364 ギルドマスターは迷える子羊です
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【アタッカーズ】 のメンバーって何人くらいいたかしら?
わたしが個人として認識しているのは主催者のロクローさんと、そのロクローさんのお守り役をしているあなぐまさんくらい。
そのあなぐまさんの姿も見えないし、見たところ、ロクローさんは誰かと話している様子もない。
まさか 【アタッカーズ】 が、ロクローさん一人を残して全滅したとはちょっと考えがたい。
かといってインカムが壊れているってこともないと思う。
あるとしたら、ロクローさんが自分でインカムを切っている可能性ね。
高い
だから静かだったのか。
とりあえずわたしと同じお一人様っていうし、ここは落としておく?
ついて来られても厄介だし、【アタッカーズ】 の他のメンバーに来られても面倒だし。
その場合はわたしが落とされます。
なにしろ今回はギルド戦だもんね。
そんなわけで失礼します。
「ロクローさん、ごめんね」
一応謝っておこう。
でも容赦はしないけど。
「は! 女王陛下、万歳!」
それ、やめてって何度言ったらわかるのかしら?
『ロッ君もかなりの脳筋だ』
『俺たちと同類』
インカムから脳筋コンビが解説をしてくれる。
物凄くわかりやすい説明ね。
ありがと。
でもちょっと黙っててね。
ロクローさんが、男前を渋く決めて剣を構えてるから。
もちろん対峙するのはわたし。
バトルロワイヤルを含めて何回も経験しているけれど、やっぱり剣士と一対一で対峙するのはドキドキするっていうか、ハラハラするっていうか。
楽しさより恐怖感のほうが強いと思う。
対魔法使い戦なら、よほどの悪条件でもなければ負ける気はしないんだけど、ステータスのまったく違う剣士が相手じゃね。
魔法使いはステータスポイントのほとんどをINTに振ってMPを上げるけれど、剣士はSTRに振ってHPを上げるってところとか、全くの正反対だもの。
その剣士のロクローさんが、わたしを正面に見据えて抜き身の片手剣を構える。
「女王陛下、ご無礼を」
深々とお辞儀をした……と思ったら大きく踏み込んでくるロクローさん。
でも遅い。
ううん、決して鈍いわけじゃないと思う。
でも日頃クロウや脳筋コンビとか、ノーキーさんやノギさんとか見ていると、ちょっと反応が悪いっていうか、鈍いっていうか。
不破さんとか串カツさんとか、もっと一瞬で踏み込んでくる気がする。
踏み込みが甘いのかしら?
ひょっとしてわたしが相手だから遠慮してるとか、そういうのはないわよね。
もしあったとしても、わたしは遠慮しないけど。
「スパーク」
これで吹っ飛んでくれないのはノーキーさんだけで、吹っ飛ばされてもみっともなく転倒しないのはノギさん。
恐るべしノギ兄弟の攻略方法はまた考えるとして……あ、ギルド戦だからノギさんは今回参加してないんだっけ。
相変わらずの無所属だから。
フリーランスといえば聞こえもいいけれど、プー太郎と紙一重な気がするわ。
わたしが放ったスパークを堪えることが出来ずに吹っ飛ばされてくれたロクローさんだけど、これまでの記録を見て研究したのか、わたしが杖を大鎌に変えると思ったらしい。
転倒こそしなかったけれど、大きくバランスを崩しつつもすぐさま体勢を立て直してくる。
そして大鎌を構えるであろうわたしの接近に備える。
うん、その方法もありだけどね。
でもわたしは魔法使いなの。
たまには魔法使いらしく攻めてみようと思う。
だから接近しません。
だってここでロクローさんの懐に飛び込めば、それこそ飛んで火に入る夏の虫ってやつじゃない。
嫌よ
わからないけれど、落ちたらあとでクロウに怒られそうな気もするし。
どうせなら頑張ったって褒めてもらいたいじゃない。
だからロクローさんの動きをよく見て、でも間髪を置かずに詠唱を始めるわたしに、読みを外したロクローさんは焦る。
「起動……演蛇」
「え? 来ないっ」
今さら焦っても遅いわよ。
だってもう詠唱は終わって術は発動しているもの。
蛇を模した焔の縄に体を拘束されて身動きがとれないロクローさんは、全身からHPを流出させながらも逃れようと足掻く。
大丈夫、剣士のHPの高さはよぉ~くわかってるから。
【演蛇】 一撃で落ちないだろうことも想定済みよ。
だってほら、うちにはもっと鉄筋がいるから。
「起動……焔獄」
さらに大量のHPを失いながらもまだ落ちないロクローさん。
うん、このHPの高さはちょっと想定外かな。
「起動……百花繚乱」
「さすが陛下、多彩な術をお持ちだ。
女王陛下、万歳!」
褒めてくれたのはいいけれど、最後の一言は余計です。
『ロッ君、片付いた?』
うん、片付きました。
そっちはどんな感じ? ……と、珍しくMPの回復を忘れないわたし。
インカムを介して話しながらもMPポーションの瓶を割っていく。
『今、下りる階段を見つけたところなんだが……』
が? なによ、カニやん。
変なところで言葉を切らないで頂戴。
最後までちゃんと言って。
気になるから
『あー……これ、やばいかも』
ひょっとして誰かいる? ……というか、どこかのギルドと遭遇した?
『たぶん 【鷹の目】』
それは確かにやばいわね。
ロクローさんがいたということは、どこに 【アタッカーズ】 の本隊がいるとも知れずわたしも決して安全圏にいるわけじゃないんだけれど、みんなが落ちて一人だけ残るのは嫌よね。
イベントウィンドウで確認してみれば、予想通り、わたしがいる層と、さっきまで 【素敵なお茶会】 の本隊がいた層のあいだにもう一枚、新たな層が現われた。
もちろん表示されているのは本隊がいる周辺だけなんだけど、カニやんの話では周辺に、さらに下りる階段らしきものは見つかっていないらしい。
とりあえず目指す方向だけを決めて見つけた階段を上る。
よし、これで行こう!
でもその前に、ルゥはどうしてる?
まだ 【鷹の目】 との本格的な遭遇には至っていないらしい本隊に呼びかけてみる。
『クロウさんの足下でしょぼくれてる。
回収する?』
いい?
薄暗い地下というこの状況も相まって、独りはやっぱり心細い。
しかも時間が経つと……それこそ一分二分とかの経過ですら心細さがどんどん増してゆくって、どんな淋しん坊よ?
自分でも情けなくなる。
回収距離に限度があるか、まだ試したことがなかったから丁度いい。
右手の腕輪にルゥの回収を呼びかける。
ルゥは本隊と一緒にいるから、この時の様子をわたしは見ることは出来なかったんだけれど、カニやんの話では……飼い主がいないのをいいことに、どんだけルゥを見てたのよ、カニやんってば!
そのカニやんの話では、ルゥは耳をぴくっとさせてどこか中空を見たんだって。
まるでわたしが呼んでいるのが聞こえたんじゃないかって。
そして煙の如くどろんと消えた。
『そっち行ったよ』
残念そうなカニやんの声とともに、インフォメーションがルゥの回収を知らせてくれる。
もちろんすぐに呼び出したわよ。
だって一分だって我慢出来ないくらい淋しかったんだもん!
中空に出現するとともに 「きゅ!」 と短く鳴いて可愛らしいポーズを決めたルゥを両腕で抱き留め、ぎゅっと抱きしめる。
もっふり
ああ、なんて素敵な感触……とか悦に浸ってる時じゃなかった。
本隊がやばいのよ、本隊が。
急がなきゃ……といっても右に行けばいいのか左に行けばいいのかわからない状況で、とりあえずロクローさんが現われた通路は避けることにした。
なんとなくあなぐまさんあたりが、ロクローさん捜索であとを追ってきそうな気がしたのよね。
だからその通路はなしで、もう一つの通路をルゥと懸命に走る。
ルゥの回収はスキル的なものに入るのか、その移動は当然マップに表示されず。
だからルゥの移動した通路を辿るなんてことは出来ないんだけれど、さすがにそんなチートは望んでないわよ、わたしだって。
そもそもルゥは残念なAIを搭載してるんだから、絶対にそんなチート能力は持っていません。
飼い主のわたしが保証します。
でも今回は、わたしが突然消えて置いてけぼりにされたのがよほど悲しかったらしく、走りながらもチラチラとわたしを見て、見失わないようにしてくれているところが超絶可愛い。
もちろんすぐに忘れるんだろうけどね。
いいの、そこもルゥの可愛さの魅力だから。
可愛すぎる……なんてにやけながら走っていたら、あれに見えるパ○チラはえっと、確か 【グリーン・ガーデン】 のフレデリカさんかアンジェリカさん。
あ、あれ?
【グリーン・ガーデン】 も第二ラウンドに進んでたっけ?
しかもいつもの装備じゃなくて、運営からプレゼントされるクリスマスコスのミニドレスを着ている上、後ろ姿で動き回っているからはっきりしないんだけれど、アンジェリカさんかフレデリカさん、どちらかではあると思う。
うん? あれだけ動き回っているということは剣士よね。
確か主催者のアンジェリカさんは魔法使いだから、剣士は副主催者のフレデリカさんのはず。
しかも動き回っているということは交戦中ということで、柱の陰からのぞき見たら、覚えのある顔をもう一つ見つける。
【グリーン・ガーデン】 と交戦してるギルドって、【アタッカーズ】 の本隊じゃないかしら?
だってフレデリカさんと斬り結んでいるのってあなぐまさんだもの。
触らぬ神に祟りなし
いや、違うな。
この場合は、君子危うきに近寄らずの方が合ってるかも。
でも呪わしいことに、わたしの位置から見て、戦場となっている場所の向こう側に階段らしきものがチラッと見えているっていうね。
このはっきり見えないチラリズムも苛立たしいけれど、二つのギルドが交戦する中を突っ切らないと辿り着けない状況が、なによりも呪わしい。
この上なく恨めしい
『突っ込まないでよ、そこの美人!』
制止してくるカニやんの話では、すでに 【素敵なお茶会】 の本隊とセブン君率いる 【鷹の目】 は遭遇。
接近戦に弱い 【鷹の目】 は威嚇射撃という名の遠距離攻撃主体で、【素敵なお茶会】 の鉄筋たちも思うように近づけないらしい。
今はお互いに柱の陰に隠れるなどして、牽制しあっているというか、膠着しているというか。
でもそれって 【素敵なお茶会】 が不利よね。
もちろんわたしが急いで駆け付けたところで状況を変えるには至らないと思う。
それはわかっているし、むしろ無理にこの場を突っ切って落ちるほうが無駄死に。
だからといって 【グリーン・ガーデン】 v.s. 【アタッカーズ】 の決着がつくのを、このまま隠れて見ているわけにもいかない。
時間がない
交戦状態に入っている四つのギルドそれぞれがわかっていることだと思うけれど、このイベントには時間制限がある。
第一ラウンドに比べて一時間ほど長いとはいえ、たぶん四つのギルド全てが目的地である地下礼拝堂をまだ見つけていない。
だって見つけていたら、今頃こんなところにいるはずがないもの。
とっくにボス戦に突入しているはずじゃない。
だからこの点については、今回は 【鷹の目】 も同じはず。
ボス戦が待っているから、第一ラウンドみたいな細工を弄する余裕はないはずだもの。
どうする?
わたしが抱える問題は別にもあって、ここで 【グリーン・ガーデン】 v.s. 【アタッカーズ】 の決着を待つわけにはいかない。
だって決着がついたら、次に狙われるのはわたしとルゥだもの。
そりゃ相手の数は減るけれど、多勢に無勢の形勢は変わらない。
どうする、わたしっ?!