369 ギルドマスターは結婚と血痕の話をします
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みんなが何をしに集合するのかわからないんだけれど、なぜか戻ってくるっていうし、その前にこのクリスマス仕様のミニドレス装備を解除しようとしたらクロウに邪魔された。
なにするのよっ!
せっかくカニやんが 『誰も着ない』 という選択肢を提示してくれたから、そのナイスアイディアに乗っかろうとしたのにSTR勝負に全然勝てない。
まぁ勝てるわけがないんだけどね。
こっちはほぼINT極振りの魔法使いで、クロウはほぼSTR極振りの剣士だもの。
悔しいけど
おかげで両手を上げた万歳状態のまま、戻ってくるみんなを出迎えるはめに。
しかもそのままの状態でこう……バレリーナみたいな感じにクルクルと回らされた。
もちろんクロウになんだけれど、これはいったい何がしたいの?
わたしはなにをさせられてるの?
これはどんな見世物よ?
そりゃ可愛いと思うわよ、ドレスはね。
わたしだって中高生ぐらいなら、一度はこういう可愛いドレスを着てみたいと思っただろうけれど、高校どころか大学も卒業しちゃってるの。
しかも新人の頃の初々しさも干からびて、やさぐれ始めた社会人二年生。
慣れてきた仕事にうっかりミスが目立ち始めました。
ごめんなさい
いっておきますが、そのことと最近の上司様の様子がおかしいのは別問題だから。
うっかりミスだって、確認の時点で発見して上司様のところまでは行ってませんから……たぶん。
なにも言われていないから大丈夫だと思う、たぶん。
たぶんが多いのは、注意点を溜め込んで、あとでガッツリ叱ろうと計画しているんじゃないかと恐れているからです。
上司様も忙しいから、細かいところでいちいちチェックしていられないというか、注意していられないというか。
だからあとでまとめてガッツリ計画を企てているんじゃないかと警戒中です。
わからないけれど
ドレスはドレスでも、今のわたしが着たいのは当然純白のウエディングドレス。
こんな足丸出しの恥ずかしいミニドレスじゃないの。
でもラファエルのあれを見てしまったからもうお嫁には行けなくて、ウエディングドレスも着られない。
憧れてたのにな、純白のウエディングドレスに。
嗚呼……
「あら、大丈夫よ。
知ってる? 今時はお一人様のウエディングフォトが撮れるの」
「そうそう。
結婚には興味ないけど、ドレスは着たいって独身OLに人気らしいよ」
ありがと、ゆりこさん、ベリンダ。
二人が慰めてくれていることはわかるんだけれど、でもそれって、わたしの生涯独女を確定させて話してるのよね。
もちろん二人の気持ちはわかっているしありがたいと思うけれど、全然慰められてないし、却って泣きそうになる。
「難しい年頃だな」
「カニやんって人がいいよね。
難しいっていうより面倒臭いだけじゃない。
どうして女の人って、くだらないことに夢見てこだわるんだろ」
苦笑いのカニやんはともかく、またしてもクロエの毒舌が炸裂。
弱っているわたしに追い打ちをかけてくる。
そりゃ男の人にとって結婚式はただただ面倒なものなのかもしれないけれど、わたしは憧れてるの。
「結婚式は花嫁のためにあるようなものだから」
既婚者を公言しているパパしゃんの言葉は結構現実味があるんだけれど、同じく既婚者を公言しているゆりこさんの反撃を食らう。
「あんなの、旦那の見栄っ張りじゃない。
親族に自慢したくて派手にしちゃってばからしい。
わたしのドレスはケチったくせに、親族用の引き出物だけ特別にして予算が大幅にオーバー。
さらにわたしのドレスをケチろうとした時は、殺してやろうかと思ったわ」
…………さ、殺気が…………えっと、ゆりこさんって確か子どもさんが二人いて、大学生と高校生って聞いているから結婚してそれなりに経っているはず。
ゆりこさん自身、大台に乗るかどうかってくらいの年齢と聞いているけれど、それでもまだこんなにも強い殺意を抱いているなんて。
うん、まぁさらに詳しく聞けば、ウエディングドレス代はゆりこさんが独身時代の貯金から出したらしいから、確かに旦那さんは殺害されてもおかしくはないレベルかも。
「うわ、横暴」
「それって一種の経済DVだろ?」
恭平さんの指摘どおり経済DVを感じたゆりこさんは、結婚してすぐに反撃を開始。
結婚○十年を過ぎた現在は、ガッツリゆりこさんが財布を握っているらしい。
そういうところはさすが、しっかり者のゆりこさんよね。
「わたしだってね、グレイちゃんみたいに可愛い頃もあったのよ。
もちろん性格がね。
でも相手を間違えるとこうなるの。
グレイちゃんは間違えちゃ駄目よ」
はい、肝に銘じます。
経験者の言葉って重みがあるわよね。
でもわたしはもうお嫁には行けないので、その教訓は役立てられそうにありません。
せめてウエディングフォトだけでも撮りに行こうかな?
兄さんを花婿さん代わりにして……と思ったけれど、同じ顔だから、着付けの人とかカメラマンさんに兄妹だってすぐにバレるわよね。
なんだか却って虚しくなりそうだから、行くならやっぱり独りか。
「グレイさんってさ、喪女だから奥手なのはわかるけど、もう少し遊んだら?」
「そうそう、遊べ」
「遊ぶっていうか、肩の力を抜きゃいいのに」
抜きっぱなしのだらだらだと思うけど、まだ駄目?
もっと力を抜けってこと?
「そうじゃなくて、今時婚活アプリで実際に結婚まで行くカップルもいるわけだし、それこそVRで知り合ったっていいわけで」
「そこまでのもんじゃなくても、仮想現実の中だけって関係でもいいだろ」
「その場合、双方の合意があらかじめいるけどな。
後々拗れると面倒だから」
んーっと、そういえば前にそういう女性プレイヤーのギルド加入申請があったような気がする。
ちょっと名前は忘れちゃったけれど、確か知名度の高いプレイヤーばかり狙っていた人。
あの人も似たような感じだったってこと?
「あ~俺も名前忘れたけど、クロウさんに言い寄ってた女な」
カニやんが覚えていないんだから、当然脳筋の二人が覚えているはずもなく。
だって脳みそまで筋肉で出来てるから仕方がないのよ。
「せっかくの仮想現実だし、それこそ模擬恋愛でもしてみたらって話」
「ギルド内なら二股三股四股OK」
「それこそ全員彼氏にしてもいいけどな」
そういって三人揃ってにひっと笑い、カニやんの腕の中でタマちゃんまでが 「ニャ!」 と笑う。
わたしのミニドレス姿からどうしてこうなったかはともかく、喪女卒業に向けて励ましてもらったというか、脱却方法を教授してもらったというか。
なんだかんだいっても、【素敵なお茶会】 はいい人ばっかりなのよね。
まぁちょっと口の悪いのもいるけど、顔がいいからご愛敬ってところかしら。
だってクロエから毒を抜いたらタダの美少年だもの、危うく忘れるところだったわ。
忘れてクロエをタダの美少年にしてしまうところだった、危ない、危ない。
とりあえずやっぱり着替えたいんだけど……なにかしら、クロウ。
そのもの言いたげなというか、不満げな顔は?
いいたいことがあるのならはっきりいって頂戴。
こんなゴボウみたいな足は見たくないんでしょ。
「ボス戦までそのまま」
は? それはどんな罰ゲーム?
だってこれ、後ろが見えそうで気になるのよ。
そりゃクロウはずいぶん高いところに頭があるから見えないでしょうけれど……ちょっとルゥ?
さっきから後ろをついてくるのはいいんだけれど、近すぎるくらい後ろをついてきてどこを見上げてるの?
ねぇルゥ、真っ赤なお目々をキラキラ輝かせて何を見てるのかしら?
めっ!!
どう見てもそこからだとわたしの……が丸見えじゃない。
誰よ、わたしのルゥにこんな悪い遊びを教えたのは!
ちょっとカニやん!!
『とんだ濡れ衣』
だって他にいないじゃない。
『制作者でしょ。
どうやって俺が教え込むんだよ、飼い主でも無理なのに』
なるほど、小林さんか。
イベントが終わったら早速要望書を出さなくちゃ。
そのイベントもあと一時間半ほど。
手間のかかる血痕探しを続けるわたしたちは、蛇行をしながらも……迷路にしてあるから真っ直ぐには進めないのよ。
だから曲がりくねって進むしかないんだけれど、昨日、二つのギルドに追いかけられたわたしが 【だるまさんがころんだ】 をしながら上ってきた階段に行き着く。
ん? ひょっとして目的地は三層にあるの?
『血痕あったよ。
やっぱり三層だね』
先行していたクロエの声がインカムから聞こえてくる。
階段下を捜索する組と、二層をそのまま捜索する組とに別れていたんだけれど、血痕発見の報を聞いて先行するクロエ班をその場に待たせ、二層にいた二つの班は合流してから下層に向かう。
ちょっと嫌な予感がする。
いや、嫌な予感というのは正確じゃないかな。
ひょっとしたらっていう予想めいたものを感じながら血痕の捜索を続けていたら、案の定というか、昨日、わたしがロクローさんと出会った場所まで来た。
つまりここって、例の落とし穴の落下地点よね。
あの時は突然のアクシデントに焦り、とにかく他にプレイヤーがいないかってことばかり気にしていたから床まで見ていなかったけれど、いま改めて確かめたら、まさにわたしが落下したその場所に血痕があった。
ごめん
「あの時点で気づいていても、合流は難しかったからな」
確かに恭平さんのいうとおり、あの時点で血痕のことに気づいていても二層に下りたところで本隊は 【鷹の目】 と遭遇していたわけで、ここで待つわたしと制限時間内に合流することは出来なかったと思う。
でも今日の、血痕に気づくまでの一時間がもったいなかった。
「それはここから取り戻そう。
あっちだ」
恭平さんが指さすのは、昨日のわたしが背を向けた方向。
そこには奥へと続く血痕が黒々と残っている。
開いたイベントウィンドウでマップを確認してみると、その先はあまり距離がない。
つまりイベントエリアギリギリにボス部屋があるのか、あるいはそれまでのどこかにあるのか。
いずれにしたってもうすぐそこって感じ。
「うわっ?!」
急に前を行くアキヒトさんが声をあげ、恭平さんにしがみつくから何があったのかと思ったら、通路の床に大量の血だまりがあり、その近くにNPCと思われる初期装備の人形が倒れていた。
それも一体ではなく、数体。
どれも結構無残な殺され方をしていて、槍が刺さった状態のものもある。
これ、最初のイベントシナリオで出て来たNPCと同じね。
アキヒトさんほどじゃないけれど、それでもやっぱりジロジロ見るのは気分がよくなくて、差し出されたクロウの手を取り、そのまま手繰って腕にしがみつく。
代わって調べてくれた脳筋コンビとカニやんの話では、それらの死体はNPCですらない置物。
いわゆる検死のように脈をとったりすることはもちろん、移動させることも出来ないここに固定された置物ってことなんだけれど、意味的にはNPC長官の指示を受けて聖女救出に来た。
あるいはあそこでなにかあった時、礼拝に参加していた。
いずれにしてもプレイヤーの仲間って位置付けね。
ストーリー的にはこうかな?
さらわれた聖女を救出すべく追ってきて、七大天使に返り討ちにされた。
プレイヤーは殺された仲間の敵討ちをして聖女を救出する……といった感じのストーリーが想像出来るんだけれど、そもそもどうして七大天使は聖女をさらったの?
やっぱりなにか変じゃない?
結婚と血痕を変換し間違えて、とんでもない文章になっていた(汗