382 ギルドマスターは我が儘を押しつけられます
PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
今話は少し長くなってしまったのですが、内容の都合上分割せずそのまま掲載します。
どうぞ、よろしくお付き合いくださいませ。
information game clear
congratulations, Your win!
まだまだ元気な学生組は、それこそガッツポーズで飛び跳ねたりして喜んだけれど、さすがにわたしたち社会人組は勝利の喜びより疲れの方が強かった。
途中までバッドエンドを覚悟して、それこそやり直しも覚悟していたから、勝利よりイベントクリアにホッとして思わずその場に座りこむ。
疲れた
ダンゴムシのように丸くなってコロコロ転げ回っていたルゥが、座りこんだわたしに気がついて駆け寄ってくると膝に前足をかけて……これはご褒美の催促かな?
うんうん、ルゥも一杯頑張ってくれたもんね。
危ない真似とかさせちゃって、本当に悪い飼い主でごめんね……と、その頭を撫でながら謝るんだけれど、気にしていないらしいルゥは 「きゅ?」 と不思議そうに首を傾げる。
はぁ~
可愛さの余り、思わず溜息が出ちゃう。
「大丈夫か?」
いつものいい声にクロウを見上げてみれば、どうしてその手にミニドレスを持ってるのかしら。
それはあの聖女にあげた物よ。
だからここに置いていくわ。
そうするべきだと思わない?
「思わない」
どうしてよっ?!
どうしてクロウって、こういう時に限って同意してくれないわけ?
しかも気のせいでなければ、ちょっと不機嫌な声に聞こえたんだけど?
何が嫌なの?
だってクロウには関係ないわよね?
何っ? ねぇ、何が嫌なの?
その不機嫌な理由は何っ?
「今ので旦那の不機嫌がわかるとか」
「マニアック」
「そこは嫁ってことで」
脳筋コンビとカニやんが、息の合った仲の良さを見せつけてくれるのはかまわない。
ええ、ここまでならかまわなかったんだけどね。
「とりあえずそのドレス、回収したら?」
「往生際わりぃな」
「所有権、グレイさんにあるから」
たった今聖女に譲ったの。
だからそれは聖女の物なの。
みんな、見てたでしょっ? ……と大きな声を上げて同意を求めるんだけれど、誰もわたしの手を操ってインベントリを開くクロウを止めてくれない。
言っておきますが、インベントリに入れておくだけだから。
もう絶対に着ないから。
そのうちクロウの目を盗んで売りに出してやるんだから。
「あと、これを」
握っていた拳を突き出してきたと思ったら、開いた掌には……これ、真珠?
大きさといい、この独特な光沢といい、真珠よね?
直径が一センチくらいありそうなわりと大玉……なのかしら?
宝飾類って興味が無いから全然知識が無いんだけど、純白というより柔らかなクリーム色をした二つの珠は、クロウの掌で穏やかな光沢を放っている。
なに、これ?
どうしたの?
「装備から落ちたんだが」
そうなの? でもわたしのじゃないわよ。
クロウが拾ったならクロウの物でいいんじゃない? ……と思うんだけれど、モヤシが鉄筋に勝てるはずもなく。
無理矢理に受け取らされる。
item 贖罪の涙
ステータスによると、あの黒い聖女がこぼした涙らしい。
素材として使えるとも使えないとも書いてないから用途はわからないんだけど、とりあえずイベントによる獲得アイテムみたいだから、あとでギルド倉庫に放り込んでおけばいいかな。
イベントエリアからじゃ、外部とアクセス出来ないから。
さて、それじゃ通常エリアに戻りますか。
みんな、準備はいい? ……と声を掛けながらルゥを抱き上げて周囲を見回す。
戻った通常エリアではすでにイベントの第三戦が終わっていて、参加ギルドは最終戦に備えている真っ最中。
ちなみに第三戦で第一ラウンドの草原エリアをクリア出来なかったギルドは、この時点で強制的に中途離脱決定。
つまり最終戦は第二ラウンドに進出したギルドだけが参加出来る。
「やっぱり 【素敵なお茶会】 しかクリアしてないな」
転送先のギルドルームに戻ってすぐ、イベントウィンドウを開いて現状を確認したカニやん。
それまで武器や防具の耐久確認なんかをしていたメンバーたちは、カニやんの言葉を聞いて慌ててウィンドウを開いて確認する。
「マジ?」
「一番乗りっすか!」
「やった、一番!」
そして驚いたり喜んだり。
でもギルドルームで観戦していたハルさんやりりか様の話によると、地下礼拝堂戦はミカエル戦までの生配信。
その先の聖女戦は非公開だったらしい。
どういうこと?
もちろんあれを生配信してしまうと、攻略方法が他の未攻略ギルドにもわかってしまう。
その防止策として、ずっと非公開なの?
「違うみたい」
わたしもインフォメーションが出ていたから、運営から何かしらの通達があったことは気づいていた。
でも読むのが面倒臭くて 【お知らせ】 を消してしまったんだけれど、それを読んだ恭平さんがいう。
「最終戦での最終攻略は生配信。
先行した 【素敵なお茶会】 の分は、最終戦開始とともに記録動画を公開するらしい」
なるほど。
最終戦が始まると、イベントエリアに転送された参加プレイヤーたちは外部とアクセス出来なくなる。
つまりイベントが始まってからなら、公開しても参加プレイヤーたちが攻略方法をあらかじめ知ることは出来ないってことね。
わたしたちは設定されていたイベント制限時間を大幅に超えてのクリアだったから、最終戦開始までもうあまり時間が無い。
ということで一度解散して休憩。
お昼ご飯を食べて、最終戦を観戦してから反省会しましょう。
「そうだな」
「時間も無いし、最終戦はログインしてもしなくてもOKで」
うん、いいわよ。
パソコンやスマホで公式サイトから観戦してもいいしね。
ということで解散!
三々五々にログアウトしていくメンバーの中、わたしもルゥをモフりながらログアウト。
これで今日のお昼ご飯がお魚の煮付けとかだったら時間がかかってしまうところだけど、幸いにしてインスタントのスパゲッティ・ナポリタンでした。
フライパンで麺をほぐして粉末をかけるだけのやつね。
うちの母はわたしと同じく料理をしないというか、出来ないというか……なので、だいたいお休みの日のお昼はこんな感じです。
そういえばゆりこさん、お昼ご飯の支度はよかったのかしら?
とっくに正午を過ぎちゃってるけど。
ちょっと気になったから再度ログインしてから訊いてみた。
「ああ、今日は大丈夫。
旦那は、このクソ忙しい年末に接待ゴルフ。
長男はバイトで夜まで帰らないし、次男は年内ギリギリまで部活で学校。
帰りは夕方」
お昼ご飯にお弁当を作ってあげたらしいんだけど、それとは別に、おやつ代わりのパン代を渡すってどんな食べ盛り?
部活中におやつ休憩の時間があって、学校近くのコンビニまで買い出しに行くんだって。
恐るべし、中高生男子の食欲。
ちなみにパパしゃんは奥さんもゲームをする方らしく、そっちのゲームでも今日はイベントが開催されていて、お互いに一日ゲームをするということで合意したらしい。
「明日仕事納めだから、明後日から大掃除ですけどね」
そういって肩をすくめていた。
いいなぁ、うちの会社は明後日が仕事納めで、今は年末進行で繁忙期絶好調。
そのくせわたしは24日も25日も定時で帰ったけどね。
「そういや年始のイベントって、このあとで発表?」
最終戦開始時間が近づくにつれ、どんどん再ログインしてくるメンバーたち。
「どうだろ?
ひょっとしたら明日かも。
年始の予定、またあとで確認しようぜ」
はぁ~い
とりあえず始まった最終戦をギルドルームのモニターで観戦していたんだけれど、やっぱりあったわ、バッド・エンディング。
中でも強烈だったのが 【鷹の目】 と 【特許庁】 戦。
【鷹の目】 が廃課金の廃人ギルドっていうのは初期の頃から有名だけれど、まさかイベント中の選択肢でも廃課金とは思わなかった。
世の中、なんでもお金で解決出来ると思わないでね! ……と思わざるを得ない会話を聖女と交わし、それこそ 「世の中にはお金で解決出来ないこともある!」 という反論とともにボンテージファッションに戻った聖女に、結構メタクソに殲滅された。
もちろん 【鷹の目】 は重火力ギルドの一つだけれど、その主力は銃士。
セブン君指揮による統制の取れた火力が売りだけど、接近戦に弱いのよ。
剣士や魔法使いもいるけれど、人数的にもちょっとね。
で、結構あっと言う間にギルド全滅によるバッド・エンディング。
もう一つの 【特許庁】 戦は、シナリオ分岐に関わる聖女の質問には、真田さんと不破さんにより結構まともに進んでいた。
真田さんはともかく、不破さんはホストだからね。
それこそ女性客を金づるのように……ゲフゲフ……じゃなくて、お持てなしの心で弄ぶ……でもなくて、弱った女の子の心につけ込む……でもなくて……ダメだ、上手く説明出来ない。
「グレイさんの中で、不破さんってどうなってんの?」
「ちょっと不破に同情」
「いや、普段のあいつが悪いだろ」
脳筋コンビの意見が割れるのも珍しいけれど、カニやんの質問に答えられるようならここで説明に迷ったりしません。
とにかく、バッド・エンディングの気配はなかったのに、聖女が駄々をこねだしたとたんノーキーさんがね。
うん、そこはやっぱりノーキーさんだから……と思いたいところだけれど、いきなり斬りつけるのもどうなの?
そんなことをしたらバッド・エンディング一直線でしょ。
間違いなくバッド・エンディングよ。
お先真っ暗!
ただ、始まった聖女の 【特許庁】 殲滅に対してしぶとかった。
当然のことだけれど 【特許庁】 もかなりの重火力ギルドとして有名なんだけど、それ以上に色物ギルドとしても有名だけどランカーが多い。
しかも接近戦はお得意とするところ。
加減も遠慮も要らないとなると、多勢に無勢を卑怯と思うことなくガンガン攻める。
いいところまで聖女を追い詰めるんだけれど、間違いのないバッド・エンディングはプレイヤーの勝利を認めるはずがなくて、卑怯さで 【特許庁】 を上回る 【幻獣】 の本領を発揮した聖女は一人、また一人と確実にその数を減らしていく。
最初に落ちたのは言うまでもなくローズ。
そもそもあのローズが地下礼拝堂戦まで生き残っていたことが奇跡よ。
たぶんちゅるんさんに散々迷惑をかけたんだろうけれど、そのちゅるんさんもサンバを踊りながら斬られた。
バロームさんがノーキーさんを庇って落ちたのはともかく、串カツさんまで。
まさかそこでバロームさんと張り合うとは思わなかったわ。
最後まで残ったのはランカーのノーキーさん、真田さん、不破さんの三人。
予想通り
意外なくらいあっさりと真田さんは落とされるんだけれど、ノーキーさんを庇って腕を落とされながらも不破さんが大健闘。
二人がほぼ同時に落とされて 【特許庁】 は無事にジ・エンド。
見事なくらい真っ黒なバッド・エンディングでした。
【素敵なお茶会】 と似たようなエンディングを迎えたのは、ライカさん率いる 【暴虐の徒】 と方向音痴のロクローさん率いる 【アタッカーズ】。
面白かったのが、どちらのギルドも数人いる女性プレイヤーが、拾ったクリスマスコスのミニドレスを聖女にあげるって差し出したところ。
わたしみたいに着たくないからじゃなくて、心底聖女に同情しているように見えたのが凄かった。
聖女が昇華したあとにそれらのドレスはちゃんと残り、例の 【贖罪の涙】 も二つゲットしていた。
つまりゲームクリアだとこの 【贖罪の涙】 がもらえるってことかな?
もちろんそれは全然いいんだけど、問題なのは双方のギルドがその 【贖罪の涙】 をわたしに献上しにきたこと。
献上ってなに?
いらないって何度も断ったのに結局押しつけられて、クロウに押しつけられた分と合わせて六つになってしまった。
仕方ないからギルド倉庫に入れようとしたら恭平さんに見つかって、なぜか怒られた。
『前にも言ったけど、高価な物とか価値のありそうな物は管理出来ないから入庫不可』
そんなメッセージつきで送り返されてしまった。
あと、興味深かったのがアンジェリカさん率いる 【グリーン・ガーデン】。
ここもクリアしたんだけど、ラストがわたしたちとは違っていて、例えるならわたしたちのクリアが昇華だとしたら、【グリーン・ガーデン】 は贖罪。
アンジェリカさんとフレデリカさんの、あの止まらないマシンガントークで諭しに諭されて、最後にはとうとう聖女が反省の涙を流して終わるっていうね。
そして 【贖罪の涙】 を入手。
こういうイベントだと、どうしても知り合いのギルドを中心に観戦してしまうから、ひょっとしたらもっと違うエンディングもあったのかもしれない。
だとしたら今回のイベントはマルチに近いエンディングね。
今までになかったタイプのイベントだと思う。
「運営も、プレイヤーの傾向を探ってる感じ?
明日あたり、年始イベントの発表と一緒に、今回のイベントのアンケート出してきそう」
そんなカニやんの予想は大当たり。
しかも回答したら物品がもらえるっていうから、もちろん協力するわよ。
でもその前に地獄の年末進行が待ってるけどね。
だから回答は仕事納めのあとで。
さぁ残業するわよ!!
これでやっとクリスマスイベントが終了!
そして年始イベントへ・・・。
感想でもご指摘戴いたのですが、今後、現実時間と作中の時間をリンクさせず、のんびり進めようと思います。
ですから真夏に雪が降るようなこともあるかもしれませんがご了承ください。
とりあえずグレイは残業です。 ←次話?