356 ギルドマスターは飲み過ぎてリバースします
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久々にルゥの頭突きを顎にくらい、さらにはその勢いに負けて後頭部を木の幹で強打したわたしは衝撃の強さに気絶したらしい。
だからこのあと、転送されたギルドルームで気がつくまでのことを知らないんだけれど、第一ラウンドクリアを知らせるインフォメーションの直後、もう一つ、新たなインフォメーションが出たらしい。
information イベントを終了して通常エリアへと転送しますか?
イベント終了時間までエリアに留まることは出来ますが、
戦闘に参加することは出来ません。
つまり居続けてもなにも出来ず、ただ見ているだけで時間の無駄。
どうせ残りのイベントを見るのなら、ギルドルームに戻って大型スクリーンで全体を視たいってことになったらしい。
それだけじゃないけど
それだけじゃなかったのは、わたしがルゥに割られた顎と、木に打ち付けた後頭部から大量のHPを流出させたから。
どうやら流出させながら気絶していたらしく、わたしはまったく覚えてないんだけど、みんなの話を総合すると、わたしはまるでゲ○を吐くようにHPを顎から流出させてって……ちょっとやめてよ、こんな例え!
どうして○ロ?
よりによってゲ○?
それじゃまるでクリスマスパーティで飲み過ぎたオヤジみたいじゃない!
ひどい……
ひどすぎる。
いっそ気絶したまま現実逃避したかった。
もちろん無理だけど。
しかもここは現実ですらなくて、普通なら逃避先の仮想現実。
結局あのままHPを流出させ続けても落ちることはなかったのかも知れないけれど、こんな形でわたしの記念すべき 【死亡回数 1】 が付くのはギルドの恥みたいな話になったらしい。
余計なお世話よ
イベントエリアから一般エリアへの転送は転送前の位置に戻されるらしく、わたしたち 【素敵なお茶会】 はギルドルームに集合して一緒に転送されたから、一緒にギルドルームに戻ってきた。
だからわたしもギルドルームで気がついたんだけど、わたしの上に乗っかっているルゥがきゅう~きゅう~泣いているのは誰か虐めたの?
誰?
『最凶ワンコを虐められるプレイヤーがいたら教えて欲しい』
大丈夫、カニやんだけは疑ってないから。
どんなに足蹴にされても、それこそ首を掻き切られて落とされたって抵抗しないくせに。
実際、来るってわかっていてもルゥの超絶可愛い 【最強肉球パンチ】 を避けられないもんね。
でも、だったらどうしてルゥが泣いてるのよ?
『それな、みんなで色々検討をしてみた結果を総合するとだな』
『チビ助が教会に辿り着いたのは、迷子になっただけじゃね?』
『偶然の産物』
『でもあの状況で辿り着いてくれたんだから、ルゥ君はヒーローよ。
みんな、ちゃんと褒めてあげなきゃ』
『はいはい。
で行き止まりから慌てて戻ってきたらグレイさんがいて、飛びついたんじゃないかって話。
ワンコ、前に迷子になった時も泣いてただろ』
みんな、言いたい放題に喋ってくれたわりに話がちゃんとまとまってるのが凄い。
しかも筋が通っている。
でも言われてみればそうかも。
だって褒めて欲しい時のルゥは、いつもわたしの足下にお行儀よくちょこんとおすわりするもの。
そしてキラキラしたお目々で見上げてくるの。
それがあの勢いで突進って……わたしもあの時はパニクっていてよく見ていなかったけれど、ひょっとしたあの時からもう泣いていたのかも知れない。
とりあえず顔からは退いて頂戴ね……と思いながらもっふりボディを持ち上げようとしたら、短い四肢でわたしの頭をガッツリホールド。
ビクともしない
さすが 【幻獣】 ……いやいやいや、ここは褒めるところじゃない。
頑張って引き剥がそうとしていたら、不意にベリッとはがれてルゥの可愛い泣き顔が見える……んだけど、そのまま遠ざかるのはなぜ?
あ、クロウが引っぺがしてくれたんだ。
ありがと
剃り残しを気にしながら……じゃなくて、痛む顎をさすりつつ起き上がってみたら、休憩室にルゥとクロウの三人だけ。
そういえば、さっきからみんなの声はインカムから聞こえていたような気がする。
隣の部屋にでもいるのかしら?
とりあえずクロウ、顎、割れてない?
わたしの顎!!
あれからどれくらい経ったのかわからないけれど、まだズキズキする。
ついでに頭の後ろも!
パックリ割れて、もう一つ口が出来てるとか……だ、大丈夫よね? ね?
どうしてそんな想像をしてしまったのか自分でもわからないんだけど、ちょっとクロウ、なにか言って!
まさか……
まさかと思うんだけど、割れてるとか?
本当に割れてもう一つ口がパッカり開いているとか、ないわよね、そんなことっ?
お願いだからなにか言って!
『口裂け女』
『懐かしい』
『まだその都市伝説、生きてんすか?』
伝説はいい。
問題なのはわたしの頭の後ろっ側。
しかもこの場合は 「口裂け女」 じゃなくて 「二口女」 よ。
都市伝説じゃなくて妖怪よ。
ちょっと脳筋コンビ、しっかりして頂戴。
口裂け女って、わたしの口が裂けてるってことじゃないっ?
割れてるのは顎よー!
ぷぎゃー!!
ちょっと脳みその処理能力が追いつかなくなって、わけがわからなくなって噴火したら、不機嫌に低く唸っていたルゥをクロウが返してくる。
膝に置いてくれるから、そのままモフッと抱きしめたら一瞬でルゥのご機嫌が直った。
で、なにをするのかと思ったら隣にすわるんだけど……え? 隣?
………………はい?
えっと、頭を撫で撫で……って、なにしてるの、クロウ。
「割れてないか」
あ、はい、確かに訊きました。
頭の後ろが割れて、もう一つ口がパックリ開いてるんじゃないかってね。
見るだけじゃなくて触って確かめてるのね、な、なるほど、そういうことですか。
で、割れてませんか?
「大丈夫そうだ」
あ、ありがとうございます……えっと、割れてないんですよね?
もうわかったはずですが、どうしてまだ撫でているのでしょう?
クロウの大きな手がね、その、ずっと撫でてるんだけど……どうしたらいい?
その、クロウが言うには、割れてないか探った時に髪をくしゃくしゃにしちゃったから手櫛で直してるだけって、だけ……えっと……恥ずかしいんですけど……。
とりあえずルゥをぎゅっとして堪えます。
耳が、耳鳴りがしそうなくらい熱い……
結局気がついたルゥが、わたしの体をよじ登ってクロウの手をバシって払っちゃったんだけどね。
なにか色々と危なかった
とりあえず午後の部の前にお昼休憩だけど、まずは装備の損耗修理ね。
お昼休みはそれからにして……と思ってりりか様のお店に行ってみたら、ギルドメンバー以外のお客様がいた。
その人数から見て、どこかよそのギルドかしら?
しかも可愛い女の子ばっかりってどういうこと?
すでにギルドに所属しているプレイヤーを勧誘するのはマナー違反だけど、羨ましすぎて勧誘したくなる。
『ちょっとグレイさん』
だってぇ~
混み合っていてお店に入り辛くて入り口で立ち止まっていたら、先客のほうが何気に振り返ってわたしを見る。
その顔が見る見る嬉しそうにほころぶのはなぜかしら?
そしてすぐさま隣にいたお友達らしいプレイヤーに声を掛けて、そのプレイヤーもわたしを見て、さらに声を掛け合って……うん、だいたいのプレイヤーがこっちを見た。
そして押し寄せてきた。
これはどんなプレイ?
「ちょ、本物の女王陛下よ」
「なに、これ?」
「うわー、マジほっそ」
「やっぱ美人!」
「わたしの画力じゃ描けない美しさ」
「あんたに画力なんてあったっけ?」
「わたし女の子描かないけど、これは一度描いてみたいかも」
…………なんの話?
とりあえず勝手に手を取るのはやめて。
髪を触るのもやめて。
えっと、だから、腰とか……ちょ、マジどこ触ってるの、この人たちっ?!
胸とか、ね、ちょっと、ほんとにやめて!
いくら女の子同士でも、これはちょっと、無理。
だって、もうね、胸とかお尻とかまで触ってくるのよっ!
なにプレイっ?!
無理すぎてクロウにしがみついたら、それはそれでクロウまで餌食になっちゃったというか、巻き込んじゃったっていうか、なんていうか。
「この構図、欲しい!」
「SSは本人の許可取ってからね」
「無断撮影厳禁」
変なところで統制が取れているのもわけがわからない。
さすがのクロウも、これが男性プレイヤーなら容赦ないんだろうけれど、女性プレイヤーが相手だけに戸惑ってる。
うん、クロウもこういうノリの女性集団は初めてよね。
何者っ?
「旦那、いつからドアになってんの?」
「通れんぞ」
クロウにしがみついているわたしからじゃ見えないんだけれど……クロウ自身も店の外に背を向けているから見えないんだけど、この声は脳筋コンビよね? ……と思っていたら、クロウと壁の隙間から見慣れた顔が覗いてくる。
「なんだ、珍しく盛況じゃないか」
「珍しくは余計よ!」
何気ないムーさんの茶化しに店の奥からりりか様が怒鳴り返してくる。
もちろん堪えるムーさんじゃないけど。
ちょっとクロウが脇に避けると柴さんも無理矢理店に入っちゃって、さらに店内がぎゅうぎゅう詰めに。
でも意外なくらい足下は空いているから、ルゥは蹴られることなくみんなの足下をフンフンフンフンフンフン……楽しく探索中。
もちろん蹴られても勝つのは 【幻獣】 のルゥ。
絶対にノックバックしないから蹴ったプレイヤーが蹴躓く形になるんだけれど、この人混みでそれは避けて欲しい。
間違いなく将棋倒しよ。
人間ドミノ
圧死必須の超危険な過密状態ね。
「大丈夫、女王は旦那がいるから死にゃせん」
「こいつらってドンパチの連中じゃね?」
ドンパチ? ……って戦争とか抗争のことよね?
でも柴さんとムーさんは、楽しそうに意味のわからない会話を繰り広げる彼女たちを見ていっているってことは……。
「いや、ギルド名」
柴さんがいうと、話を聞きつけた女性プレイヤーの一人が改めてわたしたちを見ていうの。
「そうでーす!
わたしたち、ギルド 【3年B組ドンパチ戦線】 でっす!」
そこでキリッと決め顔をするのにはなにか意味があるのかしら?
そのギルド名も完全にパクリよね。
某有名な熱血青春ドラマの……いや、ちょっと違うかな?
あのドラマって、どういうジャンルになるの?
学園もの?
でもその時その時の世相を反映していて……ま、間違ってもラブコメじゃないわね。
ごめんなさい、わからない。
わたしの貧困な語彙力では、あのドラマのジャンルを上手く紹介出来ません。
彼女たちはドンパチなんて言葉をギルド名に入れながらも、装備は可愛かったりワイルドだったりと個性豊か。
そのスーツ装備は絶対に生産職が一から作ったお手製よね。
髪型も色々で、色物感満載の 【特許庁】 とは違う意味で個性的なギルドだわ。
半端ないコスプレ感!
サブタイトルから→ まさかまさかのキッチンドランカー?!
グレイは飲まない設定のはずですが・・・(汗