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45/806

45 ギルドマスターは衣替えします

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!


今回も末尾に資料整理の 「おまけ」 がございます。

よろしければそちらもお楽しみください。

「じゃ、始めましょうか」

「はーい!」


 わたしの声掛けで、一緒に来ていたトール君、マメ、それにジャック君と双子が元気に返事をしてくれる。

 今日も三人の保護者役ゆりりんも来ていたんだけど、少し離れた場所でクロウと並んでいるのはちょっと夫婦っぽい。

 白い聖女衣装に綺麗な杖を持って微笑ましげに見守ってるんだけど……蜘蛛を潰す姿を見守るっていうのはちょっとね。

 うん、動物愛護? いや、博愛的?

 ま、どっちでもいいんだけど、みんな元気に大きな蜘蛛を次々潰していくの。

 その様子を微笑ましげに見守る聖女って、どうなの?

 わたしの中の聖女像が崩れそうなんだけど、ゆりりんは全然気にならないみたい。


 当然か


 クロウはいつもの調子なんだけどね。

 こんなに大人数で何をしに来たかといえば、大蜘蛛を狩りに来た。

 わたしはこの大蜘蛛がたまにドロップする 【蜘蛛の糸】 を採取しに来たんだけど、わたしとマメをのぞいた四人はエピソードクエスト。

 まだまだ初心者レベル向けの初級クエストで、NPC長官曰く 「調査員としての技量を磨いて欲しい」 ってことで課されるこのクエストは 「大蜘蛛を五匹退治する」 というもの。

 本当に初心者向け。

 それでこの琵琶湖湖畔の森にみんなでやってきたわけ。

 メンバーがメンバーだし、湖に出る敵のこともまだわからないことばかり。

 だからノブナガが出た時は交戦せず、迷わず撤退を全員に言ってある。

 ただノブナガが先制してくるのがちょっと厳しいんだけど、その時はわたしが目標になって(タゲをとって)全員を逃がす。

 ノブナガは前衛のクロウより、後衛魔型のわたしのほうが狙われやすいから。

 クロウとゆりりんはあんまりいい顔してなかったけど、その時はその時よ、仕方ないじゃない。

 執念深いノブナガは出現エリアである 「琵琶湖湖畔」 を離れても追ってくるんだけれど、制限時間は絶対。

 まるでウルトラマンのカラータイマーみたいに時間が来たら絶対に消えるから、それまで逃げ切ればなんとかなるわよ。

 あと、この森には蜘蛛の他に食虫花が出てくる。

 ただ食虫花は群生する習慣があるから一応生えていないところで狩ることにしたんだけど、もし出てきたらクロウ、お願いね。


「この蜘蛛、硬いです!」

「なかなか落ちません!」


 うん、頑張れ双子。

 多少HPを削られても、聖女がいるから大丈夫よ。

 わたしはちょっと離れた場所で範囲魔法を使い、大量虐さ……ゲフゲフ……ちょっと数が必要だったから要領よく狩らないとね、時間ばかりが掛かっちゃう。

 でもタイミング的にちょうどよかったわ。

 このクエスト自体もう少し早い段階で受諾できるんだけれど、中部東海エリアを出るし、場所がよりによって琵琶湖湖畔。

 だからみんなのアドバイスで、双子はレベルが10になるのを待って取りかかるってことに。

 二人より少しレベルの高いジャック君だけれど、そのアドバイスを聞いて二人を待っていたらしい。

 一緒にした方が安全だし、確実にクリアできるから。

 でも意外だったのはトール君が、ほとんどエピソードクエストをしてなかったっていうね。

 レベル上げやイベント、装備の話とかで夢中になっちゃって、このあいだわたしとエピソードクエストの話をするまですっかり忘れてたって……どんだけ夢中になってるのよ?

 当然レベル20にもなれば大蜘蛛も結構簡単に落とせるんだけど、やっぱり大斧の扱いには苦労してる感じかな。

 時々足下とかふらついてるし、狙ったところに打ち込めてないように思う。

 ……これって、結構致命的なんじゃない?


「そういえばマメ、短剣は出来たの?」


 とっくに素材は揃ってるし、出来上がってもいい頃だと思って訊いてみたんだけど……


「りりか様、レベル上げに忙しくて、ちょっと待ってくださいーって言われました。

 だからまーだでーす」


 そっか、忘れてたわ。

 もちろん余った素材をどうしたかを聞くのは禁句。

 りりか様がぼったくろうとしていたこと自体が秘密だから、素材が余ったことは知らない振りをしなきゃならないのよね。


 気を遣うわ……


 大量ぎゃ……じゃなくて、要領よく狩って一番に採取を終えたのはわたし。

 マメはわたしのお手伝いってことだから関係ないし、レベル的にトール君は楽勝。

 ジャック君は少し手こずった感じだけれど、ほぼ一人でクリア。

 双子の片割れ……この二人、男女の双子なんだけど、互いに自分が 「兄」 だ 「姉」 だっていうのよね。

 双子特有の張り合いなのか、そうやってわたしたちを惑わして楽しんでいるのかわからないんだけれど、とりあえず上下は付けちゃいけないみたい。

 だから 「双子」 か、それぞれの名前で呼んだほうが良さそうなんだけど、キンキー(♂)のほうがだいぶ手こずっちゃって。

 手伝った方がいいのか迷っていたら、クロウにダメって言われちゃった。

 こう……ハラハラしながら見守るのって、結構辛いのね。

 いつも微笑みながら見守ってるゆりりんって、聖女なのに、精神的にも強いって改めて思ったわ。

 ゆりりんに言われて、ちゃんとHPなりMPなり必要なポーションも揃えてきていたから、本当に危ない時以外は回復も自分でさせなさいって言われちゃって……この、なにも手出しできないっていうのは本当に辛い……あ~……もう、どうしたらいいのー?


「どうって、見てるしかないと思うんですけど……」


 わかってる。

 わかってるから、そんなに冷静に言わないでトール君。

 手出ししたくなるのを木にしがみついて堪えていたら、出ちゃった、あいつが。


alert 第六天魔王ノブナガ / 種族・幻獣


「……このタイミングで!」


 キンキーはあと一匹大蜘蛛を狩らなきゃならないんだけれど、背にした湖を振り返ってみれば茂る木々の向こうに、明らかにわたしたちを捉えたノブナガの姿が見える。

 これはいったん引いて、ノブナガが消えるまで待つべき?

 それともキンキーの狩りを優先すべき?


 迷うな、わたし!


「引くわ!

 湖から離れて、西に走りなさい!」


 ノブナガ相手に火力戦は久々だけど、わたし一人でもやってやれない相手じゃない。

 スキルも増えたしね。

 インベントリにMPポーションがあったかどうか……あーこのタイミングで思い出すとか、わたしって馬鹿ー!!


「グレイさん、俺も!」


 一緒に足止めしてくれるってトール君は言ってくれるんだけれど、確かに何度か対戦してる相手ではあるんだけれど、今は指示どおり年少組と一緒に後退して。

 君のサポートをしてくれる剣士(アタッカー)はいないんだから、さすがに一刀両断よ。

 早くクロウたちと一緒に、三人を連れて湖を離れて。

 ノブナガの直撃を食らわなくても、衝撃波だけでもあの三人はほぼ溶けちゃうんだから。


「とりあえずファイアーボール……と」


 巨大な刀を振り上げて臨戦態勢のノブナガに、プレイヤーを威嚇する恐ろしい形相に、気の抜けたヘロヘロのファイアーボールを撃つのは……


「だから、なんでここでファイアーボールなのっ?」


 緊張感の欠片もないカニやんは、わたしの質問ににひって笑ってみせる。

 ちょっと息を切らせて肩を上下させながら。


「ギリセーフ?

 俺、ノブナガの目標になるの(タゲとるの)久々なんで、君ら、離れててね」


 カニやんが年少組にそういった直後、クロウの大剣・砂鉄がノブナガと斬り結び剣戟が響く。

 さすがに速い。

 交戦に入れるって判断した瞬間に斬り込んでる……


「カニ、ヘボ火力」

「タゲられて死ね」

「うるへー。

 さっさと仕事しろや、親父ども」


 カニやんより少し遅れてきたムーさんと柴さんの脳筋コンビが、駆け出し際に憎まれ口を残していく。

 すぐさま始まる剣士(アタッカー)三人の交戦を見て小さく息を吐いたわたしは、格好良く現われた援軍に呆気にとられるトール君に声を掛ける。


「トール君、遅いわよ」

「はい、行ってきます」


 あ、湖に入っちゃダメよ。

 それだけは忘れないでね。

 もちろん忘れてもいいけど、入ったらどうなるかはわかってるわよね?

 入ってから思い出しても後の祭りだから。

 衝撃波が届かないところまでマメを含めて後退させたわたしは、攻撃目標になっているカニやんとは少し距離を置いて攻撃に参加する。


「ちょっと、美味しい登場じゃない」

「だろ?

 クロエから話聞いて、グレイさん、ほぼ確実にノブナガと遭遇するじゃん」

「え? そうだっけ?」

「あー……自覚ないんだ……いて……」


 衝撃波をまともに食らったカニやんがHPをドレインさせた直後、すぐさまゆりりんの回復が掛かる。


「そういえば、聖女様が一緒だっけ」


 ちょっと後ろのほうにいるゆりりんを振り返ったカニやんは、軽く手を上げてゆりりんに礼をとる。


「大丈夫だとは思ったけど、トール君は結構熱血系だし、マメもいるし。

 不安要素多いよなって話になって、ムーさんたちが暇してたんで誘ったんだ」

「りりか様は?」

「の~りんたちと潜ってるよ。

 パパしゃんいるし、大丈夫でしょ」

「そうね、パパしゃんがいれば」


 ううん、今はりりか様じゃなくて年少組の保護が一番でしょう、わたしってば!

 このメンバーでこの人数なら問題なくノブナガは落とせるんだけど、交戦中に他のことを考えるのはやめなきゃ。

 このあいだもクロウに怒られたばっかりだし。

 わたしは反省したんだけど、反省も学習もしないのが脳筋オッサンコンビ。

 トール君まで巻き込んで湖に入っちゃうとか……馬鹿じゃないの?

 しかもこの湖の敵は珍しく剣士(アタッカー)には不向きみたいで、三人して湖の底に沈んじゃうとか……マジ、馬鹿?

 カニやんと二人、適当な大技で沈めたんだけど……誰が助けに行くかで無言の押し付け合い。

 もう、このまま沈めておかない?


「マメ、行ってきまーす」


 マメの立候補は百%好奇心なんだけど、背に腹は代えられないっていうもんね。

 うん、行ってきて頂戴。

 でもマメ一人じゃ心配……と思ったら付き合いのいいジャック君が立候補してくれた。

 じゃここはジャックと豆の木コンビにお任せってことで、わたしたちは全員で中部東海エリアに帰還した。


「というわけでお披露目しまーす」


 ダメダメ、まるでマメみたいなノリになっちゃってるじゃない、わたしってば。

 新しい衣装が出来て、思った以上にいい出来で、ちょっと嬉しくなっちゃったのよね。


「ふぉー、グレイさん、綺麗!」


 マメに褒められて、ついついおだてに乗ってくるりと一回転してみせると裾がふわりと揺れる。

 わたしの新しい衣装は前に着ていた重装備(チャイナ)と同じシリーズなんだけど、色が真っ青。

 第一回イベントの賞品、装備引換券で引き替えられるアイテムをサイトで見ていたら、復刻アイテムとしてあのチャイナドレスが出ていたの。

 あれはいわゆるお礼アイテムだったからあの時限りのオリジナルで、通常課金で購入出来るアイテムじゃないから諦めてたんだけど。

 しかもこの時限りの復刻っていわれたら、引き替えるしかないでしょう。


 散々迷ったけどね


 最初に引き替えた時は特に考え無しだったんだけど、実際に着用して思ったのよ。

 白い髪に白っぽい服だとぼやけちゃって、膨張して見えるんじゃないかって。

 つまり太って見えるんじゃないかって……。

 それで少し前から装備の変更を考えてて、ほんと、いいタイミングだったわ。

 真っ青だと白い髪が映えるし、左肩から胸に掛けての杜若の刺繍も綺麗。

 サテンみたいな光沢が……じゃなくて、ここはあれよね、シルクみたいなっていうところよね?

 日頃から高級感に慣れてないから、ついついいつもの生活レベルが……ほんと、世知辛い世の中。

 シルクみたいな光沢が本当に綺麗で、下に穿くズボンが、少し透け感のある白だったから、自作の上着も白にしてみた。

 あ、素材を集めて作ったやつね。

 今回は長袖だから二の腕を隠さなくてもいいんだけど、なんだか慣れなくて、丈の短いフード付きのマントを作ってみたの。

 うん、我ながら可愛い感じに出来たんじゃない?


「前から思ってたんだけど、グレイさんのそれ、チャイナっていうよりアオザイだよね?」


 ちょっとだけみんなより勉強家のカニやんに言われるまでもなく、わたしもそう思ってた。

 調べたらアオザイの原型はチャイナドレスらしいから、あながち間違いではないかな?

 でも蝶々夫人が着ている真っ赤なチャイナドレスは、同じシリーズのはずなんだけど、間違いなくチャイナドレス。

 スカートの部分がゆったりしているわたしのドレスに比べて、ほんと裾まで体にフィットしてるの。

 色もデザインも、わたしには絶対着られないタイプだけど、ちょっとずつデザインを変えるとか、運営も最初は頑張ったのね。

 それをお礼アイテムにしてお蔵入りさせちゃうとか、ちょっともったいないと思うんだけど。


「これで気分よく第二回イベントに参加出来るわ」

登場人物:ラッキーセブン / 男性型・銃士 / 黒髪


ギルド 【鷹の目】 の主催者。 通称 セブン

グレイ、クロウ、クロエ、ノーキー、ノギに並ぶトッププレイヤーの一人で、クロエとは銃士の双翼を成す。

クロエと同じくステータスDEX特化装備 【鷹の目】 を装備し、抜群の命中率を誇る。

サラサラの黒髪をした中性的な容姿だが、間違いなく男。

廃課金廃人ギルドのギルマスなので、彼自身、結構な廃人らしい。

正式サービス開始直後、課金アイテムの取引相場を操っていた黒幕という噂もある。

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