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43 ギルドマスターはお祝いします

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!

 よし、決めた!

 ずいぶん長い時間公式サイトとにらめっこしていたわたしは、ようやくのことで決意。

 思い切って開いていたウィンドウをポチる。

 ただ、これだけだとちょっと心許ないのよね。

 それで悩んでいたら、クロウってば……


「俺のも使うか?」


 別に隠していたわけでもないし……隣にいるしね、隠しようもないんだけど……わたしが何をしていたのか当然のように知ってるんだけど、さらに何を悩んでいるのかまでわかるのはともかく、あんまり甘やかさないでよね。


「それはクロウが自分で使って。

 インベントリに心当たりの素材があるから……これでちょっと作ろうかな?」


 ウィンドウの画面を切り替えてインベントリを確認する。

 うん、心当たりの素材はちゃんとある。

 これに幾つか素材を足せば、結構いいものが出来ると思うのよね。


「あとは蜘蛛の糸と……」


 考えているうちに楽しくなっちゃって、自分でも気づかないうちに鼻歌を歌っていたみたい。

 みんなとどこかのダンジョンに潜っているトール君が、インカムから話しかけてきた。


『いいことあったんですか、グレイさん』

「ちょっとお買い物ー」

『なに買ったんですか?』

「今は内緒ー」


 ふっふぅ~♪


 ……ダメダメ、ついつい鼻歌歌っちゃう。

 誰も見てないとは言え、音は伝わっちゃ……いたわ、見てる人。

 ちょっと気まずさを覚えてちらりと横を見たんだけど……うん?

 ねぇクロウ、ひょっとして笑ってる?


「ちょっとクロウ、なに笑ってるのよ?」

「……いや、すまん……かわいくて、つい……」


 クロウってばさっきからずっと下向いてるんだけど、肩が震えてるの。

 ちょっとーいつまで笑ってるのよ!

 笑い止むか、顔上げるか、どっちかにして!!


『クロウさんの笑った顔って、激レアですね。

 俺も見てみたいです』

『やめとけ、血の雨が降るぞ』

『死にたくなければやめておけ』

『クロウさんなんてどうでもいいでーす!

 グレイさん、なに買ったのー?』


 すかさず止めに入ったのはいつもの脳筋オッサンコンビ。

 その雨はきっとあんたたちの血だと思う。

 そんなレアなクロウもどうでもいいのはマメね。

 でも内緒。

 買い物は終わったけれど、まだ完成じゃないから。


「出来上がったら見せてあげる」

『えぇ~グレイさ~ん』


 甘えてもダメです。


『どうしたら早く見られますか?』

「じゃあ後で蜘蛛を潰しに行きましょう」

『行きまーす』


 うん、これで素材採集も楽しくなりそうだわ。

 他にギンナンは……もう数がないわね。

 これも採取。

 マメが暇だったら連れて行こうかな。

 ほかに……早速採取に行こうかと張り切ってインベントリと相談していたわたしに、いつものようにトール君が、なぜかいつものように申し訳なさそうに言い出す。

 普通に話してくれていいんだけど?


『あの、誰も興味ないと思うんですけど、俺、レベル20になりました』

「いつっ!?」

『えっと、たった今、です』


 ごめん、ちょっと前のめりになっちゃった。

 驚いたわたしがちょっと責めるように言っちゃったもんだから、ますますトール君の声が申し訳なくなる。

 ごめん、そうじゃないから。

 そういうことはもっと嬉しそうに言ってくれていいから。

 凄く興味があるから。


「おめでとー」

『おめー』

『やったな、トール君』

『おめでたいですー』


 あら、カニやんもどこかにいるみたい。

 今、トール君は一人でシャチ銅に潜っていて、クリアした経験値でちょうどレベル20に達したんだって。

 ということは、トール君は今、ナゴヤジョーにいるってことよね。


「じゃ、早速シャチ銀にいきましょう!」


 ダンジョンナゴヤジョーの通称シャチ銀は、レベル20以上でないと入れないダンジョン。

 トール君の都合も聞かずにわたしが立ち上がると、やっぱりクロウも立ち上がる。

 わたしとクロウが移動するあいだに、勝手にカニやんが他に参加希望者がいないか募ってたらしくて、着いたら結構な人数がナゴヤジョーダンジョン前ロビーに集まっていた。

 主賓のトール君はもちろんだけどマメに柴さん、ムーさん、カニやんの他にの~りん、ココちゃん、クロエにくるくる、ジャック君と双子のキンキーとラウラ。

 あら、ジャック君とキンキー、ラウラは銀には潜れないわね。

 三人ともまだレベルが足りないのよ。

 今日はまだゆりりんもログインしていないし、ここはわたしが保育士に……と思ったんだけど、例によって例の如くクロエとカニやんが勝手にパーティー分けをしちゃった。

 どうしていつもわたしの意見は無視されちゃうのかと、いじける間もなくダンジョン攻略がスタート。

 さてトール君、お初のシャチ銀よ。

 張り切っていこう!


「あの、俺のプレート使っていいですか?」


 トール君に言われて気づいたんだけど、わたし、シャチ銀のプレートを持ってなかったっていうね。

 ごめん、お願いします。

 今更説明するのもなんだけれど、ナゴヤジョーにある三つのダンジョン金・銀・銅は、銅以外レベル制限のあるインスタンスダンジョン。

 銅を生成するプレートはナゴヤジョーとナゴヤドームの中間辺りに出現するエリアキャラを倒せば、かなりの高確率でドロップする。

 あとは銅内のダンジョンでもドロップ。

 同じく銀を生成するプレートも、銅内か銀内でドロップがある。

 そして、まだレベルが足りなくてトール君は入れない金を生成するプレートは、銀内か金内で、あまり高くない確率でのドロップのみ。

 ダンジョン内は三つともほぼ共通で、城の建物を地下から上っていく感じ。

 ま、金は落とし穴があるんだけどね。

 それはまたトール君が金に入れるようになってのお楽しみ。

 地下道から天守閣に侵入するような感じで始まるシャチ銀の、とりあえず注意すべき点はマメお得意のバックリね。


「得意じゃないです!」

「そうなの?」


 マメってば前にシャチがいるのに、気にせずわたしを振り返ったりするもんだから、またバックリやられちゃってるんだけど、それを頑張ってトール君が救出。

 銅と違って出てくるシャチのサイズが大きくて、しかも硬くなる。

 レベル20近くになると、特に剣士(アタッカー)は、銅のシャチならほぼ一撃で倒せる。

 魔法使いや銃士でも、それぞれに掛かる時間は違ってもほぼソロでクリアできるくらいにはなるんだけれど、銀にレベルを上げると一からやり直しって感じ。

 敵一体倒すのに、銅のようにはいかないのよね。

 ま、これもみんなが通ってきた道。


 頑張って強くなってね


 そろそろレベル30ぐらいのプレイヤーが中核になってきているから、トール君も第二回イベント開始までには近いところまで上げた方がいいと思うの。

 例のアンケート結果とか、気になることもあるしね。


「そういえば、アンケートの一位って……そうですよね、レベル差が出ますよね」

「そうなの。

 だからメンバー全体で底上げしておいた方がいいんじゃないかと思うんだけど……」


 そういえばマメ、あんたは?

 あんたのレベルはどうなってるの?

 ステータスの振り直しもまだしてないんでしょ?


「マメはまだレベル21でーす」

「あんた、日がな一日ゲーム内にいてなにしてるの?」

「遊んでまーす」


 そうね、全然レベル上がってないとか……逆にどうやったら上がらないのか、教えて欲しいくらいだわ。

 わたしやクロウみたいにカンストしてるわけでもないのに。

 そのうちトール君にも追い抜かれちゃうけど、マメだからね、きっと気にならないんだろうな。

 気にして欲しいんだけど、でも、マメだもんね。

 本人が楽しくしてくれてるのが一番だけれど、改めて全然レベルが上がってないとかいわれちゃうと、ちょっと脱力しちゃうわ。


「グレイ」


 思わず溜息を吐いたわたしの前で、大口を開けていた銅のシャチが真っ二つに切られる。


「ごめん、うっかりしてた」

「考え事もいいが、お前が考えても仕方のないこともある。

 今はダンジョンクリアだ」


 集中しろってクロウに怒られちゃった。

 あの声で怒られるとちょっと堪える。

 じゃ、ちょっと真面目にお仕事します。


「やっぱり強いな、あの二人は」

「強いですよー、当然です!」


 なんでマメが自慢げなのかわからないんだけれど、トール君は素直に褒めてくれたみたい。

 ありがと。

 あ、そうだトール君、そろそろ頭上に注意ね。

 わたしたちはようやく地下道みたいな場所を抜けて天守閣を上り始めたんだけど、このあたりは頭上に注意なの。

 銅にはないトラップなんだけど、その説明をしているさなかにも、マメが上から落とされる石に頭を割られてるし……


「あんたが掛かってどうするのよっ?」


 たった今トール君に注意したばかりなのに、シャチ銀初挑戦でもないマメが、どうして引っ掛かるの?

 それもものの見事に頭の中心割られて、額からHPがドレインしてるし……。

 ま、この程度で落ちやしないんだろうけれど……あれ? レベル21って、HP、どれくらいあったっけ?

 今でこそレベル48でカンストしちゃってるけれど、わたしだって通ってきた道なんだけど、クロウに引っ張り回されてエピソードクエストをクリアしてるうちにこんなレベルになっちゃってたのよね。

 あまりにも乱暴に引きずり回されたもんだから、その頃の記憶が曖昧で……


「エピソードクエストってなんですか?」


 うん、マメもマメだけれど、ちょっとトール君からも意外な質問が飛んできた。

 エピソードクエストっていえばエピソードクエストなんですけど?

 このゲームの基本的進行方法ですけど?

 それを今更一から説明しろとか……難しすぎるんだけど……


「えっとね、このゲームの舞台設定が、近未来の日本なのは覚えてる?」

「はい。

 ある日突然こんなことになったんですよね?」


 そうそう、導入(チュートリアル)で説明があったわよね、確か。


「で、どうしてこんなことになっちゃったのか、その原因究明をするための調査を行うのがわたしたちプレイヤーの任務なの。

 エピソードの進行に合わせて、受諾と報告があるでしょ?

 長官に」


 長官っていうのは、この世界がこうなった原因究明を行っている臨時政府の代表者みたいな役割のNPC。

 ナゴヤドームの長官室に行けばいつでも会える。

 そして誰でも入れる長官室って、どうなの?

 その長官から、色んなダンジョンの調査を依頼されるっていうのがエピソードクエスト。

 もちろんダンジョン調査以外のクエストもある。

 指定アイテムを指定個数、採取してこいとかね。

 で、成功報酬にアイテムがもらえたり、経験値がもらえたりするわけ。

 このあいだの第一回イベントも、伊勢湾に突如出現した島を調査せよっていう任務の一環だったんだけど、この分じゃ、きっとわかってないわよね。

 ちゃんと書いてあったんだけどな、イベント告知に……。

 運営のシナリオライターも、頑張って考えてくれたと思うのよ。

 参加を希望者のみ(エントリー制)にしたから 「勇敢なる有志を募る!」 とかって、いかにもらしい文言とかさ。

 それが全部台無しとか……ちょっと同情するわ、ちょっとだけね。


「グレイさんはエピソード、全部終わってるんですよね?」

「わたしもクロウもクロエも」


 だから今は次のエピソードか、レベルキャップの解放待ち。

 つまり暇なのよ。

 暇ついでに……危うくまたボス部屋の銀シャチを一撃で倒してしまうところだった。

 確かトール君には、初銅の時にやっちゃったのよね。

 ごめん、ごめん、二度はしません。

 しないんだけど……これはちょっとデジャヴ……?

 あの時も確か、トール君はマメと一緒に殴っていたような……あ、あら???

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