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377 ギルドマスターは腰痛に悩まされます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 聖女のHPを削っても削っても、残量が一定値に達するとガブリエルが自発的に登場して、これまた自発的に聖女を回復。

 そしてまた消える……じゃキリがない!

 だったらガブリエルを先に落とすわ。

 カニやんの推測が正しければ、ガブリエルは完全な回復要員で攻撃手段を持っていない。


 簡単!


 ……とはいかないのよね。

 もちろんわかっていたけれど。

 だってプレイヤーにもいるじゃない、攻撃手段を持たない……わけじゃないけれど、【浸食】 は抜群の威力を発揮する危険な守りであって、一応攻撃手段ではないらしい。


 強いていうなら護身術?


 なにしろ 【浸食】 は術の発動者までも呪うから、彼女自身も危険にさらされることになる。

 蝉とりの時は、意図してカニやんを 【浸食】 で呪ってくれたけれど。

 彼女にしてみれば、予定外に不破さんとノーキーさんを落とされたことへの報復というか、帳尻合わせというか。

 そういう意味じゃカニやんって、凄い大物ね。

 あの二人と引き替えなんて。


 そんな蝶々夫人を真似て、キンキーも何かしら護身術を考えているらしい。

 でも彼女の一番の強味はそのずば抜けた回復力。

 攻撃(クラス)のように結果が目に見えるわけじゃないし、こういうゲームだと死亡(デス)撃墜(キル)の数が話題になりがち。

 だからそのどちらとも無縁な回復係に順位のようなものを付けるプレイヤーはいなくて、でもそれをあえて順位を付けるなら間違いなく蝶々夫人がトップ回復系魔法使い(ヒーラー)

 あの回復量を前にして、それこそランカー(クラス)剣士(アタッカー)でもなければ落とすことは難しい。

 もし彼女がランカー以外の剣士(アタッカー)に落とされるようなことがあれば、きっと敗因は回復用のMPポーション切れね。

 前にもそういうことがあったらしいから。


 つまりプレイヤーでも出来るんだから、【聖獣】 とはいえかなり上級のガブリエルにできないはずがないわけで、出現したままのガブリエルは、わたしが放った 【演蛇(えんじゃ)】 の拘束で身動き出来ないこともあって、斬られるまま。

 でもHPが一定値まで下がると自己回復しちゃうのよね。


 NPC(聖女)の槍に耐久が設定されていないように、NPC(ガブリエル)のMPに枯渇はない。

 でもプレイヤーの武器には耐久値があって、MPには上限値があり、当然使用限界を示す(ゼロ)が存在する。

 この消耗戦は、明らかにプレイヤー(わたしたち)に分が悪い。


 ガブリエルを雲隠れさせないようひっきりなしに攻撃を仕掛けているけれど、当然聖女の足止めも必要で、【素敵なお茶会(わたしたち)】 は火力を二手に分けざるを得ない。

 ここは集中的にガブリエルを狙って一気に攻め落としたいところなんだけれど……難しいな。


 ずば抜けた槍術による攻撃力を持つ聖女の足止めは学生トリオだけでは難しく、かといって恭平さんとJBを加えてなお、ガブリエルに致命的な一撃を与えることが難しい。

 反撃がない分、学生トリオをガブリエル側に回すのは安心なんだけれど、あの一回の回復量を上回る与ダメを出さなければ削れない。


 聖女の足止めをするクロウと脳筋コンビの方は少し余裕があるけれど、でもあくまで足止めだから。

 本格的に削ろうと思えばやっぱり三人でも時間は掛かると思う。

 かといって一人を対ガブリエル戦に回せば、聖女の足止めは難しい……というか、たぶん出来ない。

 せっかくクロウが片腕を切り落としたのに、うっかりガブリエルを登場させてしまったばかりか、それまでに削ったHPを含めて全回復されちゃったし。

 しかも聖女は 【幻獣】 だから、闇落ちしているくせに光属性はもちろん闇属性も無効。

 そしてノックバックしないというハイスペックの持ち主。


 どうする?


「どうするって……削るしかないでしょ」


 それはわかってます。

 その方法を考えてるんじゃない、もう!


「の~りん、アキヒト、そろそろ仕事するぞ」

「仕事って、聖女は反射……」

「起動…………氷雪乱舞」


 の~りんの話を最後まで聞かず、それどころか聖女と接近戦を繰り広げる剣士(アタッカー)に注意を呼びかけもせず攻撃を仕掛けるカニやん。


「ぐぉら、カニ!」

「俺らにもぶっ刺す気か!」


 まぁ当たらないけどね、あの三人は。

 というか、聖女、魔法攻撃効くんだ。


「【幻獣】 だから光と闇は無効だけど、他はいけるんじゃね?」

「起動……」

「起動……」


 カニやんの放った貫通攻撃 【氷雪乱舞】 でダメージを受ける聖女を見て、即座にの~りんとアキヒトさんも詠唱を始める。

 でも気をつけないと、あいだが空いて硬直が解けると一瞬で来るわよ……と忠告している最中、聖女の目が捕らえたのは三人のうちの誰だったのか。

 一瞬で来るからわからない。


「ルゥ!」


 ごめん!!


 ひどい飼い主だと思う。

 無茶振りだとも思う。

 でもこの状況で 【幻獣(聖女)】 を止められるのは 【幻獣(ルゥ)】 だけで、他に手段がなかった。

 わたしの足下で可愛らしくおすわりをしていたルゥは、なぜかこのタイミングで耳の後ろが痒かったらしく後ろ足でカリカリと掻いているところだった。

 そんな姿も可愛すぎてモフりたいというか、一緒に掻いてあげたいところなんだけれど、邪魔してごめんね。

 ちなみにタマちゃんも、カニやんの後ろで顔を洗っていたっていうね。


 残念


 うん、揃いも揃って残念すぎるAI搭載だから。

 二匹は悪くないってみんな知ってるから。

 もちろん二匹が凄い戦闘能力と運動神経の持ち主だってこともみんな知ってるから。

 だからルゥは、飼い主(わたし)の声に応えることはもちろん、いつものように 「なに?」 という可愛らしい顔で見上げることもなく。

 それこそ掻いていた後ろ足をいつ下ろしたのか、わからないほどの速さで横っ飛び。

 の~りんの眼前に着地……っていうのかしら、この場合?

 ちょっとどう表現していいのかわからないんだけれど、の~りんの眼前に迫った聖女の横っ腹に本日二度目の頭突きを食らわせる。


「ぐぉっ!!」


 まるで柴さんやムーさんみたいな……つまりオッサンばりに下品な悲鳴を上げる聖女は、今度は体を横くの字にへし曲げる。

 凄く不自然な体勢なんだけれど、そこは同じ 【幻獣】 でも耐えられないみたい。

 しかも一日で二度もルゥの頭突きを食らうなんて、ご愁傷様。


「いや、食らわせたあんたが言うなよ」


 どうせなら、今度こそ背骨ぼっきり逝けばよかったのに。

 なんとか凌げたことにホッと胸をなで下ろすカニやんだけれど、気を抜くには早いんじゃない?

 ちなみにの~りんは、ルゥに一瞬遅れて動いたタマちゃんに、首根っこをくわえられて後ろに引っ張られていた。

 刺されて落ちるか、首が絞まって落ちるか、なかなか苦しいところね。

 それでも助かったことに、の~りんはタマちゃんの頭を撫でてあげる。


「あ、ありがと、助かった……」


 ちょっとの~りん、あとでルゥも撫でてあげてよ。

 今の大活躍、見たでしょ。


「えっと、ワンコは噛むから無理。

 勘弁して」


 …………そうだった。

 じゃあわたしがの~りんの分もモフっておくわ。


「うん、そうして。

 是非ともお願いします」


 わかりました。


「またお前かー!!」


 さすがに二度も腰にルゥの必殺頭突きを食らって厳しいのか、槍を杖代わりにして立つ聖女は、すぐ近くでおすわりをし、中断していた耳の後ろを掻き直すルゥに罵声を浴びせる。

 その声を最初はどこ吹く風で耳を掻いていたルゥだったけれど、掻き終わって満足したのか、不満げな 「ぎゅ!」 という声を上げて聖女を睨んだかと思ったら……これはひょっとしてお尻ペンペン?

 のっそりと立ち上がり、聖女に背を向けて尻尾で自分のお尻を叩く振りをしてみせる。


 かわいい


 いつの間にそんな芸を覚えたのかしら?

 あとでゆっくり見させてね。

 わたしはちょっとお仕事をしなきゃいけないから。


「起動……クロノスハンマー」


 こちらの状況に思わず学生組が手を止めてしまい、恭平さんやJBまでが驚きのあまり攻撃の手を止めてしまったから、ここぞとばかりに姿を消して逃げようとするガブリエルを足止めしておきます。


「悪い、グレイさん」


 クロノスハンマーの効果が切れるのを待って、恭平さんの指示で再びガブリエルに攻撃を仕掛ける学生組とJB。

 こちらはといえば、ルゥの挑発に怒り心頭の聖女。

 その背後に気配を消して忍び寄ったクロウの一撃が首を狙うんだけれど、やっぱり躱してくる。

 それどころか危うくクロウの首が落ちるところだった。


「ひょっとして、学習してる?」


 そうかもしれない。

 ヒトには癖というものがある。

 だからさっきと似たような状況に、攻撃を仕掛けるクロウの動きは同じだったのかもしれない。

 狙いもさっきと同じ首だし。

 でも聖女はそれを見越し、しかも学習し、さっきは肩を貫通させた槍でクロウの首を狙ってきた。

 それをギリギリで、それこそ皮一枚で躱してみせるクロウの首から一筋のHPが流出する。


「ヒール」


 即座に回復しつつルゥを呼び戻し、この場からの離脱を図る後ろでゆりこさんに怒られる。


「ちょっとグレイちゃん、それは回復系魔法使い(わたしたち)の仕事!

 余計なことしてないで、さっさとそこから逃げる!」

「だよな。

 心配なのはわかるけど」


 同じことを言おうとしていたらしいカニやんが、こちらを見てにひっと笑う。


「仕切り直す。

 起動……」

「起動」


 戦場を移した聖女から十分な距離を……それこそ魔法攻撃の射程ギリギリに置き、足下にすり寄ってきたタマちゃんの頭を撫でながら、改めて攻撃態勢に入るカニやん。

 それに続くの~りんとアキヒトさん。

 さっきは失敗したけれど、改めて魔法攻撃で聖女の足止めをするつもりらしい。

 もちろんその狙いはわかっている。

 攻撃型魔法使い(ソーサラー)で聖女の足を止めて、うちの重火力トリオをガブリエル戦に回して確実に落とそうってことでしょ。


「グレイさんは両方の支援、出来る?」


 やります。

 闇属性の(スキル)を持っているのはわたしだけだからね。

 でもガブリエル戦にわたしは必要ないわよ。

 だって接近してもガブリエルからの反撃はないわけで、あの三人で囲んで切り刻めばあっと言う間じゃない。

 どんな高回復力でも、あの三人に削られてどれだけ保つか。

 ただ、ガブリエルを落としたあとに聖女がどう出るか……一つ、気になることがあるのよね。


 HPやVITが高いから瞬殺には出来ないけれど、案の定、ものの数分で落ちるガブリエル。

 もちろん配置を逆にしてもよかったんだけれど、大天使は魔法耐性が高いため攻撃型魔法使い(わたしたち)じゃ苦戦を強いられるのは目に見えていた。

 だからこの配置が正解。

 その姿がミカエル同様、致命傷となった傷跡から電子分解して消えてゆくのを見た聖女の、苛立たしげな表情と舌打ち。


「あんたたち、わたしを本気で怒らせたわね。

 もう容赦しないわよ」


 そういうことをいうのも悪役の定石(セオリー)よね。

 ひねりもなにもなくて呆れちゃうくらい悪役の科白(セリフ)だわ。

 でも油断は禁物。

 これまで槍を使った物理攻撃オンリーだった聖女がおもむろに詠唱を始める。


「来たれ、地獄の焔。

 我が意のままに全てを焼き尽くせ!」

聖女、最後の反撃!

いよいよ勝敗と原因が判明・・・

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