表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

373/806

373 ギルドマスターは翼を失います

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 別に天井高く飛んでてもいいの。

 ただそうすると、プレイヤー(わたしたち)の攻撃も届かないけれど、NPC(ミカエル)の攻撃も届かないっていうね。

 だから床から足が浮く程度が適当な高さだと思う。

 それでも縦横斜めなど二次元でしか動けないプレイヤーと違い、高く飛び上がって躱すなどの三次元回避が出来るNPC(ミカエル)の方が若干有利ではある。

 しかも 【幻獣】 ではなく 【聖獣】 とはいえ、他の大天使同様アラートが出るレベルとなるとそれなりの高ステータス。

 七大天使の長ともなれば、他の六体よりもさらに高いと思われる。


 要するに強い


 【聖獣】 全体にいえることなのか……今回のこのイベントが 【聖獣】 の初見だからなんともいえないけれど、でももし、これから実装されるものも含めて 【聖獣】 全体的に魔法耐性が高いという設定だとしたら、これから魔法使い、特に攻撃系魔法使い(ソーサラー)には冬の時代が来るわね。


「なにが冬?

 厳冬も吹っ飛ばす重火力が」

「グレイさんはまず、己を知らなきゃね」


 カニやんはともかく、最近少し影が薄いの~りんの、そのなにかを悟ったような感じはなに?

 ココちゃんと進展でもあったの? ……と揺さぶりをかけてみたら、とたんにいつものの~りんに戻る。


「えっ? いま、この状況でそんなこと訊くっ?」


 いま、この状況だから訊くんじゃない。

 なに言ってるのよ。


「別になにもないけどさ。

 シシリーさんは相変わらずだし」


 相変わらずということは、まだ 【素敵なお茶会】 をというか、打倒わたしを狙ってるの?


「みたいだね」


 そう言っての~りんは肩をすくめてみせる。

 の~りんからも、シシリーさんは無理だとしても、ココちゃんにはなにか言ってあげたらいいのに。

 そういえばこのイベントも参加してるの?


「【シシリーの花園】?

 らしいよ。

 でも今回の 【聖獣】 は魔法耐性高いから、【シシリーの花園(あそこ)】 は苦戦するだろうね」


 うん、まぁみんな考えることは同じというか、考え方は同じよね。

 イベント内容はその時々だから、メンバーの(クラス)に偏りがあるのも色々だけれど、まぁそれもゲームの楽しみ方……といいたいところだけれど、シシリーさんの場合は根幹にあるのが怨念というか恨み。

 一緒にいるメンバーがどう思っているかもわからないけれど、あまり楽しそうには思えないのよね。

 わたしとの考え方の相違といってしまえばそれだけなんだけれど、なにか釈然としないというか。

 他人事だったらそれこそどうでもいいんだけど、当事者の一人だとそうもいかなくて……なんて考え込んでいたら怒られた。


「ちょっとそこの美人、仕事して!」


 ごめん


「起動……クロノスハンマー」


 カニやんに声を掛けられたその瞬間、斬り掛かるクロウの大剣を躱そうとしたミカエルが大きく上空に羽ばたく。

 それをクロノスハンマーで叩き落とす。

 もちろんスキルの影響下ではクロウも動けなくなってしまうから、スキルが消えた直後を狙って大きく踏み込み、それこそ一瞬でミカエルの眼前に迫ったと思ったら、砂鉄を振り上げるように斬り掛かる。


 でもミカエルも、プレイヤーが首を狙ってくることは百も承知のこと。

 手に握る長剣の切っ先を床に突き立て、クロウの砂鉄を受けつつ杖代わりに立ち上がる。

 そして立ち上がるその勢いで、床に突き立てた剣を抜くようにクロウに向けて大きく振り切ってくる。


 敵NPCとプレイヤーのSTR(腕力)差は、接近戦をしない魔法使いや銃士(ガンナー)はともかく、接近戦しかしない剣士(アタッカー)がわかっていないはずもなく。

 ましてクロウだもの。

 直撃なんて受けたら吹っ飛ばされることぐらいわかっている……はずなのに、受けて立つのね。


 びっくりした


 下から剣を振り上げてくるミカエルに対し、渾身の力で頭上から砂鉄を振り下ろすクロウ。

 刹那、響く剣戟が一際大きくて耳が痛い。

 もちろん勝てないけれど、それはクロウだって分かっている。

 ここは仮想現実(ゲームの世界)で、設定されたデータの数値は変えられない。

 様々な要素による複雑怪奇な計算を()ながらも、出されるその数値が絶対の世界。

 現実世界では起こるかもしれない奇跡が、絶対に起こらない場所でもある。


 だからクロウは吹っ飛ばされて、でもみっともなく尻餅をつくことはない。

 そこもやっぱりクロウだからね。

 ルゥと張り合うような華麗な着地をしてみせる。

 いや、まぁクロウの着地にルゥみたいな可愛さは微塵もないんだけれど、そこはオッ……ゲフゲフ……なんでもございません、上司様。


 そもそもここは足場が悪いのよ。

 参列者のために用意されたベンチ椅子が礼拝堂のほぼ中央に置かれていて、まずそこでの戦闘に魔法使いや銃士(ガンナー)は入り込めない。

 さすがに剣士(アタッカー)たちは、椅子の背でも足場にして飛び回れてしまうくらい運動神経がいいけれど、そもそも後衛職(わたしたち)はそれだけの運動神経がないから中距離攻撃(ミドルレンジ)、あるいは遠距離攻撃(ロングレンジ)の魔法使いや銃士(ガンナー)(クラス)を選んでいるの。

 だから剣士(アタッカー)たちがミカエルを追いかけてベンチ椅子のあいだを走り回っているあいだは、その周囲から援護は出来る。


 でもミカエルは飛ぶのよ。

 その背にはやした大きな翼でばっさばっさと羽ばたいて、身軽に戦闘位置を変えてくるの。

 その変えた位置がベンチ椅子のない余白部分(・・・・)だと、わたしたちはベンチ椅子が置かれた部分を避けての支援になるから、遠距離攻撃(ロングレンジ)銃士(ガンナー)はともかく、魔法使い(わたしたち)は仕事が出来ない。


 届かない


 中距離攻撃(ミドルレンジ)だからね、ちょっと射程が足りないのよ。

 しかも攻撃型魔法使い(わたしたち)の中では機動力のあるアキヒトさんが、無理にベンチのあいだに入り込んで援護をしたら、まるでそのタイミングを狙っていたかのようにミカエルが、ばっさばっさと翼をはためかせて戦闘位置を変えてきた。

 アキヒトさんを自身の間合いに入れたのよ。

 もちろん脇目を振らずアキヒトさんに長剣を振ってきたところ、あいだに飛び込んだ柴さんが、剣戟を響かせながらも吹っ飛ばされ、アキヒトさん諸共壁に叩きつけられる。


 この場合、ダメージは二人とも同じ数値だけれど、VIT(防御力)に差があるのよ。

 その差だけアキヒトさんの方がHPの流出量が多い。

 魔法使い(わたしたち)のSTRはモヤシで、VITは紙だから。


「ヒール」


 うんうん、なかなかいいタイミングね、キンキー。

 でも前に出すぎてはダメよ……なんてことは、すぐそばにいるゆりこさんがちゃんとレクチャーしていると思うからお任せ。

 ベンチ椅子の中にミカエルがいるのなら、魔法使い(わたしたち)でも攻撃が届く。

 だから今は二人の回復を支援する意味でも、ミカエルの足を止めなきゃね。

 魔法耐性が高いとはいえ、効かないわけじゃないもの。


「起動……演蛇」


 【スザクのスキル】 の一つ 【演蛇】 は強力な(スキル)ではあるけれど、ただの火焔属性だからそれほど長く拘束出来るとは思えない。

 でもミカエルの体に巻き付いて拘束する焔の蛇が消えるまでは動けないから、存分に削って頂戴……というまでもなくみんなで斬り刻み始めると、HPがキラキラと流出するする。

 止めどなく流出しまくりよ。


 綺麗ね


 頭に戴いた天使の輪と、どっちがキラキラしているかしら? ……というくらいキラキラ、キラキラとHPが流出する。

 もちろんミカエルのHPよ。


「これで終わると思う?」


 思わない……というか、それをいうカニやんだって思っていないでしょ?

 腕組みなんてしちゃって。


「まぁね」


 でもそこは展開次第だから、とりあえず 【演蛇】 が切れたあとの策を考えなきゃ。

 他に拘束出来るような(スキル)なんてもっていなかったような気もするし、ここはやっぱりもう一回 【封神】 かしら? ……と思ったけれど、まだ再起動準備(クールタイム)中だった。


 う~ん


 となると残る手段は 【這い寄る混沌】 よね。


「いや、それは駄目。

 絶対ソロの時使って」

「下がれ!」


 決してカニやんと呑気に話していたわけじゃない。

 わたしたちなりに作戦を練っていたら、不意にクロウが声を上げて会話が途切れる。

 その声に即座に反応し、後退する剣士(アタッカー)たちの身の軽いこと。

 それこそトール君なんて、ベンチ椅子の背から背の上を渡って軽く床に着地とかしちゃうの。


 羨ましい


 あの運動神経の億分の一でもいいからわたしに分けてくれないかしら?

 あれって若さよね。

 わたしがあと五歳若ければあのぐらい……なんて思ったけれど、すぐに無理だと気づく。

 迂闊にも過去の自分を思い出し、それこそ高校生くらいの自分を思い出してみたら、当時からそんな運動神経はなかったっていうことに気づいたというか、思い出したというか。


 恥っ!


 そんな黒い歴史には蓋をして、固く固く封印をして、目の前の問題を見る。

 何事かと思ってミカエルを見れば、どこから放たれたのか、ミカエルの背中で純白の輝きを放っていた翼が赤黒い焔に包まれ、ミカエルは低い唸り声を上げて悶え苦しんでいる。


 え? なにっ?


 赤黒い不気味な焔は動き方も不気味で、まるで生きている蛇のように時々チロチロと舌を出して動き、ミカエルの全身を捉えてその翼を、肌を、髪を焼き尽くしてゆく。

 あの焔はなに?

 どこから来たの?


「わからない」


 わたしのすぐ横につくムーさんも、わたしの質問尽くしに、少し驚いた顔でそう答えるのが精一杯みたいな感じ。

 この位置は十分すぎるほどミカエルの間合いからは離れているけれど、無意識に万が一の事態に備えているのか、剣だけは構えている。

 ここでミカエルに留めを刺すべきか迷っていたら、代わりにの~りんとアキヒトさんが動く。


「起動……………………スパイラルウィンド」

「起動…………………………スパイラルウィンド」


 詠唱の長さはご愛敬。

 時間差で同じ(スキル)を放つ二人だけれど、ミカエルを焼き尽くそうとしている赤黒い焔に弾かれる。


 反射!


 ……違う、反射じゃない?!

 え? どういうことっ?

 わたしと同じように反射と思って緊張を走らせた二人の魔法使いがホッと胸をなで下ろすのを尻目に、わたしたちはミカエルを注視する。

 みんな、わたしと同じように、事態の急変に理解がついていかず目を白黒させているんだけれど、クロウだけは違った。


「シナリオムービーに入った。

 攻撃は効かない」


 どのタイミングで?

 全然わからなかった。


「おそらくあの焔が出現したところから」


 そんな前から?


「たぶんミカエルのHPが一定値まで減ったら、始まるようになっていたんだと思う」


 恭平さんの推測にクロウも 「そう思う」 と。

 もちろんこれでミカエルを倒せたとは思えないし、イベントが終了したとも思えない。

 だって後味が悪すぎるじゃない。

 それに肝心の聖女もまだ出てこない。


 どこにいるの?


 目の前で再生されるシナリオムービーを見つつ、周囲に目を配るけれど姿は見えない。

 でも声は聞こえてきた。


「なんて役に立たないんだろう」


 呆れきった物言いは間違いなく聖女の声だけれど、姿は見えず、その様子はわからない。

 でもいつもとは違う気がする。

 違和感なんて中途半端なレベルじゃなくて明らかにいつもとは違う、声の感じも、話し方も。


「苦しい?

 いいよ、楽にしてあげる」


 次の瞬間、ドンッという衝撃音とともにミカエルの胸を背から突き破る槍。

 その先端が、わたしたちの見ている前で深々と固い床に突き刺さる。

 そしてあまりある苦痛に悲鳴を上げたミカエルは、最後に一言残して絶命する。


「ガブリエル、どうか……」


 最後にその目が映したのはなんだったのか?

 天を掴もうと伸ばした腕は、その指先からキラキラと分解を始め、やがて全身に分解が広がり消滅。

 あとにはその胸を貫いた槍だけが残る。


 この槍使いは誰?

珍しくシリアス展開?!

いよいよ聖女の登場・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ