436 ギルドマスターは付きまといに遭います
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AGI特化型とおぼしき酒呑童子の狙いはなぜかわたし。
自身の放ったスパークで狙いどおりノックバックしたのはいいけれど、木があったのは大きな誤算でした。
そう、ここは梅園なのよ。
しかも梅の木って横に枝を広げるから、その細い枝に髪が引っ掛かって上手く抜け出せない。
いつも言ってるけれど、こういう細かい演出はいらないんだってばっ!!
どうしてこんな細部にまでこだわるのよ、ここの運営は!
後方に待機していたゆりこさんとキンキー。
その二人に、パパしゃんと一緒に付いているJBが剣を構えるんだけれど、二人のそばを離れないで。
「だってギルマス、ヤバいっすよ!」
わかってる。
でもまだ酒呑童子が魔型に反応している可能性は捨てきれない。
だったらその二人も危険なの。
だから離れないで。
「ホットポット」
わたしに迫る酒呑童子に対し、その背後から仕掛けるカニやん。
スパークで吹っ飛ばされたおかげで、わたしだけが、少しとはいえみんなと離れることが出来た。
この距離があれば、単体魔法なら巻き込みの心配はないし、わたしに魔法攻撃は効かない。
その判断の早さはさすがカニやん。
すぐさまの~りんとアキヒトさんが続き、わずかながらも酒呑童子にダメージを食らわせることが出来たものの、どうあっても酒呑童子はわたしを落としたいらしい。
ダメージを受けて硬直をしながらも、その目はわたしだけを見ている。
ここまで来ると、ちょっと変質者っぽくなってきた。
ストーカー?
普通なら、まずカニやんたちを排除する状況だと思うんだけれど、あくまでも酒呑童子の狙いはわたし……というか、わたしだけを狙いたいみたい。
本当に変質者じみてきた。
理由はわからないんだけれど、他のプレイヤーには全く興味がないらしく、カニやんたちの排除すら自分ではやりたくないときた。
でも鬼と違い、酒呑童子は魔法攻撃によるダメージを受け、硬直する。
そうするとわたしに攻撃を仕掛けられないわけで……このあいだにわたしは必死に髪を解きました。
切ってしまうのが一番手っ取り早いんだけれど、切れなかったのよ。
インベントリに入っていた刃物が屍鬼しかなくて、髪を切るには長すぎて扱いづらかったんだけれど、頑張って挑戦しました。
結果は不可
よくよく考えてみたら、このゲームでは首から上は欠損しないシステムになっていて、髪を切る = 部位欠損 という解釈になるんだと思う。
だから切れない。
そういえば髪は伸びないし、ロングヘアをショートヘアにするには課金しなきゃいけなかったような気がする。
もちろん伸びないから、逆もね。
設定画面にそういうメニューがあったと思う。
まぁそんなわけで髪を切ることが出来ず、頑張って解きました。
以前、期間限定の海エリアで海底散歩を楽しんでいたルゥが、珊瑚のような置物に毛が引っ掛かった時、解けないからって置物を壊しちゃったけれど、あれはたぶん 【幻獣】 だからこそ出来た力業。
魔法使いにそんなSTRはありません。
もちろんやってみたい気持ちはあるけれどね。
無理!
だからわたしは自力で髪を枝から解きました。
じゃあ酒呑童子はどうやってこの状況を脱したかといえば、鬼を使ってきた。
赤鬼は、マメをぶつけられると爆ぜて黒い塵になるけれど、魔法攻撃は無効だからね。
順当な手段といえば順当な手段だと思う。
しかもわざわざゲ○を吐くのではなく、片手に刀を持った酒呑童子は、もう一方の手で腰に携えた瓢箪の栓を抜く。
すると瓢箪の口からふわーっと黒い邪気が湧き出て、あっと言う間に赤鬼を創り出してしまった。
え……?
えっ?!
吐かなくてもいいわけっ?
だったらあんな演出いらないでしょ。
もらいゲ○とかしたらどうしてくれるのよ!
ひょっとして、ゲ○から出来た赤鬼より、酒から直接創られた赤鬼のほうが強いとか、そういう設定?
いらないけど
うん、そんな細かい裏設定はいらない。
もちろん逆設定でもいりません。
ゲ○から創られたほうが強いなんて、下戸の敵よ、敵!
とりあえず魔法攻撃避けの壁を作り、硬直から解放された酒呑童子は満足そうに……見えたのはわたしの気のせいかもしれない。
抜き身の刀を振り上げた酒呑童子は、初対面と同じ無表情でわたしを見ていた。
でもね、わたしだって解放されてるの。
杖と換装し損ねた屍鬼を抱えたまま……ここで、それこそ酒呑童子より早く仕掛けられたらよかったんだけどね。
わたしはほぼINT極振りなので、STRもないけれどAGIもない。
せっかく屍鬼を持っているけれど、反撃なんて小賢しい真似は早々に諦めて逃げに徹する。
下手に立ち上がるとまた梅の枝に引っ掛かってしまうから、雪の上を転がるように少しでも酒呑童子から離れようとする。
「ルゥ!」
わたしの呼びかけに返事はない。
でも代わりに物凄い速さでマメがとんできて、酒呑童子の背を守る赤鬼にヒット。
熱心に鬼退治をするルゥは結構離れたところにいたんだけれど、間違いなく当ててくるところが 【幻獣】 の為せる業であり、ルゥの戦闘能力の高さ。
それから 「きゅ~♪」 と可愛らしい鳴き声で返事があり、ひょっこひょっこと雪の上を跳びはねるように戻ってくるんだけれど、ルゥに酒呑童子は当てられない。
幻獣大戦再び、よ
再びというか、もう何度目になるかしら。
忘れちゃったけれど、とにかく 【幻獣】 と 【幻獣】 は対戦させられない。
対ハーピー戦はルゥに有利だったけれど、たぶん酒呑童子戦だとルゥが不利だと思う。
なんとなく……だけどね、そう思うの。
強いていえば、たぶんルゥはSTR特化型。
もちろん獣らしく素早い動きをするけれど、AGI特化型の酒呑童子が相手だと差が出ると思う。
でも戦い方とか、考えれば必勝手段はあるかもしれないけれど、そんな屁理屈はどうでもいい。
わたしが、ルゥに痛い思いをさせたくないの。
だったらわたしが刺された方がマシよ。
痛いけど
うん、たった今刺されました。
雪の上を横に転がって酒呑童子から離れようとしたんだけれど、ちょっとタイミングが遅くて……所詮は運動不足のOLだから、俊敏なんて言葉とは無縁です。
お陰様で脇腹あたりを斬られた。
痛い
凄く痛いです。
キラキラとHPが流出しています。
でも大丈夫、まだまだHPは残ってる。
もろに食らった柴さんと違い、本当に掠った程度だったから。
しかも幸いにして、ルゥはわたしに言われたとおり鬼退治に夢中で、そばに戻ってきてからも酒呑童子は眼中にないみたい。
酒呑童子は、それこそ最初からわたしにしか興味がなくて、今もわたししか見ていない。
無問題
おかげで恐怖の幻獣大戦は勃発しないんだけれど、変態じみたストーカー問題は発生しているというか、現在進行形というか。
その酒呑童子の背を、クロウの砂鉄が襲う。
酒呑童子は、わたし以外のプレイヤーには興味がないけれど、仕掛けられる攻撃には対応する。
そうしないと自分が斬られてジ・エンド。
そこはちゃんとわかってると思う。
【幻獣】 であっても首を断たれれば落ちるからね。
しかもルゥに負けず劣らず酒呑童子の戦闘能力も高く、背後から斬り掛かられたにもかかわらず、すかさず砂鉄を刀で受け、剣戟を響かせる。
いくら 【幻獣】 のステータスが高くても、結局戦闘能力が低いとすぐに落とされるってことだと思う。
すでに酒呑童子と何度か打ち合わせているクロウは、【幻獣】 の怪力で振り切られる前に自ら砂鉄を引くんだけれど、ちょっと動きにくそうな感じがある。
確かに横に枝を張る梅の木は邪魔だけど、もちろんそこはクロウもわかっていて、枝に気をつけて動いている。
うっかり枝に髪を絡ませてしまったわたしとは大違い。
あの短髪は、どう頑張っても絡められないけどさ。
大剣使いのクロウは、その長さと身幅を考えて砂鉄を振るう。
なるほど、そういうことか。
剣の長さは結構どうとでもなる。
それこそ持ち方とか、振り方でね。
でも身幅はどうにもならない。
角度を変えるという工夫は出来るけれど、斬り合っている以上、相手との位置関係により刃先の向きは変えられない。
ちょっと説明が難しいんだけれど、大剣の特徴ともいえる身幅の広さ。
それがこの梅林の中では邪魔になってる感じかな?
だったらこうしましょう。
「クロウ、屍鬼を!」
タイミングよく屍鬼を抱えていたわたしは鞘尻を持って、酒呑童子の脇からクロウに向けて柄を突き出す。
屍鬼の柄に手を伸ばしつつ砂鉄を格納したクロウは、屍鬼の柄を握りしめて一気に鞘から引き抜く。
もちろん酒呑童子も即座に反応……といっても、あくまでも狙いはわたし。
すぐ脇を通る屍鬼の鞘を中程で掴むと、柄尻あたりを持つわたし諸共に引き寄せようとする。
言わずもがなだけれど、魔法使いのVITで 【幻獣】 のSTRに勝てるはずがない。
一瞬反応が遅れたわたしは前のめりになりつつ鞘を手放し、急いでインベントリから杖を取り出す。
鞘から屍鬼の刀身を引き抜いたクロウは手首を返すように刃先を変え、ほぼ真横に屍鬼を振り抜く。
屍鬼の鞘を握る酒呑童子は、わたしを引き寄せようとして失敗。
その隙をついて杖を取り出すわたしを前に、迫る屍鬼の刀身を自身の刀で打ち払いつつ、横っ飛びにクロウの追撃をかわす。
あの下駄で、この雪の上を本当によく動く。
しかも速い
あくまでもわたしを狙う酒呑童子に対し、わたしは振り下ろされる刀に杖を打ち合わせて凌ぐ。
絶対にノックバックしない 【幻獣】 に対し、霞のようなVITしか持たない魔法使い。
振り切ることも出来なければ、この場に踏みとどまることも難しい。
予定どおり……というわけでもないんだけれど、見事に吹っ飛ばされた。
たぶん酒呑童子にわたしを吹っ飛ばす意図はなかったと思う。
打ち合わせた刀を振り切ってわたしを吹っ飛ばすより、わたしをこの場に留まらせたほうが次の手につなげやすいもの。
でもわたしは離れたいの。
それこそ一㎝でも、一㎜でも遠くに行きたいの、酒呑童子から。
だからわざと酒呑童子に刀を振り切らせ、吹っ飛ばせました。
痛い……
今度はちゃんと後方に木がないことを確かめたし……でも梅林だから、ちょっとズレると結局木にぶつかっちゃうんだけれど、そこはなんとかなった。
おかげで勢いよく転がり過ぎて雪まみれになったけれど。
髪だってボサボサ。
でも雪を払っている余裕はない。
とりあえず動けるように、まずは立ち上がる。
それから詠唱!
うん、詠唱よ。
だってわたしは魔法使いなんだもの。
「起動……焔獄」
あくまでもわたしを狙いたい酒呑童子はこちらに来たがるけれど、それを阻むクロウたち。
まぁ簡単じゃないのは、酒呑童子の腰にある瓢箪が、延々と黒い邪気を吐き出しているのが原因かな。
ルゥも頑張ってお仕事をしてくれるんだけれど……
「いい?
向かってくる鬼だけを退治して頂戴。
どうでもいい鬼は放っておくの」
というわたしの言いつけを忠実に守り、結構多くの鬼を放置している。
それが思わぬところでメンバーに絡んできて、ルゥもビックリ。
慌てて豆鉄砲で撃っている。
わたしの不満といえば、酒呑童子がしつこくて、そんな可愛らしいルゥの大活躍をじっくりと見られないこと。
本当にしつこい。
しかもまだまだ狙いはわたしだけで、他のメンバーには見向きもしない。
やっぱりこれって、何かしら仕掛けがあるってことよね?
「仕掛けというより……」
言い掛けたカニやんの言葉を遮ったもの。
それは新たに出たアラート。
alert 鬼神・土蜘蛛 / 種族・幻獣
え……っと、これはどういうことっ?
節分イベント 【追儺】 もいよいよ中盤?
それとも終盤か?
とりあえず、新手の登場です。
酒呑童子もまだ倒せていないのに・・・(汗




