354 ギルドマスターはキッチンタイマーで計ります
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そもそもあの森の中に天使は湧かないのかしら?
あの森っていうのは、もちろんわたしたちの目前に広がっている森。
その中に、この第一ラウンドの目的地である教会がある。
だからイベントの参加プレイヤーはみんな、あの森を目指して草原を移動してきた。
無限湧きする天使や、突然歪んだ空間の隙間から湧いて出る大天使に邪魔をされ続け、遭遇するギルドと対戦する羽目になったりしながらね。
その草原を一足先に抜けていた古参ギルドの一つ 【鷹の目】。
主催者のセブン君を筆頭に銃士を主力とするギルドだけれど、一応魔法使いも剣士も在籍する。
そういえば 【鷹の目】 に回復系魔法使いがいるって聞いたことがないから、在籍する魔法使いは全員攻撃系魔法使いかな。
まぁでも、クロエに並ぶずば抜けた射撃センスを持つセブン君を筆頭に、そこそこ火力に自信のある銃士が揃っていて、遠距離での攻撃を得意とするちょっと変わったギルド。
その際たる特色が廃課金の廃人ギルドってことかな。
なにしろ廃課金の廃人であることが、ギルドの加入条件みたいになってるんだから。
そして、やっぱり主催者であるセブン君を中心に、古参メンバーたちには黒い噂も絶えず、かなり胡散臭いギルドでもある。
つい最近もなにかやって運営に睨まれたらしく、雲隠れしているメンバーが多かったのよね。
なにしたの?
気になるところだけれど、怖いから訊いてないけど。
ここしばらく、雲隠れしていたみたいでセブン君とも会わなかったし。
そのセブン君たちは一足先にこの草原を抜けていたのに、あの森で待ち伏せ。
遮るもののない草原で対ギルド戦を始めたプレイヤーたちを狙い撃ちし始めた。
【素敵なお茶会】 は、運悪くすでに対ギルド戦が行われているところに通りかかっちゃったんだけれど、ひょっとしたらこんな適した位置で対ギルド戦が、こんなにも大規模で始まったのは、そもそもの仕掛けが 【鷹の目】 の仕業だったような気もしてくる。
自分たちは森の中に陣取って、そこから狙い撃ちにしやすいこの場所に、【鷹の目】 に在籍する数少ない剣士や魔法使いを使って通りかかったギルドを足止めした。
そこに後から後から別のギルドが通りかかり、ここまで戦場が拡大。
ちょっとのんびり……してたわけじゃなくて、【特許庁】 に捕まるとかちょっと面倒なことになっていて遅くなった 【素敵なお茶会】 の合流を見て一斉射撃を開始した。
だとしたら、最初に仕掛けをした 【鷹の目】 の剣士や魔法使いはすでに撤退していて、今さら探しても見つからないわよね。
「ああ、その可能性ね。
十分にあるんじゃね?」
うん、あるわよね。
でもカニやんはそれだけじゃないって言うの。
わたしはこんな 【鷹の目】 の攻略を嫌なやり方って思ったんだけれど……だってこのイベントはポイント制じゃない。
PKエリアだから対ギルド戦が起こるのは当たり前だけれど、でもそれは他のギルドのクリアを阻み、少しでも優位に次のラウンドに進むため。
【鷹の目】 みたいにクリアの手はずを整えてまで森に陣取り、わざわざ他のギルドを落とす必要はないはず。
さっさとこのラウンドをクリアして、次のラウンドに一番乗りすればいいじゃない。
「だからさ、【鷹の目】 にとって次のラウンドを優位に進めるための準備」
ん? どういうこと?
「あそこは銃士ギルドだろ。
この第一ラウンドも草原は圧倒的に不利だったけど、次のラウンドも不利の可能性がある。
ってか高い」
まだエリアどころかMAPも見てないのによくわかるわね。
ちょっと感心するわ。
「見なくても見当ぐらいつくじゃん。
教会内の攻略、つまり屋内戦の可能性」
そっか
確かに障害物の多い屋内は射線が通りにくく、銃士には不利かも。
もちろん教会ラウンドのMAPは、この第一ラウンドをクリアしたギルドにのみ、第二ラウンド開始というか、転送直後から公開されるから詳細はわからないけどね。
「そこも。
不利な状況を少しでも優位に展開するために、他のギルドの第二ラウンド進出を遅らせたいんだよ。
たぶん第二ラウンドもIDじゃなく、同一MAP上で行われるはず。
だったら二回目で第二ラウンドに進めるギルドは少ない方が、【鷹の目】 にとってのリスクは低くなる。
二回目での第二ラウンド攻略に失敗しても、三回目で第二ラウンドに進んでくるギルドよりは、すでに一回挑戦している分状況を優位に進められる」
【鷹の目】 にとってのリスク……つまり射線の通りにくい屋内戦で、それこそ 「出会い頭にごっつんこ」 という状況は、【鷹の目】 にとってもっとも不利なシチュエーション。
なにしろ剣士の接近を許せば落とされるのが銃士の宿命。
だって魔法使いと同じく紙みたいなVITだもの。
それこそランカーのセブン君でも同じ。
まぁクロエもセブン君もそこらのへっぽこ剣士には落とされないけれど、逆に他の銃士は、それこそランカーじゃなくてもそこそこのレベルの剣士が相手ならどれほども保たないと思う。
でも今回のイベントはギルド戦で、セブン君一人の火力で勝ち進めるものじゃない。
だからメンバーの多くを占める銃士のリスクを減らすためにも第二ラウンドに進めるギルドを減らし、それこそ 「出会い頭にごっつんこ」 のシチュエーションを出来にくくしたいってわけだ。
そしてそのためにとった戦略がこの状況。
そこまでは考えてなかったわ。
「【素敵なお茶会】 とは無関係の問題だから、考えるならこの状況からの離脱にして」
そうね、わかった。
「突っ込むなら援護する。
僕らは捨てて」
クロエがそう決めたならくるくるとぽぽは一蓮托生。
ただ今の状況は、邪魔な無限湧きキュ○ピーもどき……じゃなくて、天使という障害物があって、【鷹の目】 も狙いやすいプレイヤーから落としにかかっている。
ここからクロエたちが反撃しても、必ずしもクロエたちが集中砲火を浴びるというわけじゃない。
だから切るって判断をするにはまだ早い。
可能なら火力は無駄にしたくないもの。
そうね
ここから森まで、ベリンダの足で三分かからないわよね?
「どんな鈍足だと思ってるのよ?」
うん、わかってる。
速さが取り柄の短剣使い。
剣の短さを活かした振りの速さと足の速さが自慢よね。
保険だから絶対に落ちないことが条件なんだけれど……
「おっけ、突っ込んで攪乱するわ」
わたしが全てを説明する前に理解したベリンダはすでに臨戦態勢……というか突入準備完了って感じ。
でも待ってね
ベリンダ一人で本隊の到着まで保たせるのは難しいから、厳しいのを承知で脳筋コンビとクロウで続いてくれる?
援護は銃士三人がしてくれるわ。
どのみち三人が本気で突っ込んだら、わたしたちはステータスの都合で追いつけないし。
絶対無理だし
攪乱が始まれば銃撃も少しは弛むと思うし、クロエたち三人も本隊と一緒に移動すること。
火力を無駄遣いするつもりはないから。
「欲張りだねぇ、女王は」
「だから女王陛下なんだよ」
「そうか」
「そうだ」
まるで子どもとじゃれるように、軽々と天使を斬りまくりながら掛け合う脳筋コンビ。
いつもならここでカニやんの突っ込みが入るんだけれど、入らなかったのは掛け合いが完結してしまったからってだけじゃなさそう。
「他にも企んでる?」
失礼ね
そりゃ考えてはいるけれど、企んでるっていうと悪いことを考えているみたいに聞こえるからやめて頂戴。
人聞きの悪い。
開始の合図はわたしがベリンダに 【不死の翼】 をかけるタイミングで。
「それ使うの?
やばくない?」
まだ一度しか使ったことのない 【不死の翼】 はあまり知られていない 【スザクのスキル】 の一つで、被術者は三分間だけ不死身になれる。
その三分があればベリンダは森に辿り着けるし、森に入ってしまえば射線を切るための障害物に不自由はしない。
でもこれを発動させるとわたしのMPはほぼ枯渇するから即座に回復が必須なんだけれど、回復中は攻撃参加はもちろん自分を守るのも難しくなる。
だからちょっとヤバいのは確かなんだけれど、彼女は保険だから落とせないって言ったでしょ。
短剣使いの足でもセブン君は侮れない。
ほぼ遮蔽物のない草原を森まで、最短距離を一直線に走ればセブン君は当ててくる。
速さは問題じゃないもの、クロエとセブン君にはね。
だから天秤に掛けるまでもない。
「火力の無駄遣いはしないって言っておいてそれかよ」
それですが、なにか?
「カニやん、グレイを頼む」
「やっぱお守りは俺なのね。
はいはい」
ちょっとクロウ、お守りってなによ?
今回はちゃんとわかってるから回復するわよ。
忘れるわけないでしょ。
しかもカニやんには嫌そうな顔をされるし。
「ギルマスの護衛なら俺もするっす。
剣振りながらMPポーション投げつければいいんしょ?」
ちょとJB、何度も言うけれどわたしに向かってポーション瓶を投げないで!
普通に回復を手伝ってくれるならともかく、どうしてそんな乱暴なのよ。
投げつけてくれたことのある恭平さんは苦笑いとかしちゃってるし。
「だったら広がりすぎないほうがいい。
ギリギリの円陣を作ろう」
下準備はカニやんと恭平さんに任せて、用意が出来たところでいよいよ反撃を開始する。
「起動……不死の翼」
今回のイベントではすでにあちらこちらで大天使の翼がばっさばっさしてるんだけれど、やっぱりこの 【不死の翼】 の翼が一番綺麗。
これ、ゆりこさんに掛けたらマジ聖女?
ううん、本物の天使様よね。
聖母様
是非とも見たいけれど、それはまた今度。
機会があれば必ずするわ。
ベリンダの背に生えた大きな翼がふんわりと、キラキラとした粒子を飛ばしながらゆっくりと彼女を包み込むように羽ばたく。
三分
某お料理番組じゃないけれど制限時間は三分よ、絶対に忘れないでね。
「行ってくるわ」
「んじゃ、俺らも」
「おうさ」
勇ましく森を睨んで一直線に走り出すベリンダに、脳筋コンビとクロウが続く。
四人の行動を見てわたしたちの作戦を読んだ 【鷹の目】 がそれを阻むべく火力を集中させる中、案の定、あっと言う間にベリンダは三人を引き離してしまう。
この時点で 【鷹の目】 の火力に乱れが出る。
稀少な短剣使いの能力はあまり知られていないからね、その速さを目の当たりにして焦りが出たみたい。
すぐにセブン君が統制をとってくるだろうけれど、その頃には彼女は森に辿り着く。
手遅れよ
「だから回復しろって」
しまった!
四人が心配でつい見送るのに夢中になっちゃって、うっかり回復を忘れていたらまたカニやんにMPポーションを投げつけられた。
やめてよと言うまもなくいつものようにの~りんや恭平さんも投げてくるし、JBなんて最初からポーション瓶を持って待ってたのよ。
こっちも手遅れみたい。
そりゃうっかりしていたわたしが悪いんだけど、でも、でも……
痛いんだってば!!