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399 ギルドマスターはあまり歌が上手くありません

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 ここは仮想現実(ゲームの世界)

 そして遊び方は人それぞれだけれど、普通に考えて面白いことをしたいと思う。

 ゲームじゃなくたって、それこそ仕事でも大方の人は、地味で面白くもない単調な作業より、面白くて成果を上げられる仕事をしたいと考えるはず。

 だからこの場面において面白いこと、つまりハーピー攻略をしたがると思う。


 言い辛い


 非常に言い辛い。

 この状況で一番面白いハーピー攻略ではなく、地味な 【鷹の目】 の支援なんて。

 もちろんハーピー攻略だって全然楽ではないし、楽しいというよりかなり辛いと思う。

 魔法使いによって地面に押さえ付けられているとはいえ 【(あか)】 が大人しくしているわけがなく、あの大きな翼を羽ばたかせたり、鋭く大きな爪でえぐってくるからね。

 でもこの状況で一番面白いのはハーピー攻略よね。

 それをわかっていて、しかも目の前にその状況があるのに 【鷹の目】 の支援にまわってなんて……


 言い辛い


 でも言わないと、【鷹の目】 が全滅してしまう……と思ったのはわたしの勘違いというか、早とちりというか。

 あとでくるくるとぽぽが教えてくれて、それを聞いてわたし自身 「そういえばそうだったわね」 と思ったことなんだけれど、【鷹の目】 は廃課金の廃人ギルドなのよ。

 つまり課金アイテムをふんだんに躊躇なく使えるの。

 死亡状態にあるプレイヤーを復活させる課金アイテム 【聖女の涙】 もね。


 前回のクリスマスイベント 【聖夜の攻防】 で困ったちゃんを演じてくれた聖女。

 彼女が、ナゴヤドーム内にある職場というか施設 【教会】 で販売している課金アイテムが 【聖女の涙】 で、他の復活方法とは違い死亡制裁(デスペナルティー)がないという優れもの。

 何度死亡状態になっても、経験値を溶かされることなく復活が出来る。

 わたしみたいな給料の安いOLには無理だけれど、あの連中はそれをふんだんに使えるのよ。


 廃課金だから


 でもいくら復活出来ても、復活してすぐにガルムに落とされ、また復活してもすぐに落とされる……これを繰り返すだけでは意味がない。

 【鷹の目】 が必要とされるのは遠距離攻撃の高火力。

 その火力を発揮出来ないのならそこにいる意味がない。

 いや、まぁその、わたしも酷いことをいっている自覚はあるんだけれど、今はそういうゲームをしているわけで…… 【鷹の目】 を救出してきてくれませんか?


 言えた


「いるんですか?」


 はい、います。

 たぶんあの辺に……とおおよその場所を指さすと、あなぐまさんも釣られるようにそちらを見る。


「あの派手な銃声」


 それです、それ。

 ハーピーが二体いることはあなぐまさんも知っているけれど、これまで 【白】 を抑えていたのが 【鷹の目】 だということは知らないはず……と思ったのもまたわたしの早とちりだったらしい。

 あなぐまさんは納得したように言う。


「さっき羽ばたいていた方が降りてこないように抑えていた火線、あれ、【鷹の目】 か」


 どうやらこの 【富士・火口】 を目指している途中、木々のあいだから見えていたらしい。

 仰るとおりでございます。

 ですが目下ガルムに襲われていると思われ、【白】 を抑えることが出来ません。

 【(あか)】 はそろそろ落ちそうだけれど、そうなったらそうなったで 【白】 を墜とすためにもあの火力が必要になります……という説明をしようとしたら、ガルムに襲われているという現状を話したところであなぐまさんに止められる。


「【鷹の目(あいつら)】 には、前回のイベントで手ひどい目に遭わされたんですけどね」


 あれか……うん、わたしにも覚えがあるわ。

 草原エリアでの話よね。

 でも 【アタッカーズ】 も初回で草原エリアはクリア出来たんじゃなかったっけ?


「出来ましたけど……」


 けど? ……なに?

 不自然に途切れるあなぐまさんの言葉。

 わたしはその先を待とうとしたんだけれど、言ってくれないまま、あなぐまさんはふと思い出したように表情を変える。


「いえ、なんでもありません。

 陛下に従えとのギルマスの指示ですから」


 わたしに 【アタッカーズ】 のギルドチャットは聞こえないけれど、ひょっとしたら、樹海のどこかにいるロクローさんからなにか指示があったのかもしれない。

 あなぐまさんの言葉が途切れたのも、そのあとに少し沈黙があったのも、ロクローさんがなにか喋っていたからかもしれない。

 キリッと表情を変えたあなぐまさんは、改めて言う。


「なんなりとお申し付けください……といいたいところですが、その声、大丈夫ですか?

 風邪?

 でもアバターの声まで変わりましたっけ?」


 えっとですね、このガラガラなハスキーボイスは気にしないで頂戴。

 風邪じゃないし、大丈夫だから。

 むしろ触れないで欲しい……というわたしの気持ちを蝶々夫人が代弁してくれる。


「ちょっとくまちゃん、声のことはいいからさっさと行きなさいよ」


 ん? 蝶々夫人とあなぐまさんも知り合いなの?


「知り合いって、だってこの人……」

「ストップ」


 なにか言い掛けるあなぐまさんの言葉を、かなり強引に遮る蝶々夫人。

 その様子から見ても知り合いではあるようなんだけれど……どうかした?


「くまちゃん、お喋りな男は嫌われるわよ」

「どんな悪巧みしてるんですか?

 陛下を騙そうなんて、【アタッカーズ(われわれ)】 は許しませんよ」

「人聞きの悪いことを言わないでくれる?

 これは 【特許庁(うち)】 と 【素敵なお茶会(おちゃかい)】 との密約なの。

 【アタッカーズ(あんたたち)】 に話せるわけないでしょ」


 ええっ?! そんな密約、いつ結んだのっ? ……というか、密約ってなに?

 それ、どんな内容?

 どうして主催者のわたしが知らないのよっ?

 そんな疑問ばかりを並べ立てるわたしに、蝶々夫人は色っぽいウィンクを寄越す。


「大丈夫、ノーキーも知らないから」


 それ、全然大丈夫じゃないから。

 主催者が知らないって、全然大丈夫じゃないでしょ? ……というか、わたし、ノーキーさんと同じ扱いなんだ。

 そっちで落ち込む話ね、これ。

 あ、もちろん密約なるものも凄く気になるんだけどね。


 ほんとよ!


「とにかく、【白】 がまた降りてくる前に 【鷹の目】 の火力を回復させる。

 そしてその状態を維持すること。

 それが女王陛下から下された 【アタッカーズ】 の使命。

 わかった?」

「言われずとも」


 改めてキリッと決めるあなぐまさんは、不意にわたしの手を取って……その……これ、外国ではよくあるんだっけ?

 いやいやいや、現代にはないと思う。

 うん、そんなに普通にはしないと思う。

 あの、ほら、エリザベス女王とかに挨拶する時とか?

 ああいう特殊な挨拶よね。

 つまり、その、わたしの手の甲に……キ……しました。


 ひぃぃぃぃぃ~


 ビックリしすぎて手が震える。

 で、ででで、も、でも、ね、STRの差があるから振り払うとか、出来、出来ないし、しぃぃぃぃ。

 もちろんあなぐまさんにもバレバレで、少し困ったように笑われてしまった。

 しかもこれだけで終わらないのは、わたしがルゥを抱いていたから。

 小っちゃな爪をシャキーンと伸ばしてわたしの胸にしがみついていたルゥは、首だけを捻ってあなぐまさんを見ていたと思ったら、不意に片足をわたしのお腹に押しつけて踏ん張り、もう一方の足であなぐまさんの頭を……頭を……蹴った……。


 嗚呼ぁぁぁぁぁぁ!!


 なにやってるのよ、ルゥ!

 どうしてこんな時に限って届くのよ?

 だってルゥの足って凄く短いじゃない。

 なのにこんな時に限って届いちゃうなんて……。

 もちろん頭を蹴られたあなぐまさんは吹っ飛んでいきました。

 しかもこれだけで終わらなかったのは、ルゥがわたしのお腹で踏ん張ったから。

 ただ踏ん張るだけでなく……踏ん張ったのは後肢で、あなぐまさんを蹴ったのも後肢で、前肢はガッツリわたしにしがみついていたの。

 それでお腹で踏ん張られたら……痛い……うずくまりたくなるくらいお腹が痛い。

 結果としてルゥを抱きしめることになり、ルゥは凄くご機嫌に……


 泣いていい?


「ほうら、さっさと行かないからよ」


 メンバーたちに抱え起こされるあなぐまさんを、なぜか蔑むような目で見る蝶々夫人。

 もちろんこのタイミングでポーズを決めるんだけどね。


「余計なことしてないで、さっさとお行き!」


 手振り付きで出される命令に、さっと起き上がったあなぐまさんは片膝をついて礼をとると、すくっと立ち上がり、メンバーを率いて森の中へと猛ダッシュで消えてゆく。

 あなぐまさん、本当に申し訳ございません。

 ついでにですね、今後は蝶々夫人を 「女王陛下」 と呼びませんか?


『あの人をそう呼んだら洒落にならなくなりますから』


 直通会話で話しかけるわたしに、あなぐまさんは笑いながら答えてくれる。

 セブン君の指揮もかなりのものだけれど、あなぐまさんもかなりの手腕の持ち主らしく、【アタッカーズ】 自体高火力が多い。

 後から後から辿り着いた 【アタッカーズ】 のメンバーも合流し、あなぐまさんたちがガルム掃討を始めてからものの数分で 【鷹の目】 の火力が復活。

 大空で大きく旋回し、向きを変えて再び降下を試みる 【白】 に向けて放たれる一斉射撃は、まるで大爆発のような視覚効果(エフェクト)を起こす。


『お待たせ』


 頭上で爆音が轟く中、不意にセブン君の声がインカムから聞こえてくる。

 いつもはちゃんとコール(事前伺い)を入れてくるんだけれど、今回はいきなりの直通会話。


『【アタッカーズ】 を配置してくれたの、グレイさんですよね。

 助かったよ。

 おかげでなんとかなりそうだ。

 このまま 【白】 を抑える』


 よろしく


 この時点で 【鷹の目】 が廃課金で、課金アイテム 【聖女の涙】 を使い放題であることをすっかり忘れていたわたしは、爆発の規模に、それほどの人数が落ちていないと考えてホッとした。

 問題は 【(あか)】 がまだ落ちないことと、【(あか)】 が落ちたあと 【白】 を地面に引きずり下ろす方法ね。


『抵抗が少なくなってきてるからもう落ちると思う』


 今度は、ハーピー戦から少し離れたところでガルムを捌く恭平さんの声が聞こえてくる。


『どうかな?』

『まだかかりそうな手応え』

『いや、旦那が……』


 そのハーピー戦に挑んでいる脳筋コンビ。

 いつものように代わる代わるに話し、ムーさんの声が不意に途切れたと思ったらクロウの声がした。


『一刀両断』


 スキルを使ったんだ。

 詠唱後、その(やいば)に触れる最初のものを両断する剣士(アタッカー)スキル 【一刀両断】。

 プレイヤーからの攻撃に反撃をしつつも逃げようと足掻いていた 【(あか)】 が、その頭を低くしたところ、すかさず外さず両断するクロウの大剣・砂鉄。

 【(あか)】 の首には砂鉄が通った(あと)が光の筋で残り、その筋から大量のHPを流出。

 その流出現象とともに始まった電子分解は瞬く間に全身へと広がり、ようやくのことで 【(あか)】 が消失した。


 やっと一体


 なんだか色んなことがありすぎて、どっと疲れが押し寄せてくる。

 思いもよらぬルゥの攻撃で地面にへたり込んでいたわたしは、そのもっふりとした頭に顎を乗せて一息吐く。

 すると両頬に触れていたルゥのお耳がピコピコと動いて頬をくすぐるの。

 やだ、こんな時にルゥったら。

 でも癒され……てる時じゃない!!


 次は 【白】!

結局グレイは今話でもお仕事をしなかったので、さりげなくサブタイトルでディスっておきます(笑

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに、グレイ、余裕だよね~(笑)
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