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402 ギルドマスターは歌合戦のあとでお蕎麦を食べます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 【(あか)】 を落としたことで、プレイヤーの火力は 【白】 に全集中。

 そりゃ落ちるのも早いわよ。

 ようやくのことでクロウに下ろしてもらったわたしは、蝶々夫人を手伝って死亡状態にあるプレイヤーを回復。

 白衣の天使並みに頑張って回復してまわり、終わったところでギルドルームに戻りちょっとログアウト。

 現実に戻って覚醒したばかりの耳に、男の人の話し声が聞こえてくる。


「これ、緑のランプが消えたら覚醒だっけ?」

「あー……どうだっけ?

 俺、そのタイプで遊んだことないんだよね」


 琉輝(りゅうき)泰輝(たいき)の声?

 ん? どういうこと?

 とりあえず泰輝のご指摘どおりログアウトを終えて覚醒しているわたしは、ゴーグルで視界を塞がれたままの状態で兄たちの会話に耳を傾ける。


「俺も。

 これ、最新のやつだろ?」

「それの一ヶ月あとにもっと軽いやつが別のメーカーから発売されててさ、俺がそっちを買ってやるつもりだったのに」

「琉輝が買ってやったんじゃないんだ」

「親父」


 琉輝が買ったと思っていたらしい泰輝は、琉輝のちょっと不機嫌そうな返事に声を上げて笑いだす。


「父さん、事前に調べたりしないから。

 仕事は無茶苦茶ガッチリ固めるタイプなのにさ。

 どうせあーちゃんがゲームにはまったのを知って、チャンスと思ったんだろうな」

「ゴーグルもセンサーもずっと軽いやつでさ」

「これでも結構軽いけど、まだ軽いなんて凄いな」

「だろ?

 だからそっちを買ってあげようと思ってたのに、あのクソ親父」


 琉輝がなにを怒っているのかわからないんだけれど、ちょっと泰輝、人の腕を勝手にぶらぶら振らないで。

 とりあえず振り切っておきます。


「あ、やっぱり起きてる」

「起きてます」

「うん。

 ゴーグルとギア外すから、ちょっと頭、動かすよ」


 これはどんなプレイ?

 ゴーグルで視界を塞がれたままのわたしは、自分で外すつもりで泰輝……たぶん泰輝であっていると思うんだけれど、とりあえず兄の手を振りほどこうと足掻いてみるんだけれど……勝てない……。


「自分でする!」

「はいはい、あーちゃんは自分で出来るよねぇ~。

 でも残念。

 兄さんがしたいから兄さんがしまぁ~す」


 それ、どんな理屈?

 ただの我が儘よね?

 わたしの悪足掻きなんて意に介さず、勝手に機器を外し始める兄にされるがままのわたしはあの感じを思い出す。

 子どもの頃のお風呂で、お母さんやお父さんに抱えられて頭を洗われた時のあの感じを。

 見えないから実際のところはわからないんだけれど、あの感じでわたしは泰輝にゴーグルを外される。


 うん、やっぱり泰輝で合ってる。

 まずゴーグルを外されたわたしは、開けた視界いっぱいに入る兄の顔を確かめる。

 兄の泰輝と琉輝は一卵性の双子で、他の人には見分けが付かないほどそっくりらしい。

 でも生まれた時から妹をやっているわたしには、どこをどう見ても同じ顔には見えないのよね。

 もちろん兄弟だから似てるけど、間違いなく別人よ。


「もう、なにしてるのよ二人とも。

 勝手にわたしの部屋に入らないでって言ってるでしょ!」


 続いて手足のセンサーを外す泰輝にされるがままのわたしは、二人の兄に口を尖らせるように怒ってみせる……んだけど、少し離れたところで椅子にすわってこちらを見ている琉輝がちょっと怖い。

 もちろん顔がね。

 さっきお父さんが、わたしに新しいVR機材を買ってくれたことを怒っていたけれど、そもそもそれ自体、琉輝が怒る理由がわからない。

 お父さんが自分のお金をどう使おうとお父さんの自由だもの。

 どうして琉輝が怒るのよ?

 わたしを甘やかしすぎだっていうのなら、是非ともそれをお父さんとお母さんに言ってよ。

 末っ子が甘やかされるのはよくあることとはいえ、うちの両親はちょっと甘すぎると思うのよね。


「はいはい、勝手に入ったのはごめんね。

 でもあーちゃんが悪いんだよ」


 外したセンサーを、ゴーグルとまとめて枕元に置く泰輝。

 やっと自由の身になったわたしは、ゆっくりと体を起こしながらまだいがらっぽい喉に手を当て、お水が欲しいと思う。

 そこにタイミングよくベッドに掛けていた泰輝が腰を屈め、足下に置いていたペットボトルを手に取り、キャップを緩めてからわたしに差し出してきた。


「飲める?」


 まるで痒いところに手が届く、そんなタイムリーなタイミングでお水の用意があるなんて。

 そりゃわたしと違って二人は元々気が利くタイプではあるんだけれど、いくらなんでもタイムリーすぎる。

 そんなことを思いつつも、とりあえず喉が痛い。

 これ以上喋るとまた咳が出そうだったから、とりあえず泰輝が差し出してくれるペットボトルを受け取って一口だけ水を飲む。

 それから改めて二人の兄を交互に見る。


「どうしてわたしが悪いのよ」


 身に覚えがないわたしは腑に落ちないんだけれど、泰輝は苦笑いを浮かべ、琉輝は少し怒ったまま。

 それぞれにわたしを見ている。


「ずっと音がしてて気になってたんだけど、ノックしても返事がないし。

 でも勝手に入るなっていつもいわれてるのはちゃんと覚えてたからね。

 だから様子を見てたんだけど、音がしなくなったと思ったらあーちゃんが咳をし出して。

 それで様子を見に来たんだよ」


 泰輝の話によると、一応部屋に入る前にもノックはしてくれたらしい。

 でもわたしはゲームをしていて全然気づかず。

 声を掛けても返事はないし、咳が止む気配がなかったから二人はやむなく部屋に入ってきたという。

 ここまでを話した泰輝は小さく息を吐き、わたしにもう少し飲むよう促してくる。


 どうやらずっと鳴っていた音は加湿器の給水アラームで、静かになったのは水切れで運転が停止したから。

 部屋に入った二人は最初、なにが鳴っていたのかわからなかったらしいんだけれど、とっくに加湿器は止まっていたんだから当然よね。

 琉輝が、給水ついでにフィルターも交換してくれたらしい。


「ごめんなさい」


 琉輝が怒っている理由がわからなくて……あ、ごめんなさい、わかってます。

 はい、加湿器よね。

 うん、加湿器の水切れ。

 つまりわたしのうっかりに怒ってるのよね。

 でもここはわたしの部屋で、勝手に入らないで欲しいとも思ってしまって、それがちょっと声にも出ていたと思う。

 素直に謝れない自分の性格が嫌になる。


「あーちゃんはそれ、飲んでしまいなさい。

 琉輝も、いい加減機嫌直せよ。

 ウザい」

「ウザくて悪かったな」


 言い放った琉輝は椅子から立ち上がり、少し乱暴な足取りで部屋を出て行こうとするんだけれど、ドアの前まで来たところでふと思い出したように足を止め、わたしと泰輝を振り返る。


「あーちゃん、念のため薬飲んでおきなさい」


 今度は素直に 「はい」 と答えると、琉輝は機嫌を直すことなくわたしの部屋を出て行った。

 素直に答えたのに……。

 でも心配性なのは泰輝も同じ。

 そして言うことも同じなのはさすが双子というべきかしら。


「今、母さんたちDVD観てるから、終わったらみんなでお茶にしよう。

 呼びに来るから、それまで薬を飲んで休んでなさい」


 そう言って泰輝も部屋を出て行ったんだけれど、結局わたしはお茶に呼ばれなかった。

 泰輝がくれたお水で薬を飲み、そのままベッドに寝転がっていたら、どうやらそのまま眠ってしまったらしい。

 薬には眠くなる成分は入ってないはずなんだけど、自分でもビックリするくらいぐっすりと眠っていたらしい。

 そして呼びに来た兄たちは眠っているわたしを見て起こしてくれなかった。


 ね、呼ばれてないでしょ。


 結局目を覚ましたのは夕方になってから。

 目を覚ましたわたしが一階に下りると、両親は見終わったDVDの返却にいったらしく不在で、リビングのソファには兄二人だけがくつろいでいた。

 二人の前にあるテーブルには、四人でお茶をしたらしい形跡が残っている。


 ずるいっ!!


「兄さん、起こしてよ!」

「気持ちよさそうに寝てたから」

「あんな可愛い寝顔を見たら起こせないでしょ」


 ここでも口裏を合わせたように、同じような言い訳を並べてくる双子。

 しかも琉輝ってば、それまで読んでいた本を閉じて置き、証拠隠滅とばかりにテーブルを片付け始めるし。


 家族とお茶をしたあとログインするつもりでいたわたしは、結局晩ご飯を食べてからログイン。

 でもちょっと時間が早かったため、入れ替わりでほとんどのメンバーが晩ご飯のためにログアウトしていた。

 ウィンドウを開いてメンバーリストを見れば、マメをはじめとする何人かは残っているみたいだけど、雑談をする相手がいないためかインカムは静かだった。


 あ、でもクロウはいるみたい。

 晩ご飯、食べないのかな?

 課長は一人暮らしだし、ご飯ってどうしてるんだろう? ……なんてことを考えつつ、足下で可愛らしくおすわりをしているルゥを、そのご希望どおりもっふりと抱き上げる。

 だって期待に満ち満ちた、キラキラのお目々で見つめられたら断れないでしょ。

 でもいきなり鼻をぶつけてくるのはやめてね。

 最近のルゥは、その日一回目の鼻チューは普通に可愛くしてくれるんだけれど、二回目以降は、いきなり鼻をぶつけてきてわたしの鼻を潰すのが恒例。

 ビックリするし痛いからやめて欲しいんだけど、ルゥは気に入っているらしく、凄く楽しそうにしているから怒れない。

 これはルゥが飽きるのは早いか、わたしの鼻が潰れるのが早いか。

 たぶんわたしの鼻が潰れるんだろうな……なんて思いつつ、ルゥを抱っこしたままギルドルームを出る。


 ギルドルームは宿屋の二階にあるという設定で、階段を下りたところが食堂というか、酒場というか……まぁそんな感じのところになっていて、賑やかな演出をするNPCに混じってプレイヤーもくつろいでいる。

 ギルドルームにはギルドメンバーしか入れないけれど、ここまでならメンバー以外も入れるようになっていて、待ち合わせ場所に使われたり、休憩場所に使われたりしていて、見知らぬプレイヤーも多く出入りしている。


 だから初めて見るプレイヤーがいても全然気にならなくて、むしろゲーム全体をみれば見知らぬプレイヤーの方が多いのだから気にする必要もないんだけれど、彼女たちに目を留めたのは理由があった。

 丁度階段を下りたところであの長身が目に入ったんだけれど、声を掛けようとして、一瞬早く掛けられる声に阻まれる。


「クロウさん!」


 高く可愛らしい女性の声に呼ばれ、足を止めるクロウ。

 外から戻ってきたクロウを、店の奥にいた女性プレイヤー二人が呼び止め、わたしは丁度その中間地点のところにいるという位置関係。

 そのまま下りていって話に混ざってもよかったんだけれど、どうしようかと足を止めている前で……といっても彼女たちの位置からわたしの姿は見えていなかったと思う。

 クロウからはわからないけれど。


「初めましてー」

「わたしたち、前からクロウさんとお話ししてみたいと思ってたんですー」


 クロウに駆け寄った女性プレイヤーたちは、嬉しそうに話し出す。

 えーっと、これはナンパかな?

 だったら出ていってもよかったんだけれど、続く言葉に思わず体が固まる。


「いつもあいつが一緒にいて邪魔だったんですよねー」

「あいつマジウザいよねー。

 何様って感じー」


 ひょっとして、わたしのこと?

サブタイトルはようやく年越しへ。

本編ではまだお正月イベントが続いているのですが、ちょっと不穏な空気ですね。

この空気からご主人様を守るべく、またまたルゥが大活躍!(大嘘

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