395 ギルドマスターはお目出度い紅白です
PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
ギルド 【鷹の目】 を率いてエリアダンジョン 【富士・樹海】 に入ったセブン君は、直通会話でわたしに話しかけてきたけれど、その姿は見せない。
なぜならば遠距離攻撃を得意とする銃士は接近戦に弱いから。
その弱さは、おそらく範囲攻撃がないことも相まって魔法使いよりも弱いと思う。
だからこういう状況ではあまり姿を見せないのよね。
クロエたちもよくそういう行動をとってるし。
そのセブン君の指揮で統制の取れた 【鷹の目】 の火線が、未だ大空を自由に羽ばたくもう一体のハーピーを捉える。
うまいな
わたし個人はギルド 【鷹の目】 が嫌いというか、苦手というか。
だって廃課金の廃人プレイヤーだからって、普通のプレイヤーより偉いの?
同じ一般プレイヤーでしょ?
なんであんな偉そうにしてるの? ……といつも思っちゃうのよ。
だから関わりたくないんだけど、銃士ギルドとしてトップに君臨するだけのことはある。
揃った火線はほぼ同時にハーピーと接触。
一撃ずつ当てていてはその勢いを削ぐことは出来ないけれど、あの数をほぼ同時に当てることで、被ダメの大きさにハーピーはやむなく進路を変更したり、滑空を諦めたり。
地上に近づけずにいる。
遥か上空にいる分には、プレイヤー側の攻撃も届かないけれど、ハーピーも攻撃出来ないからね。
そのあいだに、ルゥと睨み合っている紅白ハーピーの 【紅】を落とさないとね。
ルゥが落ちちゃう……
膠着した巨獣大戦を取り囲む、【素敵なお茶会】 と 【特許庁】 の重火力剣士たち。
でも同じNPCなのに 【妖獣】 のタマちゃんがあそこに割り込めないように、プレイヤーたちも迂闊には踏み込めない。
もちろんその原因はルゥにもある。
だってほら、すぐにバックリしちゃうから。
PKエリアではないから大丈夫だと思うけれど、イベント 【フェンリルの森にようこそ】 でルゥが見せた残虐非道な振る舞いを、今も多くのプレイヤーが覚えていると思う。
普段の可愛らしい姿を見慣れていても、あの本性を見せられたらやっぱり思い出してしまうくらいだしね。
飼い主であるわたしですら、現在進行形で絶賛回顧中だもの。
脳裏で
あれを知っているプレイヤーなら、今のルゥが味方だと頭でわかっていても、防衛本能というべきか、あるいは生存本能というべきか。
そんな感じのセンサーが働いて踏み留まっている。
もちろんただ見ているだけじゃなくて、踏み込むタイミングを見計らっているのよ。
中にはそんな恐怖心を捨て去ったというか、虚栄心が恐怖に勝ったというか……まぁどういう心境なのかわたしにはわからないけれど、頑張って斬り掛かったプレイヤーもいたけれど……ハーピーじゃなくてルゥに斬り掛かるってどういうこと?
ちょっと!!
でもルゥも必死で我を忘れかけちゃっているらしく、邪魔なプレイヤーを乱暴に蹴り飛ばしちゃった。
結果はポーンと飛んでいったわ。
こう……そこいらに落ちている石を何気なく蹴り飛ばす感じで、軽々というか、易々というか。
「阿呆が」
「あいつ、あとで女王に折檻されるぞ」
「オーケーオーケー!
俺があとでぶった斬っておいてやろうじゃねぇか!」
それこそ任せなさいとか張り切っちゃうノーキーさんが意味不明です。
ちなみにわたしは折檻しないけれど、ひょっとしたら散歩中のルゥと再会した時にルゥ自身が仕返しするかもしれないけどね。
もちろんわたしは止めません。
基本、ルゥの自由を尊重してるから。
「それもなんか違うけどな」
近くで、タマちゃんを手伝ってガルムを溶かすのに忙しいカニやんの突っ込みは無視で。
ここはエリアダンジョン 【富士・樹海】 だからね、ガルムが沸いて、群れて、集ってくる。
ハーピーの対処を重火力組に任せた恭平さんは、自身も重火力なのにその自覚がなくて、トール君たちを率いてこの開けた場所を目指して集まってくるガルムたちの対処に忙しい。
すでにぽぽやくるくるも到着しているけれど、ガルムに襲われるのを嫌って姿を隠したまま。
ハーピーやルゥがどんな反応をするかわからないため、まだ発砲は控えている。
下手に狙撃して予想外の回避行動をとられたら、囲む剣士たちが巻き込まれて被害が出かねないからね。
そこは慎重なクロエの教育がよく行き届いています。
「……グレイを頼む」
「任せなさい」
クロウの言葉に、返事をしながらもまた妖艶なポーズを決める蝶々夫人。
片膝を立てるようにしゃがみ込んでいたクロウは、その膝にぐっと力を入れて立ち上がったかと思えば、わたしたちに背を向けて背中に負った砂鉄を抜く。
その足が動き出すのを見てカニやんも動き出す。
「タマはここでグレイさんたちに付いてろ」
ご主人様の指示に大人しく従うタマちゃんは、喉の奥から絞り出したような低いダミ声で 「ニャ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"~ン"」 と応える。
わたしがこの鳴き声に慣れるには、もう少し時間がかかりそうです。
最近やっとルゥの低い唸り声に慣れてきたところだからね、知り合って間もないタマちゃんはまだまだ無理よ。
「の~りん、アキヒト、相手は 【幻獣】。
闇属性不可で落下型スキル、よろ」
「わかった」
「あいよ」
森の中から襲ってくるガルムに注意しつつ、対ハーピー接近戦に巻き込まれない距離を維持するのは結構難しいと思う。
あれよ、あれ。
前門の虎後門の狼
まぁちょっと意味というか、状況は違うけどね。
しかも狼は前にいるけどね。
でもそれが攻撃型魔法使いの、この戦場での立ち位置だから。
飛行型のNPCを相手にするこの戦場において、攻撃型魔法使いには重要な役割がある。
だから前には出られないけれど、後にも引けない。
近接武器を持たないため接近戦は出来ず、持ったところで所詮非力なSTRは意味を為さない魔法使い。
そして低すぎるVITは接近戦を仕掛けられれば落ちるわけで、近づかれないように踏ん張るんだけどガルムの数が多い。
不特定の場所でどんどん沸くし、どんどん群れるのが習慣。
しかもこれだけプレイヤーが一つ処に集まっているからガルムもどんどん群がってきていて、タマちゃん一人じゃちょっと厳しい。
あ、一匹か!
間違えました。
「これ、グレイちゃんが引っかかれでもしたら、あたしがあのむっつりに斬られるのよね」
回復より、さして威力のないファイアーボールの連発に忙しい蝶々夫人。
基本スキルとして 【回復】 はわたしも持っているけれど、本職は攻撃型魔法使い。
回復型魔法使いに比べたらその効果はかなり低い。
そして逆も然り。
基本スキルとして蝶々夫人もファイアーボールは持っているけれど、本職は回復型魔法使いだから全然火力がないのはどうしようもない。
でもそんなこと言って、大人しくクロウに斬られるつもりなんて絶対ないと思う。
「ああ、もう鬱陶しい。
ちょっとちゅるん、こっち来て!」
「あら、ご指名。
ちょっと行ってくるわ」
「あいよ」
「気をつけて」
「はぁ~い」
癇癪を起こしたように呼びつける蝶々夫人に、重火力剣士たちに混じって踊っていたちゅるんさんは、串カツさんと不破さんに送られてわたしたちのところに駆け付けてくれる。
もちろん派手派手しくサンバホイッスルを吹きながら、踊りながらだから時間がかかるんだけどね。
「お呼び? サブマス」
「遅い!
あたしたちに付いてガルムを追い払って頂戴」
「了かぁ~い」
答えた直後、ちゅるんさんは盛大にサンバホイッスルを吹いてガルムに注目される。
えっと……ビックリしたタマちゃんまで足を止めて見たけど、わたしもちょっとビックリした。
たぶんこれでガルムの目標を変えたんだろうけれど、ちょっと数が多いかな。
さすがに群れてくる範囲が広くて全部は無理だろうから、墜とし漏れと、あとをお願いね。
一度、一掃するわ。
「起動……業火!」
ほとんど声にならない、息だけを吐いているような詠唱でもなんとかスキルは発動。
眼前で群れるガルムの大半を焼き払う業火の焔に、ちゅるんさんも蝶々夫人もヒュッと冷やかすように口笛を一吹き。
「間近で見ると、やっぱり迫力ねぇ」
「そりゃ最強魔女だもの。
あ、その猫は斬っちゃ駄目よ。
カニやんにぶっ殺されるから」
「カニやんって誰だっけ?」
カニやんはこのゲームで有名な魔法使いだと誰かが言っていたけれど、ちゅるんさんは知らないらしい。
同じ職にしか興味のない人なのかしら?
そういう人もいるわよね。
しかも、さすが 【特許庁】 のメンバー。
怖い物知らずというか、無謀というか。
「水とか氷とかばっかりぶっ放してる奴」
「ああ、あのインテリ魔法使い。
一度一対一の勝負してみたいんだけどなぁ~」
「あんたも物好きね」
これには蝶々夫人でなくても呆れるわ。
しかも凄く楽しそうにガルムを斬りながら、会話の合間でサンバホイッスルを吹いている。
ほんと、どんな肺活量よ?
「でもあたしもヌコ様大好き。
だから斬らないわよ」
「それでいいわ」
さすがタマちゃん。
愛され女子は、化け猫になっても万人に愛されるのね。
見事だわ。
同じ獣でもルゥは……いや、ま、わかってる。
うん、わかってるのよ。
ルゥは飼い主以外のプレイヤーに決して懐かないし、愛想も振りまかない。
それどころか問答無用でバックリやっちゃうもんね。
そのルゥに、抜き身の剣を手に迫るクロウが声を上げる。
「ルゥ、下がれ!!」
いつになく大きな声……なんだけれど、やっぱりいい声。
その大きさには正直、小心者のわたしはビビっちゃうんだけど、声の良さに、その、ね……聞き惚れる……
「この正直者」
ひぃ~
なぜか蝶々夫人に両頬をつねられた。
クロウの声を聞いたルゥは、いつもなら無視をするところなんだけれど珍しくお耳が反応。
ふっさふさの毛に覆われた大きなお耳がぴくりと動き、一際四肢に力が入ったと思ったら、額にぶっ刺さっていたハーピーのくちばしを自分で引き抜くと同時に右前肢を上げてハーピーを地面に叩きつける。
「このまま抑え付ける!」
「起動…………」
飛行型のNPCは空に逃がすと厄介この上ない。
せっかくルゥが作ってくれたチャンスを逃すまいと出されるカニやんの指示に、即座に詠唱を始めるのはアキヒトさん。
もちろんこのまま地面に押さえつけるため。
だから発動するスキルは 【モルゲンステイン】 や 【ロックフォール】 など。
なのに蝶々夫人から協力するよう言われたバロームさんったら……
「起動…………………………グラヴィティ!」
う~ん、惜しい!
実に惜しい。
重力で抑え付けるようなスキル 【グラヴィティ】 は、一見地属性のようで実は闇属性。
だから 【幻獣】 のハーピーには効かないのよね。
「ちょっとバローム?!」
「えーっ?
どうして効かないんですかぁ?」
「どうしてってあんた、いまさらそこ?
今まで散々ボス戦やってきて、いまさらそこなのっ?」
予想外すぎるバロームさんの行動に、一瞬呆気にとられた蝶々夫人はすぐに気を取り直し、声を荒らげる。
でも本当にわかっていないのか、返ってくるバロームさんの言葉に、さすがにわたしもちょっとだけ蝶々夫人に同情したわ。
だってバロームさんって、わたしが思っていた以上に残念だったんだもの。
ハーピーの頭を地面に叩きつけたルゥは、直後、大きく後ろにひとっ飛び。
一斉に斬り掛かってくる剣士たちを避けるようにその後背まで飛んだんだけれど、高い中空でその姿がいつもの小さな姿に戻る。
一瞬でポンッとね。
そして着地に失敗。
尻餅どころか背中を地面に打ち付け、そのまま地面を転がっていく。
ようやく止まったと思ったら、不自然な姿勢で横たわったまま動かなくなってしまった。
ルゥっ?!
ちょっと……冗談はやめてよ、ルゥ!!
ルゥの大ピンチっ!!
飼い主は大号泣中・・・