367 ギルドマスターは天使を数えます
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今回のクリスマスイベント 【聖夜の攻防】 は二ラウンド制で、第一ラウンドは二時間、第二ラウンドは三時間の制限時間がある。
一日目の一回目で、意外なルゥの大活躍によって第一ラウンドをクリア出来た 【素敵なお茶会】 は午後の部で第二ラウンドに挑んだんだけれど、思いもよらぬ巨大な地下迷宮に迷い、対ギルド戦に巻き込んだというか、巻き込まれたというか……まぁ早い話が制限時間内にクリアどころか、目的である地下礼拝堂を見つけることすら出来ずにタイムオーバー。
強制的に通常エリアに転送されて戻ってきた。
今、ここ
鉄筋クロウが離れない!
わたしのSTRがモヤシなのは重々承知しているけれど、でもモヤシにはモヤシなりの意地があって最初はさりげなく押し返していたんだけれど、マジ、クロウのSTRが鉄筋過ぎてビクともしない。
やむなくお願いするという形に方向転換してみたんだけれど、全然聞いてくれないというか、聞こえてないはずはないのにぃ~……ぐぬぬぬぬ……。
「心配したんでしょ?
あんなところでうっかり穴なんかに落ちるから」
好きで落ちたわけじゃないわよ!
不可抗力よ。
あんなの絶対にわからないじゃない。
踏んじゃったら最後、誰だって落ちるわよ。
それこそクロウだって! ……たぶん。
うん、たぶん落ちると思う、たぶんね。
自信がない
とにかく、最近うちの上司様の様子がちょっとおかしい気がします。
お仕事中はいつもと全然変わらないというか、最近は外回りが増えて不在が多いからわからないだけなのかもしれないけれど、まぁ仕事に支障はありません。
それがなぜか仮想現実ではこの通り。
どうしちゃったの?
このまま背骨をバキッと折られるわけじゃないし、内臓を潰されるわけでもないけれど……勝手に想像して自分でちょっとゾッとしちゃった。
もちろんクロウはそんなことしないけどね。
そんなことどころか、やたらと髪を撫でているというか、触っているというか……なんでしょうか、これは?
が、害はないんだけれど、心臓に悪いというかなんというか、その……ね。
くしゃくしゃにしたら怒るけれど、そうじゃないから髪を触るぐらいは……と思うんだけれど、せめて、せめてみんなの見ていないところでして欲しい。
「人が見てないところで、その程度で済ませてもらえると思ってるわけ?」
「さすが喪女、まだまだ読みが甘い」
「喪女だからわからないってのはわかるけど」
いつもの三人がとても楽しそうなんだけれど、意味がわかりません。
わからないけれど、なにかよろしくない予感がしてさっきから冷汗が止まりません。
もうね、イベント中からずっと汗を掻いていてすっかり汗臭くなってそう。
とりあえず反省会する?
あ、でも先に言っておきますが、このままの状態でするのは嫌よ。
せめてすわらせて欲しい。
あれだけ走り回ったからちょっと疲れました。
「悪い」
ようやく離してくれたけれど、全然悪いと思ってないわよね、その顔は。
しかもちゃっかり隣にすわってるし。
うん、まぁこれはいつものことね。
運営は記録の確認中として公式の発表をまだ行っていないんだけれど、速報としてイベントをクリアしたギルドがいないことだけは発表している。
つまり 【素敵なお茶会】 と混戦に興じた四つのギルドはもちろん、【暴虐の徒】 を含む他の四つのギルドも第二ラウンドをクリア出来なかったってことね。
そして明日の午前中に行われる第三回においては、すでに作成されたマップはそのまま保持出来るけれど、転送位置はランダムのため同じ場所に転送されるとは限らない……だって。
でもこれって、別の位置に転送されますといっているようなものじゃない。
しかも次の第三回は、第二回で第一ラウンドをクリアした 【特許庁】 を含む七つのギルドが新たに参戦し、十五のギルドで競われることになる。
先行する八つのギルドは、一部とはいえ、すでにマップを所持している分有利だけれど、転送位置によってはほぼ最初から作成する羽目にもなりかねない。
わたしが落とし穴に落ちた唯一の利点として、少なくともあの地下迷宮は三層以上あるってわかったからね。
それだけ広く、転送位置も十分すぎるほど数があって分散していると考えられるから。
「これ、イベント自体クリア出来るかどうか」
「難しそうだね」
「いっそ 【アタッカーズ】 みたいに、この回は捨ててマップ作りをしたほうがよかったかも」
いまさらな意見だわ。
それに、正直なところ 【アタッカーズ】 もそれほど広域のマップを作成出来たかどうかわからない。
天才的な方向音痴だってわかっているのにロクローさんを野放しにしちゃったからね。
回収のため、結構早い段階で集結を始めていたような気がする。
しかもそれをわたしが無駄にしちゃったんだけど。
「予想通りだけど、イベントウィンドウは開けるけれどマップは見られない」
さすがその辺に手抜かりはないか。
当然といえば当然の処置よね。
しかも参加ギルドが増えた分、明日は対ギルド戦がもっと活発化しそうだし……なんてグダグダな反省会を終えた翌朝、第三回が予定どおり定刻に始まったんだけど、ラファエルが出現した。
てっきりあの一件で出現停止処分にでもなったのかと思ったのに……実際、あのあと一度も遭遇しなかったしね。
それがいけしゃあしゃあ……ではなく、意気揚々と出て来た。
「ばっちこーい!」
「おっしゃ!」
俄然元気になる脳筋コンビの狙いはもちろんラファエルの帯。
JBやアキヒトさんなんかは周りで二人を囃し立てているんだけれど、カニやんは不良座りで休憩中。
「好きにしろや」
そんな投げやりなぼやきをこぼしながら。
でも今回は全然警告音がしないから変ね? と思っていたら、柴さんの見事な一撃で帯が切れ、一枚布が、まずは肩からスルリと滑り、すぐに全体がハラリと落ちるんだけれど、落ちるんだけれど、その……穿いたのね。
パ○ツ
だ、男性用のパ○ツにも色んな形があるけれど、これはどう見ても褌よね。
しかも前に布が垂れ下がっているタイプじゃないから、その……ふ、ふく……らみが……ああ、もう!
せっかく忘れてたのに、昨日見たものを思い出しちゃったじゃない!!
ひぃぃぃぃ~!!!!!
そういえば朝、マメに会ったら、深夜にいきなり臨時メンテナンスが入ったってふて腐れていたけど、ひょっとして、ひょっとしてだけど、ラファエルに褌穿かせてたわけっ?
わざわざ臨時メンテナンスして、ラファエルに褌穿かせてたの?
どうせだったら普通にパ○ツを穿かせてよ!
どうして、よりによって褌なのっ?!
「ほんと、ここの運営のセンスってわかんねぇわ」
「奇をてらいすぎて反対側に出ちゃってる感じだな」
「そうだな」
【素敵なお茶会】 が誇る頭脳が、揃って不良座りに興じて道を踏み外しそうです。
ただここで煙草を一服なら、道を踏み外して不良路線まっしぐらだけれど、ワン○ップ大関を持つと瞬時にオッサン化します。
同じすわり方、同じポーズでも、小道具で全てが変わるっていう摩訶不思議な現象よ。
すわっている場所がコンビニ前でも、地下ダンジョン内で迷子状態でも。
とりあえずその半裸ラファエルはサクッと落としちゃって……と思ったら緊急事態が発生した。
柴さんがラファエルに留めを刺そうと踏み込もうとした刹那、踏みとどまり、次の瞬間にはムーさん共々大きく後退する。
即座に剣を構える二人の前で、ラファエルは背後から袈裟懸けに斬られて消失。
ラファエルが消えた向こう側にはノーキーさんが立っていた。
【特許庁】
「へぇ~い、グレイ。
元気かぁ~?」
やだ、面倒なのが来ちゃった。
思い出してしまったあれを忘れるべく、一心不乱にルゥをモフっていたのに邪魔しないでよ。
しかも続々と現われる露出の高い 【特許庁】 のメンバーたちに、目のやりどころに困るどころか全然忘れられない。
うわぁーん!!
「へい、ノーキー!」
「俺らを無視して女王に挨拶かぁ?」
「調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「悪い悪い、俺の目は美人しか見えねぇんだよ」
だって脳筋だもの、ノーキーさんも。
元祖脳筋だもの、ノーキーさんは。
爽やかな男前は下心満載で、いけしゃあしゃあとほざいてくれる。
ちなみにわたしは全然元気じゃありません!
泣きそうよ、もう……。
「やれやれ、面倒臭い連中が来た」
恭平さんと二人、不良座りをしていたカニやんがようやくのことで重い重い腰を上げる。
それはどんだけ重いのよ? と突っ込みたくなるくらいの重量級で、さらには腰痛なのか、立ち上がったら立ち上がったで腰を拳でトントンするとか……カニやんて幾つだっけ?
オッサン超えてるわよね。
「うるさいよ、そこの喪女」
「まともに遣り合うと面倒だし、振り切る?」
そのほうが良さそうね。
しかもなんの偶然か、さっきノーキーさんに斬られたラファエルと同じ位置に、今度はウリエルが出現。
井戸端会議を始めかけていたノーキーさんと脳筋コンビの三人は、その出現を予兆する空間の歪みに気づいた瞬間に後退する。
さすが超高性能危機管理センサー内蔵ね、どっちも。
チャンス!
「起動……封神」
七大天使の一つ、ウリエルは草原エリアでも出現するから、二度も草原エリアに挑戦している 【特許庁】 はすでに何度も遭遇していると思われる。
その姿を確認した瞬間に斬り掛かるノーキーさん。
ほんの一瞬、ノーキーさんとほぼ同じタイミングで脳筋コンビも踏み込もうとしたんだけれど、わたしの詠唱を耳にしてまたしても踏みとどまる。
ほんと、この二人が内蔵する危機管理センサーは優秀よね。
この瞬間にノーキーさんを上回ったんだけれど、ノーキーさんにはとっても優秀な副主催者と幼なじみがいる。
真田さんと不破さんね。
地下空間であるにも関わらず、上空から音を立てて落下してくる巨大な芸術作品、太陽○塔もどき。
そのまま斬り掛かってくれたらウリエルともどもノーキーさんも封じ込められたのに、不破さんったら見事に邪魔をしてくれるんだから。
「不破、頼む」
「死ね、このクズが!」
不破さん、それは矛盾してるから。
真田さんの指示で仕方なくって感じ満載でノーキーさんの襟首を無造作に掴み、太○の塔もどきの下敷きにされる寸前に引き戻したと思ったら、そのまま床に叩きつける。
もう少し優しくしてあげたらいいのに。
本当は仲いいんでしょ?
ひょっとしてそれは照れ隠し?
「いいから、行くよ」
はぁ~い
太陽○塔もどきが斬撃を通さないことはすでに実証済みなんだけれど、どうやら魔法攻撃も銃撃も通らないらしい。
つまりあれって、破壊不可の仕掛け的な? ……まぁ詳しいことはまた改めて検証するとして、太陽○塔もどきに通路を塞がれてしまった 【特許庁】 はバタバタと足音も高らかに撤退する 【素敵なお茶会】 を追撃出来ず。
「なんで斬れねぇーんだよっ!
ドちくしょー!!」
それでも頑張って斬ろうとするノーキーさんの声だけが響いてくる。
あ、あと、頑張って斬ろうとする音もね。
でも駄目よ、ノーキーさんったら芸術作品を壊しちゃ。
模造品だけど。
かなり粗悪な模造品だけど、意外な使い道を発見してしまった。
まさかあれで通路をふさげるなんて考えもしなかった。
試してみるものね。
たぶん一定時間が経てば自然消滅すると思うけれど、それこそ三分以上あれば十分過ぎるほどの距離が取れる。
おそらく 【特許庁】 の追撃はない。
もちろん、また別のところで会う可能性は否定出来ないけれど。
なにしろ迷路だから、ここは。
しかもわたしたち、バッチリ迷ってるから。
予想していたとはいえ、本当に昨日とはまったく違う場所に転送されちゃってマップの作り直し中なのよ。
あ、でも一つ、気になることがあるの。
確かカニやんの話では七大天使なのよね?
でも出現を確認出来たのはカマエル、ウリエル、ラファエル、アズライル、アリエルの五体。
おそらくラスボスと思われる天使長ミカエルは、目的地である地下礼拝堂にいるとして、そこで会えるとして、あと一体はどこ?
ガブリエルは出てこないの?
ビックリするくらいあっさりと 【特許庁】 が退場してしまった・・・(汗
いよいよというか、やっとクリスマスイベも終盤です。




