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ギルドマスターは今日もギルドを運営します! ~今日のお仕事はなんですか?  作者: 藤瀬京祥


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433 ギルドマスターは仙郷に辿り着きます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 障害物の多い森の中は射線が通らず視界が狭くなるのは銃士(ガンナー)も同じだけれど、長距離攻撃(ロングレンジ)を得意とする(クラス)だけに、中距離攻撃(ミドルレンジ)(クラス)や近接戦(クラス)より視認出来る距離が遥かに長く、索敵能力にも長けている。

 しかも今回は先行ではなく後方からの支援のため引きで見ていることもあり、赤鬼が湧く黒い 【邪気】 の吹き溜まりに気づくことが出来た。

 その長い視界でわたしの違和感の正体を見極めてくれない? ……とお願いしてみたら、ビックリするくらいあっさりと断られた。


 え? どうしてっ?!


 だって高い課金アイテムを消費するわけでもないじゃない。

 ただ見るだけよ。

 どうして駄目なのよ?


『どうしてって……』

『どうしてもこうしてもないよ』


 困惑気味のぽぽがなにか言い掛けるのを、クロエが上書きするように割り込んでくる。


『白ってピントが合わないんだよね。

 視えるには視えるけれど、よくわからないんだから仕方がないでしょ』


 我が儘を言わないように……と露骨な圧を掛けてくる。

 いつものクロエに比べたら、我が儘レベルとしては全然低いほうだと思うから食い下がってみる。

 だって、なにも視えないわけじゃないんでしょ。

 だったら視えることだけでいいから、もう少しだけ具体的に教えてよ。


『しつこいな』

『俺じゃクロエほど視えてないんですけど、木があるんです』


 クロエには断られたけれど、代わりに話してくれるくるくるによると、照準器(サイト)で確認出来るのは木があるということ。

 但しその木は、この森を形成する背の高い木ではなく低い木。

 距離もあるし比較対象もない。

 だからどの程度と具体的には言えないけれど、同じぐらい高さのある木が続くのならこの景色は変わらないはず。

 でもそれが変わるということは、木に変化があったということ。

 だから木の高さが変わったと判断したけれど、それ以上はわからないみたい。


『そんなあやふやな情報、もう少し進めばわかることじゃん』


 まぁね


 クロエの言うとおり、森の中を出口とおぼしきほうに向かって歩き続けると、くるくるの説明を自分の目で確かめることが出来る。

 森を抜けたところというより、そこだけ植わっている木の種類が違う感じかな。

 どの程度の規模かは実際に行き着いてみないとわからないけれど、見覚えのある枝振りのような気がする。

 上に上に伸びるというより、横に広がる感じ。

 しかも枯れ木で上に雪が積もっている……と途中まで思っていたけれど、どんどん近づくにつれ、それが雪ではなく花だとわかった。


 なんの花?


「うわー」

「ちょっと凄いですね」

「これ、なんの花ですか?」

「さすがに匂いはないか」


 足下に雪は降り積もっているけれど、その一帯を埋め尽くす満開の花に一足早い春を感じるメンバーたち。

 口々に漏らす感想に、わたしもルゥを抱き上げて花を間近に見せてあげる。


 綺麗でしょ


「きゅ♪」


 口角の上がった可愛らしい笑顔に、可愛らしい鳴き声。

 少し離れたところで、カニやんも同じようにタマちゃんに花を見せてあげている。


「これ、桃だっけ?」


 きっとカニやんは、誰かに尋ねたというより独り言だったんだと思う。

 でも両側を固める脳筋コンビが聞き逃してくれないのはデフォルトね。


「梅と桃の区別がつかん」

「俺も無理」


 男の人でも花に詳しい人はいるけれど、まぁこの三人はそういうタイプではないかな。

 カニやんはわかってもおかしくはないと思うけれど、わからなくても違和感はない。

 当然のことながら、女の人だからってみんながみんな花が好きとは限らなくて、花が好きでも花に詳しいというわけでもない。

 わたしも綺麗な花を見るのは好きだけれど、花の種類や名前には全然詳しくないんだけれど、この時は自然と 「きっと梅ね」 と呟いていた。


 根拠はあるの。

 思い出したことがあるのよ。

 子どもの頃、父と一緒にひな人形を飾り付けしていた時に聞いた話なんだけれど、ほら、ひな人形って桃の花を飾るでしょ?

 ひな祭りの歌の歌詞にもあるじゃない、【お花をあげましょう、桃の花】 って。

 さすがに話の切っ掛けは忘れてしまったけれど、たぶんわたしが訊いたんだと思う。


 お父さん、どうして桃の花なの?


 当時のわたしも今のわたしも、特に好きな花があるわけじゃない。

 でももっと綺麗な花があるのに、どうして桃の花なのかと不思議に思っただけ。

 だって桃の花ってあまり見掛けないじゃない。

 梅と見分けもつかないし。


 でもちゃんと桃の花を飾るのには意味がある。

 もちろん諸説あると思う。

 だから父が幼いわたしにしてくれた話も、その諸説の一つに過ぎないと思うんだけれど、その時父がしてくれた話によると、女の子の節句と言われるひな祭りには、対とも言える男の子の節句、端午の節句がある。


 子どもの日とも言うわね


 そして端午の節句には菖蒲を飾る。

 そもそも使われる菖蒲は、日頃わたしたちが目にする花の咲く艶やかな菖蒲ではなく、葉菖蒲と呼ばれるもので、邪気払いや厄除けとして用いられたらしい。

 その菖蒲を五月人形と並べて飾ることで、子どもの健やかな成長を祈願する……というものらしい。


 カニやんの補足によると 【菖蒲】 の音 【ショウブ】 が武士を称える言葉 【尚武(しょうぶ)】 と同じことから、端午の節句に飾られるようになったという説もあるらしいんだけど。


 話を戻します


 そもそも3月3日は縁起の悪い日としてお隣の某国から伝わったらしく、(みそぎ)として始められたのがひな祭りの起源。

 (けが)れを人形に移して川に流したりね。

 だから縁起がいいとか、邪気を祓うといういわれのある花が選ばれたらしい。

 桃の花にも、菖蒲と同じく邪気を祓うといういわれがあり、子どもの健やかな成長を祈願して雛壇に飾られるようになったらしい。


 まぁそんな遠回りな話はさておき、もしこの花が桃なら……つまりここが桃園ならきっと安全地帯。

 鬼は出ないはず。

 これだけの木を植えて邪を祓っているもの。

 それこそ桃源郷みたいな感じじゃない?

 でも逆に考えれば、桃園ならば 【幻獣(ボス)】 も出ない。

 つまり外れね。


「梅なら当たりかもしれないってか」


 そういうことじゃないかしら?


 もちろん当てずっぽうだけど。

 でも季節的に考えても梅の可能性が高いと思う。

 だって今は、終わりとはいえ一月じゃない。

 そして節分は二月の行事だもの。

 だったら梅。

 つまりここは梅園だと思う。


 森を出たわたしたちは、どちらともつかない春の中に踏み込みつつ周囲を見渡す。

 森の中から見た時は距離もあり、てっきり枯れ木に雪が積もっていると思っていたらそれは花で、白梅ばかりかと思っていたら、色鮮やかな紅梅や白い雪に映える桃色もある。

 でも不思議な感じね。

 足下には雪が膝の高さまで積もっているのに、こんなにも満開の花園があるなんて。

 現実でこれだけの花が咲いていたら、きっと凄い匂いがするんでしょうね。

 梅の花の匂いってどんなのかしら?


「今度、観に行くか?」


 思わぬクロウのお誘いに、わたしは即座に 「行く!」 と返していた。

 …………え……っと、そのぉ……ですね、返事をしてから考え込むなんて失礼な話なんだけれど、返事をした直後に我に返り、考え込んでしまった。

 行くなんて言っちゃってよかったの?

 だってわたし、まだ課長にお返事してないんだけど。

 とりあえず冷汗が止まらず、汗染みが気になります。


「いいんじゃね?」

「ってか、行けよ」

「一日くらいログインしなくてもギルドは大丈夫だし。

 ゆっくりしてくれば?」

「いいっすね。

 初デートっすか」


 調子に乗ってわたしをからかってくるJBは、調子に乗りついでにわたしの視界に入ってきた。

 ちょっとそこの青鬼、前に立たないでって言ったでしょ!

 腕に抱いていたルゥを下ろしてけしかけるより早く、お目付役の恭平さんがJBの腕をとってわたしの視界から引っ張り出そうとする。


「油断も隙もない。

 前に出るなって言っただろう。

 落とされたいのか!」

「嫌に決まってる」

「だったら大人しくしてろ。

 グレイさんも、一度行くって言ったんだから行けよ」


 JBのついでにわたしまで説教……これ、説教でいいのかしら?

 それとも説得?

 よくわからないんだけれど、わたしまでついでに言われてしまった。

 とんだ巻き込み事案だわ。


「いや、全然巻き込まれてないから」

「むしろ女王が巻き込んでるから」

「とりあえず初デート、行ってらっしゃい」


 男前のカニやんは優しい笑みを浮かべつつ手を振ってみせる。

 その肩に乗るタマちゃんまでが 「にゃ~ん」 と可愛らしい鳴き声を上げ、二股の尻尾を手の代わりにユラユラと振ってくれる。

 相変わらず羨ましいくらい仲睦まじいこと。


「グレイさんとクロウさんが、その、デ……デ、トするんですか?」

「いつ?」

「トール君がどもる意味がわからないんだけど?」

「どこ行くんですか?」

「あ、いえ、別に……」

「花見だってよ」

「俺も行きたい!」

「邪魔すんじゃねぇよ。

 旦那に斬られるぞ」

「せっかくの初デートだってのに、おじゃんにするつもりか」

「ギルマスが喪女なのは知ってるけど、デートくらい経験あるでしょ」


 トール君が話し出したのを切っ掛けに言いたい放題だったメンバーたちが、何気ないアキヒトさんの言葉を聞いてピタリと話すのをやめ、ほぼ同時にわたしを見る。

 別に睨まれたとか、怖い顔を向けられたとかそういうわけじゃない。

 むしろみんなビックリしたような顔をしていて……みんなと言ってもカニやんとかは、逆にそんなみんなの反応に呆れている。

 ま、まぁね、カニやんとか脳筋コンビとか、恭平さんはそのへんわかっていると思う。

 それこそ 「今さら?」 という感じの呆れ顔。


 でもわたしにはみんなの注目が恥ずかしいというか、こ、怖いというか……だってみんな一斉に同じような表情をしてわたしを見るのよ。

 ちょっとホラーじみた怖さがあるじゃない。

 このイベントエリア 【大江山】 と同じ京都にあるとされるI(インスタンス)D(ダンジョン) 【ゴショ】 を思い出す怖さよ。

 もちろんみんなは人形じゃないけれど、同じ表情というところが似ているというか、一斉に動くというところが人形じみているというか、ね。


 とりあえずその視線から逃れるべく、ルゥをぎゅっと抱きしめたわたしはぎこちない足取りで後ずさるんだけれど、背後に立っていたクロウにぶつかる。

 梅の木って、枝が横に伸びるからしがみつけないのよね。

 高さもないし……なんて言い訳をしてクロウにしがみついておく。

 もちろんこれだって恥ずかしいわよ。

 でも他にどうしようもないじゃない。

 それこそ誰かが 「あっち向いてほいっ!」 とでも唱えてみんなが視線をそらせてくれたらいいんだけれど、そんなタイミングよくやってくれるはずもない。

 だからクロウの背中に隠れるようにしがみつき、みんなの視界から消えようとした。


 そんなわたしを救出すべく……というわけでもないんだけれど、結果として助けられたのは銃声。

 てっきりクロエが、大脱線をしている本隊に苛立って威嚇射撃をしたのかと思ったら……


『来るよ』


alert 鬼神・酒呑童子 / 種族・幻獣

やっとボスのご登場!!

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