426 ギルドマスターは仙人になります
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今回の敵は 【節分】 とあって赤鬼と青鬼の豪腕タッグ。
痛そう……じゃなくて、重そうな金棒を軽々と振り回して勢いよくプレイヤーに殴りかかってくる。
それこそ豪快にね。
でも青と赤は常に一緒に遭遇するわけではないし、一緒に遭遇しても必ずしも一対というわけでもない。
赤と青×2体、あるいはその逆といった変則スタイルもあり、特に組み合わせなどに法則のようなものはないと思われる。
攻撃方法も威力も変わらないかな?
杖を標準装備とする魔法使いはSTRもVITも低すぎて鬼の金棒攻撃には耐えられず、杖で受けるなんて危険な真似はしないからわからないけれど、直接斬り結ぶ剣士たちの反応を見るとそんな感じがする。
脳筋コンビや恭平さんの、学生組への支援の仕方に差が見られないからね。
たぶん同じような強さなんだと思う、その豪腕も、健脚も。
でも赤と青の鬼の種族は 【妖魔】。
このゲームの基本……というものではないけれど、現状の傾向ではイベントのラスボスは種族が 【幻獣】 となっていることがほとんどで、今回のイベントも例外ではないと思われる。
だから青と赤の他にも鬼がいると推測されるんだけれど、まずは赤と青の鬼の攻略が先決。
赤はともかく、どうやら青は雪の中から湧くものらしい。
正しくは土の中かもしれないけれど、その地面がこうも雪に埋もれていちゃわからない。
いずれにせよ今までに遭遇した青鬼は、全て雪の中から姿を現わしていたからそう推測しているんだけれど、たぶん合っていると思う。
だっていかにも鬼らしい出現方法じゃない。
しかもここの運営は演出過剰だからね。
でもプレイヤーの足下を狙ってくるのはやめて欲しかった。
偶然プレイヤーの足下が湧き位置だったとして、あるいは湧き位置の上に偶然プレイヤーが立っていたとしても、なにもその足を掴まなくてもいいじゃない。
目の前にあったからとりあえず握ってみました……なんて変態行為は言い訳にならないわよ。
絶対に認めません!
だからわたしのゴボウのような足を掴んで放さない青鬼の顔を蹴るのは、プレイヤーに許された正当な防衛行為よ。
仮想現実とはいえ、少なくとも人の形をした相手の顔や頭を蹴ることに抵抗を覚えるんだけれど、さすがにこの状況はそれどころじゃなくて。
掴まれていないもう一方の足でガンガン蹴るんだけど、悲しいくらい非力な魔法使い。
青鬼はビクともしないというか、蚊に刺されたほども感じていないというか。
でも 【幻獣】 が、わたしに蹴躓かれてもビクともしないっていうのとは少し感じが違うような気がする。
なにかしら違和感を覚えるんだけれど、今はそれを追求している余裕がなくてとにかく蹴りまくる。
だってクロウと同じくらいの早さでわたしの異変に気づいてくれたカニやんが、いち早くマメを青鬼にぶつけてくれるんだけれど、やっぱりというか、案の定というか……うん、効き目なし。
やっぱりマメが魔除けとしての威力を発揮するのはSTR次第ってこと?
だったらこのイベント、魔法使いは役立たずじゃない。
それこそ金棒に殴られれば耐えられない銃士だけれど、鬼に弾丸を当てれば硬直を引き起こすことが出来る。
その隙にマメを投げることが出来るわけで、十分に役に立つ。
そういう意味では、鬼は驚異的な破壊力を持つ豪腕NPCで、その武器である金棒は掠るだけでもかなりのHPを削っていく。
だから同じ魔法使いでも回復系魔法使いは十分にお役立ちというか必要だから、全くの不要品は攻撃系魔法使いだけってことね。
しかもよりによって青鬼に捕まっちゃうなんて……。
足を引っ張るにもほどがある
でも情けない失態の反省はあとにして、わたしはこの状況から脱出するために足を斬ってくれとクロウに頼んだのに斬ってくれない。
だって鬼の手足は斬れないんだもの。
鬼が持つ金棒は物理攻撃で、同じ物理攻撃の武器である刀剣の攻撃で防げるけれど、鬼本体を傷つけることは出来ない。
傷が付かないのに斬るなんて不可能よ。
だったら、ここがPKエリアである以上対プレイヤー戦が出来るわけで、わたしの足を斬ってもらえばいい。
少なくともそれでこの状況を脱することが出来る。
もちろん片足になるとこの先の移動に支障を来す。
ただでさえ足の遅いわたしはみんなの足を引っ張っているのに、片足になれば、それこそこの場に置いていかれても文句は言えない。
でもわたしには部位欠損を回復する術がある。
部位欠損は損傷時に結構な痛みがあるし、かなりの量のHPを失うことになる。
それだって落ちなければ欠損回復後にポーションなり術なりで回復することが可能なんだから、瞬間的な痛みには変えられない。
斬って!!
『相変わらずそういうところは潔いよね』
ついには上半身を現わす青鬼に悲鳴を上げると、あきれかえったクロエがぼやく……とともに銃声が轟き、青鬼の眉間に黒い穴が空く。
もちろん物理攻撃無効だから空いた穴はすぐに塞がるんだけれど、硬直は起こらず、青鬼はまるでなにもなかったかのように、空いている手を雪について雪の中に残る下半身を、ゆっくりと引き抜くようにその全身を現わす。
ひぃぃぃぃ~
服! 服を着てーっ!!
どうしてパ○ツ一枚なのよー!!
『そこ?』
「そこか?」
クロエの声と、投げても無駄だとわかっているはずなのに、それでもいつでも投げられるようにマメを握って身構えているカニやんの声が被る。
「どうしてって、全裸がいいのか?」
「パ○ツすら穿いてないほうがいいってか?」
少し離れたところで脳筋コンビが、わたしの悲鳴の理由とは真逆の突っ込みをしてくる。
うん、わかってる。
この二人はわかってやってるのよね。
それはわかってるんだけど、今のわたしはそれどころじゃない。
だって、その、え、NPCだってわかってるけれど、問題はそこじゃなくて人形ってことなの。
中に人が入っていようといまいと、男の人が服を着ていないって、しかもそれをこんな間近で見せられるとか、わたしにどうしろっていうのよっ?!
は、恥ずかしくて、耳が熱くなりすぎてちょっと耳鳴りがしてきた気がする。
もうね、いくら胸がはだけているとはいえ、まだ装備を着ているだけ不破さんのほうがまっし!
いや、もちろんあれだって見るのは恥ずかしいんだけど、十分すぎるくらい恥ずかしいんだけれど、着てないとか、もうね、あり得ないレベルです。
思い返せば夏のイベントでもみんな水着になっちゃって大変だったんだけど、わたし自身も水着を着る羽目になったこととか、他に気が逸れる要素があったおかげでなんとかなったけれど、この状況はキツい。
「スパーク」
スパークは、わたしが持つ魔法攻撃を吸収する常時発動スキル 【愚者の籠】 ですら防げないから、ひょっとしたら……と思ったけれど、やっぱり効かない。
それどころか、他の攻撃魔法だと表皮が焼けるなどの視覚効果があったのに、わたしが放ったスパークはそんな微々たる変化すらないと来た。
そよっとした微風すら吹かないんだから、無効とか以前よね。
発動しなかったも同然なのに、微々たるものとはいえちゃっかりわたしのMPは減ってるけど。
このイベント、本当に攻撃型魔法使いの出番がない。
その中でもわたしなんて移動速度を下げるだけのお荷物でしかなく、もういっそここで金棒の餌食になっても構わないかも……と覚悟を決めているあいだに青鬼が、わたしの眼前で全身を見せる。
パ、パ○ツ~!!
「鬼のパ○ツはいいパ○ツだぞ」
「強いパ○ツだぞ」
だったら二人も穿けばいいでしょ!!
但しわたしが落ちてからね……という心配はいらないか。
もうここで落ちるし。
うん、落ちる。
覚悟を決めました。
「そこ、覚悟を決めるところじゃないから」
にひっと笑うカニやんが、無駄だとわかっているのに第二投を投げる。
鬼はこちらを向いているから大丈夫だとは思うけれど、万が一にも投げつけられたマメに反応して振り返ったら大変だから、投げたらすぐに逃げてよね……というわたしの心配は杞憂となった。
だって青鬼が消えてしまったから。
消えた……?
これまでと同じく一瞬で全身が消炭のように黒くなったと思ったら、次の瞬間には人の形を保てなくなり、まるで灰のように霧散してしまった。
え? 待って?
だって今マメを投げたのはカニやんでしょ?
一投目で失敗したのに、どうして二投目で成功するの?
STRが足りないんじゃなかったっけ?
それともやっぱり当たり所?
頭に血が上りすぎたわたしは、疑問こそ次々に浮かぶけれど自分で考えることが出来なくて、少し早口に思い浮かぶことを並べ立ててゆく。
でも並べられるカニやんたちも大絶賛思考中で返事はなく、代わりにクロウがいい声を聞かせてくれる。
「落ち着け」
そ、そう思うなら手を放してください。
鬼が消えたんだからもうクロウに支えてもらう必要はないんだけれど、手を放してくれない。
まぁわたしもね、自分の都合でしがみついたり突き放したりと身勝手が過ぎるってわかってるんだけど、わかっていても丁度いいところに立っているんだもの。
困っている状態のわたしには、しがみついてくださいと言われているような気がしてついついしがみついてしまう。
「構わないから落ち着け」
そんなことを言ってまだ離してくれないんだけど……。
「ちょっと話が飛ぶんだけど、尸解仙を思い出した」
周囲を警戒しつつ話しかけてくる恭平さんに、唯一意味がわかったらしいカニやんが 「あぁ、なるほど」 と頷く。
シカイセン?
それはなに?
気のせいでなければ初めて聞く言葉のような気がする。
「死んで昇仙する仙人のことで、死後、魂が死体を取りに来るんだよ」
それはゾンビの一種?
ちょっとカニやんの話が難しすぎてわたしにはわからない。
だから質問をしてみたんだけれど、どう説明したらわたしにも理解出来るかをカニやんも迷っている感じ。
話を持ってきた恭平さんも 「ゾンビじゃない」 と苦笑い。
「一回死んでるからゾンビっちゃゾンビなんだろうけれど、魂は仙人だから。
自分の肉体を回収しに来て、そうすると棺桶から死体が消えるだろ。
で、そのあとに復活に使った媒体が残るっていうんだけれど……。
あるいはその尸解仙が消滅する時、灰になって消えるっていうんだよ。
とっくに死んでるからってことらしいんだけれど、消えたあとに媒体となった物が残るっていう話があって……まぁなんとなく恭平がいいたいことはわかったけど、説明するのは無理」
えーっと、つまり、そんなに難しい話ってことね。
そもそも尸解仙なんて、一発変換出来ないくらいマイナーな言葉みたい。
つまりそれだけ一般的な話じゃないってことで、わたし以外にも知らなくて当然。
でも灰になって消えるっていうのは、確かに鬼の消滅と似てるわね。
「それな」
でも鬼と仙人はちょっと相容れない気もするけれど。
いずれにしたって、この山のどこかに 【幻獣】 がいるのは間違いないんじゃないかな。
ここはイベントエリアで、入れるのはこのイベント開催中だけ。
しかも参加者のみで、イベント開始とともにエリア内に転送されるから大江山連山の全容を見ることは出来ないんだけれど、やたら滅多に探し回っても見つからないような気もする。
鬼になにかヒントがあればと思うんだけれど……そういえば、結局どうしてさっきの青鬼は消滅したのよ?
非力なカニやんには倒せないはずじゃなかったの?
「ああ、それ。
そっちは簡単。
出現中は無理ってこと」
ん? んん?
カニやんの説明が簡潔すぎて、わたしの理解が追いつかない。
「先手必勝をプレイヤーにやられると、青鬼のほとんどは地面から出てくる前に倒されるから、たぶんそれをさせないための策じゃないかな?」
「なるほど」
「赤鬼はわからないけど」
恭平さんと二人でわかり合うのはやめて。
なに? カニやんってばこのイベントでは脳筋コンビが相手をしてくれなからって、恭平さんと組むつもり?
わたしの突っ込みにカニやんは 「違う」 と嫌そうな顔をするんだけど、本当に違うのならわたしにわかるように説明して。
「だから、完全に雪の中っていうか、土の中かな?
出て来てからじゃないと攻撃が通らないってこと」
意味が理解出来ると、ここの運営の特徴とも言える過剰演出ってことね。
赤鬼は出現方法がわからないからなんとも言えないけれど、この分ではなにかあるかもしれない。
それはそれで用心が必要ね……と考えていたら、カニやんに言われる。
「とりあえずその赤い顔、なんとかしたら?」
赤鬼顔負けの赤さ……とからかわれた。
わたしだってなんとかしたいわよ。
それこそこの雪が冷たかったら、雪の中に顔を突っ込んで冷却したいくらい。
でも冷たくないのよ。
だから出来ないのよ。
なのにJBったら、雪玉を作ってわたしに向かって投げつけてきた。
本人は冗談のつもりで笑ってるんだけど、やめてよね。
だって洒落にならないもの。
「JB、やめろ」
クロウが飛んできた雪玉を払ってくれたんだけれど、これが当たったらどうなると思う?
さっきも言ったけれどこの雪は全然冷たくないし、そもそもクロウが放してくれないと、例え雪が冷たくても意味がないし。
全然冷却されないし。
そこにJBのSTRで雪玉を投げつけられたらどうなるか?
ヒントはここがイベントエリアってこと。
そしてPKができるってこと。
答えはこちら!
わたしが落ちるのよっ!!
ちょっと寄り道をしております。
イベントは進行していないように見えますが、内容は進んでいます。
たぶん・・・(大汗




