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375 ギルドマスターは策にはまります

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!


末尾に作者の妄想・・・じゃなくて、【休閑小話:NPCの内緒話】 をおいておきます。

お時間があれば、そちらもお楽しみいただけたらと思います。

 名称は黒い聖女だけれど、実際はハードモードの女王様。

 それが今回のラスボスって……うーん、今ひとつ筋書きが読めない。

 ここの運営の考えることだから凡人に理解出来ないのは無理もないことで、わたし個人の意見としては理解したくもない。


alert 黒い聖女 / 種族・幻獣


 エナメルっぽい光沢を放つ、体型にぴったりとした黒いビスチェに、黒いショートパンツ。

 そして黒い網タイツに黒いロングブーツ。

 でも手には槍を持ってる。


 どうして?


 だってここはどう考えても鞭でしょう。

 SMの女王様と言えば鞭しか想像出来ないのは、わたしが無知だから?


「女王対決でもするつもりか?

 出るなよ」


 いつもクロウがいる位置に、珍しくムーさんが立っている。


「ちなみにあれはボンテージファッション」


 聞いたことがある。


「喪は知らんでも、ぉ、ぐ……あぁぁぁぁぁーっ!」


 突然ムーさんが悲鳴を上げたからどうしたのかと思ったら、戻ってきたクロウに背後から首を絞められていた。

 ガチムチマッチョと細マッチョでなにしてるの? ……というか、それはどういう理由でのお仕置き?


「グレイは知らなくていい」


 もう時間もあまり残っていないというのに引っかかりを覚える。

 いっておきますが、わたしだってボンテージファッションぐらい聞いたことありますから。

 当然ナマで見たことはないけれど、ネットで写真くらいは見たことがある……と思う。

 語尾が完全に尻すぼみなのは、ちょっとだけ自信がないから。

 とりあえず時間もないし、あそこで槍振り回してハッスルしているお転婆……というには少し(とう)が立っているよう……ゲフゲフ……なんでもありません。


 禁句


 なんとなく、なんとなくね、今の聖女には言っちゃいけない言葉のような気がしたの。

 だから急いで訂正というか、取り消しよろしく。

 大至急でね……といっても、今の聖女には聞こえていないと思うけど。


 槍使い(ランサー)


 プレイヤーには未実装の(クラス)だけれど、あれだけ自在に動ければゲームも楽しいかもしれない。

 実際に聖女は凄く楽しそうで……といっても凄く悪い笑い方なんだけどね。

 その表情はもちろん、上げている声も、下品というか、悪意が全開というか。

 この状況だから敵意ならわからなくもないけれど、悪意っていうのは違うんじゃない?

 これはカニやんがいう 「闇堕ち案件」 と関係あり?


 基本、NPCが装備する武器は耐久が削れない。

 だから槍が折れることはなく、相手プレイヤー個々のレベルなんてお構いなしに、STR(腕力)任せに振ってくる。

 しかもあの長さをまるで自分の腕のように器用に操る術は、さすが槍使い(ランサー)

 お見事としか言い様がない。


 当然のことながら、槍は剣に比べて間合いが広い。

 クロウが扱う大剣・砂鉄の間合いよりも広いと思う。

 そもそもクロウはムカつくくらい手足が長く、その分だけ間合いが広いはずなのに正面から挑んでは剣先も届かない。

 しかも中途半端な下がり方だと、槍で殴られることはないけれど、通過する刃先にHPを削られる。

 しっかり下がらないと、打撃は躱せても斬撃までは躱せないっていう面倒さ。


 しかも槍使い(聖女)はそこもちゃんと見てる。

 だから相手に打撃を躱されたと思ったらすぐさま相手との距離を調整し、確実に刃先を当ててHPを削ってくる。

 しかも身が軽く、十分すぎるほど距離を置いて狙撃する銃士(ガンナー)に対しても一瞬で迫り、その首を落とそうと狙ってくる。


 でも三人の中では一番命中率がよく、目立つクロエを狙ったのが運の尽き。

 即座に超近距離射撃ラピッドマスターの三連発をお見舞いして反撃。

 これがくるくるやぽぽなら間に合わず、聖女の目論見どおり首を落とされていたかもしれない。


 但し 【幻獣】 はノックバックしない。

 だからがら空きになった背後から剣士(アタッカー)たちが追撃し、即座に反応した聖女が体を反転させた隙にクロエはその場を離脱。

 偶然近くにいたアキヒトさんを盾にしたのはご愛敬。

 うん、もちろん聖女が追ってきたら全然盾にはならないけどね。

 だってアキヒトさんは魔法使い(モヤシ)だもの。

 STR(腕力)は言うまでもなく、VIT(防御力)だって紙よ。

 霞よ。


 あって無きが如し


 それこそ槍の一振りで霧散するようなVITとHPなんだから。

 でもすぐに恭平さんがカバーに入ったから無事……じゃなかった。

 そんな恭平さんに感謝の意でも示したかったのか、アキヒトさんったら聖女が正面にいるというのに背後から恭平さんに抱きついちゃって、二人まとめて吹っ飛ばされたのは洒落にならない。


「離れろ、アキヒト!」

「クロエがひでぇ!」

「ボケッと突っ立ってる方が悪いんでしょ」

「えっと……ヒール? いいですか?」


 恭平さんのご立腹はごもっともな話で、キンキーは遠慮せずに回復してね。

 さすがにクロエは無傷だけれど、回復対象が二人なのでここはゆりこさんのご登場。

 タイミングよくエリアヒールで二人まとめて回復するのを見たキンキーは、その一回の回復量と合わせて尊敬のまなざしでゆりこさんを見る。

 うんうん、いい師匠よ、ゆりこさんは。


 是非見習って!


 でもあとでね。

 今はお仕事をして頂戴。

 槍使い(ランサー)は初見だけあって、トール君たちが聖女の速さと槍の長さに対応出来てない。

 しかも槍の攻撃を躱せているようで躱し切れていない、その微妙なラインは聖女の狙いなのか、一度に大量のHPを失うわけではないため残量をあまり気にしていない様子のトール君たち。

 視界の隅にHPゲージが見えているはずだけれど、結局それだって戦いに集中してしまうと、見えているはずなのに気づかない。

 そのまま戦い続けると、すぐにHPゲージが危険領域(レッドゾーン)に入るわよ。


「下がれ!」

「やばいっしょ、三人とも!」


 恭平さんとJBに声を掛けられて、ようやくのことで自分のHP残量に気づいたらしい三人は、一瞬驚きを見せ、そして慌てて後退。

 回復型魔法使い(ヒーラー)の支援を待たず、自らポージョンで回復を始める。


 どう説明したらいい?


 三人は上手く連携を取ってリズミカルに攻撃を仕掛けていたつもりだったけれど、実際には槍の達人である聖女の方が上手(うわて)で、まるで稽古をつけるように軽くあしらっていただけ。

 もちろん聖女がそう思わせる演出をしているわけだけど、彼女の策略にまんまとはめられた三人は、一撃で大量のHPを失うほどの大ダメージを食らうことはなく、むしろ数こそ食らっても被ダメは微々たるもの。

 しかも故意に演出された攻められそうで攻められない状況に、それでもあと少しでいけそう、あと少し、あと少し……と思わされ、その考えに囚われるあまり、実は自身の方がジリジリとHPを削られていることに気づけなかった。


 策士ね


 聖女なんていつもナゴヤドーム内にある教会……つまり安全圏にいて危険な目に遭うことはもちろん、戦闘参加なんてしたこともないはず。

 それがずいぶんな策士じゃない。

 見事な槍使い(ランサー)っぷりだけでなく、まるで百戦錬磨の戦士。

 さすが女王様は男の子の扱いが上手いというか、男心を弄ぶのがお上手ね。


 見習いたい


 ……いやいやいや、違うから。

 そうじゃないから。

 決してそんな不埒なことは考えてません!


「ちょっとぐらいなら考えてもいいけど」


 言葉の(あや)だっていっているのにカニやんがからかってくる。

 そうしたら当然絡んでくるのが脳筋コンビ。


「美人に弄ばれたい」

「俺もー」


 忙しいのによくやるわね、この二人も。

 回復中の学生トリオのカバーに恭平さんとJBが入って、クロウと三人で聖女の足止め中にたいした余裕だわ。


「それにしてもやばいな、これ」


 攻撃型魔法使い(わたしたち)も参加する?


「さっきのクロエ、見ただろ?

 一瞬で来るぞ」


 うん、あれは躱せない。

 超近距離射撃ラピッドマスターでもノックバックはしなかったけれど、物理攻撃が有効なのはわかっていた。

 だから直撃による硬直と、その隙をついた剣士(アタッカー)の追撃でクロエは難を逃れたけれど、あれを魔法使い(わたしたち)にやれというのは無理。

 そもそも物理攻撃を持っていないというか、STR(腕力)がないというか。

 唯一の物理攻撃として杖で殴るという手があるけれど、きっと蚊に刺されたほどにも感じないと思う。

 HPなんて微塵も削れないわよ。

 ただでさえ 【幻獣】 のVIT(防御力)は高いんだから。


 ねぇ、ルゥ


 同じ 【幻獣】 のルゥに同意を求めたら、いつものように 「きゅ!」 と可愛く鳴いて答えてくれる。

 次の瞬間、聖女の矛先がそのルゥに向いたのはビックリ。


「グレイ!」

「カニ!」


 警戒していたとはいえ、予想通りその一瞬で眼前に迫られては避ける余裕もない。

 ひょっとしたら、この移動の速さは聖女の持つ(スキル)かもしれない。

 運営が、ルゥを含めた全ての 【幻獣】 のステータスを非公開にしているから確かなことはわからないけれど、そんな気がする。

 ちゃんと観察しておけばよかったな、移動出来る距離とか。

 わたしの足下で可愛らしくおすわりをしていたルゥに迫る聖女に、わたしの反応は到底追いつかず。

 辛うじてカニやんに腕を掴まれ、二人してもつれるように床を転がって回避するのが精一杯。


 ルゥ!!


 慌てて体を起こしてみれば、おすわりをしたままのルゥは、聖女が突き立ててくる槍の切っ先を軽く前肢で払いのけていた。

 まるで 「邪魔!」 といわんばかりにぺしっとね。

 直後、槍の先が床に当たって固い音を立てる。

 もちろん聖女もその程度の対応に体勢を崩すことなく、すぐさま槍を横に振ってくる……のを、バックリやっちゃうのがルゥよね。

 しかもルゥも聖女も 【幻獣】 だからノックバックせず、ルゥが槍をくわえたまま放さないため両者硬直というか、膠着状態に。


「タマ、頼む!」


 カニやん(飼い主)の指示に、本人ならぬ本猫はきっといつものように可愛らしく鳴いたつもりだったんだろうけれど、今のタマちゃんは 【妖獣・猫又】 本来の姿に戻っていて、その鳴き声はまるで怨念をはらんだ化け猫。

 ちょっと背筋がぞわりとする怖さがあるんだけれど、この状況では、いつ聖女の標的(タゲ)がわたしやカニやんに変わるともしれず身動きがとれない。

 ましてこの近距離じゃ、標的(タゲ)が変わったと思った瞬間に首が落ちていると思う。

 だから仕方なくカニやんにしがみついたまま、猫の手を借りることに。

 カニやんに頼られたタマちゃんはひらりと聖女に飛びかかり、よりによってその頬に向かって長い爪の一撃を浴びせる。


 首よ!!


 どうしてこのタイミングで顔を狙うのっ?

 一応聖女も女の子だから顔はやめてあげて! ……じゃなくて、こういう時は必ず首を狙って!

 ルゥもそうだけれど、どうしてこの子たちのAIは残念すぎるの?

 もちろんそこが可愛げではあるんだけれど。


 タマちゃんの鋭い爪の一撃を食らった聖女は、HPを流出させる頬に片手を当て、残るもう一方の手で槍を持ち上げる。

 もちろんルゥごとね。

 【幻獣】 はノックバックしないけれど、持ち上げることは出来るらしいから。

 そういえばルゥは前に、上っていた木ごと吹き飛ばされたこともあったわよね。

 そのまま迷子になっちゃって、しばらく帰って来られなかったことまで思い出したわ。


 残念すぎる


 ルゥをぶら下げたままの槍を振るう聖女は、今度は攻撃目標をタマちゃんに変えて構える。

 でもルゥと同じく戦闘能力は高いらしいタマちゃんは、【幻獣】 が相手では 【妖獣】 の自分は分が悪いことを知っているらしい。

 まともに相手をせず、猫が持つその身の軽さを活かしてひょいひょいと、聖女の鋭い槍の攻撃を紙一重で躱している。

 たぶん紙一重なのは聖女をからかっているわけじゃ無いと思う。

 これが 【幻獣】 と 【妖獣】 の差。

 つまりタマちゃんには余裕がないんだと思う。

 すぐ隣で見ているカニやんも拳を握り、自分ではなにも出来ない状況に歯を食いしばって堪えている。

 今すぐにでも助けに行きたいよね。

 わたしも今すぐルゥをモフりたい。


 そのルゥはといえば、しばらく聖女に槍ごと振り回されていたけれど、遠心力に振り回されたのか、あるいはうっかり口を開けちゃったのか。

 そこはルゥだからね、飼い主(わたし)でもわからないの。

 わからないんだけど、吹っ飛んでいった。


 嗚呼……

休閑小話:NPCの内緒話


ルゥ:

『ルゥのご主人しゃまを取ったらダメでし!』


タマ:

『取らないわよ、なに言ってるの?』


ルゥ:

『ウソでし!

 取ろうとしてるでし!』


タマ:

『いやね、お子ちゃまは』


ルゥ:

『???

 ルゥの方が先に創られたでしよ?』


タマ:

『もう! そうじゃなくてっ!

 とにかく、わたしは猫は猫でもドロボー猫じゃないの。

 そんじょそこらの猫でもないんだから』


ルゥ:

『知ってるでしよ。

 猫又でし』


タマ:

『……ただの猫又でもないの。

 そもそも猫という生き物は万人に愛でられるための生き物。

 だからあんたのご主人様も勝手にわたしを愛でているだけで、わたしは悪くない。

 でもね、あんたのご主人様も悪くないのよ。

 猫を愛でずにはいられない、それは仕方のないことだから』


ルゥ:

『違うでし!

 ご主人しゃまはルウが大好きでしよ!』


タマ:

『だから仕方がないことだって言ってるでしょ。

 聞き分けの悪いワンコね。

 だいたいあんたこそ、いつもわたしのご主人様に可愛がってもらっているじゃない!』


ルゥ:

『???????????????????

 お前のご主人しゃま、どれでしか?』

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