409 ギルドマスターはコマを回します
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かの有名な歌 【ドナドナ】 は、人間が仔牛を売りに連れて行ってしまう歌であって、牛が人間をどこぞに連れて行く歌ではない。
そんなことはわざわざカニやんに言われなくてもわかってます。
わたしだって好きでドナドナされてるわけじゃないんだから。
むしろされたくないし、牛には近づきたくもない。
だから巨大牛の群れを発見したJBからお誘いがあった時、「no thank you」 といったのに無理矢理連れてきたのはクロウじゃない。
「悪かった。
暴れるな」
全然反省を感じません。
いつものいい声だけれど、反省は感じないんですけどっ?
ちなみにわたしがクロウの腕の中で暴れているのは……いえ、暴れているわけじゃないの。
だってクロウ、触られるの好きじゃないんでしょ?
このあいだ、あの女の人たちにそう言っていたじゃない。
だから離れようというか、下りようと思って押し返してるんだけれど、相変わらずビクともしない鉄筋STR。
それが暴れているように見えるというか、クロウがそう思っているだけで……と思ったら、柴さんとムーさんに言われる。
「下でワンコが待ち構えてやがる」
「でっかい口開けて、足からバックリひと呑みにしようと企んでやがるぞ」
なんて言ってにひひひ……と悪い顔で笑うの。
ルゥがそんなことするわけないでしょ、失礼ね。
でも見当たらないルゥを探してみたら、本当にわたしのお尻の下あたりで可愛らしくおすわりしてスタンバイ。
なにもしませんよぉ~というパフォーマンスなのか、後ろ足で耳の後ろをカリカリしてるけど。
でも食べないわよ
ルゥは肉食じゃないし。
二人とも、ルゥのことをどんな害獣だと思ってるのよ。
本当に人聞きが悪いんだから。
でもこの状態から下ろしてもらったら、間違いなく蹴躓くっていう罠よね。
なんのためにルゥがこんな罠を張るのかわからないんだけれど、昨日もギルドルームのドア前でおすわりをしてトール君を引っ掛けていたから、たぶんわたしだけが標的というわけではない……と思いたい。
主にわたしが引っ掛かっているのは飼い主だから……と思いたい。
下にルゥがスタンバっていることを知ってわたしが抵抗をやめると、ようやくのことでクロウはルゥを避けるようにゆっくりと下ろしてくれる。
ホッと一息を吐きつつ、目論見を外して 「あれ?」 という顔をしているルゥをもっふりと抱き上げる。
「ルゥ、そのお顔はなに?
なにか悪いことを企んでいたでしょ?」
鼻の頭を付き合わせて問い掛けるわたしに、ルゥはまるで聞こえない振り。
可愛らしく 「きゅー」 と鳴いたかと思ったら、そのまま頭突きをするような勢いでわたしの鼻を押し潰してくる。
いたたたた……
「結局どう回避してもはめられるんだな、グレイさんは」
ちょっとカニやん、その余裕というか、上から目線はなに?
自分は絶対タマちゃんの策にははまりません……みたいな顔しちゃって。
でもさりげなくルゥの尻尾に触ろうとして、ヒュッと伸びてきたタマちゃんの尻尾にその手を叩かれてたけどね。
直後に 「にゃ~ん」 と鳴き声を上げるタマちゃんは、たぶん 「わたしを愛でなさい」 と言っていたのだと思う。
カニやんも同じように感じたらしく、慌ててその柔らかそうな背をゆったりと何度も撫でる。
「ごめんって。
怒るなよ」
うん、やっぱりタマちゃんとカニやんって恋人同士みたい。
見ていると羨ましくなってくるというか、直視が恥ずかしいというか……ひょっとしたらわたし、タマちゃんに習えばいい?
「どこまで血迷ってるんだよ?
人間の尊厳はどこに捨てた?」
捨ててません
失礼なんだから。
でもタマちゃんとカニやんを見ていたら、なんだかいい感じだなぁ~と思っちゃうのよね。
「そりゃどうも。
顔、赤くなってる」
その指摘はいりません。
わざわざ言われなくても自分でわかっています。
だからルゥに潰された鼻が痛む振りをして顔を隠しておく。
とにかく、これ以上のドナドナはごめんです。
【富士・火口】 を噴火させてハーピーを呼び出してしまうのも不本意だし、【中部・東海エリア】 に戻ってナゴヤジョーにでも潜ろうかな?
そんなことを考えつつみんなと歩いていたら、不意に膝をカクッと折られて体が後ろに傾ぐ。
え? なにっ?!
しかもそのまま足下を掬われて後ろに倒れる! ……と思ったら、いや、倒れたんだけどね、うん、倒れた。
でも固い地面に頭や背中をぶつけることはなく、別の何かの上に転がったらしい。
しかもその別の何かはかなりごつごつしていて、波打つように動いている。
極めつけは耳元で聞こえるこの声。
モォー
また牛っ?!
え? でもこれってどうなってるの?
巨大牛の群れが消えた場所から、だいぶん 【中部・東海エリア】 に近いところまで移動してきていたわたしたちのすぐそばに、突如として、今度はミニ牛の群れが現われたらしい。
ミニといっても仔牛ではなくて、大人の牛を小さくしただけのもので、それが十数頭から二十頭くらいで群れをなしている。
どうやらわたしたちはその出現に巻き込まれたらしく、一緒にいたメンバーたちも大騒ぎ。
牛のサイズが丁度よく、膝裏に体当たりを食らわされたのはわたしだけじゃなかった。
でもだいたいのメンバーは、STRやバランス感覚で持ちこたえたりして群れの中から早々に退避。
わたしみたいに完全に転倒し、牛の上にのっけられてしまったのはトール君だけ。
でもトール君には人並みの運動神経があって、剣士のSTRがある。
すかさず牛たちの頭や背の上を転がって逃れた。
「グレイさんも!」
勢い余ってそのまま地面を転がったトール君は、まるでアクション俳優のように格好良く立ち上がってすぐ、わたしにも同じようにすればいいと声を掛けてくれるんだけれど、出来ません。
んーっと、これはどういう状態?
感触から推測してですね、牛と牛の頭のあいだに丁度体がはまっているというか、フィットしているというか。
つまり抜けられません。
頑張って体をねじろうとはするんだけれど、ねじれないのよ。
しかもこれ、そこら中でモゾモゾ動く感じが気持ち悪い!
「相変わらず器用だな」
「ギルマスって細すぎるんすよ。
ちょっと太った方がいいっすよ」
呆れる恭平さんの横でJBがとんでもないことを言っています。
その図太い神経にも呆れる恭平さんは、信じられないものでも見るように横目でJBを見、その反対隣でハルさんが苦笑中。
だって普通、言わないよね、女の人に太れだなんて。
「普通はな。
でもあんたの細さは異常だから、JBが言いたくなるのもわかる」
……意味がわかりません。
意味はわからないんだけれど、三度目のドナドナが決定しました。
しかも今回はただのドナドナではなくてガリバーよ、ガリバー状態。
小さい牛に巨人となって運ばれていく感じよ、これは。
ガリバー旅行記
わたしは読んだことないけど、ジョナサン・スウィフトによって書かれた名作で、正しくは 【船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記四篇】 という題名らしい。
ながっ!!
多くの人はわたしのように 【ガリバー旅行記】 で記憶してると思うし、そうでなかったら題名が長すぎて記憶に残らず、名作としてこんな後世まで残らなかったかも……と思ったけれど、そうでもないか。
だって今時のなろう系小説は、もっと長い題名がデフォ。
むしろこの 【ガリバー旅行記】 の正しい題名は、その長さも含めてなろう系小説の先駆者といえるかもしれない。
もっとも今のわたしは、その主人公ガリバー状態なんだけど。
これも正しくはレミュエル・ガリヴァーね。
どうでもいいけど
クロウたちがなんとか助けてくれようとはするんだけれど、ミニ牛たちは動いてるからね。
なかなか群れの中に足場を見つけられなくて、手が届かない。
あの長い手足でどうにも出来ないんだもの。
ここは諦めて牛たちに身を任せるしかない……と諦め、為す術もなく空を見上げていたわたしの視界に影が出来る。
なにかと思ったらルゥのお腹じゃない。
ん? ルゥ?
どうやらわたしは、またしてもルゥを落っことしてしまったらしい。
そしてそのままドナドナされて、残されたルゥが慌てて追いかけてきたのはいいんだけれど、置物が相手じゃ 【幻獣】 のSTRも歯が立たず。
そこでうしろから追いかけてきた勢いを使って大ジャンプ。
今ここ
もちろん着地点はわたしのところなんだけれど、お腹に着地するのはやめて欲しかった。
為す術もなく空を見上げていたら不意にルゥのお腹が見えて、あらもっふり……なんて呑気に思っていたらルゥのお腹がどんどん迫ってきて、最終的には可愛らしいポーズでわたしのお腹に着地を決めてくれた。
もうね、その着地の衝撃で内臓が飛び出るかと思った。
そのぐらいの衝撃で、一瞬意識が飛んだかも。
おかげでルゥの可愛らしいポーズを見損なってしまい、色々と残念なことに。
置いて行かれたと思ったルゥには、お腹の上で 「きゅ~きゅ~」 と泣かれてしまったし……。
散々よ
このあと休息地を見つけたらしいミニ牛たちは、それぞれに思い思いの場所に散っていって群れは一時解散。
そのタイミングでクロウが助けてくれるんだけれど、たぶんこれは背の高い人あるあるだと思う。
低いところが苦手なのよ。
あの長身を屈めてくれるんだけれど、手が届きそこねてわたしは尻餅をついてしまうっていうね。
「悪い」
うん、大丈夫。
背の高い人が、低いところを苦手とするのはなんとなくわかってる。
だって以前、地下闘技場でトール君と対戦した時にそのことを利用して勝ってるからね。
だからクロウは、痛むおし……ゲフゲフ……腰をさするわたしに謝ってくれなくていいのよ。
ただ、すぐに立たせようとするのはやめて。
そんなに高いところから尻餅をついたわけじゃないけれど、それでもやっぱり痛いのよ。
「すまん」
少し休もうと言ってくれたクロウは、周囲でSSを撮りまくるみんなを眺めるように首を巡らせる。
こうしてわたしのドナドナ三部作が完成し、自由部門で、真田さんが応募した 【太陽に挑む男】 と並んで特別賞を受賞する結果に。
もちろんわたしが応募したわけじゃないわよ。
じゃあ誰が応募したかって?
恭平さん
そういえば恭平さんは、一番最初に遭遇した普通サイズの牛の時も一緒にいたのよね。
ハルさんもいたけど。
ほんとこの二人、最近よく一緒にいるわね……という話はさておき、あの状況でもわたしのドナドナ姿を撮っていたなんて……泣きそう。
しかもこれがこの件の最終的な止めではなく、よりによって運営がぶっ刺してきた。
評価:
被写体はあくまで置物としての提供であり、このような事態は想定しておりませんでした。
今後とも 【the edge of twilight online】 をよろしくお願いいたします。
ねぇ、このお茶の濁し方はなに?
絶対に濁してるわよね?
なにが言いたいの、これっ?
はっきり言ってよ!!
サブタイトル→ 凧揚げに続きコマ回し・・・今時の子どもはしないよな・・・(涙
さぁそんなお正月イベントもいよいよ終わり。
仕事始めですよ!




