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381 ギルドマスターは闇の解放を試みます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうござます!!

 観自在菩薩 行深般若波羅蜜多……とお経を唱えたところで成仏しないのよね、この聖女は。

 あ、でも日本人だし、いける?


「無理じゃね?

 仏教徒じゃないし」

「そういえば俺も仏教徒じゃねぇな」

「そもそも成仏じゃないから」

「聖女に日本人なんて設定あったかしら?」

「だよねー。

 僕だってこんなキンキラな髪してるし」

「それをいうとグレイさんなんて真っ白」


 ごめん、わたしが悪かったです。

 うん、まぁ聖女の国籍設定なんてどうでもいいんだけどさ、成仏……じゃなくて……ちょっと待って、成仏じゃないならなんていうのよ?


「この場合だと昇華?」

「昇天は?」


 ムーさん、それは成仏と同じ意味だと思う。

 消滅とか、合体とか同化とか、そんな感じ?


「意味的にはそんな感じじゃないかな」


 恭平さんの同意を得てわたしは 「なるほど」 と頷くんだけれど、少しせっかちなところがあるクロエが結論を急いでくる。


「結局無力化したらいいんでしょ。

 もう一回落としたらいいんじゃない?」


 一番手っ取り早く簡単なんていって、さりげなく銃に手を掛けるところが怖い。

 なんて暴力的な解決方法を……と呆れていたら、柴さんやムーさんまでが鞘に収めていた剣を抜こうとするから慌てて止める。

 いやいやいやいや、待って、三人とも。

 もちろん柴さんとムーさんは脳筋だから仕方がない。

 頭を使って考えたくないのはわかるんだけど、すでに戦闘は終わっているし、聖女も武装を解除している。

 装備が変わったのはそういう意味だと思う。

 だからきっと、正解はもっと平和的な方法だと思うんだけれど……浮かばない。


「わたし、このまま教会に戻ってもきっと居場所はないわ。

 だっていつものわたしがいるんだもの」


 これはシナリオ?

 ちょっと疑問に思える聖女の言葉。

 決められたセリフは、分岐に必要だから言うよう設定されているだろうけれど、AI搭載ならちょっとくらいは雑談とか、出来ないかしら?


「あなたが戻るべきは、いつものあなたの心の中じゃない?」


 ちょっとだけ、言ってる自分が恥ずかしくなるわ。

 でも他に的確な言葉が見当たらなくて、思ったままを言葉にしたらこうなってしまった。

 話しかけるわたしの言葉を聞いて不思議そうな顔をする聖女。


「わたしの心?

 わたしの心はここにあるわ」


 うつむき加減に、聖女は両手を重ねて自分の胸にあてる。

 相手がAIだと思うとちょっと複雑な心境になるけれど、今は気にしないことにして会話を続ける。


「でもあなたはいつもの聖女と同一人物よ」

「でも分かれてしまったから、わたしには帰る場所も、いる場所もない。

 だったらあいつを殺せば……」


 再び聖女の中で黒い感情がくすぶり始め、その体から黒いモヤのような物が放たれる。

 待って待って、それはちょっと待って。

 殺すなんてそんな、直接的すぎるでしょ。

 慌てふためくわたしの横からカニやんが口を挟んでくる。


「たぶんあっちの聖女を殺したらあんたも死ぬ。

 陰っていうのは往々にしてそういうもんだから」

「じゃあどうしたらいいのよっ?!」


 聖女の感情が高ぶると周囲を漂う黒いモヤが色を増す。

 これはいわゆるバッドエンドコースってことかな。

 まぁそういうことならそういうことで、時間は掛かるけれどチャンスはもう一回あるし、そっちに賭けるしかないか。

 でもこの聖女との対話は、なんらかの形で終わりにしなければならないらしい。

 そうしないとこのイベントエリアから通常エリアに戻れそうにない。

 一応イベントウィンドウを開いて、中途離脱(リタイア)というか、中途退場(エリアアウト)出来ないか探してみたんだけどね。


 ない


 同じようにクロウやカニやん、恭平さんもそれぞれに自分のウィンドウで探してくれたけれど、結果は当然同じ。

 どうやらプレイヤーの任意では終了出来ない、不親切設定らしい。


「知ってた?

 イベントが始まってから四時間が過ぎてる」


 え? そうなの?

 通常の設定時間三時間を一時間もオーバーしているなんて、どおりでお腹が空いてきたわけだ。

 それに疲れてきた。

 いい加減、一度終わりたい。


「それじゃあ、バッドエンド上等だね」


 クロエに言われるまでもなく、この黒いモヤがすでにバッドエンドに進んでいることを示唆していると思うんだけれど、なるべくならもう戦闘は回避したい。

 だから出来たら聖女を刺激して欲しくなかったんだけど、クロエだからね。

 発言の辛さと過激さはギルド一よ。


「そうやって癇癪起こして、気分任せにもう一人の自分を殺せばいい。

 完全に帰る場所をなくして、ずっとここにいればいいんだよ。

 僕らの知ったことじゃないし」

「なんですって!」


 ああ、ほら、やっぱりモヤの色が濃くなっていく。

 バッドエンド回避はもう望まないけれど、戦闘は回避したいな。

 クロエの挑発に怒りを高ぶらせる聖女の姿は、黒いモヤの中で時折、脱ぎ捨てたはずのボンテージファッションに変わる。

 あれが完全にボンテージファッションに戻ったらバッドエンド決定。

 それこそ天井が落ちるとかでギルド全滅コース確定。

 たぶん戦闘にもならず、攻略失敗という結果が出るんだと思う。


 もちろんもう戦闘はいいわ。

 一瞬で結果が出るならそれでもいいんだけれど、ルゥとタマちゃんは逃して欲しい。

 でも今回も参加メンバーとして登録してしまったから、きっと見逃してもらえない。

 嫌だなぁルゥが死んじゃうのは……と考えながら足下を見たら、暇を持て余したルゥが、なぜかでんぐり返しをして遊んでいた。

 運動神経はいいはずなのに、その超がつく癖っ毛の流れが邪魔をするのか、真っ直ぐに転がれないっていう超残念なでんぐり返し。

 でもルゥは楽しそうね。


 可愛い


 きっと腕輪に召還しても、飼い主(わたし)が落ちた時点で一緒に落ちた扱いになるんじゃないかな。

 だったらこのままでも……うん、聖女もこのままでいいんじゃない?


「グレイさん?」


 聖女と睨み合うクロエが、少し拍子抜けしたような顔でわたしを振り返る。


「だって、あの聖女はいつもの自分に必要な部分だけを引き連れて、ドームの教会に戻っていったんでしょ?

 いつもの仕事をするのに不必要な部分、つまり(あなた)を切り離して。

 そうやってあの聖女が自分の負の部分を切り離したのなら、あなたもあの聖女を切り離したらいいんじゃない?」

「そんなことをしたらますます帰れなくなる!」


 これだけでは伝わらないのか、聖女は声を荒らげる。


「どうして?

 だってあなた、最初に言っていたじゃない、好きで聖女になったわけじゃないって。

 だったら聖女をやめればいいのよ」

「わたしに聖女をやめてどうしろっていうのよっ?」

「どうって……したいことがあるんでしょ?

 彼氏作ってデートしたり、女友達と女子会したり。

 すればいいじゃない。

 聖女でなくなったあなたは自由なんだから、それこそ好きなお洒落が出来るのよ」


 ここで名案を思いついちゃった。

 慌ててインベントリを開いて、あのミニドレスを取り出して聖女に差し出す。


「これ、着てみたら?

 だってそれは礼拝(ミサ)用の装備(衣装)でしょ?

 もう終わってるわけだし、聖女やめたんだからもっと可愛い装備(ふく)を自由に着たらいいのよ」


 いくらなんでもそのツリーの着ぐるみはなしで。

 でもこのミニドレスなら、クリスマスが終わっても着ていられるし、この程度のドレスなら普段から着ているプレイヤーもいるもの。

 全然違和感なく歩き回れるわよ。

 しかも元々は大天使からのクリスマスプレゼントだしね。

 その大天使を召喚した聖女に譲って不都合な理由はない。

 譲ってしまえばわたしは着なくてす……ゲフゲフ……なんでもありません。


「ああ、そういうこと。

 気前のいいことをいうなと思ったら、考えの底が浅すぎ」


 思わず口を滑らせかけたところを留めたつもりだったけれど、手遅れだったらしい。

 クロエには白い目で見られてしまった。


 でもでもだって、本当にその装備はもらい物というか拾い物で、ただで入手しているから手放すのに問題は無くて……うん、まぁ着たくないから手放したいんだけどね。

 だから嬉しそうな顔をする聖女に 「本当にいいの?」 と尋ねられた時は、ちょっとだけ胸が痛んだ。

 きっと良心の呵責というやつね。

 ここでわたしが罪悪感を覚えるのもおかしな話なんだけど。


 だって不要な装備よ。

 しかもただで入手したものだもの。

 必要とする人にあげてもいいじゃない。

 そうでもしないとインベントリがパンクしちゃうし。


「はいはい、いいわけはいいから。

 本当にもらっていいか訊いてるんだから、答えてあげたら?」


 あ、そうだった。


「もちろん!

 それを着て友達を探してらっしゃいよ。

 ナンパもいいわね。

 ウィンドウショッピングも出来るし」


 嬉しそうな顔をした聖女は、わたしが少し強引に押しつけたミニドレスを大事そうに抱える。


「ありがとう!

 わたし、嬉しい」

「そう、よかったわ」


 気がつくと黒いモヤが晴れている。

 そして、気のせいでなければ聖女の姿が薄くなっているような……


「ねぇあなた、わたしの最初の友達になってくれない?」


 涙ぐみながらも少し恥ずかしそうな聖女。

 クロエほど自分が強くぶれないキャラならともかく、多くの人はこの場面で 「ノー」 とは言えないと思う。

 もちろんわたしも。


「いいわよ」


 躊躇なく答えるわたしに、彼女の双眸から溢れる涙が頬を伝って流れる。

 まるで真珠のように綺麗な涙ね。

 彼女はその涙を拭うことなく、わたしを見上げて言う。


「ありがとう」


 見る見る薄くなっていくその姿に、わたしたちはようやくイベントの終了を知る。

 これが正解かどうかはわからない。

 わからないけれど、聖女が完全に消えてしまうのを待って、いつものようにインフォメーションが現われる。


information game clear

   congratulations, Your win!


 やっと終わった……というのが素直な感想なんだけど、一つだけ不満が残った。

 それは聖女が消えたあとに、あげたはずのミニドレスが残っていたこと。

 え? なんで残ってるの?

 持っていかないのっ?!


 ちょっと、忘れ物よっ!!

やっと聖女が成仏して終了。

この話はあと一話で終了し、年末進行へGo!

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[一言] サンタドレスを来たら、聖女(ストレス)が遊びに来たりして(笑)
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