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380/806

380 ギルドマスターはストレス社会に適応出来ません

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

「わたしの望みってなに?」


 大天使たちが余計なことをしてくれて、倒したはずの聖女がゾンビの如く蘇った……と思ったらこれよ。

 この質問の繰り返し。

 どうやらこの質問に、正しい回答をするまで繰り返されるらしい。

 しかもメンバーの推測では、答えは一つではない可能性もあって、答えによって分岐する可能性もあるとかないとか。


 面倒臭い


 思わずクロエの意見に一票入れたくなった。

 まだどこのギルドもクリアしていないから……ひょっとしたら同時進行でどこかのギルドが同じところまで進めている可能性は当然あるんだけれど、あるとしたら 【鷹の目】 の可能性が高いんだけれど、あったとしてもお互いの状況を知ることは出来ない。

 インカムはイベントエリア内にいるギルドメンバーとしか通じないし、このボス部屋は一度入ると出られないから。


 それに後続ギルドがある程度進行しているイベントに、途中で横殴りを仕掛ける不公平さを考えると、このボス部屋はI(インスタンス)D(ダンジョン)扱いなのかもしれない。

 入る時に転送などの違和感はなかったけれど、通路からここへつながるあの暗闇が怪しいと恭平さんがいっていた。


 なるほど


「わたしの望みってなに?」


 …………とりあえず誰も正解出来なくて、聖女の科白(セリフ)は未だ繰り返されている。

 それをプレイヤー(わたしたち)に訊くっていうのは、そもそもどういうこと?

 質問に質問を返して悪いんだけど、こうなった原因は一体何なの?

 なにをどうしてあなたはそうなって、七大天使があなたの手下になったわけ?


「わたしの……わたしはただ……わたしはただ……」


 あ、科白が変わった。

 途中までそれまでの科白を繰り返しかけたんだけれど、わたしの質問返しの中に答えがあったらしい。

 思うことを言い辛いのか、聖女は躊躇うように言葉を繰り返し……ていたと思ったら、不意に彼女の姿がボンッと爆発した煙玉の中に消えた。

 もちろん煙玉なんて実際にはなかったんだけれど、まるで煙玉が爆発し、その爆発音の中、発生した煙でその姿が見えなくなったというのが正解。

 しかも煙はほんの数秒で消えたんだけれど、あとに現われた彼女の姿は、その……なんというか、コスプレ?


 着ぐるみ?


 どっちにカテゴリー分けされるんだろう?

 たぶん彼女がまとっているのはクリスマスツリー。

 クリスマスツリー柄の服を着ているんじゃなくて、クリスマスツリーの中に彼女が入っている感じで、開いた穴から顔を出している。

 茶色いタイツを穿いた足はたぶん木の部分で、靴は、両足を揃えると鉢に見えるようなデザインというか、形というか。

 凄く歩きにくいと思うわ、これ。


 なんなのっ?!


 さっきまでのボンテージファッションからの転落っぷりがひどくて頭がついていかないんだけど、その格好はいったいなに? ……と、なるべく平静を装うというか、務めて普通に話しかけてみる。

 すると聖女は突然両手で顔を覆い、ワッと泣き出してしまう。


「だって、わたしだって好きで聖女になったわけじゃないのよ!

 それなのにみんな、もっと優しくしろとか、いつも同じ表情(かお)とか、いつも同じ装備(ふく)とか、サービスが悪いとか、聖職者ならただで働けとか無茶苦茶な要求ばっかり!

 いくら聖女だからって、24時間働かされてトイレにも行けなくて!

 化粧直しだって出来やしないんだから!

 もっと安くしろとか言われたって、教会(こっち)だって賃貸料とかかかってるんだから!

 仮想現実(この世界)で、安全でいい立地を借りようとしたらいくらすると思ってるのよ!

 職員だっていつも給料が安いとか、もっと休みをくれだとか!

 そんなの、わたし一人でどうしろって言うのよ!」


 …………あ、しまった。

 聖女の剣幕というか、感情の噴火に思わず呆気にとられてしまった。

 えっと、でもまぁ言いたいことはなんとなくわかったような気がする。

 聖女も感情がすっかり乱れちゃって、言いたいことを上手く言えていないような感じだけれど、つまり不当要求(クレーム)によるストレスってことよね?

 全部ひっくるめて要約すると、そういうことよね。


「ってかさ、これ、プレイヤーから運営に送られてくる要望(クレーム)じゃね?」


 うん、そんな気がする。

 ようするにNPC(聖女)上司(運営)お客様(ユーザー)の板挟みでストレスが溜まっていた。

 よし、ここまではわかった。

 つまりこれが今回の騒動の切っ掛けかと思ったら、またまたわたしの早とちり。

 彼女の話には続きがある。


「せっかくのクリスマスだって礼拝(ミサ)をするって。

 クリスマスなんだから礼拝(ミサ)をして当然って、勝手に予定(スケジュール)を決められて。

 わたしだって彼氏を作ってデートしたり、女子会だってしたいのよ!

 クリスマスなんて今年最後のカップルイベントじゃない!

 彼氏いないけど……作る暇なんてなかったのよ!

 永遠の独女とか、いつも同じ装備(ふく)ってからかわれて!

 わたしだってもっとお洒落したいんだから!」


 い……居たたまれない……


 感情に起伏を付けた聖女の名演技にすっかり乗せられたわたしは、彼氏云々のくだりに自分の現状を重ねて居たたまれなくなる。

 わたしだってクリスマス・イブもクリスマス当日も普通に仕事して、仕事が終わったら普通に家に帰って、ケーキを買って実家に戻ってきていた兄二人と一緒に食べたわよ。

 侘しい女一人のクリスマスを、実の兄に慰めてもらいました!

 あの二人のことだから、きっとあちこちのパーティに誘われていたはずなのに、なにも言わず、一人で過ごすとわかっている(わたし)のために断って。


「グレイさんとこは過保護だからな」

「スゲェ妹馬鹿(シスコン)

「カニは少し見習えよ」

()なこった!

 だいたいあいつ、クリスマスはイベントでいねーよ」


 よ、よし! 来年のクリスマスは絶対に彼氏と過ごす!

 まだ一年あるし……


「彼氏いない歴 (イコール) 年齢 の成人女子が、一年頑張ったところで出来ると思ってるわけ?

 いくら美人だからって、舐めてない?」


 せっかくの決意に水を差すどころか、手厳しくへこませてくるのはクロエ。

 自分だって彼女はいないって言ってたくせにと反撃を試みてみたら、余裕で打ち返された。


「今はいないけど、って意味ね」


「だからわたし、せっかくのクリスマスだからと思って新しい装備(衣装)を用意したの」


 わたしたちの会話をよそに、聖女の告白というか、懺悔というか、ほぼ独り言は続いていた。

 ん? ちょっと待って。

 クリスマス礼拝(ミサ)用に準備した新しい装備(衣装)って、まさかと思うけどその着ぐるみ、とか?

 まさかまさかよね? ……と思ったんだけど、聖女は平然とした顔で期待を裏切ってくれたというか、裏切らないというか。


「そうよ、この装備(衣装)

 (おごそ)かな礼拝(ミサ)もいいけれど、たまには楽しい礼拝(ミサ)があってもいいじゃない。

 どうせならクリスマスを盛り上げようと思ったのよ!

 それなのにあいつら、馬鹿にして笑ったの。

 面白いものが見られたとか言って写メ撮り始めて、礼拝(ミサ)を無茶苦茶にしてくれて」


 これは喧嘩両成敗?

 だって、どう考えても聖女の悪ふざけが原因でしょ。

 そりゃ聖女の気持ちもわからなくはないけれど、どう考えても思考が斜め上をいってるもの。

 楽しい礼拝(ミサ)っていうのはともかく、盛り上げるっていうのも違うと思う。


「そもそもわたしは聖女であって司祭じゃない。

 どうして礼拝(ミサ)を執り行わなきゃいけないのよ!」


 いきなり核心を突いてくる聖女なんだけれど、司祭と牧師ってどう違うの?

 格とか資格?


「宗派の違いじゃなかったっけ?

 カトリックとか、プロテスタントとかあるじゃん。

 ああいうので違うらしい」


 さすがカニやん、物知りね。

 でもそのどちらでも聖女が礼拝(ミサ)を執り行うことはないと思う。

 この点は運営が悪いというか……ひょっとしてNPC長官も一枚噛んでるとか。

 聖女が礼拝(ミサ)を執り行うことになった原因に。

 その結果があの惨状で、慌てて証拠隠滅のため聖女抹殺を計った……え? まさかそういうこと?


「さすがにそこまではわからなけど、聖女のストレスが原因で騒ぎになったのは間違いなさそう」


 そういったカニやんは、話の続きを待つように彼女を見る。


「わたし、それでも頑張ったのよ、最後まで。

 その最後で奇跡が起こったの。

 本当に天使が降臨したのよ、わたしの望みを叶えるために」


 この薄暗い地下礼拝堂で天井を見上げる彼女は、七大天使の召喚を奇跡という言葉で片付け、降臨するその奇跡を受け入れるかのように両手を広げてみせる。


「だからわたし、望んだの。

 まずはあいつらを殺してって!」


 その結果が地上の礼拝堂に残されていた血痕ね。


「でもミカエルたちがあいつらを片付けるのを見ていたら、自分でもやりたくなって。

 それでわたしにも力をって望んだの。

 あいつら次から次に来るから丁度よかったわ。

 あの装備(ふく)も動きやすかったし」


 聖女の話どおりだと、あのボンテージファッションは七大天使の嗜好ってことになるんだけれど……これ、大丈夫なの?

 そんなわたしたちの不安なんて気にすることなく、聖女はシナリオを進めてゆく。


「でもあいつら、殺しても殺しても追ってくるから。

 それで地下礼拝堂(ここ)に隠れて、ミカエルたちにあいつらを皆殺しにしてって。

 だからわたしの望みは全て叶ったわ」


 ここで一呼吸ほどの間を置き、聖女は不思議そうな顔をする。


「でもおかしいの。

 わたしはここにいるのに、礼拝(ミサ)が終わったあともう一人のわたしが何食わぬ顔でドームに戻っていったの。

 そして今もいつもどおりの業務をしている。

 どういうこと?」


 それはこっちの質問なんだけど?

 どういうこと?

 いつもの聖女とイベント用の聖女、二人いることはわかっていることだけれど、イベント用の聖女がいつもの聖女の存在を知っているってどういうこと?

 なんだか話がややこしくなってきた気がする。


「闇堕ち案件かと思ったら、まさかのペルソナ案件かよ」


 なに、それ?


「もう一人の自分ってやつ。

 つまりこの聖女は、いつもの聖女の中から抜け出した陰の部分。

 ストレスの塊」


 でも彼女、もう望みはないって言ってるけど?

 一応ストレスは発散出来たってことじゃないの?


「でも戻れないんだろ?」


 うん? つまりこういうこと?

 このイベント進行中も教会には当然聖女がいる。

 イベントに参加しないプレイヤーはいつもどおりだからね、教会に行って彼女がいないと困るわけだし。

 運営はそこも含んでこのシナリオを作っていて、プレイヤーはこの 【黒い聖女】 を本来の聖女に戻さなければならない。


「そういうことっぽい」


 なに、その面倒臭さはっ?!

 ストレス発散出来たんだから自分で戻れるんじゃないの?

 わたしも色々拗らせてるってみんなに言われるけれど、この聖女もどんだけ拗らせてるのよっ?

 なにを拗らせてるのっ?


 さっさと成仏してよ!!

あれ? まだ終わらない・・・(汗

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― 新着の感想 ―
[一言] こ……………これは……………皆でクリスマスケーキ食うとか……………←解決するか?
[一言] 今回のクリスマスイベント中、現実の日付を気にされていましたが、正月を越えて節分になりましたね。 ※今年は2/2が節分だそうで... グレイのセリフ(地の文)がいつも通りで時が進んでいないの…
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