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36【番外】 サブマスの内緒話

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!


またまたこんな時間に投稿です、よろしくお付き合いくださいませ。

ちょっと長めの小話です。

(そしてまたすぐに修正しました、すいません・汗)

「カニ、ログインしました」

『カニやんさん、ちょっといいですか?』


 他のメンバーたちの挨拶が返ってくる中、トールからの直通会話が入った。

 用件なんて見当はついているんだけど、俺はウィンドウでギルドメンバーリストを見ながら応える。

 これ、ログイン状態の自動表示を切ってる奴が多いからあんまり役に立たないんだけど、だいたいの目安に、いつもログインしたら一応目を通してるだけなんだけどさ。


「なに、トール君?」

『グレイさんのことなんですけど……』


 ほらね、予想通り。

 グレイさんも自動表示を切ってるんだけど、トールの声を聞けば今日もログインをしてないことぐらいわかる。

 さすがに三日目ともなればみんな心配になるよな。

 特にトールは、このあいだのイベントラストで、自分のせいでグレイさんが無茶をしたと思ってる、たぶん。

 で、責任を感じてるみたいだな。

 だからってそんな情けない声出すなよ。

 そもそも責任なんて感じる必要はないだろ?


「明日くらいにはログインするんじゃない?」

『大丈夫なんでしょうか』

「女の人って、貧血気味の人とかいるじゃん。

 グレイさん、前にもやってるから、体質的にそうなんじゃないの?」

『前にも倒れたんですか?』

「倒れたっていうか、このあいだみたいな感じ。

 三半規管が弱いとか、そういうんじゃないの?」

『三半規管が弱い人って、乗り物酔いしやすいんでしたっけ?』

「そそ。

 MPのさ、振れ幅が大きい時の感覚が苦手なんだって」

『?』


 あー……剣士(アタッカー)のトールにはわかりにくい感覚か。

 HP第一主義だから、MPなんて持ち腐れてるもんな。

 さーて、どう説明したもんかな?


「HPが減る時、一度に大量に流出すると一時的に動けなくなるだろ?

 まだそこまでの状態にはなったことない?」

『このあいだ、ノギさんに斬られた時に』


 あ、あれな、部位欠損。

 確かに、一度に結構なHPドレインしてたな。

 HP残量によっては死亡状態になる(湯気ふく)って、わかってるのかな、こいつ。


「ああいう感覚がMPの減少でも起こるわけ。

 被ダメじゃないから痛みはないし、動けるけど。

 通常スキルならほとんどわからないくらいだけど、あの人、大技過ぎるから」

『カニやんさんもなるんですか?』

「大きいのを使えば感覚はあるけど、気分が悪くなるとか、そこまではない」


 トールはわかっちゃいないだろうけど、グレイさんのスキルは大きすぎるんだよ。

 運営も何を考えてこんな負荷を付けてるのか知らんけど、いらないんじゃないのか?

 今は、焔蛇のスキルとかあの人しか使えないけど、これから取得できるプレイヤーが増えたら問題になる気もする。

 でもグレイさんの場合、問題は他にもあるんだろうな。


「普通、大技はそれなりに再起動準備(クールタイム)が長いから連発できない。

 そういう仕様のはずなんだけど、グレイさんは異常なほど再起動準備(クールタイム)を短縮してるから例外だね」

『ステータスで出来るんですよね?』

INT(インテリジェンス)AGI(アジリティ)に依存。

剣士(アタッカー)は知らないけど、銃士(ガンナー)も同じかな?」


 後衛職の魔法使い(おれたち)AGI(俊敏性)なんでほとんど要らないから、たぶんINT(知能)をギリギリまで上げてるんじゃないかな。

 俺もかなりINTに振って再起動準備(クールタイム)を短縮してるけど、モルゲンステインやスパイラルウィンドとか、あの大きさのスキルをあの間隔で連発なんて出来るか。

 避雷針なんて、再起動準備(クールタイム)に数時間かからなかったっけ?

 それをあのイベント時間内で二発撃つとかあり得ないだろ?

 しかも一瞬で魔法陣が展開するなんてあり得ない。

 俺なんてモルゲンステインでも数秒かかるのに、あの人、業火や焔獄の魔法陣でさえ一瞬で展開させてるんだ。

 どんなステータスだよ。

 化け物級じゃん。


剣士(アタッカー)のスキルにも再起動準備(クールタイム)ってあるんですか?』

「んー……忘れたけど、あったと思う。

 確か、剣士(アタッカー)のスキルってほとんど常時発動(パッシブ)スキルだったと思うんだけど、いくつか、必殺技的なやつと、追加効果で魔法が付いてるやつ。

 フランベルジュだったかな、追加効果で火属性のダメージが付いてくる」


 よく覚えてないんだけど、確かそんな名前のが一つあったはず。

 俺が覚えてるのがその一つってだけで、もっとあったとは思うけど、詳しく知りたけりゃクロウさんにでも聞いてくれ。

 あの人、グレイさんの剣士(アタッカー)版だから。


『でも剣士(アタッカー)って、MPないですよね?』


 もちろん(ゼロ)って意味じゃないのはわかってる。

 剣士(アタッカー)はSTRを中心にステータスを振るから、HPだけが馬鹿みたいに高くなる。

 確かにそれに比べれば微々たるものではあるんだが、MPだってちゃんと持ってはいるし、実は増えてるんだよな、これが。


「基本パラメーターってわかる?」

『?』

「つまりさ、レベルが上がればHPとMPは上がるんだよ。

 ステータスを振らなくても」

『え?』


 やっぱりな……案外これ、気づいてる奴は少ないんだよな。

 この 【the edge of twilight online】 じゃ、レベルごとに基本となる最大HPと最大MPが決まってる。

 ステータスを振ってしまうとその影響で数値が変わるからわかりにくいんだけど、どの職であってもレベルごとの最大HPと最大MPは同じなんだよな。

 さらにステータスを振れば、STRあたりだとHPばかりが上がって、INTだとMPが上がるって感じ。

 俺と同じ魔法使いのの~りんは、ほぼINT極振りしてるらしいんだが、ひょっとしたらレベルカンストしてるクロウさんのほうがMP最大値は高いかもしれない。

 どっちもステータスを見せてもらったことはないけど、レベル差を考えればそういうこともありうるって話。


「だから十分に使えるんだよ、魔力依存のスキルも。

 使ってるところは滅多に見ないけど、クロウさんが持ってるよ、フランベルジュ。

 逆を言えば、レベルカンストしてるグレイさんのほうが、トール君よりHP最大値は高いかもね」

『グレイさんって……』

「魔法攻撃を食らうと、基本的に効果時間内は動けない。

 だけど効果時間の長いスキルほど詠唱に時間が掛かる。

 だから魔法使いは接近されると終わるんだけど、グレイさんの場合、最初の詠唱タイミングで勝てれば……このあいだの絨毯爆撃ってわけ」


 あの人は、前のスキルの効果時間内に次のスキルを発動できる。

 そんでもって再起動準備(クールタイム)を含めて、それこそ間髪を入れずに連発できるほどスキルを持ってる。

 つまり最初の一撃を食らえば、反撃の間を与えられずに溶かされるってわけだ。


『でも、通常エリアではMP制限がありますよね?』

「仕事のないクロエ辺りがMP補充してくれるんだよ。

 グレイさんがあれを始めたら、あいつ、暇だからさ」

『でも、ソロだと……』

「あのさ、このあいだの相手は 【幻獣】 。

 通常のプレイヤーがあんなに硬いわけないだろ?」

『あ……』

「ノギさんですら、そんじょそこらのプレイヤーじゃ刃が立たない硬さをしてるのにさ、トール君やクロウさんに削られてたとはいえ、焔獄二発で溶かしてる。

 グレイさん一人でも、他の大技と組み合わせれば、三発か四発で落とせるんじゃないのかな?」


 たぶんあの人、大技五、六発撃ってもMP切れにはならないよな。

 剣士三つ巴(あの三人)が相手でも三発か四発でも落とせるなら、一般プレイヤーとか楽勝じゃん。


『そういえばノギさんって、本当に強いんですね。

 俺の一撃なんて、全然効いてませんでした』

「効いてはいるけど、誰がやったって一撃じゃ落ちない人だよ。

 それこそクロウさんやノーキーさんでもね。

 トール君のレベルで、一撃で落とそうっていうのはちょっとおこがましいんじゃないかな?」


 なかなか面白いことを言う奴だな、トールは。

 こうやって話すと、グレイさんが気に入っているのもわかるような気がする。


『すいません、生意気を言って』

「いえいえ、頼もしい限りだよ。

 いずれはあの人たちと肩を並べてくれるんだろ?」

『頑張ります!』


 こういうところとか、グレイさん好みだよな。

 しかもわかりやすいし。


「あの場面で、ノギさんが最初にグレイさんを狙った理由」

『え?』

「どうしてノギさんは最初にグレイさんを狙ったのか。

 トール君は前で女神と戦ってたけど、後衛(うしろ)には俺やクロエ、くるくるもいたんだ。

 人数を減らしておきたかったのなら、グレイさん以外を先に狙うべきだろ?

 クロエはともかく、俺やくるくるなんて、それこそ一撃で落とせるんだ。

 あっという間に片が付く」


 でもノギさんはグレイさんから取りかかったんだよな。

 それってつまりあのノギさんでも、グレイさんから落とさなきゃならなかったってことだ。

 しかも結構必死。

 露骨にグレイさんの首狙ってたもんな、ノギさん。


『それだけノギさんにとってグレイさんは脅威だった?』

「トール君、頭良いね。

 剣士(アタッカー)トップ3のHPにはかなわないんだろうけれど、グレイさんのHPも、あの人たちも一撃じゃ落とせないんだと思う。

 グレイさんもたぶん自覚あると思う、首守ってたし」

『首だけは一撃で?』

「終わるよ。

 胴はHPが残ってると断てないから、手っ取り早く確実に落としたいなら狙うのは首。

 魔法使い(おれたち)にはそういう攻撃手段はないけどね」

『グレイさんって、全然そんな風には見えないんですけど、本当に凄いんですね』

「グレイさんってさ、ちょっと自己肯定が低いんだよな。

 トッププレイヤーの一人なのに、クロウさんやクロエほどの実力はないって、しょっちゅうぼやいてるけど、どこにあの人以上の魔法使いがいるってんだよ、まったく。

 先のことはわからないけど、今の 【the edge of twilight online】 最強のプレイヤーなのにさ」

『カニやんさんって……グレイさんのこと、好きなんですか』


 なんか青いこと訊かれたんだけど、これ、どう答えるんだよ?

 でも直通会話でよかった。

 ギルドチャットだったら、他のメンバーの反応も煩そうだけど、クロウさんが怖い。

 あの人も自動表示切ってるからわからないけど、絶対どっかにいるもんな。


「尊敬はしてるけど、そっちの感情はないと思うな」

『じゃ、クロウさんは?

 あの二人って、その、彼氏彼女なんですか?』

「本人たちに訊けば?

 グレイさんは、そんなんじゃないっていつも言ってるけど」


 クロウさんがなんて答えるか、俺も無茶苦茶興味がある。

 自分じゃ怖くて訊けないけどさ。


「そういうトール君はどうなのさ。

 ギルドに入ってから、結構あの二人と一緒にいるよね?」

『いえ、俺はそんなんじゃありません!』


 ……なんかグレイさんと似てるわ、トールって。

 面白そうだったんでからかおうと思ったら、マメのやつが直通会話で割り込んできやがった!


『カニやんさーん、なんて答えたんですか?』


 は? なにが?

 お前さ、いっつも唐突に割り込むのやめろよ。

 なにになんて答えたってんだよ?

 せっかく面白いところだったのに、邪魔すんじゃねー!

 すぐにわかったんだけど、トールはマメたちと一緒にどっかのダンジョンに潜ってやがったんだよ。

 で、潜りながら俺と喋ってたわけ。

 それに気づいたマメが、トールが話すことに聞き耳立ててやがったんだよ。

 盗み聞きとか、こざかしい真似してんじゃねーぞ、マメのくせに!

 気になってギルドチャットに切り替えたら、トールのやつ、馬鹿正直に教えやがって……直通会話にしてた意味、ねーじゃん。


『わたしもグレイさん、尊敬してまーす』


 だろうな、知ってる。

【鷹の目】 からの移籍理由も知ってるけど、こいつがグレイさんに懐いてるのは、たぶんそれだけが理由じゃないと思う。


『それでですねー、グレイさんにギルドルーム購入券をプレゼントしましたー』


 わけわかんねーんだけど。

 マメがグレイさんを尊敬してることと、ギルドルーム購入券とどう関係があるんだ?

 こいつが廃課金なのはみんな知ってるけど、グレイさんに言われて最近は無茶苦茶な課金はやめてるはずなんだけど、なんでギルドルーム?


『グレイさん恥ずかしがり屋さんです。

 で、ギルドルームあったほうがいいと思いました』


 こいつの日本語、ちょっとおかしいっていうか、わかりにくいんだけど、つまりなんだ?

 ひょっとして、あれか?

 公衆の面前でクロウさんと抱き合ってた、このあいだのあれ。

 俺らはもう見慣れてるっていうか、いつものことだと思ってるけど、グレイさん自身は慣れないらしいんだよな。

 あの人、OLっていってたけど、喪女?

 もういっそさっさとくっつきゃいいのにって思うんだけど、あれはあれで面白いから放っておいたのに、ギルドルームプレゼントってマメ、ラブホにでもしろってのかよ?


 アホか、こいつ……


『グレイさんは、そんないかがわしい使い方はしませーん』

『グレイさんはそうでも、旦那のほうはわからんぞー』


 一緒に潜ってる中に脳筋コンビの片割れがいるみたいなんだが、こいつもわかってるのかね?

 でもって腹の黒い奴がすかさず突っ込んでくるんだよ。


『柴さん、ギルドチャットで喋ってるってわかってる?』

『わかってるともー』


 わかってるとは思えないんだけどね、柴やん。

 しかもさ、聞いてるだけならよかったんだけど、グレイさんがいないからか?

 珍しく旦那から返事があった。


『しば漬け、地下闘技場(フェイト)に来い』


 それまで煩かったギルドチャットが一瞬にして静かになる。

 たぶん、一番肝を冷やしてるのは柴やんだろうけど、さすがのマメも黙った。

 普段はクロウさんも 「柴」 って呼んでたような気もするんだけど、正式なキャラ名で呼ぶとか、これは結構怒ってるんじゃないのか?


『……クロウさん、いま地下闘技場(フェイト)にいるんだ』


 最初に口を開いたのはクロエ。

 付き合いが長い分それなりに慣れてると思ったけど、今のはちょっと驚いたみたいだな。

 ギルドの中じゃ、クロエ、グレイさんの次に付き合いの長い俺でも驚いた。

 ってか、まだ心臓がバクバクいってるっての。


『せっかくトール君が助かって首の皮繋がってたのに、残念ですねー』

『う、うるせーぞ、マメ!』

「とっとと斬られてこい。

 迎えに来るぞ」


 柴やんの迎えに来たクロウさんと、運悪くどこかでばったり出くわしたりなんかしたらいいとばっちりだ。

 迷惑千万、とっとと行けや!


『カニやんも付き合え』


 なんで俺までご指名を受けるのかは知らないが、絶対にお断り!

 地下闘技場(フェイト)なんて、魔法使いは斬られ役だろうが!

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