351 ギルドマスターは間違って餅を焼きます
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「チビが落とされる!」
てっきり初死亡かと思ってぶっ倒れていたわたしに、何度も反撃を促してくるクロウ。
ちっとも状況を理解しないわたしに焦れたクロウは、ルゥの危機的状況を知らせてくる。
うん、まぁそれで、またルゥのお尻に顔面を踏まれてるってわかったんだけどね。
わたしのルゥを落とそうとしてるのは誰っ!!
冷静に状況を考えてみればちゅるんさんよね。
【特許庁】 のサンバダンサー……じゃなくてランカー剣士。
いつもきんきらの水着みたいな衣装に、派手派手しい羽根飾りを背中と頭に付け、どうしてそれで息切れを起こさないのか、不思議なくらいホイッスルを吹きまくって踊っているプレイヤー。
とりあえずわたしの視界はもっふりボディに塞がれているから、このあたりかしら? ……と考えながらルゥの癖っ毛を手探りでモフり……じゃなくて掴み、ちょっとだけお尻の位置をずらしてみる。
ようやくのことでひらけたわずかな視界至近距離にルゥのもっふりボディと、ついさっき、真田さんの指示でわたしの首を落とそうとしていたちゅるんさんが見える。
どうしてこうなった?
【聖獣】 に有効な闇属性スキル切れの状態を打破すべく、未公開スキル 【封神】 を使って三体目のカマエルを太○の塔もどきの中に封じ込めたわたしたち。
すぐにその場所を離れるためルゥに駆けっこを持ちかけたら、飼い主を見捨てて猛ダッシュで行ってしまったルゥ。
あっと言う間のそのフリフリのお尻とか、尻尾とか見えなくなっちゃって悲しくなった。
そのままどこに行ってしまったのかわからないうちに 【特許庁】 と遭遇してしまったんだけど、いつの間にかどこからか戻ってきていたらしい。
でも実はね、このラウンドのあとで不破さんがこっそり教えてくれたんだけれど、ルゥは元々この付近にいたんですって。
つまりわたしを置いて行ってしまったのはいいけれど、どうやら走るのに飽きてしまったらしい。
それがたまたまこのあたりで、いつものようにフンフンフンフンフン……と臭いを嗅ぎながら楽しそうに探索を始めた。
しかもそのことに不破さんは気づいていたのに、ノーキーさんにも真田さんにも知らせないでいたらしい。
ここでわたしたちを強襲するって知っていたのにね。
どういうつもり?
相変わらずなにを考えているのかよくわからない人ね。
ルゥは草の陰にいて他には誰も気づかないまま戦闘が始まってしまい、でもわたしのピンチに気づいたルゥのほうから飛び出してきた。
最初のあのボフッという衝撃は、わたしの顔面に飛び込んでちゅるんさんの剣をバックリやったルゥとぶつかった衝撃らしく、ノックバックしない 【幻獣】 の代わりにわたしがぶっ倒れたと。
でもさすがの 【幻獣】 も重力には勝てない設定で、ルゥには凄い跳躍力はあっても飛行能力は無く、そのままポテッとわたしの顔面に着地。
ちゅるんさんの剣をくわえたまま力比べをしようと踏ん張ろうとしたら、足が短くて地面まで届かず、結果としてわたしの顔面にすわっていたということらしい。
どんだけ短そ……ゲフゲフ……なんでもありません。
ちなみに胸元でモゾモゾしているのは、踏ん張っているルゥの短い前肢でした。
よかった……
「さすがにそこまで露骨なことしたらアカウント凍結だろ」
隊列が長く伸びすぎて戻ってこられない脳筋コンビに代わり、【妖獣】 本来の姿に戻ったタマちゃんが剣士代わりにカニやんの壁になっている。
ビックリなのは、お猫様がするシャーッていう威嚇があるじゃない。
タマちゃんがそのシャーッをすると相手がノックバックするっていうね。
スキルってこと?
「みたい」
なんとも頼もしい相棒ね、タマちゃんって。
猫パンチの威力はさすがに 【妖獣】 の上位級で、大剣は難しいのかも知れないけれど、片手剣くらいならその爪で受け止めちゃうの。
立派な剣士じゃない?
「いや、本当に大剣は無理。
こいつ、わかってるから躱すの上手くて俺が斬られる」
……うん、そこは残念なAIだから仕方がないわね。
よかったわ、ルゥだけがポンコツじゃなくて。
わたしはそのルゥに、今は心の中でお礼を言いながらもっふりボディを抱きしめる。
そして放つ。
「スパーク!」
もちろん対象はちゅるんさん。
ノックバックしないノーキーさんや、直撃を食らって後退しながらも体勢を崩さないノギさんと違い、ちゅるんさんは吹っ飛ばされ気味に後退。
さすがにその背中の羽根飾りとか、頭の羽根飾りとか重いわよね。
とくに頭の羽根飾りなんて、ビヨ~ンビヨ~ンしててバランスが悪そうだもの。
あれを支える筋肉ってどんな腹筋と背筋?
首とか太くなりそうだから、わたしは絶対に装備しないけど。
残念なAIを搭載しているはずのルゥだけれど、飼い主の危機にすかさず助けに飛び込んできたりと優秀な面もあるらしく、この時もわたしのスパーク発動に合わせてちゅるんさんの剣を離す。
口を、これでもかってくらい大きく開けちゃって可愛いわ。
ありがと
口の中を切っていないか、それこそのぞき込んで確かめたいけれど、それも後回し。
あとで一杯褒めてあげるから、今はごめんね。
やっぱり心の中で謝りつつ、体を起こしたわたしは……でも立ち上がるのは間に合わないからすわったまま、反撃に入る。
「起動……焔獄」
後ろのほうで相変わらずノーキーさんが色々と喚いていて、それに真田さんが言い返している。
「グレイは俺の獲物だろうが!」
「うるせぇ!
自力でここまで辿り着け。
ってか不破はどうした?」
「あんたの後ろ、歩いてる!」
え? それってつまり不破さんがこっちに来てるってこと?
やばいやばいやばい、早くちゅるんさんを片付けなきゃ……というわたしの内心がまたしてもルゥに伝わったのか、わたしの腕を抜け出したルゥが、ちゅるんさんに向かっていったかと思ったら大きくジャンプ。
そして彼女の額に必殺の肉球パンチをお見舞いする。
決まった
いつもカニやんにはかなりの加減をしているらしく、それこそルゥのSTRを考えればじゃれている程度なのかも知れない。
でもちゅるんさんには容赦……はしてると思うけれど、それでも額から大量のHPを、まるで噴水のように吹き上げながらちゅるんさんは吹っ飛んでいった。
そしてそのまま落ちる。
ご愁傷様
相変わらずビックリね。
そして相変わらずの謎ポーズを決めて着地したと思ったら、一目散に私のところに戻ってくる。
そしてわたしのすぐそばに立った不破さんを上目遣いに睨み……ルゥは小っちゃいからどうしても、それこそわたしくらいの身長でも見上げる形になっちゃうんだけれど、長身の不破さんを上目遣いに睨んで低く唸り声を上げる。
「ルゥ君、見掛けによらず強いですね。
まさかちゅるんがあんな簡単に落ちるなんて」
そこは不破さんだけでなく、真田さんにも計算外だったらしい。
【特許庁】 のランカーの中でも、これまでに対戦経験のないちゅるんさんならわたしも油断するんじゃないか?
そんなことを考えて、今回はちゅるんさんを当ててきたらしい。
甘いわよ。
そもそも、どうして真田さんも蝶々夫人も、わたしを落とすことに執念を燃やしてるのよ?
「そりゃギルマスだし、最凶火力は伊達じゃないし」
とりあえずわたしを落とせばなんとかなるんじゃないかって……なるわけないでしょ!
クロウはどうするのよっ?
脳筋コンビだっているし、火力だけならカニやんだっているんだから。
「火力だけならって……ひでぇ」
言葉の文よ、気にしないで……といっても気にするんだから、カニやんってば。
がっくりと肩とか落としたら、タマちゃんに怒られた。
二本ある尻尾の一本でビンタされたのよ。
ほんと、タマちゃんって器用ね。
「グレイちゃんが落ちればやる気なくすだろ。
だからクロウはいいんだよ、このむっつりスケベは!」
打ち合わせた剣を引くに引けない状態の真田さんは、足を上げてクロウを蹴り飛ばそうとするけれど、それはクロウに読まれていて斬り返した砂鉄で足を、膝のあたりから斬り落とされそうになったところで不破さんの屍鬼が割って入る。
「なにやってるんです?」
「わりぃ」
でも長刀の屍鬼は、長さで勝ててもSTRで押し切ってくる大剣の砂鉄が相手では分が悪すぎる。
だから真田さんの後退に合わせて不破さんも屍鬼を引く。
師弟コンビってわけじゃないだろうけれど、そこは同じギルドの剣士。
ぴったり
それこそタイミングだけでなく息も合っている感じ。
その不破さんがわたしに向かって声を荒らげる。
ううん、正確にはわたしのほうに向かって、ね。
「お前も、やるならさっさとやれよ!
このヘボ!」
「黙れ、この酷薄野郎!」
ちゅるんさん同様、いつの間にかわたしの背後に回り込んでいたのは、言わずと知れたバロームさん。
なぜか真っ赤なローブの下に、かなりきわどいビキニアーマーを装備した攻撃型魔法使いね。
どうして不破さんが怒っているのかと思ったら、どうやら不破さんの後ろにくっついてここまで移動してきたらしいの。
つまり不破さんを壁にしてきたってことね。
この位置取りを考えれば目的はわたしなんだろうけれど、理由が理由で……あ、でもバロームさんだからさすがというべきかしら。
「お忙しいギルマスに代わって、不肖、バロームがアールグレイさんを討ちます!」
もちろんこのバロームさんの宣言を聞きつけたノーキーさんが……串カツさんと一緒に脳筋コンビに足止めされてるんだ、ノーキーさんてば。
そのノーキーさんが喚き返す。
「待てや、ごるぁあ!
俺は自分で討ちてぇんだよ!
勝手なこと言ってんじゃねぇ!!」
「お任せ下さい、ギルマス。
必ずやこのバローム、お望みを叶えて差し上げます。
いざ、尋常に勝負!」
不破さんは、それこそわたしに気づかれる前に先制をかければよかったのにとバロームさんを貶すんだけれど、バロームさんは正々堂々と勝負したかったらしい。
もちろんそれもノーキーさんの名誉のために、なんてわけのわからない理由で。
うん、別にいいけどね、不意打ちでも。
だってバロームさんって魔法使いじゃない。
それともその杖に、わたしみたいに武器を仕込んでたりする?
もちろんその可能性は十分にあってわたしは警戒するんだけれど、それはないって不破さんが教えてくれる。
「グレイさんみたいに剣筋を見ていれば、ちょっとはこいつでも身につくものがあるかも知れませんが、こいつ、あれだけクズの周りをうろちょろしてクズの顔しか見てませんから」
あー……うん、まぁ確かにノーキーさん、顔だけはいいものね。
顔だけは。
性格はとっても残念だけど、顔だけはね。
でも大丈夫よ、不破さんだって負けず劣らず格好いいから。
もちろん真田さんもね。
あら?
これはひょっとしてひょっとして、不破さんったら、ノーキーさんに妬いてるとか?
ノーキーさんのモテモテが実はちょっと面白くないとか、これはそういうこと?
「こんな馬鹿は要りません」
……言い切っちゃうんだ。
馬鹿って……言い切っちゃうんだ……。
クリスマスどころか年も明けてしまいましたが、まだまだクリスマスイベントは続きます!
サブタイトルは、ちょっと間違えてお正月に行っちゃっておりますが・・・(汗