427 ギルドマスターは蚊に刺されます
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鬼の消滅方法が尸解仙という仙人の一種……とでもいうのかしら?
それに関連がありそうな気がすると言い出したのは恭平さん。
カニやんと二人でしてくれる説明というか、内容が難しすぎてわたしには理解出来なかったんだけれど、一説では尸解仙は死ぬ時、魂が抜けたあとの肉体が灰となって消えるという。
二人は、それに鬼の消滅が似ているっていうの。
そもそも今回のイベントで出現する青鬼と赤鬼は、HPの流出現象を起こさない。
もちろん通常攻撃ではダメージを受けないっていうこともあるんだけれど、唯一の攻撃手段でもあるイベントアイテム 【マメ】 を投げつけると灰のようになって消滅する。
違和感
それこそ一粒でもマメが当たれば消滅する。
だから、今回のイベントは 【邪を祓い、鬼を斬れ】 なのに、肝心の鬼を斬ることが出来ないっていうのは、おかしいというか、おかしすぎる。
これまでに出現した青鬼と赤鬼の種族は 【妖魔】 だから、別に 【幻獣】 がいることは大前提だけれど、その 【幻獣】 を探そうにもイベントエリア 【大江山】 が広すぎる。
はぁ~……
当然のことながら今回のイベントも三時間という時間制限があり、あてもなく闇雲に歩き回る時間的余裕はない。
挑戦の機会が四回もあった前々回のクリスマスイベントと違い、今回はいつもどおり一発勝負だからね。
この三時間で 【幻獣】 を見つけ出し、かつ倒さなければならない。
だから違和感を感じつつも、明確な答えを得られないまま、開いたウィンドウに表示される白地図でおおよその目星をつけて向かうんだけれど、この雪の深さと鬼の出現が行く手を阻む。
特にわたしとゆりこさんはSTRもないし、いわゆるPSもない上に装備もちょっと動きづらい。
そのためにゆりこさんはパパしゃんの手を借りて、わたしはクロウに引き摺られているというか、なんというか、その、ね……。
クロウは負ぶってくれようとしたんだけれど、そうすると鬼が現われた時にクロウが反応出来ない。
いや、まぁクロウは反応出来るわよ。
とんでもない反射神経の持ち主だもの。
でもそのためにわたしは放り出され、みっともなく尻餅をつく羽目になるわけで、それを避けるとやっぱり自分で歩かなきゃいけない、と。
歩きます
みんなに遅れないよう必死について行くんだけれど、行けども行けども鬱蒼と茂る森が続き、顔を上げてみれば、前方にもまだまだ森が広がっている。
もちろん右を見ても左を見ても森ばかり。
後ろもね。
思わず溜息が出る。
はぁ~……
「疲れたか?」
疲れたというか、果てが見えなさすぎて……とりあえず耳元で囁くのはやめてってば!
クロウのいい声で囁かれたほうの耳だけ赤くなるとか、わたしってば変なところで器用なんだから。
歩くだけならなんでもないことなのに、雪がつもるだけでこんなに変わるなんて思いもしなかったわ。
「都市部の人間は、それで公共交通機関を死滅させるんだよ」
ええ、足首まで積もればアウトよ。
翌朝に路面が凍結すれば救急車が出動するのよ。
それが都心部。
でもわたし、東京都民じゃないけど。
「そうなんだ」
カニやんにはちょっと意外そうな声を出されたから、きっと都民だと思っていたのね。
残念ながら違います……と返す視界の隅を黒い物がよぎる。
わたしはそれを虫だと思いとっさに手で払う仕草をすると、気がついたクロウに 「どうした?」 と問われる。
虫がいた
そう答えながらもわたし自身、違和感を覚える。
もちろんわたしの答えを聞いたクロウもね。
「虫?」
だって仮想現実に虫なんている?
もちろんいるとしたら運営の意図だけれど、いくら演出過剰な運営でもそこまでする?
実際、今までに森でのイベントは何度かあったけれど、虫なんて一度も飛んでなかったわよ。
蝉をのぞいて、ね。
そう考えればわたしの気のせいという可能性のほうが高い気もするんだけれど、わたしと同じように、すぐそこでクロウはもちろん、カニやんまでが考え込んでいる。
もちろん時間がもったいないから立ち止まらず、歩きながらなんだけれど……ん? これはなに?
ふと気がつくと足下で雪が不自然に盛り上がっている。
しかもそれは、まるで雪の中を土竜のような生物が移動しているかのように線状に続いていて、周囲をぐるりと回ってきたかと思ったら、またわたしの前に着てピタリと止まる。
青鬼っ?!
雪の中、あるいは土の中から出現するだけに足りず、雪、あるいは土の中を移動することも出来るなんて。
ひょっとしてさっきも、わたしが気づかなかっただけで、わざわざ移動してきてわたしやクロウの足を掴んだってこと?
プレイヤーの位置情報を探知する能力まで持ってるなんて、ちょっとスキルの積み過ぎよ。
そりゃプレイヤーと遭遇出来なければ、ただただ雪の中で寝ているだけなんて寂しすぎるだろうけれど。
でもNPCってそういうものじゃない?
プレイヤーが寄りつかないような場所であっても、そこが湧き位置で、そこに湧いたのならそのあたりを漂い続けるしかない。
それがNPCの運命というものでしょう。
そう、運命なのよ
プレイヤーだって運営が決めたルールには従うしかないわけなんだし、その運営が生み出したNPCなら運命すら決められても仕方がない。
で、その運命に従って、発見したプレイヤーに近づいてきたってことね。
マメっ!!
「大丈夫だ」
今度こそ落ち着いて投げるわよ! ……と構えたら、なぜかクロウに手を掴まれる。
そして声を掛けられた直後、ぼこっという音とともに雪の中から出て来たのは、ルゥの超絶可愛い顔だったっていうね。
「きゅ~!」
雪の上をひょっこひょっこと跳ねるように走り回っていると思ったら、いつの間にか潜って遊ぶことを覚えたらしい。
あるいは見えないだけで、雪の中でもフンフンフンフン……しているのかもしれない。
もうね、上がった口角とか、大きく見開かれた目とか、ピンと立った大きな耳とか……はぁ~……全部が文句なしに可愛すぎる。
でも驚かせるのはやめて欲しい
小心者のわたしはどんと構えていられなくて、クロウにしがみついてびびりまくりよ。
悲鳴を上げないだけ偉いと思うんだけど、顔が熱くて熱くてたまらない。
どうしたらいいのよ
でもそんなわたしの反応すらルゥは嬉しいのか、雪の中から尻尾を出してご機嫌にブンブン振っちゃって。
それはそれで可愛いんだけれど、童謡にあるように、降り積もった雪に大喜びして駆け回るワンコを楽しく愛でてばかりもいられないのよね。
歩くことに必死だったわたしだけが気づいていなかっただけで、みんなは少し前から気づいていて、いきなり正面を横切られたマコト君が避け損ねて転んだらしい。
ごめん
「大丈夫ですよ。
全然平気」
慌てて謝るわたしに、マコト君はいつものように笑って許してくれる。
でもだからって甘えるわけにもいかなくて、雪の上に屈んだわたしは、ルゥと顔を近づけて 「めっ!」 と叱る。
もちろんわかっていないルゥは、雪の中で小さくジャンプをして自分の鼻をわたしの鼻にぶつけてくる。
鼻が潰れる……
ルゥは 「きゅ♪」 と嬉しそうな声で鳴いてくれるんだけれど、ぶつけられたわたしは霞のようなVITの魔法使いで、しかも痛い。
さらにここはPKエリアで、さっきルゥに蹴躓いたのさえもルゥの攻撃と判定しわたしのHPを削ったけれど、やっぱりこの鼻チューもルゥの攻撃と判定しわたしのHPを削ってくれる。
ということは、さっきマコト君が転けたのもHPを削られたんじゃ……。
「え? 全然大丈夫でしたよ?」
慌てるあまり少し早口に尋ねるわたしに、マコト君はその気迫に押されるように少しビックリしつつ、いつものように優しく笑ってくれる。
「だって俺、ルゥ君には当たってませんし」
マコト君がいうには、雪の中を掘り掘り進むルゥを避けようとしてバランスを崩し、転けたらしい。
だから直接の接触がないため攻撃とは判定されないんじゃないかって。
もちろんそれならいいんだけど、マコト君は優しいから、どうしてもわたしに気を遣っているんじゃないかと思ってしまう。
とりあえず進もうと恭平さんに促されて立ち上がろうとすると、いきなりルゥが必殺の肉球パンチを、よりによってわたしにお見舞いしてきた。
口角を上げた超絶可愛らしい笑顔で飼い主を攻撃するって……。
やーめーてー!!
思わず尻餅をついてクロウにしがみついてしまったわたしは、クロウを巻き込むまいと突き飛ばそうとするんだけれど、わたしのSTRはモヤシでクロウのVITは鉄筋。
だからビクともしない。
二人まとめて吹っ飛ばされるかと焦ったけれど、幸いにしてルゥにその意図はなかったみたい。
じゃあなに?
なにを思ってルゥが、わたしの頬にプニプニの肉球を押し当てたのかと思ったら、ルゥの視線がわたしの顔から横にすぃ~っと移動し、それに伴ってルゥの顔が横を向く。
なにかを目で追っている。
そう気がついたわたしもルゥの視線を追ってみたら、黒い小さな……虫?
小さすぎて黒いなにかにしか見えないそれは、ルゥの必殺肉球パンチを食らうとさらに小さくなり、やがて消えてしまう。
虫じゃない?
だって虫なら粉々に散ったりしないはず。
いくらルゥがこのゲーム最強のNPC 【幻獣】 だとしてもね。
どういうこと? ……と考え込むわたしの視界をいきなりクロウの大きな手が塞いだと思ったら、なにかを払うような仕草をしてみせる。
「虫じゃない」
どうやらまたわたしの顔の前を、黒い何かが横切ろうとしたらしい。
わたしの 「虫じゃない?」 という問い掛けに答えるような形になったクロウの呟きに、腕に抱いたタマちゃんを庇うように、なにかを払う仕草をしながらカニやんも同意する。
「違うな」
最初はなんのことかわからなかった他のメンバーたちも、自分の周囲に黒い何かを見つけて払う仕草を始める。
「なんですか、これ?」
「うわ、なんか一杯いるっ?!」
「いるっていうか、飛んでるっていうか……」
「ちょっと気持ち悪ぅ~い」
「来るな、来るな」
「迂闊に触って大丈夫か?」
そうね、もしこれが 【邪気】 という名の毒のようなものだった場合、触れれば何かしら影響が出るかもしれない。
恭平さんの言葉に不安を覚えたわたしは、クロウの手を掴んで確かめてみる。
大丈夫、特に汚れとかは付いてないみたい。
でも実際は全然大丈夫じゃなくて、クロウほどHPが高ければほとんど影響はないけれど、わずかながらもHPやMPを削っているっていうの。
やっぱりこれが 【邪気】 なの?
パ○ツネタ、忘れてないよ!
パ○ツも忘れていないけれど、まずは本編を進行します。
今回は運営が上手かもしれない・・・ふふふw