410 ギルドマスターは行間を読みます
PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
評価:
被写体はあくまで置物としての提供であり、このような事態は想定しておりませんでした。
今後とも 【the edge of twilight online】 をよろしくお願いいたします。
恭平さんが応募した、わたしのドナドナ三部作に対する運営の評価なんだけれど、いわゆる行間に何かを感じるのはわたしだけ?
そもそもこんな写真で応募する恭平さんも恭平さんよ。
撮影しないで
どうせ撮影するなら、巨獣大戦でのルゥの勇姿を撮ってくれたらよかったのに……あれ、誰も撮影していないみたい。
今回のお正月イベント 【お正月を写そう♪】 の撮影期間は昨日で終わり。
公平を期すため、応募作品は投票開始と同時に一斉公開されたんだけれど、誰も応募してなかったのよね。
だから撮ってすらいないんだと思う。
残念
『ハーピーが登場すると、みんなパニックになるから仕方ないわよ』
探しても探しても見つからなぁ~いと嘆くわたしに、サバサバ姉御肌のベリンダがことさら明るく慰めてくれる。
でもでもでも、これだけの応募枚数があるんだから一枚くらいあっても……とあきらめ悪く駄々をこねるわたしに、仕事の都合で参加出来なかったクロエの切っ先鋭い毒矢が放たれる。
『しつこいんだけど?
撮り忘れた自分が悪いんでしょ。
さっさと諦めなよ』
うん、それはわかってるんだけど、でもぉ……とやっぱり食い下がっちゃう。
だって諦めるには後悔が大きすぎるんだもの。
あ~あ~残念。
いつも撮り忘れちゃうのよね、ルゥの可愛いところ。
この日は予告どおり朝から兄たちと……というか、出掛ける支度をしているわたしたち兄妹を見た両親までが一緒に行くと言い出し、結局家族五人でのお出掛けになりました。
両親も春物のスーツを見に行きたいってことだったんだけれど、なぜかわたしのスーツまで購入。
うちの会社って、営業職はともかく、事務などの内勤はいわゆるオフィスカジュアルがOKの職場だからあまり着ることがないんだけど。
でも紺色で、袖口や衿がちょっと可愛いのを見つけちゃって、せっかくだから買ってもらっちゃった。
営業関係の社内打ち合わせだと助手として出席することもあるから、その時にでも着ようかな。
明日の初出勤に着てもいいかも。
ふっふ~♪
こういうことって、考えるだけでも楽しくなってきちゃうわよね。
明日の初出勤は憂鬱だけど。
しかも別の憂鬱が夜にやってきた。
「どんなお人好し?」
わたしやクロウより、一日早く年始年末のお休みに入っていたカニやんは、一日早く初出勤。
つまり今日からお仕事だったからログインしてきたのは夜、いつもの時間。
そこまではよかったんだけれど、ログインの挨拶もそこそこに、わたしに向けた言葉がこれよ、これ。
実はハーピー戦の直前にあったことがバレたというか、なんというか。
今日公開されたイベント応募作品の中にあの瞬間のSSがあったらしいんだけれど……というのも、あまりの数の多さにわたしには見つけられなかったのに、それを見つけるなんて、カニやんの目はどうなってるの?
「俺の目はどうもしない。
どうかしてるのはグレイさんの頭」
失礼ね!
この時点ではカニやんがなにを言っているのかわからなかったんだけど、簡単な説明と、見つけたSSの登録番号を教えてもらい、開いた自分のウィンドウで件のSSを見つけてようやく理解する。
理解はしたんだけれど、怒りのようなものまでが再燃してくるのを感じる。
だって! どうしてこれを撮って、ルゥの勇姿を撮らないのよ!
『またそこ?』
クロエには心底面倒臭そうな声を出されるんだけれど、負けません。
ええ、そこよ。
力強く主張するわ、そこ!
『だったらまたハーピー出せばよかったじゃん。
ノーキーさんとか、【特許庁】 にも出してくれっていわれてたんでしょ』
ノーキーさんの代筆を名乗る不破さんから届いたメッセージでは、ハーピーを出すなら呼んでね……と書いてあったんだけれど、そもそもそのことをクロエが誰から聞いたのか。
酷い曲解だけれど、まぁ 【特許庁】 の日頃の行いよね。
まるでパニックを起こして欲しがっているようにも聞こえるけれど、実際、起きることを望んでいるのだから仕方がない……と考えると、クロエの解釈も間違っていないことになるからあら不思議。
誤解のある言い方だけど、誤解されるのは 【特許庁】 だから言わせておきます。
でもまたハーピーを呼び出すことは出来ません。
だってそんなことをしたら、またルゥが痛い思いをしなきゃならなくなるじゃない。
絶対にしないわよ、そんなこと。
嫌っ!!
「だから、そうなったそもそもの原因はあんたでしょうが!」
そう言って、件のSSを大きく映し出すわたしのウィンドウを指し示すカニやん。
投稿したプレイヤーの名前に覚えはないんだけれど、そのプレイヤーが付けた題名が
挺身
「あの状況で他のプレイヤー助けるとか、アホですか?」
アホって……関西の人は馬鹿よりアホなのよね。
うん、まぁそこはいいんだけど……いや、ちょっと引っかかりを覚えるんだけれど、でもそこは本題じゃない。
本題じゃないんだけれど、ちょっとだけ引っかかりを覚えるのよね。
本当にちょっとだけよ。
でもそんな小さな引っかかりにわたしがこだわっているあいだにも、気にしないカニやんの話は続く。
「それも魔法使いが剣士助けるとか、マジアホかっ!」
またアホって言う。
そりゃ剣士のVITは魔法使いより高いけれど、それだってレベルによるじゃない。
装備を使い分けたりしてお洒落を楽しんでいても、実はそんなにレベルは高くないかもしれないもの。
「そんな低レベルが樹海に入るか!」
あー……そうね、それは確かに言えるかもしれない。
でもでもでも! とっさに体が動いちゃったんだもん、仕方がないじゃない。
反射神経はないくせにね。
でも 「危ない!」 と思った瞬間には体が動いていたんだもの。
仕方がないでしょ。
それこそ、そこで自分を制止するほどの強い意志と冷静さが、わたしにはありません。
「そっちか」
ええ、そっちです。
だからあれは仕方がありません。
でもあとでもう一度応募作品を見直したら、ハーピー戦のSSが結構あった。
あの混乱状態の中でよく撮影出来たもの……と最初はビックリしていたんだけれど、よくよく見たら、死亡状態にあってすることのないプレイヤーが撮影していたものがほとんど。
しかも死亡状態にあるプレイヤー同士の晒し合戦になっていて、肝心のハーピーがピンぼけ。
中にはまったく写っていない作品も多数あった。
もちろん自由部門だし、ハーピーはお正月らしさの演出に運営が提供しているだけだから写っていなくてもいいんだけれど、さすがに運営も、これには総評の中で苦言を呈していた。
趣旨が違う……ってね。
まぁお遊び要素満載のイベントでもあるから、ある程度こういう作品もあるだろうことは運営も予想していたらしい。
でもその予想を遙かに上回る応募数で、さすがにちょっと一言言いたくなったらしい。
このゲームは運営も運営だけれど、最近はプレイヤーもちょっとね。
うん、【素敵なお茶会】 もあまり人のことは言えないけどね。
前回のイベントではNPCを脱衣させて、緊急メンテが入る事態になったし。
人のことは言えません
とりあえずカニやんには、あの騒ぎのあと、件の女性プレイヤーと再会したことまではバレておらずこのままバックレることに。
丁度いいから 【富士・火口】 に行ってこようかな。
昨日はハーピーの出現を警戒して行かなかったし。
「はいはい、行ってらっしゃい」
【スザクの羽根】 が出るといいなぁ~なんて楽しそうな振りをしているのですが、実は心臓がバクバクしております。
カニやんが 【富士・火口】 に来ないのはいつものこと。
理由はよくわからないんだけれど、【スザク】 があまり好きではないというか、むしろ嫌いかもしれない。
だから来ないことをわかっていて、わざと 【富士・火口】 へ逃げることにしたんだけれど……その、クロウは来るわよね?
「ああ」
いつものいい声で、なんでもないことのように答えてくれる。
うん、ここまでは順調ね。
でも他に一緒に行きたいと言われると困るので……えっと、その、ちょっと目的というか、計画というか、ま、あれね、うん、ちょっとあって。
だから他の人には来て欲しくなくて、ドキドキしなら耳を澄ましてインカムの向こう側を伺う。
『トール君、行きたいんじゃなかったっけ?』
アキヒトさんの 『ト』 という声が聞こえた瞬間、飛び上がりそうなほどビックリする。
もちろん飛び上がるのは堪えたけれど、でもちょっとびくっとしてしまったかも。
カニやんの視線が気になるところだけれど、それ以上にアキヒトさんよ。
お願いだから余計なことを言わないで欲しい……というか、今だけは黙っていて欲しかった。
もちろん覚えてるわよ、トール君が少し前に 【富士・火口】 の話をしていたことは。
でも今回はクロウと二人で行きたかったのよ。
だってあそこは二人きりで話すのに持って来いの場所なんだもの。
インカム切っても不自然じゃないし、すでにいつも切ってるから今さらだし、でも一日一回しか入れないし。
だから今回を逃すとまた明日ってことになる。
いや、えっと、別にまた明日でもいいんだけどね。
うん、いいのよ、別に。
ただもう一度心構えを最初からやり直さなきゃいけなくて、わたしのメンタルが……。
しかも明日からお仕事だし、体力的にもちょっと。
そもそもあのタイミングでカニやんがログインしてくるのが悪いのよ。
わたしの計画ではサクッとクロウを 【富士・火口】 に連れていくはずだったのに、カニやんに捕まってしまったせいでこんなにダラダラとギルドルームに長居する羽目になった。
大失敗!!
……と思ったのはわたしの早計だった。
『あの……えっと、今日はいいです。
せっかく誘ってもらったんですが、アキヒトさんのいうとおり、まずはシャチ金かなって』
『トール君、スザク落としたいんだ。
ふーん』
またクロエが出て来た。
語尾に付いた 『ふーん』 に不穏な気配を感じるから、とりあえずわたしはギルドルームを出ます。
だってトール君は 【富士・火口】 には行かないって言ってるし、このまま待ち続けたら他の人が代わりに行くって言い出しかねないもの。
善は急げ
『スザクは無理らしいんで、焔蛇を。
でもよく考えてみたら、俺のレベルで 【富士・火口】 に入るのは無謀かなと思って』
『そうだね。
ただ連れて行ってもらうだけなら問題ないけど、その火力じゃ焔蛇は落とせないと思うよ』
『俺もそう思います。
レベルも低いし』
まぁね、ただスザクを見たいというだけなら一緒に行ってもいいんだけれど……あ、でも今回はダメよ、今回は。
別の機会にね。
でも焔蛇を落とすとなると、ちょっとレベル的にも問題があるかな。
今のトール君のSTRで、一撃で焔蛇にどれだけの与ダメを上げられるかを考えると、焔蛇のVITの高さも相まってかなり無理があると思う。
もともとは一つながりのエリアダンジョンだった 【富士・樹海】 と 【富士・火口】 だけれど、ギルド 【シシリーの花園】 のせいで分離され 【富士・火口】 は独立したIDに仕様変更。
その後、 【富士・樹海】 は制限時間を解除されたけれど、【富士・火口】 の攻略は1時間の制限が付いたまま。
スザクと焔蛇、【幻獣】 二体を倒すのに1時間は決して長くはなく、未だクリア出来るプレイヤーは少ない。
焔蛇一体に目的を絞っても、せめてレベルは30以上ないと厳しいと思う。
不穏な空気というか、気配を孕みながらも続けられるクロエとトール君の会話を聞きながら 【関東エリア】 にある 【富士・火口】 を目指していたら、すぐ後ろを歩いているクロウに問われる。
「そんなに急いでどうした?」
どうもしません!!
ひとまずお正月イベントは落着。
結果の発表は少し先に回しまして、グレイの計画が実行・・・されるのかっ?




