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353 ギルドマスターは糖分を摂って一休みします

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 蝶々夫人は 【特許庁】 唯一の回復系魔法使い(ヒーラー)

 その彼女が参戦していない場合……いや、参戦していても一人だと忙しすぎるか。

 【特許庁】 のメンバーって、主催者のノーキーさんを筆頭に、無鉄砲でなにをするかわからないし。

 でも基本的に被弾すれば回復をするもの。

 そんな基本中の基本を不破さんがわかっていないはずもないのに、ルゥの超絶可愛い必殺の 【肉球パンチ】 で吹っ飛ばされながらも回復せず、呑気に真田さんと話していたのもおかしかったのよね。

 普通ならインベントリからポーションを取り出して回復しているはずだもの。

 それこそちょっと水分補給するみたいな感じでね。

 【特許庁】 が引いたあとの今、また柴さんが大きなペロペロキャンディを、ムーさんがアイスクリームをなめてるけど。


 美味しそうね


 ちょっと離れたところでクロエがお煎餅を食べようとして 「固いよ、これ!」 なんていつものように文句を言っているのは聞かないことにする。

 我が儘は美少年のチャームポイントよ。

 うん、今後はそう思うことにする。

 だからトール君たちもそう思って、クロエにかまわず自分たちの回復を優先してね。


 この回復を不破さんがしなかったのは、そもそも 【特許庁】 にはこの回でこの草原ラウンドをクリアするつもりがなかったから。

 その理由がいかにも 【特許庁】 らしいというか、なんというか。


 忘れてたわ


 【特許庁】 って休みの日でも朝は集まりが悪いのよ。

 しかもそれはイベントの日でも同じ。

 参加登録(エントリー)してるんだからちゃんと集まりなさいよ! ……といいたいところだけれどギルドの運営方針はそれぞれで、どこまでも自由をモットーにしているのが 【特許庁】 なのよね。

 その方針で集まったメンバーたちに強制出来ないのもわかるし、もちろん集まりのいい日もある。


 色々ね


 結局自由と個人主義のアメリカみたいなギルドだから。

 イベント当日の朝になってみればこの回は集まりが悪く、火力不足は目に見えている。

 でも次の回で確実にクリアするための情報収集として、時間潰しも兼ねてログインしているメンバーだけで参戦しただけ。

 真面目にクリアするつもりはなかったとか笑ってたけれど、わたしのことは本気で落とそうとしてたくせに。


 でも不破さんがルゥを見逃したのはこれでわかった。

 イベントの内容とエリアの状態などがだいたいわかったところで 【素敵なお茶会(わたしたち)】 を発見し、じゃあちょっと派手に暴れて終わりにしようかってことだったら、確かにルゥを見逃すくらいなんでもないかも。

 あのうるさいローズがいなかったのも、ひょっとしたらこの回は不参加だったのかもしれない。


 いなくてもいいけど


 むしろいないほうが静かでいい。

 あるいは 【素敵なお茶会(わたしたち)】 と遭遇する前に落とされただけかもしれないけどね。

 こちらの被害は、残念なことにジャック君を落とされた。

 死亡回復が出来ない今回のイベントでは、落とされた時点で通常エリアに転送される。


 忘れてた


 そっか、そうだった。

 あの時、本当にちゅるんさんに落とされていたら、わたしは通常エリアに転送されていなきゃいけなかったんだ。

 だからジャック君はもういなくて、転送と同時にインカムも切断された。

 公平を期す処置として、大型スクリーンでイベント全体の状況を把握出来る通常エリアとの交信は一切不可。

 それはイベント参加者であっても落とされた時点で中途離脱(リタイア)扱いになり、わたしたちは残るメンバーでクリアを目指す。


 暴れたりないというか、遊び足りないというか、最後まで悪足掻き……じゃなくて、最後まで残っていたノーキーさんをクロウが問答無用で落として 【特許庁】 は予定どおりに撤退。

 まぁこれは予想通りというか、それこそデフォってやつ。

 早々に撤退した真田さんが言い残した忠告は、このあとしばらくして現実のものとなる。


 【鷹の目】 に気を付けろ


 あー……そっか 【鷹の目】 か。

 うん、まぁ仕掛けてくるだろうことは予想出来る。

 仕掛けてくる場所というか、罠を張っている場所も見当がつくかな。


「それ、どっちのご褒美?」


 一杯頑張ってくれたルゥをご褒美にモフりながら歩いていたら、カニやんに突っ込まれる。

 どっちって、もちろんルゥよ。

 見てよ、このご機嫌な顔。

 超ご機嫌で、尻尾とかブンブン振ってるわよ。

 お目々だっていつも以上にキラキラしてるし。


「俺を見た瞬間に鼻に皺が寄ったけどな」


 ルゥのご機嫌な顔を見せようとしてカニやんのほうを向けたら、確かに低く唸ったような気がした。

 でもすぐわたしの胸にしがみついてきた時には、超々ご機嫌の可愛らしい顔に戻っていた見事なルゥの百面相。

 そういうところも可愛すぎる。


 ノーキーさんを落として少しは気が晴れたのか、クロウも機嫌を直した感じだし……アイスクリームでも食べる?

 えっとね、チラッとクロウを見上げたら、丁度HPポーションで回復をしていたところだったの。

 それで回復アイテムのアイスクリームはどう? って訊いてみただけよ。

 また微妙な顔されちゃったけど。


「あいつら見てると感覚が麻痺してくるよな」


 あいつらっていうのは脳筋コンビね。

 カニやんがいっている意味がよくわかる。

 いい歳したおっさんが棒付きのペロペロキャンディを普通になめてるから、ついついクロウにも舐める? なんて訊いちゃったわ。

 普通のいい歳したおっさ……ゲフゲフ……なんでもありません、上司様。


「ちなみに残り1時間切ってるから」


 だいぶん森が近づいてきてる。

 つまり目的地である教会も、スタート時に比べればかなり近くに見えている。

 あの森の状態次第ではあるんだけれど、草原を抜けるだけに1時間以上を費やしてしまったことが吉と出るか凶と出るか。


 予想通り教会が近づくにつれ対ギルド戦(G V G)が増える。

 【素敵なお茶会(わたしたち)】 を含めて三つ? いや、四つかな?

 少し離れたところでも、やっぱりいくつかのギルドが入り乱れるように混戦を繰り広げている。

 この状況はあの時を思い出させる。

 だってどこのギルドもみんな、森の中に見える十字架を目指してるのよね。

 あの時もみんな、島に渡るために橋を目指していた。

 その橋を渡らせまいと、我先に渡ろうとしていたあの時。


 【鷹の目】 はどこにいた?


 島に渡るための転送ゲート。

 その前での乱戦を、セブン君を筆頭とする 【鷹の目】 は周囲の廃ビルに陣取り、上から狙ってきた。

 これはたぶん、あの時と同じだと思う。

 じゃあ今回どこに 【鷹の目】 は陣取っているのか?


 森の中


「警戒!」


 クロエが声を上げた刹那、その声にかき消される銃声。

 そして照準器(サイト)を覗く目を撃ち抜かれたくるくるが、その背を大きくのけぞらせる。

 ここまでがほぼ一瞬のことで、直後に聞こえたのはキンキーの回復魔法(ヒール)


「くるくる!」

「大丈夫。

 キンキー、ありがとう」


 慌てるぽぽの呼び掛けに落ち着いて答えるくるくるは、キンキーにお礼を言って、改めて銃床を肩付近に当てて構えると照準器(サイト)を覗く。

 真田さんの忠告はみんなにも伝えてあったし、銃士(ガンナー)三人はこの状況で 【鷹の目】 がどこに陣取るかなんて予想が付いていたと思う。

 だからクロエはいち早く気がついたんだけれど相手が悪かった。


「セブン君、最近性格悪くなってきたな」


 あんなピンポイントで当ててくるんだから、狙撃手はセブン君で間違いないと思う。

 銃士(ガンナー)主力(メイン)として構成される古参ギルドの一つ 【鷹の目】。

 その主催者ラッキーセブンことセブン君は、クロエと並ぶトップ銃士(ガンナー)

 でもその狙いの正確さはいうまでもないんだけれど、狙いの定め方がちょっとえげつなくてカニやんを否定出来ない。

 だって照準器(サイト)越しにプレイヤーの目を狙うなんて、どんな器用さ?


 もちろん運営の自主規制により、被弾による首より上の欠損はないから眼球も失われず、プレイヤーの視覚も失われない。

 ただ眼球からHPが流出(ドレイン)するっていうのもなかなか生々しいというか、痛々しいというか……ごめんなさい、正直にいいます。


 ホラー


 ただでさえ眼球を撃たれるなんて初めて見たのに、HPを流出させながらくるくるが後ろにのけぞった時、一瞬、噴き出すHPが目玉が飛び出したように錯覚しちゃって。

 本当に一瞬だけね。

 でもそう見えたの。

 おかげで背中がぞわりとした。


「色んな初見があるっすけど、生々しいっすね」


 さすがのJBもビックリしたっていうんだけれど、そのJBを壁にしているアキヒトさんは顔を引き攣らせて言葉も出ない感じ。

 ホラーは嫌いだもんね、気持ちはわかる。

 でも動きを止めると落とされるわよ。

 遠距離射撃で狙ってくる 【鷹の目】 か、すぐそこにいる名前も知らないギルドとかにね。


「どうする?」


 あの時は二手に分かれて対処したけれど、そういう意味ではあの時とは色々と状況が違う。

 あの時は 【素敵なお茶会】 は転送ゲートに向かうように見せかけて少数精鋭で襲撃したけれど、今回はすでに乱戦の中に居る。

 しかもこれだけ見晴らしがいいと、もはや襲撃は不可。

 まるであの不自由の女神戦で学習した 【鷹の目】 の、不自由の女神戦の逆襲みたいな感じ。

 それにたぶん 【鷹の目】 は保険を掛けてあるはず。

 このイベントの第一ラウンドをクリアするための保険をね。


 この第一ラウンドは、参加メンバーの一人でも目的地である教会に辿り着ければクリア。

 だからセブン君はメンバーの一人を教会の近くに配し、インカムで連絡を取り合っていると思う。

 そうして自分たちのクリアを確実なものにした上で、こうやって他のギルドのクリアを阻んでいる。


 今回のイベントはポイント制じゃないんだから、さっさとクリアして第二ラウンドに一番乗りすればいいのに、余裕綽々を見せつけるようにこんな嫌味な行動に走るのは、【鷹の目】 らしいといえば 【鷹の目】 らしいんだけれどやっぱり腹が立つ。

 どうしてこんな嫌味なことばかりするのかしら?

 しかも宣戦布告のようにくるくるの目を撃ったりして。


 その狙撃能力を誇示するような牽制は見事に功を奏し、あらかじめ備えていた 【素敵なお茶会(わたしたち)】 と違い、気づいていなかったギルドを唖然とさせた。

 これは運営の過剰演出を真似たのかしら?

 でも効果は絶大で、手を、足を止めたプレイヤーを次々に集中砲火を浴びせ、蜂の巣にして落としていく。


 思う壺


 まるで 【鷹の目】 の思惑どおりに、草原にいるプレイヤーが次々に落とされていく。

 でもね、このイベントには予測不可能な要素もある。

 その一つが草原に無限湧きし、自由に飛び回るキュ○ピーもどきの天使たち。

 遠距離射撃を回避する盾として大活躍……といってもプレイヤー(わたしたち)が勝手に利用しているだけで、代わりに蜂の巣にされる天使には不名誉というか、大迷惑だと思う。

 そしてもう一つ。


 大天使


 これだけプレイヤーが集まっていれば、呼んだつもりはないけれど湧くわよね。

 カマエルでもウリエルでもいいけど、森まで釣っていったらどうなるのかしら? ……なんてことを考えていたら恭平さんに却下された。


「釣っていくまでに落とされる」


 ……そうでした

そろそろ草原ラウンドは終了。

ラストはバッチリ決めてくれますよ、あれがw

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