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ギルドマスターは今日もギルドを運営します! ~今日のお仕事はなんですか?  作者: 藤瀬京祥


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444 ギルドマスターは美人を無駄遣いしています

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 これはあれね。

 戦場が向こうからやってきた感じ。


「誰か来る」


 口火を切ったのはクロエ。

 さっきまで別行動をしていた銃士(ガンナー)三人も本隊と合流し、梅林を尾根に沿って移動していた 【素敵なお茶会(わたしたち)】。

 相変わらず足下の雪が深く、わたしとゆりこさんが足を引っ張る。

 これじゃわたしたちの到着を待たず、もう一つの戦場も決着がついてしまうんじゃないかと焦っていたんだけれど、進めないものは進めないの。

 わたしなりに頑張って足を上げているのに実際には全然上がっていなくて、かといって剣士(アタッカー)たちみたいに力強く雪を蹴散らせるわけでもない。

 それでもムキになって歩いていたら、トール君に 「あの、グレイさん、その、ですね、顔が怖いんですけど……」 と遠慮がちに、でもはっきりと言われてしまった。

 どうやら足に力を入れなければならないところを、わたしは顔に力を入れていたらしい。

 でもだからって 「顔が怖い」 はないと思う。

 さすがにちょっと酷くない?


 泣く


 鏡があればその怖い顔を自分で見て確かめるんだけれど、残念なことにここにはない。

 しかも、たぶんわたし、ゆりこさんよりも遅いと思う。

 パパしゃんとJBを従えてわたしの少し後ろを歩くゆりこさんは、キンキーと、さっきの戦闘の反省会というか、そんな感じの会話を交わす余裕がある。

 だからわたしはこれ以上移動速度を落とすわけにもいかず、立ち止まることも出来ない。

 代わりにすぐ隣を歩くクロウに杖を押しつけるように預け、両手で顔をマッサージ。

 強ばっている顔をほぐしてみる。


 …………ほ、ほぐれたかな?


「心配ない。

 今日も美人だ」


 誰もそんなことはきいていません!

 お仕事人間の上司様ですが、実は女の人を口説くのも手慣れておられるようですね。

 気負うことなくサラリとそんな言葉を口にしてくれるんだから。


「俺もいつも言ってるじゃん」

「俺も!」

「俺も!」


 いまさら? ……といった顔でカニやんが言えば、当然のように脳筋コンビが続く。

 ほんとこの二人って、どんだけカニやんのことが好きなのよ。


「トールはさ、彼女を作りたけりゃ、女に顔のことなんて言うもんじゃねぇよ」

「どうせうっかり口が滑っちゃったんでしょ」


 せっかくムーさんが人生の先輩らしいことを言っているのに、クロエがそれを台無しにし、続くカニやんがトール君をフォローする。


「大絶賛後悔中ってところじゃない、トール君のことだから」

「あの……すいません。

 そうですよね、女の人に顔が怖いなんて、失礼ですよね。

 ほんと、すいません」


 珍しく移動する隊列の先頭を任せられた学生三人組。

 その左側を歩くトール君は真っ赤になった顔で振り返り、わたしに何度も 「すいません」 と謝ってくる。

 もう、クロエのいじめっ子。

 うっかり口が滑るなんてよくあることじゃない。

 そこはわざわざ指摘しなくてもいいの。

 どうせならムーさんみたいに、実のあるアドバイスをしてあげてよ。

 クロエだって、高校生のトール君から見れば人生の先輩なんだし。


 ………………ん?


 なに、この沈黙は。

 妙な間が空いたと思ったら、ここはたぶんクロエがなにか言うところだったはず。

 クロエも最初は言い返そうとしたんだと思う。

 けれどその辛口が紡いだのは別の言葉だった。


「誰か来る」


 誰が?


 わたしたちもクロエが見る遥か前方を見るけれど、白い雪の上を黒い米粒がこちらに向かってきているような気もするけれど、気のせいかもしれない。

 梅の枝枝のあいだから見えるそれは本当に小さく、錯覚との判断が付かないくらい。

 でもそれはクロエも同じらしく、足を止めたと思ったら肩に担いでいた銃を構え、照準器(サイト)を覗く。

 クロエの場合、見間違いでも気にしない性格だからね。

 それこそたった一言 「見間違いだったみたい」 で終わる……というか終わらせる。

 そういう性格よ。


「ちょっと距離があってはっきりしないけど……」

「一人じゃないね。

 二人?」


 クロエに続き二人の銃士(ガンナー)も銃を構えて照準器(サイト)を覗き、それぞれの視覚で得た情報を口にする。


「もう一人いる。

 全部で三人。

 そのうしろから…………大隊が来る」


 クロエの片目には銃士(ガンナー)用のDEX特化装備 【鷹の目】 がある。

 だから二人とは、その性能とレベル差が常にあるんだけど……ん? 大隊ってなに?


「そのま……」


 わたしの問い掛けにクロエの返事が不自然に途切れた……と思ったら轟く銃声。

 もちろん撃ったのはクロエ。

 何事かと驚くのはわたしだけでなく、ぽぽやくるくるまでが照準器(サイト)から目を離してクロエを見る。


「プレイヤーじゃない!

 NPC!」


 クロエがそう判断したのには色々な理由というか、判断材料があったけれど、今はそれを説明している暇がない。

 余裕もない。

 ギルド 【素敵なお茶会】 が全員で迎撃態勢に入る中、クロエの言葉の意味がわかってくる。


 見えていた米粒は錯覚ではなく、クロエの報告にあったとおり全部で三体。

 まだわたしたちにはNPCとプレイヤーの判別は付かないけれど、それを追ってくるように大人数がこちらに向かってくるのも見えてきた。

 つまりこの後続がクロエの言う 「大隊」 ね。

 鬼じゃないのはわかるけれど、個々の顔までは見えないからギルドなんかはわからない。

 でもきっと、あの中に 【特許庁】 のメンバーがいるはず。

 【鷹の目】 は……どうだろう?

 銃士(ガンナー)主力(メイン)となる 【鷹の目】 が、あんなに堂々と姿を見せるかしら?

 ちょっとその点が疑問なんだけれど、移動中のためか、向こうから撃ちこんでくる気配はない。

 でもクロエは撃ち続ける。


 どういうこと?


 預けていた杖を返してもらったわたしは、クロウの背に庇われつつ、銃撃を続けるクロエに尋ねる。


「目が合った」


 簡潔なクロエの返事。

 いつもなら 「それだけ?」 とか 「それがどうかした?」 とか、みんなの突っ込みが入るところだけれど、今回は入りません。

 わたしも入れません。

 だって身に覚えがあるもの。


 酒呑童子とね


 前面に立つ剣士(アタッカー)たちと斬り結びながらもずっとわたしを見ていた酒呑童子。

 そりゃ一回二回目が合う程度なら、わたしだってそんな風に思うことはなかったし、それを言ったらみんなには絶対に 「自意識過剰」 といわれているところ。

 でもそうならなかったのは、実際に酒呑童子の狙いがわたしだったから。

 土蜘蛛もずっとクロウしか見ていなかったし……ということは、次の敵の狙いはクロエ?


 ただクロエは照準器(サイト)を覗いていて、相手はたぶん、クロエと目が合ったことに気づいてもいないはず。

 しかも三体いるということは、一体はクロエ狙いだったとしても、他の二体の狙いは不明。

 どう動くかもわからないし……と考えているあいだにも迫ってきたNPCは、酒呑童子よりも土蜘蛛っぽい装備。

 カニやんの話では、英胡、軽足、土熊を討ったのは聖徳太子の弟ということだから飛鳥時代の伝説。

 土蜘蛛の次に古い伝説だし、飛鳥時代だから似たような装備(ふく)になるのもわかる。

 髪型も長さや髪の量など、少しずつ違っているとはいえ角髪(みずら)だし。


 問題はそこじゃない


 うん、そこじゃないの。

 三体いるからそれぞれがどう動くか、誰を狙うかももちろん問題だけれど、同じくらいの問題として武器がある。

 先頭を走ってくる一体は酒呑童子よりも長い、一風変わった刀剣を持っている。


 頭椎(かぶつち)大刀(たち)


 そういう名前があるらしい。

 すでに抜刀し、いつでも斬りかかれるというか、斬り掛かる気満々で猛然とこちらに向かってくる。

 こいつは、プレイヤーでいえば剣士(アタッカー)ね。


 そして剣士(アタッカー)から少しだけ遅れてくるNPCは、手に長い槍を持っている。

 長い棒の先に刃を付けただけのシンプルな槍なんだけど、長さが邪魔で、少し走りにくそうな感じがする。

 たぶん運営も、走って移動するなんてことは想定していなかったんだと思う。

 剣士(アタッカー)より少し足が遅いのもそのへんに理由があるとみた。

 なるほど、槍使い(ランサー)にはそういう弱点もあるのね。


 そして最後尾を来るのが弓使い(アーチャー)

 手に弓を持ち、背に何本もの矢をさした矢筒を背負っている。

 おそらく槍使い(ランサー)と違い、弓使い(アーチャー)が最後尾を来るのはわざと。

 だって弓は接近戦用の近接武器ではなく、中距離攻撃(ミドルレンジ)(クラス)の飛び道具じゃない。

 だから弓使い(アーチャー)は他の二体より前には出ないはず。

 そして他の二体より先に目標を射程に捉える。


「ぽぽ、くるくる、下がれ!」

「起動……」


 不意に弓使い(アーチャー)の足が止まったと思ったら素早く矢筒から一本抜き取り、弦につがえて弓を構える。

 これ、やっぱりクロエ狙い?

 だとしたら、少なくとも弓使い(アーチャー)が狙うステータスはDEX。

 ひょっとして 【鷹の目】 はもう……じゃなくて、クロエ!

 二人の退避を呼びかけるなら自分も下がりなさいよ。


 なにしてるのっ?


 今は 【鷹の目】 の所在よりクロエ。

 自分のギルドのことより他のギルドのことを考えるなんて、わたしもどうかしてる。

 でもクロエだからね。

 下がれと言われてすぐに下がるはずもなく、矢を放たれるより先に、弓使い(アーチャー)に弾丸を撃ちこむ。

 やや斜めを向いていた弓使い(アーチャー)は眉間を撃ち抜かれてHPを流出させつつ、直後に矢を放ってクロエの肩を射抜き返す。


 わたしも詠唱を終えているけれど、前を来る接近戦(タイプ)二体が邪魔で撃てない。

 あれ、わざとかな。

 見事な筋肉で壁を作っている。


 ひょっとして脳筋?


 いや、まぁわたしの前にも別の筋肉が壁になってるんだけどね。

 しかもこの筋肉は頭も良いという、到底わたしの手には負えない筋肉だけど。

 とりあえず筋肉……じゃなくて、トール君たち学生組をいとも容易く蹴散らして突進してくる接近戦(タイプ)二体を撃つわ。


業火(ごうか)


 まずは足を止める。

 二体のNPCが 【幻獣】 であっても、被弾ダメージの一つである硬直は免れない。

 業火に包まれた瞬間、二体が焔の中でピタリと足を止めるのを見て脳筋コンビが斬り掛かる。

 わかってると思うけれど槍は間合いが広いわよ。

 I(インスタンス)D(ダンジョン) 【ゴショ】 やクリスマスの聖女戦で経験しているはずだけれど、槍の長さも同じとは限らないから注意してね。


「それ、先に言って」


 突っ込みすぎて男前の鼻先を削られた柴さんに小言を言われるんだけれど、それ、わたしのせいなの?

 わたしが悪いの? ……とクロウの背中に爪を立てたら払われたというか、手を掴まれた。

 ご、ごめん、痛かったよね。


「いや、いい。

 しばらく大人しくしてろ」


 手を放してくれたと思ったら、そのままわたしから離れてゆくクロウ。


「柴、グレイを頼む。

 そいつは俺が相手をする」


 つまり長刀で槍を凌ごうってことね。

 それはもちろんいいんだけれど、どうして柴さんにわたしを頼むの?

 いま狙われているのはクロエだから。


 クロエを守って!

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