355 ギルドマスターは調味料を間違えます
pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
久々に後書きに休閑小話を置いておきます。
本当に短いですが、お楽しみいただけたらと思います。
わたしは立派な成人女子として自立しようと日々努力しているんだけれど、なぜかギルドでは常に半人前扱い。
「半人前じゃなくて、立派な喪女扱いだから」
喪女も卒業を目指して鋭意努力中なのよ!
ねぇ、ルゥ……と声を掛けたら、それまで楽しそうにジャンプしてキュ○ピーもどきの天使を狩っていたルゥが、おもむろに毛繕いを始めるのはなぜ?
しかも一瞬動きを止めてわたしを見たのよ。
そしておもむろに毛繕いを始めるって、どういうことっ?
もうこれも何度言ったかわからないけれど、ルゥの毛は天パだから絶対に直りません。
寝癖とかじゃないから、どんなに頑張って繕っても無駄な努力だから。
「あんたのその宣言もな。
いいからさっさと回復しろや」
ついにはカニやんに怒られた。
しかもそれだけじゃなかった。
『すまん』
ちょっとクロウ、誰に謝ってるの?
森に潜んで草原の対ギルド戦を銃撃する 【鷹の目】 に反撃するため、先行する短剣使いのベリンダを追って脳筋コンビとともに森に向かって走るクロウ。
だからその声はインカムから聞こえてくるんだけれど、その謝罪は誰に対してのもの?
「もちろん俺でしょ」
カニやんのその自信も根拠不明なんだけれど、横からゆりこさんが、包み紙から取り出したチョコレートを手に 「グレイちゃん、あーん」 といってくるから口を開けたら、チョコレートを放り込まれる。
甘い!
なに、この甘さっ?!
ここの運営は演出が超過剰なんだけれど、甘さも過剰で、口の中のチョコレートは激甘。
絶対にこのチョコレート、砂糖の分量を間違えてる。
しかもゆりこさん、これ、HPを回復してるわよ。
「あら、そう?
だってキンキーが、チョコレートはMPっていってたから」
そういえばさっきキンキーも食べてたわね。
うん、包み紙から取り出して口に放り込むところを見たわ。
そのキンキーもチョコレートはMP回復って言うんだけれど、どう見てもわたしのゲージはHPが回復してるのよね。
ひょっとしてこのお菓子、やっぱり当たり外れがあるんじゃない?
「まぁここの運営の考えることだから」
じゃあもう一つ……とゆりこさんに同じチョコレートをもう一つ口に放り込まれたら、今度はちゃんとMPが回復していくから間違いなく外れがある。
みんな、気をつけてね……というか、よりによって外れに当たるとか。
あのお化けたちめ、今度会ったら覚えてなさいよ。
一年後
うん、次に会う機会があるとしたら一年後ね。
それまでこの怒りと恨みを覚えていられるかは自信なし。
しかもこの回復アイテムというか、お菓子の外れはこんなものじゃなかったっていうね。
まぁそれは後の話として、すでにベリンダの姿は森の中に消え、もうすぐクロウたちも辿り着く。
あとは 【鷹の目】 の統制と照準が乱れるのを待つだけなんだけれど、ただじっと待たせてくれないのが大天使様。
「ウリエル!」
どうせだったらカマエルがよかったのに……というわたしの本音は脇に置いといて、火焔無効の強火力を相手にするにはこちらの火力が足りない。
トップ剣士の三人を突入作戦のほうに回しちゃったからね。
もちろん恭平さんやJBだって立派なランカーだけれど、減った人数分のカバーもあってウリエルまで手が回らない。
ということはこうしましょう。
「下がって、トール君。
起動……封神」
ウリエルに一番近いところにいて、みんなに知らせるため声を上げてくれたトール君を下がらせ、再起動準備を終えた謎スキル 【封神】 を撃つ。
詠唱終了から一拍ほどの間を置いて、遥か上空から落下してくる巨大な太○の塔もどき。
その堂々たるフォルムはどこからどう見ても太陽○塔で、巨大な体躯は中が空洞になっている。
寸分違わず標的である大天使ウリエルを、その空洞内部に閉じ込めるように落下してきた時のインパクトは、二度目とはいえ絶大。
地面を轟かせて大爆発……じゃなくて、着地する。
脳天大爆発
制作者は言わずと知れた芸術大爆発の巨匠。
でもその爆発連鎖は見ているプレイヤーまで及び……初見は仕方ないわよね。
わたしたちというか、スキル所持者であるわたしだってビックリしたもの。
みんな呆気にとられちゃって、手どころか足まで止めちゃってピクリとも動かないんだから。
二度目のわたしたちも、やっぱりちょっとビックリするわよね。
草原にいるプレイヤーたちは我に返るのもそこそこに、両手を挙げて謎の 「女王陛下、万歳!」 コールなるものを始めるんだけれどこれは無視で。
そんなことをしていると 【鷹の目】 に狙われるわよって警告してあげるんだけれど、誰も全然聞かないし。
いや、聞いてるプレイヤーもちゃんといて、天使を利用して躱したりするんだけれど万歳コールをやめないのはなぜ?
この状況にそんな無駄なことを続ける意味がわかんないんだけどっ?
当然驚いたのは草原にいるプレイヤーだけじゃない。
森の中に潜む 【鷹の目】 の銃士たちも。
迫るクロウたちに焦っているところに太陽○塔もどきを見て、すっかり理性を失ったというか、冷静さを失ったというか。
どこを狙っていいかわからなくなり、とりあえず大きい上に動かない的として最適な太○の塔もどきに銃弾を浴びせ、冷静なメンバーは変わらずクロウたちの接近を阻む。
対応が割れた
得体の知れないものへの恐怖というか、冷静な判断を失わせるほどのビックリ……じゃなくて衝撃を受けたというべきか、【鷹の目】 の火力が目標を絞れなくなっている。
いや、ビックリっていうのも間違いじゃないわよね、この場合。
うん、あながち外れた表現じゃないと思う。
「行く?」
「あと17分」
促してくるクロエに、時間管理を担当するカニやんが残り時間を知らせてくる。
そうね、すでにベリンダは森の中にいる。
最悪、当初の予定どおり彼女に保険としての大役を果たしてもらえばいい。
迷う必要はないわよね。
行こう!
「殿は俺が」
「付き合うっすよ」
恭平さんとJBが殿につくときいて焦るのはマコト君とトール君。
二人はほぼ同時にパパしゃんを見るんだけれど、彼がゆりこさんのそばを離れることはない。
本隊の先駆けなんて初めての大役に躊躇する二人なんだけれど、残り時間をきいたでしょ?
四の五の言ってる時間はないの。
行くわよ!
「はい!」
「わかりました」
走り出す二人に、後衛職の魔法使いと銃士が続き、最後尾を恭平さんとJBが来る。
もちろん任せっきりにするのはさすがに酷だから、恭平さんがインカムを使って二人に指示を出す。
状況が状況だから、別のギルドの追撃がほとんどなくて幸いしたわ。
もちろん隊列の大部分を占める魔法使いと銃士も、中央は火力を持たない回復系魔法使いの二人。
わたしにはルゥが、カニやんにはタマちゃんが寄り添う……というか、相変わらずカニやんはタマちゃんに連行されている状態なんだけどね。
「モフ最高」
知ってる
魅惑的なもっふりボディを持つルゥは、相変わらず短そ……ゲフゲフ……なんでもありません、なにも言っていません。
かわいい足で軽快に走るんだけれど、時々ジャンプをして邪魔な天使を、まるでバレーのアタックを決めるように力強く一撃でバシッと叩き落とす。
遊んでいるつもりなのか、とても楽しそうにしているのはいいんだけれど、どんどん調子に乗って速くなっていくのは駄目。
駄目よ、駄目駄目。
待って待って、わたしを置いていかないでぇ~!
ギリギリのところでご機嫌な尻尾を捕まえたら、ご機嫌な声できゅ! と鳴かれた。
可愛すぎる
狙いどおりほとんど被弾することなく辿り着いた森の中は、予想通りというべきかしら?
天使がまったくいない状態。
つまりここには大天使も湧かないってことかな。
でも想像以上に深い森で、目的地の教会はまだまだ見えない。
これは予定を変更して、ベリンダには先に教会に向かってもらったほうがいいのかも。
残り時間が心許ない。
障害物の多い森の中は、本来ならば大剣や長刀は不利。
でも障害となる太い枝細い枝関わりなく、それこそ太い木の幹諸共に相手プレイヤーをぶった斬るクロウ。
装備として大剣は持っているらしいけれど、今日も使い慣れた片手剣の脳筋コンビも、障害物なんて気にもせず盛大な環境破壊真っ最中。
まずは邪魔な 【鷹の目】 の剣士と魔法使いを、その腕力任せに葬り去ろうとしている。
銃士はより広角の視界を得るため木の上のいる。
これを落とすのは攻撃型魔法使いと銃士の役目だけれど、意外に探すのに時間が掛かる。
【鷹の目】 って制服が決まっていて、その柄がよりによって森林迷彩仕様。
だからちょっと薄暗いと見辛いのよ。
そうしてわたしたちが手間取っているあいだも、【素敵なお茶会】 の目論見に気付いているセブン君がかなりの手練れ数人とベリンダを集中攻撃。
もちろん彼女に当てる必要はないし落とす必要もない。
教会に行かせないよう足止めするだけ。
じゃあ別のメンバーを……と思っても、やっぱりここを離脱して教会を目指そうとすれば狙ってくる。
さすが 【鷹の目】、鬱陶しいくらい目ざとい。
「あと10分」
時間管理をするカニやんの声が聞こえてくる。
ここはいっそ全員で教会を目指してみる?
「背中を向けたら蜂の巣だと思う」
やっぱりそう思うわよね。
でもまともに遣り合っても時間切れを狙われるだけ。
いや、そもそも 【鷹の目】 は時間切れを狙ってまともに遣り合わず、消耗戦を仕掛けているだけだと思う。
どうする?
ここはもう、駄目で元々。
全員で教会を目指しましょう! ……と優柔不断のわたしにしては珍しい決断をした時、インフォメーションが出た。
information ギルド 【素敵なお茶会】 第一ラウンド クリア
教会到達プレイヤー名 : チビフェンリル・ルゥ
え? ルゥ?
え? ちょっと待って、ルゥなの?
いつの間にっ?
どういうこと?
「おお、ワンコ」
「すげぇ」
「やるときゃやるっすね」
「頑張ったわね、ルゥ君」
みんなが口々にルゥを褒めてくれるんだけれど、飼い主のわたしが一番わからない。
だってわたし、ルゥに教会を目指すように言った覚えはないんだけれど……ないんだけれど……あ~、そういうことか。
つまりルゥは、森に入ってもそのまま走り続けたってことね。
またしても飼い主を放置していっちゃったのよ。
そしてそのまま教会に辿り着いちゃった……多分そういうことだと思う。
びっくり
いつも迷子になるルゥにしては珍しく真っ直ぐ戻ってきたのはいいんだけれど、それこそいつもはご褒美を待ってわたしの足下にちょこんとおすわりするのに、よほど褒めて欲しかったのか、そのまま突進された。
うん、久々に食らったわ。
あ、顎がぁぁぁぁぁぁ!
しかも勢いに負けて…… 【幻獣】 はノックバックしないからね、衝突すると間違いなくわたしがノックバックするわけで、偶然すぐ後ろにあった木に後頭部を強打。
顎どころか後頭部も割れた。
もうね、パックリよ
休閑小話:ルゥの大冒険 ~ただの迷子です
何かにぶつかったでし。
進めないでしか?
でしでししたけど進めないでしね。
information ギルド 【素敵なお茶会】 第一ラウンド クリア
教会到達プレイヤー名 : チビフェンリル・ルゥ
???
これはなんでしか?
ご主人しゃま、これはなんでしか?
?!
ご主人しゃまがいないでし!
急いで探すでしよ。
頑張って走るでしよ。
ご主人しゃま、どこでしかっ?
ルゥを一人ぼっちにしたら駄目でしよ!!
淋しいでし……