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39 ギルドマスターは溺れます

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!


本日も末尾に資料整理の 「おまけ」 がございます。

よろしければそちらもお楽しみください。

『ところでグレイさんたち、暇?』


 琵琶湖湖畔を散歩中のクロエに誘われて、わたしとクロウ、カニやんも琵琶湖湖畔に駆けつけたんだけど、合流したらトール君とマコト君が死亡状態でビックリ。

 二人して湖畔の波打ち際で、半透明になって湯気のようなものを上げながら行動不能状態に陥っているとか……なんで?

 トール君はともかく、マコト君はそんなに柔らかくなかったわよね、確か。

 ノブナガが出現した直後、二人して直撃を受けたっていうことなんだけど、おかしくない?

 だってノブナガの出現にはアラートが出るし、プレイヤーから仕掛けなければノブナガは打ってこない。

 だから安全圏まで退避してから攻撃態勢を整えればいいんだけど……出現直後に即死って、どんなプレイをしたわけ?

 いくらクロエが悪戯好きでも、自分でカバーしきれないような無茶振りをするとは思えないし。

 しかも前衛の二人がそんなに早く落ちたもんだから、クロエ自身もすでにHPがギリギリ。

 なにしろ二人はノブナガの足下に横たわってるもんだから、復活の灰(蘇生アイテム)を使おうにもクロエは近づけない。

 それでやむなく一人で頑張ってたってわけね、お疲れ様。

 幸いだったのは、ノブナガの出現が、蝶々夫人との直通会話が終わってからだったことかしら。

 わたしたちが合流して後衛職は三人になったけれど、前衛はクロウ一人。

 あまりにもノブナガの足下過ぎて、まだ二人を蘇生できないのよね。

 それでも火力としては十分だから全然問題なかったんだけど、ちょっとわたしがミスっちゃった。

 ノブナガの刀に引っかけられて、放り投げられちゃったのよ。

 あんまりにもビックリしすぎて、すぐには自分がどういう状況になってたのかわからなかったんだけど、みんなの声が遠ざかって、変な方向から聞こえてくる。


「グレイ!」

「グレイさんっ?」

「うわ、飛んだ!」


 最近初めてなことが多くてビックリしてばっかり。

 みんなも驚かせちゃってるんだけどね。

 中空を高々と放り投げられたわたしは、そのまま湖にドボン……そのままブクブク沈んじゃうって……カナヅチじゃなくてよかった……。

 着水した直後には、ここが水の中だってことはもちろん、上も下もわからない状態だったんだけど、パニックにならなかったのが幸いだったわ。


『グレイ、応えろ』


 水の中でも息は出来るし、インカムからクロウの声も聞こえてくる。

 ちょっとくぐもってるのは水中っていう効果なんだろうけれど、いい声はいつもどおりいい声のまま。


「大丈夫みたい。

 とりあえずノブナガ斬って」

『わかった』


 水の中で行動不能状態はちょっと避けたいわね。

 蘇生のために別の誰かも水に入らなきゃならないとか面倒臭すぎるし、探してもらうのもそうだけど、死亡状態のまま水に漂うのも嫌。

 かといって湖の底に沈んで救助を待つとか……考えるだけでぞっとする。

 わたしは水をかいて体勢を整えると、何気なく周囲を見回す。

 息は出来るけれど、水中っていう体の不自由さは現実と同じ。

 湖に入れたなんて話は聞いたことがなかったんだけど……ずいぶん深くない?

 足下のほうは暗くてよく見えないんだけど、伸びた藻がユラユラと漂っているのが見える。

 たぶん底は藻で埋め尽くされてるんじゃないかな?

 一度水面から顔を出したわたしは、自分がずいぶんと岸から遠いところまで投げ飛ばされたことを知る。

 そんでもってノブナガの無防備な背中が見えるんだけど……これはやばい……。

 だってプレイヤーが水に入れるってことは、ノブナガも入れるってことだと思う。

 しかもノブナガは物理攻撃主体の前衛剣士(アタッカー)より、後衛職の魔型を先に狙ってくる。

 今、わたしとノブナガのあいだには湖があるだけで、足止めをしてくれる前衛はいない。

 しかも水中にいるわたしは身動きがとれないとか……これ、ノブナガに気づかれたら一太刀で両断にされちゃう状況よね。

 不幸中の幸いだったのは、ノブナガが投げ飛ばしたわたしの存在を忘れてるってこと。

 ……いや、忘れ去られるのはちょっと悲しいというか、淋しいというか……とにかく、わたしの存在にはまったく注意を払わない。

 きっとノブナガも脳筋なのよ。

 三人がノブナガを落としてくれるまで、大人しく水中で待っていたほうが良さそうだと思って水中に頭を沈めたんだけど……これ、なに?

 何かが足に触れるっていうか……触ってくるんだけど、なに?

 確かめるために足下を見たわたしは驚いた。

 なににって、さっきまでもっと深いところにあったはずの藻がかなり上まで伸びてきていたの。

 しかも一本だけじゃなく、何本も。

 それがわたしの足に絡みついていた。


 これ、ヤバいっ?


 わたしが危険を感じた刹那、無数に伸びてきた藻が足だけじゃなくて、全身に絡みつく。

 全身を絡め取られて身動きがとれなくなったところで、そのまま底に引きずり込まれる。

 ここで魔法を使うのはヤバいってわかってたんだけど、ノブナガが反応しちゃうってわかってたんだけど、見えない水底の闇に何かが蠢いているような気がして、とっさに使っちゃった。


「起動……業火」


 水の中で魔法陣が展開するのを見てどれだけ安堵したか。

 湖の底で蠢くなにかが業火の焔で焼き尽くされる……んだけど、敵が一体だけじゃないってこと?

 焼き尽くされた藻はすぐにブチブチと切れて振り払えたんだけど、また新たに伸びてきた藻がわたしの足に絡みつき、すぐに体の自由を奪う。


「なに、これ?」

『グレイ、どうした?』

「ヤバそうだから来ないで!」


 水の中じゃ湖畔の様子はわからないんだけど、クロウはノブナガを討つのが先決。

 それからマコト君とトール君を蘇生してね。

 とりあえず息が切れるってことはないから、わたしは自力で脱出を試みようと思って次は焔獄を発動。

 やっぱり藻は、一度燃えて焼け焦げてブチブチと切れるんだけど、すぐに次々と伸びてくる。

 だけど……一度目より蘇生が遅いような気がする。

 もう少し大きい魔法ならよりダメージを与えられるかと思って避雷針を使ったんだけど……びっくりした……ダメージ0って……なに?

 確かに魔法は発動したんだけど、いつもの雷鳴が轟いたんだけど、一瞬だけバチッときただけで何も起こらなかったのよ。

 絡みついた藻は全く燃えなくて、さらにどんどん伸びてきてわたしの自由を奪っていく。

 これ、痛いっていうか……どんどん締め付けが厳しくなってきて、苦しくなってきて、痛みが……え? HPが減ってる?


 ヤバい!


 つまり水の中は雷撃系の魔法は無効になるってこと?

 ……いや、違う、これは反射だ。

 一瞬バチッてきたのは反射されたからで、わたしがダメージを受けないのは魔力吸収だから。

 たぶん合ってると思う。

 これは今後の参考にして……避雷針って、やっぱり燃費が悪い。

 ごっそりMPを持って行かれる虚脱感に、一瞬気が怯みそうになる。

 この分じゃ、水系、氷結系は無効かもしれない。

 再起動準備(クールタイム)の終わった業火、焔獄のコンボでもよかったんだけど、ちょっとMPの残量に不安がある。

 燃費の悪い避雷針を使っちゃったから。

 さすがにちょっと考えなしだったわ。

 回復しようにも手が使えないからMPポーションをインベントリから取り出せないとか……マジ、SMプレイ状態で、しかもじわじわとHPも削られてる。

 これって結構やばい状態よね。

 次でなんとか出来なきゃ、クロウを呼ぼう!

 対ノブナガ戦でお疲れのところ悪いけれど、わたしも湖の底に沈みたくないし。

 あんな暗い水底で死亡状態とか、怖すぎる……。


「起動……スパイラルウィンド」


 なんだか業火や焔獄にいつもの火力がなかったような気がした。

 それが水中っていう仕掛け(ギミック)によるものなら、火属性魔法より風属性かと思ったのよ。

 問題だったのは、敵の本体が、どうやらわたしと同じ位置情報になってるらしくって、わたしを中心に凄い渦を巻き出しちゃった。


 目が……廻るぅ~廻るぅ~


 う~ん、目が廻るぅ~……渦の中心にいたわたしにはわからなかったんだけど、あとでクロエに聞いたら、スパイラルウィンドで巻き上げられた水が湖の上で巨大な渦巻きになって、湖畔から数メートルも水が引いたんですって。

 なんだっけ、陰陽五行説?

 うん、よく覚えてないんだけど、確か水は風に弱いのよね。

 その辺の理屈かと思ったんだけど、ビンゴだったみたい。

 術の作用が消えるとともに渦巻きは消えたんだけど、落ちた水が巨大な水柱を上げ、湖畔まで雨のような飛沫が降り注いだ。


「……終わった……?」


 水底の暗さは変わらずそこにあって、なにかが蠢いているのも見える。

 けれど藻が、もうそこから伸びてくることはなかった。

 つまりわたしの勝ちってこと?

 脱力したわたしはちょっと休憩するつもりで水中に漂っていたんだけど、探しに来たクロウに回収される。


「ちょっとグレイさん、僕たちまでずぶ濡れなんだけど?」

「悪かったわね」


 不可抗力なんだけど、とりあえず謝っておく。

 だってクロエは煩いもん。


「何があったわけ?

 また景気よくぶっ放してたけど」


 カニやんに釣られて湖を振り返れば、まだまだ水面が激しく乱れている。

 湖畔に押し寄せる波も高い。

 敵らしい敵の姿は見なかったんだけど、とりあえず水中であったことを話したら、カニやんってばちょっと考え込んじゃった。

 なにか心当たりでもあるのかと思ったら、とんでもないことを話し出しちゃうとか……


「ほんとか嘘かは俺も知らないんだけど、琵琶湖って底は藻だらけで、その藻にさ、湖で死んだ人の死体が引っ掛かって上がってこないんだと。

 で、湖の底には、何人もの死体が藻に絡まったまま水の中でユラユラしてるっていう話」

「うわー都市伝説っぽい」


 クロエは信じてないみたい。

 蘇生してもらったトール君やマコト君もね。

 クロウは……いつもどおりなんだけど、えっとカニやん、その……ちょっと、やめてくれない?

 あの、ね、わたし……そういう話、苦手なんだけど……。

 しかもわたし、その藻に絡みつかれたんだけどっ?

 あのまま引っ張られたら、永久に水底に縛りつけられるところだったってことっ?


 お願い、やめて……


 水から上がるのをクロウに助けてもらって、そのまま支えてもらってたんだけど、怖くてクロウにしがみついたのは不可抗力よ!

 ほんと、そういう話ダメなの!!


「グレイさん、わかりやすいね」

「絶対都市伝説だって」

「俺もそう思います」

「うん、たぶんそうだろうね」


 カニやんはともかく、他の三人は慰めてくれてるつもり?

 あ、ありがたいんだけど……ぞっとする……。

 湖を見ると、今にも死体が動き出して、水から上がってきそうな気がして……ひぃ~。

 今、夜時間だから余計に怖いのよ。


「とりあえず回復だな」


 少し上の方からクロウの声がする。

 HP第一主義の剣士(アタッカー)はほとんどMPなんて持ってないし、MPを消費するスキルもほとんど持っていない。

 クロウはフランベルジュっていう、火属性の追加効果のあるスキルを持ってるんだけど、それだって使っても消費するMPなんてしれている。

 MPの低い剣士(アタッカー)が使える程度のスキルだからね。

 だからMPポーションなんて必要ないんだけど、いつもインベントリにそれなりの備蓄があるってどういうこと?

 ついでにHPも回復してくれたんだけど、わたし、HPポーションは余剰在庫があるのよ。


information 新しいスキルを取得しました


「ん? なんだろ?」


skill ウォータースライサー / 水属性・範囲魔法


 解説を読んだところ、ま、文字通りの攻撃スキルみたい。

 実際は使ってみないとわからないけれど、さっきのあれで取得できたってこと?


「範囲魔法ってことは、使う時は気をつけないとね」

「……またヤバいスキル取得しちゃってるよ」


 横からわたしのウィンドウをのぞき込んだカニやんは、茶化すように言ってにひっと笑う。

 これはあれ?

 実験はカニやんでしろってこと?

 もちろんわたしは全然かまわないんだけど。


「俺がかまう」

「なんだったらカニやんも沈んできたら?」


 もちろん湖にね。

 そうしたら入手できるかもしれないと思ったんだけど、意外なことを言われちゃった。


「俺、それ持ってる。

 けど入手方法が違うから、他にもまだ入手方法があるってことかな?

 結構MP食うから気をつけて」


 カニやんが使ってるところを見たことがないのは、MP消費が高い(燃費が悪い)からみたい。

 もちろんわたしとカニやんじゃMPの最大値がかなり違うんだけど、忠告はありがたくいただいておく。

 わたしってば魔力タンクなのをいいことに、結構残量を気にせずに大技を使っちゃうところがあるから、こうやってちゃんと言ってくれるのはありがたい。


「それよりさ、クロエが気になることを言ってる」


 カニやんもまだ詳しいことは聞いていないらしいんだけど、ノブナガの挙動がおかしかったってっいうの。

 【幻獣】 ノブナガは、プレイヤーが仕掛けないと攻撃を始めないはずなのに、ノブナガから先制してきたっていうの。


「で、出現直後にトール君とマコト君が落ちちゃったんだよね」


 クロエの言葉を肯定するように、トール君とマコト君は大きく頷く。

 ノブナガ出現時に足下にいたんじゃ、確かに即死事案だわ。

 あんな不自然な場所で死亡状態になっていた(湯気を噴いていた)のも納得できる。

 でも、それだとおかしいのよね。

 先制してくるのは関東エリアにいる 【幻獣】 マサカドのはずなんだけど……。


 肉食系男子


 思い浮かぶ可能性は一つなんだけど……


「……修正、入ったと思う?」

「運営の告知(アナウンス)はないよね」

「入ったとして、これ、下方修正?

 それとも上方修正?」


 うん、確かに判断に難しいところね。

登場人物:カニやん / 男性型・魔法使い / 赤毛


ギルド 【素敵なお茶会】 のサブマスターの一人。

幹部四人の中では唯一正式サービス開始後からのプレイヤーだが、一番冷静と思われる。

(他の三人が優柔不断・無言・気まぐれなので……)

大きな杖に裾の長いローブを着用した、魔法使いらしい魔法使い。

使用方法に迷うということで神経系や重力系(?)などのスキルをほとんど取得せず、水属性(氷結系を含む)を得意とする重火力。

フレンドが多く、よく野良パーティーに参加している。

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