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404 ギルドマスターは初(悪)夢を忘れます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 もちろんルゥに悪気はない。

 罪もない。

 全然ないというか、皆無よ、皆無。

 ただクロウに飼い主の居所を聞かれて、その程度のことを知らないはずがないといわんばかりに自信満々に案内してきただけ。

 うん、それだけなんだけどね、売られたわたしとしてはちょっと恨めしい。


 でも怒れない!


 可愛すぎるし、そんなキラキラのお目々で見つめられたら絶対に怒れない。

 そもそもルゥを自由にしてしまったというか、落っことしてしまい、あまつさえ落としたことに気づきもしなかったわたしが悪い。

 うん、わかってる。

 頭ではわかってるんだけれど、やるせない思いの遣り場がなくて、冷汗も止まらなくて顔が引き攣る。


「グレイ?」


 ルゥのお尻を追いかけてきたクロウは、物陰で床に座りこむわたしを見て不思議そうな顔をする。

 やばい、顔を上げられない。

 あ、でも顔を隠したらいきなり拳骨が落ちてくるかも。


 どうしたらいい?


「どうした。

 気分が悪いのか?」


 ………………ん? あ、そっち?

 てっきり拳骨が落ちると覚悟したわたしは、まるで予想外の言葉に一瞬呆気にとられ、次の瞬間には慌てて顔を上げる……と、すぐそこに、片膝をついて屈んだクロウの顔があった。


 ………………


 ち……近い! 近い! 近い!

 離れて! ……とクロウを押し返すより、自分から遠ざかったわたしは勢い余って尻餅をついてしまう。

 だってほら、クロウは鉄筋だからね。

 魔法使い(モヤシ)のSTRじゃ絶対に勝てないし。

 それにしても顔が熱い。

 耳も熱い。

 もうね、さっきまでの顔面蒼白はどこに行ったのよ?

 一瞬で行方不明になっちゃって、赤面が鏡を見なくてもわかるくらい顔が熱い。

 蒼くなったり赤くなったりで血流が大忙しよ。

 血管が保つかしら? ……じゃなくて、今は血管や血液の心配ではなくクロウよ、クロウ。


「グレイ?」


 あ、えっと、大丈夫よ、大丈夫。

 その……あ、あの、躓いただけだから。

 そう! ちょっと躓いちゃって、それでうっかりルゥから目を離しちゃったの。


 ごめん


 よっしゃー!

 これで辻褄はバッチリよ。

 自分でもビックリするくらいの言い訳を思いついちゃって、ついでに謝罪も出来た。

 あとはこれでクロウが納得してくれれば拳骨は回避出来る……と考えたところで顔が引き攣る。

 だ、だめよ、藍月(あつき)、最後まで演じきらなきゃ。

 さぁ笑うのよ、藍月。

 ここは笑顔で……よかったのかしら?

 うん? 笑うところじゃなかったような気がしてきたわ。

 でも、じゃあどんな顔をすればいいの? ……ということで演技の大先輩ルゥに伺おうとしたら、大人しく待っていることに飽きたルゥは、わたしの膝に手をついて身を乗り出し、そのまま力強くガシガシとよじ登り始めた。

 あら、可愛い。


 でも痛い!


 お願いだからルゥ、爪の出し加減をもう少し考えて。

 そこまで出しちゃうと痛いから。

 装備(ふく)の上からでも痛いから。


「きゅ!」


 わたしの体をよじ登ってきたルゥは自力で胸まで辿り着き、定位置で可愛く一鳴き。

 頬毛ですりすりしながらご機嫌に尻尾を揺らす。


「……どっちもマイペースだな。

 立てるか?」


 少しだけ高い位置で小さく息を吐いたクロウは先に立ち上がり、手を差し伸べてくる。

 その立ち上がり方の綺麗なこと。

 こう、スマートっていうの?

 スリムというか、格好いいというか。

 片腕にルゥを抱えたわたしは 「大丈夫」 と返しつつ、床に手をついて立ち上がる。

 クロウの立ち上がり方をスリムと表現するならば、わたしの立ち上がり方はよっこいしょ。

 なんとも不格好にもたつくと、クロウの腕が伸びてきて、抱えるように立たせてくれる。

 言っておきますが、わたしからしがみついたわけじゃないからね。

 ルゥを片腕に抱えていてバランスが悪く、仕方なくクロウの背中に腕を回しただけだから。

 そもそもクロウの力が強く、勢いがつきすぎたのが原因なんだからクロウが悪いのよ。

 だからわたしは、ちゃんとすぐに放したし、離れようともしたけれど鉄筋の腕力には敵わなかった。


 ちょっとクロウ?


「行こう」


 え? 行くっ……え? どこに?

 彼女たちはいいの?

 だってまだ話の途中だったんじゃ……


「話すことなどない」


 ん? なにか怒ってない?

 わたしが最後まで言い終えるのを待たずに割り込んできたクロウの声が、ちょっとだけ、本当にちょっとだけなんだけれど、怒っているように聞こえたのはわたしの気のせい?


 一部始終をそばで見ていた女性プレイヤーたちは、終始 「あざとー」 とか 「ウザー」 などと小さな声で連発していたんだけれど、クロウが彼女たちを見ることはなく、なにかを言い返すこともなく。

 もちろんガッツリ抱えられているわたしに拒否権はなく、ルゥ諸共に連れ去られてしまう。


 えーっ?!


 別にわたしが悪いわけじゃない……と思うんだけれど、後味が悪い。

 罪悪感にも似た後味の悪さを覚えるんだけれど、クロウはなにを言っても聞く耳持たず。

 ギルドルームに戻ってきたと思ったのに、そのまま店の外へ出て、ナゴヤドームからも出てしまう。


 どこに行くの?


 改めて訊いてみたら、特に目的はないって……ほんと、どうしちゃったのよ?


「覚えてないのか?」


 話をするのならギルドルームに戻った方がいいんだけれど、まだ彼女たちが下のお店にいるかもしれない。

 そこを通るのはわたしもクロウも億劫で、彼女たちに見つかって色々と言われることを考えるだけでもうんざりしてくる。

 だから中央広場のほぼ中央にある噴水に腰をかけ、近くにあるお茄子の一本で記念撮影をしているプレイヤーたちを見ながら話すんだけど、唐突にそんなことを尋ねられても意味がわからない。

 切り出しからして唐突すぎる。


「あの女のこと」


 あの女……といいますと、状況的に考えるとさっきの二人のことだと思う。

 でも 「あの女」 と表現するクロウの言葉から考えると、対象は一人。

 だって複数形じゃないでしょ、「あの女」 は。


 どっち?


 いや、この場合、どちらであったとしてもやっぱり意味がわかりません。

 申し訳ございませんが、もう少し詳しくご説明いただけますでしょうか?

 こう……色々と後ろめたいことがある身としては迂闊なことを喋るわけにもいかず、言葉を選びながら話すとですます調が自然と出てしまう。

 これって、隠し事をしているのがバレバレよね。


 でもクロウには、二人いた女性プレイヤーのどちらのことを話しているのかわからない、というわたしの返事で十分だったらしい。

 また小さく息を吐かれる。


「昼間に会ってる」


 昼間?


 昼間というと、エリアダンジョン 【富士・樹海】 でのハーピー騒動よね。

 んー……クロウには悪いけれど、あの混乱の最中(さなか)で会った人のことなんて、さすがに覚えていないというか、覚えていられない。

 それがわたしの返事だったんだけれど、クロウの説明によると、彼女はそもそもの騒動の最初。

 わたしがハーピー……あの時点では二体いることを知らなかったから、紅白のどちらかはわからないけれど、その襲撃から逃げ遅れた女性プレイヤーを庇って背中をえぐられたあの時、わたしに庇われたプレイヤーだっていうの。


 よく覚えてるわね


 ちょっとビックリしたわ。

 それこそあの時はそれどころじゃなかったし、わたしは相手の顔なんてろくに見ていない……いや、見たかもしれないけれど全く覚えていない。

 うん、顔は見たような気がする。

 だってほら、彼女、ハーピーの急襲に驚いて腰を抜かしたというか、その場にへたり込んじゃって逃げないから、わたしも焦っていたこともあって結構乱暴に怒鳴りつけちゃったからね。

 あの時に見たんじゃないかな?


 覚えてないけど


 うん、全く覚えてない。

 あ、でも装備が違う気がする。

 さっき見た時は可愛い感じのショーパンスタイルだったけれど、あの時はゴリゴリの剣士(アタッカー)装備だったんじゃない?

 彼女を押し倒して覆い被さった時、剣が腕に当たって痛かったことをなんとなく覚えている。

 全体的にゴツゴツしていたし。

 樹海に入る時は戦闘スタイルで、安全地帯では休暇モードみたいな使い分けかしら?

 まぁそういう使い分けもいいわよね、わたしも以前はそうしていたし。

 彼女が着ていたものとは全然デザインが違うけれど、わたしもショーパン装備持ってるし。


 もう着ないけど


 だってあれ、足丸出しなんだもの。

 我に返ると恥ずかしくて、もう絶対に着られません。

 インベントリの奥深くにしまい込み、迷宮入り……じゃなくてお蔵入りさせました。


「話があるというから、てっきりお前への言伝(ことづて)でも頼まれるかと思ったんだが……」


 ………………ああ、そういうこと。

 で、その語尾の気まずさというか不機嫌は、クロウの予測に反するどころか、真逆にわたしの悪口を聞かされるという結果への感想みたいなもの?

 だったら気にしなくてもいいのに。

 よく知らない人のことを悪く言うのはよくないってわかっているけれど、盗み聞きした感じだと、彼女はそういう人ではないと思う。

 恩知らずっていうのとはちょっと違う……なんていうのかしら?

 わたしが彼女のことを覚えていなかったように、彼女もわたしのこと……というか、自分を庇ってくれたプレイヤーのことなんて覚えていないんじゃないかしら。

 それこそ死亡状態(デス)を回避出来てラッキー! ぐらいの感覚じゃない?


「……そんな感じだな」


 わたしの話をきいて大きな溜息を吐いたクロウは、その息の末尾に言葉をつなげる。

 わたしも忘れっぽいから人のことは言えないけれど、でも彼女はきっと、あんな混乱状態ではない状況でも、他人に関心を寄せることはないんじゃないかな?

 いや、うん、よく知らない人のことを悪くいうのはいけないんだけどさ、でもそう考えたら恩知らずとも思わないもの。

 彼女はそういう人だから……この言葉でサックリ切り落とせるし。

 こういう言い方も悪いけれど、そういう人のことを考えてモヤモヤするのも面倒臭いというか、無駄というか。


 痛かったけどね


 物凄く痛かったけどね。

 だから忘れる意味でも、彼女のことを 「そういう人」 と表現することを許して欲しい。


「許すもなにも、グレイはなにも悪くないだろう」


 いや、まぁ悪いというか、悪いことはしました。

 はい、盗み聞きをね、ちょっとだけしました。

 クロウは 「悪口」 と表現して具体的な内容を話すことは避けたけれど、ごめんなさい、ガッツリ最初から聞いていました。

 この耳でしっかとね。


 内緒です


 しかもそんなことは口が裂けても言えないと気まずさを抱えていたんだけれど、それこそどこにいるかまではわからなかったけれど、わたしが近くにいることは知っていたというクロウ。

 なに、その抜け目のなさはっ?

 以前からストーカーだけど、わたしの行動は丸わかりっぽいそれはなに?

 ちなみにわたしの再ログインに合わせるようにクロウがギルドルームに戻ろうとしていたのは、わたしが晩ご飯前にメッセージを入れておいたから。

 もちろんクロウだけでなくメンバー全員にね。

 ちょっとだけログアウトするつもりだったのにガッツリお昼寝しちゃって、そのまま晩ご飯を食べることになって予定が変わったから。

 だからだいたいの時間を知っていたのはわかるんだけれど、まさかあの場にいることまではわかるはずがないじゃない。


 このストーカー!!


 ……と思ったら、お店の中をルゥがフンフンフンフンフン……と散歩しているのを見つけたからって……


 ちょっとルゥっ?

今話はルゥに始まりルゥに終わるお話。

次話からはお正月イベントの再開と、グレイの 【脱・喪女】 計画準備の下準備(?)が・・・始まると思いたい(大汗

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