41 ギルドマスターは藻と戯れます
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!
本日も末尾に資料整理の 「おまけ」 を付けてみました。
そちらもお楽しみ下さい。
alert 第六天魔王ノブナガ / 種族・幻獣
「ギルマスがアホなこと言ってるから来たじゃねーか!」
「スカートなんてまくるから、スケベ親父が来たぞ!」
クロウの思わぬ言葉に最後まで固まっていた脳筋コンビだったのに、アラートが出たとたん元気になっちゃって失礼なこと言わないでくれる?
そもそもあんたたち、ノブナガに会いに琵琶湖に来たんじゃなかったの?
それもわたしたちより先に来てたわよね?
すでに抜刀とかしてるくせに、いいがかりにもほどがあるんだけど!
「起動……焔獄」
二人のお仕置きは後回し。
ノブナガ自身は出現時から抜刀してるんだけど、プレイヤーはまだ誰も仕掛けていないのにすでに刀を振り上げてる。
出現から数秒で攻撃態勢に入ってるとか、初めて見るパターン。
その足下にいたの~りんとココちゃんが後退する必要があったから、とりあえず一発かましてわたしが標的になる。
「おお、やる気満々」
「さすがギルマス、はえー」
ハッスルしてるのは口だけ?
ねぇ、そこの脳筋親父ども、あれ、さっさと畳んじゃってくれない?
カニやんを倣って、二人の後退を助けてるトール君のほうがよっぽど役に立ってるんだけど。
「働けよ、そこのオッサンども」
「うるさいぞ、カニ」
「ヘボ火力」
「はいはい、俺はいいけど、女王を怒らせても知らないぞ」
「首が飛ぶ!」
「やべ、忘れてた」
本当に好い根性してるじゃない。
あとでこの二人はお仕置き代わりに実験台にしてやるとして、まずはノブナガ攻略が先決。
頑張って挑む剣士四人の中、トール君は大斧を持って奮闘中。
そういえば大斧装備を考えているっていっていたから、とりあえず店売り装備でお試し中ってことかしら?
ゲーム内通貨で購入できるし、さほど高くもないから耐久が削れたらそのまま放棄ね。
あ、もちろん不法投棄になるからNPC武器屋に下取りに出してね。
安く買い叩かれるけれど、耐久が削れていても買い取ってくれるから。
リサイクルよ
「……先制してきたな、ノブナガ」
前衛を援護しながらも、攻撃目標になっているわたしとは距離を置いて呟くカニやん。
近づかれても、この状況だと邪魔になるんだけどね。
「やっぱり修正入ってるってこと?」
「そうなるんじゃない?」
「告知無しに?」
「忙しいんじゃね?
第二回イベントの準備とか」
第一回イベントが終わったあと、運営による大々的なアンケートがあったんだけど、先日公式サイトであった結果発表にはちょっと気になるところがあるのよね。
まぁ今はそれはいいんだけど、修正の告知を端折るのはやめて欲しい。
ちゃんとお仕事してよね
とりあえず運営への注文はあとでするとして、今はノブナガ攻略が先決。
とにかく高火力、高HPが売りのノブナガだからこのメンバーならさほど難しくはない。
まだHPの低いトール君に気をつける必要はあるんだけど、それは回復魔法使いのココちゃんがいるから大丈夫……といいたいところなんだけど、ココちゃんとの~りんがちょっとね。
カニやんの誘導で早々に後ろに下がった二人なんだけど……そこで二人の世界を作るのはやめて欲しいんだけど……。
仲良くするのは全然いいんだけど、到底ノブナガの刃が当たらないような位置にいるのに……衝撃波は来るけど……ずっとの~りんがココちゃんに張り付いていて、ココちゃんもの~りんの後ろで大人しくしてるって……なにしてるの、あれ?
もちろんカニやんも気づいていて、詠唱の合間に苦笑いしてた。
「あれは当分放っておけば?
たぶん、今はなにを言っても無駄だと思う」
ここはカニやんのアドバイスに、大人しく従っておくことにする。
でもこれって、二人が琵琶湖湖畔でデートするのに、ノブナガが出たら怖いから柴さんとムーさんを連れてきたみたいでちょっとモヤモヤするんだけど……とりあえずノブナガを落としましょう!
気を取り直して詠唱しようと思ったら、目の前でムーさんが腕を落とされた。
ムーさんは柴さんと同じく片手剣を愛用。
落とされたのは利き手とは反対の左だったからよかったんだけど、片腕になりつつも斬り返そうとした剣がノブナガの刀に引っ掛かった……んだと思う。
あまりの速さで確かには見えなかったんだけど、たぶんそんな感じになったんだと思う。
剣戟が響いたと思ったら、結構ないい体格をしたムーさんが軽々と宙を舞った。
「飛んだ」
「飛んだわね」
部位欠損で起こるHPドレイン現象。
キラキラとしたHPの粒子が弧を描いて湖の中程にドボンと。
そのままブクブクと沈んで………………上がってこない。
ということは、あれよね?
「ムーさん、生きてる?」
『生きてるけど、やばい!
なんじゃ、これっ?』
インカムから凄く焦ったムーさんの声が聞こえてくる。
何かと聞かれてもわたしも答えられないんだけれど、何かはわかる。
あれよね?
こそあど言葉が多すぎてあれなんだけど、でも暗くてよく見えなかったし、何かははっきりとわからない。
でもこれで湖にも敵がいるってことは間違いないわね。
「俺もそっち行くわ。
ちょっと待っとれ」
付き合いのいい柴さんがノブナガ攻略もそこそこに湖に入ろうとしたんだけど、波打ち際に踏み入っただけで……なに、あれ?
なにかが水の中からうぞうぞと出てきて、柴さんの足に絡みついたと思ったら、柴さんが斬り払う間もなく水の中へと引きずり込む。
「……あれ、藻?」
「暗くてよくわからん。
クロウさん、わかる?」
「あとにしろ」
剣士二人が抜けて忙しいのよね、クロウは。
ごめん、とりあえず援護を続けてノブナガを落とそう。
『なんじゃ、こりゃー』
『やば、もう無理!』
インカムから二人の声が聞こえてくるんだけど、さっきの柴さんを見る限り、水際に近づくのも危険な感じ。
クロウはわかってるだろうけれど、夢中になっているトール君には注意をしておく。
もうノブナガは落ちるけれど、たぶん必死になってるトール君は気づいていないと思うから。
「……あの、柴さんとミンムーさんは……?」
うん、やっぱりね。
必死になりすぎて、二人のあの叫びが聞こえなかったなんてさすがトール君。
途中、前衛が減ってちょっと頓挫しそうだったノブナガ攻略も、制限時間ギリギリに撃破。
ホッと息を吐いたトール君は、ようやくのことで二人がいないことに気づいた。
で、わたしたちに訊いてきたってわけ。
「大丈夫よ、敵前逃亡じゃないから」
『人聞きの悪いこといってんじゃねー、ギルマス!』
返事があったってことは、まだ柴さんは元気ね。
昨日体験したあのHPの減り方だと、早々簡単には落ちないか。
しかも剣士だから元々HPは高いし、わたしより硬いはず。
でも部位欠損でHPドレインを起こしていたムーさんはどうだろう?
「ムーさんはどう?」
『ダメ、死亡状態』
横でカニやんに状況を訊いたトール君は、ウィンドウを開いて手持ちのアイテムを確認したみたい。
「あの、俺、復活の灰持ってます。
救助に……」
「今はダメよ」
ここはぴしゃりと止める。
だって、さっきの柴さんを見たら、ねぇ、迂闊に水には近づけないじゃない。
まさかあんなパターンもあるとは思ってなかったから、さっきは思いっきり驚いちゃったけど。
「琵琶湖の藻があそこまでアグレッシブだとは思わなかったわ、俺も」
「グイグイ来たわね。
むっちゃ肉食男子って感じ」
『どーでもいいから助けてくれやー!』
痺れを切らした柴さんに割り込まれる。
気持ちはわかるんだけど、自力じゃどうにもならないの?
柴さん、そこそこスキル持ってて硬いでしょ?
わたしは怖いから近づきたくないの。
カニやんのせいだからね!
昨日の話を思い出しちゃったら……二度と入りたくない、琵琶湖には。
恨みを込めてカニやんを見たら、カニやんもこちらを見てにひって笑うの。
わかってるじゃない、わたしが湖に近づきたくないって。
「……わかりました、俺がやります」
物理攻撃が効かないなら……っていうか、たぶん藻を斬っても無駄なんだと思う。
湖の底に本体があるっていうことなのかな?
藻はただの手足で、いくら斬っても次々生えてくる。
本体に攻撃を仕掛けないとHPを削れないけど、それほど高HPではないと思う。
威力が弱まっていた業火、焔獄のコンボにスパイラルウィンドで溶けたくらいだから、間違いないと思うのよね。
「たださ、電撃系反射だろ?
水系、氷結系、無効じゃね?」
やっぱりカニやんも同じことを考えるわね。
同じ魔法使いだから当たり前といえば当たり前なんだけど、問題はカニやんが火焔系ではなく、水系、氷結系が得意だってこと。
まぁ無効なら別に問題ないってことで試したんだけど……
「起動………………ウォータースライサー」
詠唱に時間が掛かる、つまり魔法陣の展開に結構時間が掛かるのね。
このウォータースライサーがそういうスキルなのか、カニやんのステータスの影響なのか、それは自分でも同じスキルを使ってみないとわからないんだけれど、結果は予想通り。
スキルは確かに発動したけれど、全く何も変化無し。
「見事な空振り」
「やっぱりお水はダメね。
氷結系も試してみる?」
「いや、いい。
たぶん無駄だし」
カニやんはインベントリからポーションを取り出してMPを回復する。
湖に対して効果こそなかったけれど、スキル自体は発動しているからきっちりMPが減るのよね。
もちろんウォータースライサー一撃でMPが枯渇したんじゃなくて、ノブナガ戦があったから。
二本ほどポーションを使ってMPを回復したカニやんは、同じ範囲魔法のモルゲンステインを発動。
風も有効だったけど、地も有効みたい。
落下する巨石の数々に湖面が激しく揺れ、波打ち際が乱れる。
じゃ、わたしも撃っとこう。
「起動……モルゲンステイン」
「やっぱ詠唱速度が違うってか、なんでモルゲンステインでその速さ?」
企業秘密です。
スキルの効果時間が終わっても湖面は激しく揺れたまま、波も荒々しい。
「聞こえる? 柴さん、ムーさん」
『……遅かった……』
さっきまで元気だったはずの柴さんまで意気消沈?
ああ、これはあれね。
つまり柴さんも落ちたと。
でも、そんなに激しい攻撃はなかったと思うんだけど?
しかも柴さんなんてかなりの高HPじゃない。
『これさ、底まで引っ張られるとダメ。
ビリビリッときて、一瞬で溶けたわ、俺』
なるほど、藻の持ち技が雷撃系だから、プレイヤー側の雷撃系スキルを反射するのね。
あの時、藻に絡まれて引っ張られてすぐに攻撃をしたのは正解だったわ。
ノブナガに気を遣って攻撃を遅らせていたらと思うと、今更ながらやっぱりぞっとする。
ああ、そうそう、便宜上 「藻」 っていってるけど、これ、アラートが出ないから正体がわからないの。
しかも常時いるものなのか、ノブナガの出現と関係があるのか?
まだまだわからないことばかりなんだけど、カニやんってば……
「藻に囚われた亡者の怨念とか?」
だからやめて!
そういう話、ダメなんだってば!!
クロウはともかく、仕方なくわたしにしがみつかれてたんだけど、話を知ってるトール君は憐れむようにわたしを見るし……じゃトール君に頼みましょう。
ってことで、わたしはインベントリから取り出した 【復活の灰】 を二つ、トール君に握らせる。
「じゃ、これ、二人に届けてきてくれる?」
「わかりました。
行ってきます。
あ、でも俺も持って……」
「いいのよ、あとで二人に請求するから。
トール君じゃ取り立てられないでしょ?」
ふふふ……って笑ったら、トール君ってばちょっと顔を引き攣らせちゃった。
インカムからも、死亡状態の二人が文句を言っているのが聞こえたけれど無視。
トール君に見つけてもらえるまで大人しくしてなさい。
「行ってきます」
「何かあればすぐに戻ってくるのよ」
「グレイさん、過保護」
大斧を背に担いだトール君は、元気よく湖に入っていく。
それを見送ったらカニやんには笑われたけれど、そうじゃないから。
だってトール君まで藻に捕まったら誰が救助に行くのよっ?
さっきも言ったけれど、この藻はいつから出現するのかがわからない。
常に出現しているのか、あるいはノブナガの出現と関係があるのか。
わからないってことは、救助に行って捕まっちゃうってこともあるわけでしょ?
だから用心するに越したことはない。
先に言っておくけど、絶対にわたしは嫌だからね!!
絶対行かないから!
人物紹介:トール / 男性型・剣士 /
ギルド 【素敵なお茶会】 のメンバー。
真面目で素直な性格のためカモられやすく、グレイの不安要素の一つ。
LV20を前に職を剣士に決定。
現在はLVを上げつつ、装備や戦闘スタイルを模索中。