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411 ギルドマスターは斯くして 【灰色の魔女】 となりました

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!


今話は少し長くなってしまったのですが、分けることが出来ないためこのまま掲載いたします。

どうぞ、よろしくお付き合いくださいませ。       藤瀬京祥

 【関東エリア】 にあるこのゲーム最大の重火力ダンジョン 【富士・火口】。

 出現する二体の 【幻獣】、【スザク】 と 【焔蛇(えんじゃ)】 を倒すため……といっても 【焔蛇】 はいつもクロウが倒してくれる。


 同じ 【関東エリア】 にあるエリアダンジョン 【(じゃ)の道】 に出現する 【大蛇(おろち)】 よりも遥かに巨大な 【焔蛇】 は全身に焔をまとい、その熱は近づくだけでもプレイヤーのHPを削っていく難物。

 しかも 【幻獣】 だけあって高HPの高VITで、その攻撃力は当然超弩級。

 あとに控える首領(ラスボス) 【スザク】 には及ばずとも、その 【スザク】 への道を火力でもって閉ざし、落としたプレイヤーは数知れず。

 それこそ重火力ダンジョンの番人を、あの運営から仰せつかっただけのことはある実力者。


 NPCだけど


 その 【焔蛇】 をたった一人で落とせるクロウは、【富士・火口】 の次に重火力ダンジョンと言われる 【ナゴヤジョー】 の、通称シャチ金をソロクリア出来るランカー。

 クロウが 【焔蛇】 攻略中のわたしはすることがなくて……だって下手なことをすると却って邪魔になるんだもの。

 せめて回復だけでもと思うのに、それすら要らないといつもクロウに断られる。

 だからすることがなくて、邪魔にならないように隅っこに隠れているというか、オロオロしているというか。


 もちろんクロウの実力を疑うわけじゃない。

 疑ってるわけじゃないけれど、ただ見ているだけというのはどうしても落ち着かず、でも出来ることがなくてオロオロするだけ。

 なにをするかわからないルゥは危険すぎるからいつもどおり腕輪に格納してあり、両手に持つ物が杖だけじゃ心許ないから、代わりに手頃な岩にしがみついていた。

 いつもそうなんだけど、【焔蛇】 攻略を終えたクロウには笑われるんだけどね。

 もちろん今日も。


「いつもその岩だな」


 その岩というのは、今、わたしがしがみついている岩のこと? ……と尋ねてみたら、クロウは笑いながら頷く。

 どうやらわたしの両腕にこの岩が丁度いいサイズらしく、無意識のうちに同じ岩を選んでいたというか、しがみついていたらしい。

 わたし自身気がついていないのに、よく見てるわね。


「そうかもな。

 行こう」


 クロウに促されるまま、わたしたちはあちらこちらで溶岩が噴出する中、それまで 【焔蛇】 によって塞がれていた道を奥へと進む。

 もちろん待っているのはこのI(インスタンス)D(ダンジョン) 【富士・火口】 の主人(あるじ) 【スザク】。

 このゲーム最大級の重火力であり最凶のぶっ壊れスキル 【灰燼(かいじん)】 の持ち主は、多くのプレイヤーにとって厄介な飛行(タイプ)の巨鳥、火の鳥。


 南方を守護する神獣である朱雀は赤色で表現され、青龍、白虎、玄武とともに四神と称される夏と焔を司る瑞獣。

 ただ出現するこのI(インスタンス)D(ダンジョン) 【富士・火口】 は 【関東エリア】、つまり東にあって南ではなく、しかもこのゲームでは、日本地図の左右が逆転しているというややこしさ。

 四神を登場させるのなら、【スザク】 は九州の阿蘇とか桜島あたりが適当な気もするけれど、現在実装されているのは、ゲームのスタート地点である 【中部・東海エリア】 と、その左右にある 【関東エリア】【関西エリア】 の三エリアだけ。

 あいだに中四国があることを考えれば、九州の実装はまだまだ先になると思われる。

 その中四国ですら実装の気配はないしね。


 そういえば瑞獣って、四神の他に麒麟や鳳凰もいるけれど、わたしには鳳凰と朱雀の違いがよくわからない。

 鳳凰と朱雀は同じじゃないの? ……とも思うんだけれど、それを訊いたらカニやんあたりに長々と蘊蓄をきかされそうなのでやめておきます。


 ちなみに 【スザク】 攻略のコツは、最凶のぶっ壊れスキルといわれる 【灰燼】 を発動させないこと。

 ある一定値までHPを削られると 【スザク】 は 【灰燼】を発動し、攻略中のプレイヤー諸共その身を焔に焼き尽くされる。

 けれど不死鳥の異名を持つ 【スザク】 は、その 【灰燼】 の中から復活するのよ。

 しかもせっかく削ったHPが全回復してね。

 そうして為す術もなく 【灰燼】 に溶かされたプレイヤーの前で、一際高く、勝利の宣言とも言える鳴き声を上げる。


 もっともわたしがその声を聞いた時は、ちょっと事情というか、状況が違っていて、わたしが生き残っていたために勝利宣言にはならなかったけれど。

 だってその時に 【灰燼】 を使ったのは、【スザク】 ではなくわたしだったから。


 さすがにね、あのぶっ壊れスキルを所持しているとはいえ、他者に 【灰燼】 を使われればわたしも落とされる。

 だから 【スザク】 に 【灰燼】 は使わせられない。

 でも逆に 【スザク】 は、誰が放った 【灰燼】 であってもその焔の中から何回でも復活してくる。


 わたしは過去に二回ほど 【灰燼】 を発動させているけれど、その最初の一回目を発動した時、クロウやクロエはもちろん 【スザク】 をも落とし、当時は一つながりのエリアダンジョンだった 【富士・樹海】 までも焼き尽くした。

 樹海内にいた見知らぬプレイヤーたち諸共にね。

 【灰燼】 がそこまで壊れたスキルだと知らず、ただただ驚くわたしを前に復活した 【スザク】 は、わたしをあざ笑うように高らかにその鳴き声を上げたのよ。

 あの時のことはいま思い出してもムカつく。

 おかげで 【灰色の魔女】 なんて不吉な異名(ふたつな)まで付けられたんだから。


 そのあとは、そばで死亡状態のクロウやクロエに謝って、泣きながら 【スザク】 を落とした。

 一緒に落ちてお詫びしようと思ったんだけど、怒られちゃったのよ。

 【スザク】 を落とすまで、「さっさと落とせ」 とか 「暇!」 とか散々クロエに急かされて。

 クロウには無言の圧をかけられて、どれだけ辛かったか。


 思い出したくもない


 それ以来、今も 【スザク】 攻略は必死です。

 ドロリドロリと流れる溶岩の川の中、続く道を歩いてくるわたしたちを、高いところにある巣から見ていた 【スザク】 が飛び立つ。

 さて、ここからはわたしの出番ね。

 しばらくは詠唱で忙しくします。


 全集中


 かかる時間はその時々だけれど……ほら、クロウが一緒だとMPの回復を自分でせずに済む分、サクサク進むような気がするのよね。

 逆に一人だと、インベントリを横目に見ながら 【スザク】 が硬直から解放されないよう次々に詠唱をしなければならず、忙しさのあまり時間の経過を早く感じる。

 エリアダンジョン 【富士・樹海】 と違い、【富士・火口】 は今も制限時間があるから余計に焦っちゃうんだけれど、終わったら気が抜けてしまうのか、所要時間を確認したことは未だ一度もない。


 今回も


 そんなこと、すっかり忘れてたわよ。

 今回は他に目的があったから、【スザク】 を落とすのは絶対だけれど、落ちたのを見届けた瞬間に頭を切り換えた。

 だから時間なんて見てませんし、そんな余裕もありません。

 この時点ですでに心臓がバクバクしてるんだもの、どこに余裕があるのよ?

 勇気を出してクロウを見たら、ウィンドウを開いて切っていたインカムを入れようとするから慌てて止める。


「待って待って!

 あの、ぉ……ちょっと、その、は、話が、ある、の」


 ひぃ~


 こ、言葉がまともに出てこない。

 でも言いたいことは一応伝わったらしく、クロウは少しだけ眉間に皺を寄せつつも手を止める。


「ここで?」

「ここ、がい、いです」

「わかった」

「あの……」


 あっさりと了承してくれたクロウは開いていたウィンドウを閉じ、わたしを見る。

 これはたぶん、わたしが話を切り出すのを待ってくれてるのよね?

 うん、多分そうだと思う。


 わかってる


 わかってるんだけど、心臓どころか、脳までが心臓みたいにドクドク脈打ち始め、考えがまとまらないというか、言葉が出てこないというか。

 でもなにか言わなきゃ、早く言わなきゃって気持ちばかりが急いて意味のない言葉が続いてしまう。


「その……ね……だから……あの、ぉ……」


 しばらくはそんなわたしの寝言というか、戯言にじっと付き合ってくれていたクロウも痺れを切らしたのか、手を挙げたと思ったら頭に乗せてくる。


 ひぃ~


 今それをされると余計に考えがまとまらないというか、言葉が出てこない。

 もう耳どころか首まで真っ赤よ、どうしてくれるのっ!

 もちろんクロウが悪いわけじゃないってわかってるけれど、どうしてそんなことするのよぉ~。


「落ち着け……というのは無理か」

「無理」


 まぁね、クロウもそんなに短い付き合いじゃないもの。

 わたしのこんな性格はよくご存じだと思う。

 うつむいたまま小さな声で答えると、頭の上の方から息を吐くのが聞こえた。


「……わかった。

 どうしたらいい?」


 あとで思えば 「時間が欲しい」 と言えばよかったけれど、この時のわたしはどうしていいのかわからず、なにも言えないまま。

 うつむいたまま首を横に振るので精一杯。

 するともう一つ、息を吐くのが聞こえた。


「……慌てなくていい。

 落ち着くまで待つから」


 これがお仕事なら落ち着く目処とか立てなきゃならないけれど、お仕事でなければ目処どころじゃない。

 だからといっていつまでもお待たせするわけにもいかないし、なによりもこの沈黙が却って耐えられない。

 まだ心臓はバクバクしてるし、すっかり頭に血が上っちゃってなにをどう言えばいいのか全然まとまらない。

 でももう無理なの。

 この沈黙に耐えられません。

 このまま心臓が爆発するなら、いっそ当たって砕けます。

 そう決心したわたしはクロウを見上げると、勢いよく胸ぐらを掴む。


「あ、あのね! クロウ、彼女、い……ますか?」


 わたしなりに精一杯頑張ったの。

 物凄く頑張ったのよ。

 でも途中で正気に返ったというか、勢いを失ったというか、尻すぼみになってしまい、いつものですます調にまでなってしまう。

 しかも唐突すぎるわたしの質問にクロウまで呆気にとられちゃって、なんとも言えない表情をされてしまった。

 当然気まずさを覚えるんだけれど、始めてしまったから後には引けず、仕切り直しも出来ず。

 気まずい沈黙に頑張って耐えます。


「……なにを言い出すかと思えば……」


 不意にクロウの表情が緩んだと思ったら、今度は少し笑いながらも呆れている。

 うん、これは絶対に呆れてる。

 さらには妙なことを言い始めるの。


国分(こくぶ)から聞いてないのか?」


 国分先輩? ……え? まさかクロウの彼女が国分先輩っ?

 まさかまさかの話にわたしの思考回路はショート寸前なんだけれど、ほんと、寸前である事実を思い出す。

 だって国分先輩には歳下彼氏がいるはずなのよ。

 確かまだ大学生だったんじゃないかしら?

 そんな歳下と付き合うことになるなんて想像もしていなかったって、笑いながら話していたもの。

 うん、だから国分先輩ではない。


 じゃあなんの話?


「前に飲みに行った時、会川(あいかわ)に同じ質問をされたから。

 てっきり国分経由で、安積(あさか)も聞いて知っていると思ったが」

「聞いてません。

 というか、仮想現実(ゲームの中)で安積と呼ばないでください、課長(・・)


 わたしを安積と本名で呼んだのはわざとだったみたい。

 わたしの反撃にクロウは 「お前もな」 と笑う。

 でも会川さんも同じ質問をして、その答えが国分先輩経由……という話の流れからも、やはり国分先輩はクロウの彼女じゃない。

 そもそもクロウはなんて答えたのよ?

 わざとじらすようなことを言わないで欲しい……というか、これ、わざとなの?

 わざとこんな回りくどい会話してるの?

 どうして? なんのためにっ?

 課長……じゃなくて、クロウがなにを考えているのかわからなくて泣きたくなってきた。


「教えてください!」


 胸ぐらを掴む手に力を込めてお願いしたら、いきなり両手で顔を掴まれる。

 掴むというか両頬に手を当てる感じなんだけれど、しっかり指に力が入っていて抜け出すのは難しそう。

 これはひょっとして、わたしのほうが追い込まれているのでは?


「答える前に、俺から質問だ。

 なんのためにそんなことを知りたい?」


 えーっと……まぁそうよね、そうなるわよね。

 クロウの私生活なんて、本来わたしには関係ないし、口出し無用の領域だもの。

 それなのにプライベート中のプライベートをいきなり訊いたんもだの、そりゃ不思議にも思うでしょうとも。

 ここでわたしが、仮想現実(ゲームの中)だけでいいから彼氏(仮)になって欲しいとか、喪女卒業に向けた練習に付き合って欲しいとか、簡潔にわかりやすく言えればよかったんだけれど、その……以前にカニやんたちが話していた……なんて昔々の話から始めてしまったから、最終的な目的に辿り着くまで時間のかかったこと。

 それこそさっき以上に回りくどい話になってしまった。


 もちろん 「以前にカニやんたちがしていた話」 はクロウも知っている。

 だってその場にいたはずだし、わたしがしどろもどろになりながら話している最中にも 「前にあいつらがしていたな、そんな話を」 と相槌を打ってくれたし。

 でも遮ったりせず最後まで聞いてくれたんだけど、聞き終えたあとなぜか考え込んでしまい、また気まずい沈黙が流れる。

 今日一番気まずい沈黙よ、これ。

 しかもクロウにしては長い思考時間があって、ようやく返された言葉がこれ。


「……この話の続きは明日にしよう」


 まさかのお預けっ!!

今話が長くなった理由はグレイの性格が原因ですね。

こればかりはどうしようも出来ません。

そして次話は課長の反撃です(大嘘

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