35 ギルドマスターは運営と和解します
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!
いつもより少し早い時間ですが、よろしくお付き合いくださいませ。
ナゴヤドームまで戻ったわたしたちは、他の大半のプレイヤーたちと一緒に中央広場で結果の発表を待っていた。
ヘロヘロ状態で戻ってきたわたしを見て、回復魔法使いのゆりりんが回復してくれようとしたんだけれど、ごめんね、これはそういうのじゃないから。
実際、HPもMPもフルに戻ってるのよ。
「その辺の宿にでも入る?」
「空いてる部屋、探してきまーす」
カニやんとマメが気を利かせてくれたんだけど、大丈夫、今はみんなと一緒にいたいから。
広場に集まる参加者も不参加者も、イベントの余韻さめやらぬ様子でざわめいている。
その中でわたしも一緒に勝利の余韻に浸りたかったんだけど、中央にある噴水に腰を掛けてグッタリしていた。
隣にすわってくれたクロウを支えにしてなきゃすわってもいられないとか……もうね、恥ずかしいとか言ってられない状態。
本当はログアウトしてしまったほうがいいんだろうけれど、まだ運営からの返事がないのよ。
もちろんトール君のこと。
痺れを切らして返事を催促しようかとウィンドウを開いた時、運営の音声インフォメーションが入った。
『このたびは 【the edge of twilight onine】 第一回イベント 【不自由の女神を解放せよ】 にご参加いただき誠にありがとうございました。
多数のプレイヤーにご参加いただき、多いに盛り上がることが出来ました。
また、残念ながら今回はご参加いただけなかったプレイヤーにも、ご観覧という形でお楽しみいただけたことと存じます。
ポイントの集計が終わりましたので、結果を発表させていただきます。
第三位 パーティーリーダー ラッキーセブン。
所属ギルド 【鷹の目】 主催者』
ん? セブン君のパーティーが第三位?
どういうこと?
じゃあ二位はどこよ?
【鷹の目】 には、少なくとも他に2パーティーあったけれど、間違ってもイベント開始早々にわたしたちに落とされたパーティーではないはず。
残る一つってこともないと思うんだけど……。
しかも意外な結果に首を傾げたのはわたしだけじゃなくて、広場のそこここでざわめきが起こっている。
【鷹の目】 は課金ギルドだから、たぶんメンバーはみんな課金購入のギルドルームにいると思う。
つまり広場にはいないんだけど、きっと聞こえないだろうけれど、健闘を称えて拍手を贈るわ。
情けない音しか出ないのは許してね。
「グレイさん、お人好し」
憎まれ口を叩きながらも一緒に拍手を贈るクロエ。
まぁあんたにはいい好敵手だもんね、セブン君は。
なんとなく寄りかかっているクロウを見上げてみたら、視線でも感じたのか、クロウもこっちを見る。
いつ見ても格好いいんだから。
「ログアウトするか?」
「まだ。
運営の返事がまだだもの」
これだけはどうしても譲れないって意地を張るわたしに、クロウは深い溜息を吐く。
責任を感じる必要はないんだけど、トール君はずっとオロオロしてる。
でも絶対にわたしとは目を合わせないのよ。
赤い顔で半笑いして、オロオロしながらこっちを伺う振りをして、でも絶対に目は合わせないって……なんなの、ほんと……。
そんなトール君を見てカニやんは苦笑い。
わたしと目が合うとにひって笑って肩をすくめてた。
ま、一番落ち着きがなかったのは脳筋オッサンコンビね、一番理由がわからないんだけど。
『第二位 パーティーリーダー ノーキー。
所属ギルド 【特許庁】 主催者』
「意外だね、【鷹の目】 が 【特許庁】 に負けるとか」
わたしもクロエに同感。
あの個性派揃いの 【特許庁】 が団体戦に参加していたことだけでも意外だったのに、【鷹の目】 を凌いじゃうなんて。
ひょっとして、個人主義のほうが強かったってこと?
運営の音声インフォメーションを聞いた直後、広場のどこかから凄い歓声が上がる。
たぶん 【特許庁】 のメンバーだと思う。
あの騒ぎじゃ聞こえないだろうけれど、やっぱり健闘を称えさせてもらって拍手を贈るわ。
『第一位 パーティーリーダー アールグレイ。
所属ギルド 【素敵なお茶会】 主催者』
「ま、当然だよね」
「あれだけ苦労したんだから」
さも当たり前と言わんばかりのクロエに、カニやんは苦笑い。
3パーティーの共闘だったのに、最終攻略者のわたしにポイントがついてしまったのよね。
全員がギルドメンバーだったってこともあって、考えなしだったわ……。
「別にいいんじゃないの?
【素敵なお茶会】 のトップメンバーなわけだし」
そういう意味ではカニやんは気にしてないみたい。
当然カニやんだってトップメンバーなのに、今回、クロエの誘いを断ったのはカニやんなりの考えがあってのこと。
パーティーが二つ以上あるなら、他にもリーダーが必要だからってことだったらしいの。
ちゃんと考えてくれてるのよね。
もちろんクロエもすぐそのことに気づいたんだと思う、しつこく誘ったりしなかったし。
あの時の会話の流れもそうだったしね。
「次の時はまた一緒させてよ」
「もちろん」
他のメンバーはどうかと思ったんだけれど……
「え? なんで?
女王が一番じゃないとダメだろ?」
「いや、女王のパーティー抜いてトップとか、怖いわ。
ってか無理だし。
爆撃されたくね」
脳筋オッサンコンビのコメントね。
パパしゃんはカニやんと同じようなことを言っていたし、合流前に落ちちゃったの~りんは苦笑いのノーコメント。
返事に困るだろうからココちゃんには訊かなかったけれど、やっぱりパーティーの割り振りは考え直したほうがいいわね。
四位以下は公式サイトで発表されることとか、賞品の受け渡しとか、長々と続いた運営の音声インフォメーションは、最後になって、ようやくのことでわたしの要求に答えた。
『最後に、イベントが終了しているにもかかわらず、システムの不具合によりプレイヤーが死亡状態となりました。
当該プレイヤーならびにパーティーメンバーの方々には、さぞ不快に思われたことと存じます。
この件につきまして、運営より深くお詫びいたします。
次回イベントよりはこのようなことがなきよう努めますとともに、当該プレイヤーにつきまして、他のパーティーメンバー同様生存者とさせていただきます。
今後とも 【the edge of twilight online】 をよろしくお願いいたします』
わたしの元に、同じようなことを書いた運営のメッセージが届いたのはこの直後のこと。
でもね、このイベントを締めくくる運営の挨拶に一番歓喜したのは、わたしでもトール君でもなかったのよ。
じゃ誰かっていえば……
「やったー、首が繋がった!」
「これで首が飛ばねー!」
……そ、脳筋オッサンコンビ。
歓声を上げて小躍りとかしてるし……うん、マメ?
あんた、イベントに参加すらしてないのに一緒になってなんで踊ってるのよ?
だいたいね、わたしが本当に首を刎ねるとでも思ってるわけ?
ううん、それはどうでもいいのよ。
わたしたちが集まっていた場所が問題だったのと、その言い方!
言い方が悪いのよ。
わたしたちがいるナゴヤドームの中央にある広場、ここは一番人が多く集まる場所でもあって、今もイベントの結果をここで聞いているプレイヤーが多い。
そのプレイヤーたちのあいだでとんでもない噂が流れちゃうのよ、この二人のおかげで。
【素敵なお茶会】 は、イベントなどでヘマをするとギルドを解雇になるっていうね……
ゲーム内の攻撃手段である 「首を落とす」 じゃなく、現実世界の 「解雇」 のほうに想像力がいっちゃうって……世知辛い世の中ってことね、きっと……。
みんな、世知辛い世の中を頑張って生きてるのね。
この件については二人に責任を取ってもらうことにして……限界かな……わたしが。
「今日はもう休め」
休めば回復するかと思ったんだけど、今日はもうちょっと無理みたい。
虚脱感は治まらないし、目眩も治まらないし、動けないとか……遊べないじゃない、これじゃ。
このままみんなと一緒に勝利の余韻に浸りたかったのに、余韻どころか勝ったっていう実感すら感じられないとか、どんな罰ゲームよ?
みんなも心配してるし、クロウのいうとおり、今日はもうログアウトして休んだほうが良さそうね。
クロウにいわれるまま自分のウィンドウを開いたまではいいんだけれど、クロウに手を操られてログアウトボタンをポチらされた。
おっきな手……結構好きだな、この手。
なんて寝ぼけたことを考えながら、結局熱を出して三日も寝込んじゃった。
こ……子どもみたい……
色々と恥ずかしいこと満載で今更なんだけど、さすがにゲームのせいで熱出して三日も寝込んだなんていえなくて、残業でログインできなかったことにしておく。
……会社も休んじゃったんだけどね……。