、回復も簡単には終わらないわよね。
腰の低い人だけど、ランカーだし。
「すんません、やっぱ無理でした!」
長刀・屍鬼で仕掛けるクロウに対し、その見事な身体能力で刃を躱しつつ、隙あらば素手で仕掛ける槍使い。
そこに、回復途中で駆け付けてくる串カツさん。
いったい何があったのか?
わたしが目を離したほんのわずかなあいだの出来事なんだけど、蝶々夫人の説明によると、槍使いは、投擲によって槍を手放すと、取り戻すまでのあいだSTRが強化されるというチートの持ち主……って、そんなチート無しでしょっ?
なに、それっ?!
【幻獣】 に関しては基本ステータスすら公開されていないから、同じ 【幻獣】 であるルゥのステータスも、飼い主であるわたしですら知らない。
だから数値などで明確な証明が出来るわけではないけれど、まず間違いないだろうって……なに、それ?
なんなのよ、一体。
この三体の攻略方法は、たぶん 【特許庁】 でも試みられたはず。
少なくとも蝶々夫人は思いついたはず。
戦略としては 【釣り】 なんてオーソドックスな方法だもの。
すぐに思いついたはずよ。
でも 【素敵なお茶会】 に比べてランカーの少ない 【特許庁】 では難しかったのかも知れない。
もちろん 【素敵なお茶会】 でも簡単ではなくて、単独で実行すれば、終了時にはかなりの犠牲を出していたはず。
だって 【幻獣】 が三体もいる上にその三体は協力体制にあって、よりによって回復魔法まで所持しているんだもの。
しかもNPCのMPは無制限。
時間が掛かれば掛かるほどプレイヤーが不利になるデスゲーム。
だから今実行出来ているのは 【特許庁】 の協力っていう胸アツ展開のおかげなんだけれど、運営が底意地の悪さを見せてくる。
確かに槍を投げられるようにするのはいいけれど、丸腰になったとたん弱体化したんじゃ話にならない。
その対策を考える……ここまでは理解出来るんだけれど、どうしてよりによってそんなチート能力を与えるのよ?
しかもこれって、次の手につなげるための戦略にもなっている。
つまりこういうこと
弓使いに接近戦が仕掛けられた時、プレイヤーの足止めなどによって救援に向かえない槍使いは槍を投げて弓使いを支援。
そして槍を手放した素手の槍使いは槍を回収するまでSTRが強化され、プレイヤーを振り切って槍を回収するとそこは弓使いのすぐそばっていうね。
接近戦に弱い中距離攻撃型の弓使いを支援、あるいは救援出来る仕組みが出来上がっていた。
よく出来た仕組み
一見ただのチート能力に見えるけれど、ピ○ゴラスイッチみたいな感じ。
まぁ三体とも接近戦型にされても困るんだけど……と釈然としないでいると、カニやんが思い出したように呟く。
「そういや、さっきグレイさんが刺された時もクロウさん振り切ってたな」
そういえばそうだったわね。
槍にぶっ刺されて自力で抜けなくてウゴウゴしていたら、あっと言う間に槍使いに接近されていたっけ。
あの時はわたしがスパークで自分を吹っ飛ばし、弓使いからも槍使いからも離れる方法を選択。
【幻獣】 はノックバックしないから自分のほうが離れるしか方法がなかったんだけれど、直後に駆け付けてくれたクロウのおかげで事なきを得ることが出来た。
でもたぶん、スパークでわたしが吹っ飛ぶ直前、弓使いに最接近したあの瞬間に槍使いの部位欠損が回復されたんだと思う。
わたしと同じ状況に陥った不破さんは、当然のことながら魔法使いではないからスパークは使えない。
でもSTRやVITは魔法使いより遥かに高く、近接武器も持っている。
それもクロウと同じ長刀・屍鬼を。
丸腰の槍使いを相手にそれなりに抵抗も出来たはずだけれど、すぐそこに弓使いがいたんじゃね。
絶対に勝ち目はない。
確実に落とされる。
槍を手放すことによってSTRが強化されるという槍使いのチート能力を相手に、ちゅるんさんは致命傷を負い、串カツさんは瀕死の状態に。
あの時槍使いを一人で抑えていたクロウがそこまでの被害を受けなかったのは、その前に片手を落としていたからかも知れない。
かといってチート能力を維持したままの槍使いを、あの時のわたしみたいに槍で釣って弓使いから引き離すのは得策じゃない。
「仕切り直すわ」
クロエには悪いけれど、もう一度最初からやり直し。
うっかり他の人に相談もなく勝手に判断するわたしの呟きに、方々から 「りょー」 とか 「OK」 といった返事がある。
うん、結果オーライで、このまま進めるわ。
ただちょっと変更点があって……といってもわたしから提案したわけじゃない。
クロウから、回復もそこそこに槍使いを追いかけてきた串カツさんに提案してきた。
「槍使いは俺が足止めする。
串カツはノーキーと弓使いを斬れ」
えーっと、これはひょっとしてあれ?
【特許庁】 に花を持たせる感じ?
もちろん全然構わないけど、クロウにしては珍しい……と思っていたら、もっと現実的な問題の解消よね。
ちゅるんさんが落とされて火力配分が変わってしまった。
そのための配置換えってことよね。
元々この三体の 【幻獣】 は、STR特化のDEX狙い。
それが槍使いに限っては、丸腰になるとさらにSTRが強化されるというチート能力を持っている。
質が悪い
出来ることなら槍使いが槍を投げる前に弓使いを落としたいわね。
出来るかどうかはともかく、そういう方向で狙ってみましょ。
ちょこちょこと真田のことを思い出すグレイですが、相変わらず蝶々夫人との関係を思い出していないということで・・・(笑
バロームとローズがなにをしたかは、イベント終了後のお楽しみです。