346 ギルドマスターはアシスタントを使います
PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
前回のイベントで散々 【ゴショ】 を巡回した結果、わたしのレベルは54まで上がった。
それはつまり上限値まで残すところ4となったわけなんだけれど、訊かれたから答えただけなのにみんなにうんざりされるってどういこと?
なによ、その反応は?
失礼ね!
そもそもレベルが上がればステータスポイントがもらえて、ポイントを振ればステータスが上がるから必然的に火力が上がる。
同じように経験値をもらい続ければ、いつかはレベルが上がるのよ。
これも当たり前のことなのよ。
なにがおかしいのよ!
「おかしいとは言ってない」
「上がり方がおかしいって言ってるんだよ」
「カニはともかく、俺ら、まだ40も超えてないからな」
なんだかんだいってカニやんは堅実で、コツコツさりげなく経験値を溜めるタイプ。
比べて脳筋コンビは、経験値のことなんて気にせず落ちるじゃない。
だからレベルだって上がらないんでしょ。
そのうち恭平さんやJBに抜かされるから。
「そもそも剣士なんて、落ちることを気にしてたら出来ないから」
恭平さんのいうことには一理あるかもしれない。
でも脳筋コンビは落ちすぎなのよ。
まったく気にしないってどういうこと?
いや、まぁわたしもあまり気にしてないけど……ん? いや、違うか。
そもそもわたし、落ちたことなかったっけ?
死亡回数 0
確かそんな気がする。
でもそれは半分以上クロウの陰謀で、なにを企んでいるかわからない。
ついでにいうとクロウもレベル54です。
つまり別にわたしの支援が必要ってわけでもないから、わたしのレベルまで一緒に上げる必要がないのよね。
ほんと、なにを考えてるのかわからないんだから。
そんなクロウを筆頭に重火力鉄筋剣士たちが相手だと、足止めくらいしか威力を発揮しない闇属性のスキル 【クロノスハンマー】。
同じようにランカーのノギさんとか、動きこそ確実に止められるけれど、VITが高すぎて、ダメージなんてサラッとHPが流出する程度。
それこそ高HPだから気にする必要もないくらい。
【幻獣】 には全く効かず、【妖獣】 【魔獣】 といった闇属性のNPCにも、その足を止めるくらいしか威力を発揮しない。
もちろん雑魚くらいなら落ちるけれど。
属性を持たないプレイヤーもVIT次第なんだけれど、なぜかわたしの周りは鉄筋ばかり。
おかげで足止めスキルと化していた。
だって他に使い道がないし、使い勝手がよかったんだもの。
ダメージこそ与えられないけれど、あのノギさんやノーキーさんでさえ動けなくなるんだから。
鉄筋兄弟
えーっと、これは内緒で。
知ってる人は知ってるらしいけれど、あまり言い触らすとわたしの首が危うくなりそうだから。
うっかりすると一瞬で飛ばされそうだもの。
alert 大天使カマエル / 種族・聖獣
このゲームでは個体が持つ特性とは別に、種族として属性が設定されている。
その属性を無視した存在が 【幻獣】 で、だから 【幻獣】 はNPC最強なわけで、この大天使様二体は 【聖獣】。
天使に獣って付けるのもどうかと思うけれど基本設定だから、いちプレイヤーが異を唱えたところで運営が耳を貸すはずもなく。
そして中庸にあるのが、属性そのものを持たない 【幻獣】 とプレイヤー。
【幻獣】 は主にダンジョンやイベントのボスキャラとして登場している。
次に闇属性の 【妖獣】 と 【魔獣】。
最近仲間になったお猫様のタマちゃんもこの 【妖獣】 で、実は猫又だったっていうね。
いつの間にか裂けている二本の尻尾を見てビックリしちゃったわ。
「股が裂けるみたいに言うなよ」
言ってないわよ、そんな恐ろしいこと!
思わぬ濡れ衣に大きな声で言い返したら、モフが増えて万歳だって。
カニやんってば、それ、さっきも言ってなかったっけ?
「俺は何度でも言う。
モフは正義!」
うん、言ってることがさっきと違うから。
しかもそれ、いつも言ってるし。
ちなみに最強NPC 【幻獣】 のルゥは、【クロノスハンマー】 の影響下でも平気でフンフンフンしてます。
それこそ何も感じないらしく楽しそうで、ジャンプも出来るし頭突きも出来ました。
ええ、久々に食らったわ。
死ぬほど痛かった……
わたしの記念すべき 【死亡回数 1】 をつけるのは絶対ルゥだって、再認識したもの。
あまりの痛みに顎が割れていないかクロウに見てもらったけれど、何度 「大丈夫」 と言われても心配で心配で、ひげ剃りあとを気にする男の人みたいに一日中顎をなで回す羽目になった。
ちなみにさっきも言ったけれど、【クロノスハンマー】 は同じ中庸でも、プレイヤーは影響があるんだけどね。
そしてプレイヤーや 【幻獣】 同様に、ほとんど影響を受けない闇属性の 【魔獣】 と 【妖獣】……ということは、光属性には効くってことよね。
そしてわたしたちの前に立ちはだかる大天使様の種族は 【聖獣】。
魔や妖が闇を意味するのなら、やっぱり聖は光よね。
だったら効くはず。
「起動……クロノスハンマー」
わりと近い距離に出現した二体の大天使様、ウリエルとカマエル。
その頭頂に戴いた神々しい天使の輪を割るように、上空に現われた数本のハンマーが振り下ろされると、大天使ばかりか、カマエルに召喚された無数の天使たちまでが金縛りに遭ったかのように羽ばたきを止める。
そして草原にバタバタと落下したと思ったら、そのまま電子分解していく。
キュ○ピーもどきがキラキラとした光の粒子になって、そのまま消失。
それと同時に結構な量の経験値が入る。
意外な副産物
これはちょっと予想してなかったわ。
【クロノスハンマー】 の影響下にあった天使が全て落ち、ポツンとひらけた空間となる。
そこに、やっぱり金縛りに遭って羽ばたきが出来なくなった大天使二体が、両手両膝を地に着き、悔しそうな顔をこちらに向けて睨んでくる。
つまり目標がわたしになったってことね。
もちろんこれは想定内。
そして 【クロノスハンマー】 の影響下で、二体ともがかなりの量のHPを流出させているのも想定内。
だって 「効く」 と思って撃ったんだもの。
【クロノスハンマー】 の効果はせいぜい数秒。
視覚効果が消えるとともに解放された二体は、ゆっくりとした動作で立ち上がろうとする。
もちろんわたしを睨んだままだから、間違いなく次の攻撃対象はわたし。
但し、無事に立てたらね。
クロウの合図で、わたしが 【クロノスハンマー】 を発動させるのに合わせて後退した脳筋コンビ。
なにしろ超高性能な危機管理センサーを内蔵している二人。
だから合図をもらって避け損ねるなんてヘマは絶対にしない。
そのわりに普通に落ちる回数は多いけど。
「柴。
ムー」
今度は、やっぱりクロウの合図で 【クロノスハンマー】 の影響から解放され、ゆっくりとした動作で立ち上がる大天使を、柴さんがカマエルを、ムーさんがウリエルの首を一刀両断にする。
二体の大天使様は全長が二メートルを超す上、翼をはためかせて飛んでいると首の位置が高くて狙いづらいけれど、地面に落ちてしまえばこっちのもの。
決して逃すことなく、確実に仕留める。
カマエルは本当にラッパを吹いて天使を召喚するしか能がないのか、他に武器を持たずあっさり落ちたけれど、ウリエルは、一度は焔の刃が引っ込んでトーチに戻った剣を、再び焔の刃を作り出して復元。
斬り掛かるムーさんの剣を剣で受ける。
でも上空の優位がなくなればムーさんだって鉄筋剣士。
パワーで押し切り一刀両断に。
もちろんこれで窮地を切り抜けられたわけじゃない。
むしろここからが本番。
10時と3時だっけ?
【素敵なお茶会】 は双方向から別々のギルドに狙われている。
もちろん二つのギルドが示し合わせて狙ってきたわけじゃないと思うけれど……だってイベントエリアへの転送はギルド単位だし、インカムはイベントに参加するギルドメンバーとしかつながっていないからね。
あるいは双方のギルドは 【素敵なお茶会】 を挟んで、その向こう側にもギルドがいることに気づいていないかもしれない。
むしろその可能性は高い。
でも 【素敵なお茶会】 を挟撃に出来る事実は変わらない。
だから互いに気がついても引くことはないと思う。
「で、どうする?」
次の指示をと急かしてくるカニやんに、脳筋コンビを貸してとお願いしたら怒られた。
「俺に訊くな!」
うん? それはつまり貸さないってことじゃないのよね。
貸したくないけど貸さないわけじゃない……複雑な男心ね。
照れ隠しなのか、はっきり言わないところに根深い複雑さを感じるけれど、そもそも女のわたしに男心が理解出来るはずもなく。
理解不能
「俺も理解出来ん。
どうすんの?」
どうって……このまま挟撃にされるのを待つ必要はないじゃない。
さすがに頭の回転が速いカニやんは、これだけを言えば 「あ」 と声を上げる。
「各個撃破」
「当然先に狙うのは10時だね」
すでに距離を詰めてきている10時方向から来るギルド。
でもさっきまであった銃撃が収まっているのは、おそらく向こうの銃士をクロエたちが落としたから。
それでも剣士を前面に、かなりの人数が、草原にたむろする天使の向こう側に見える。
うん、向こうの人たちを見ようとしたら、どうしてもキュー○ーが視界に入る。
「これ、天使が邪魔ね」
景気づけに一掃しようかと思ったら、遊んでいた……じゃなくて、ちゃんと戦っていたわよね、ルゥも。
そのルゥが、前肢でわたしのスカートをちょいちょいと引っ張る。
なに?
これはあれかしら?
ちょっと疲れたから抱っことか?
たぶんそうよね。
そのキラキラした目で見上げられると、わたしに断れるはずがない。
違っててもいいから、勝手にそう思うことにしてもっふりとした可愛らしいボディを抱っこすると、次の敵はあの人たちよと言って見せてあげる。
そうしたらルゥったらなにを思ったのか、突然、超巨大化した時のように大きな咆哮を上げた。
いつもはきゅって可愛らしい声で鳴くのに、珍しくワンコっぽい……じゃなくて狼っぽく吠えたの。
チビ・フェンリルのまま
次の瞬間、対峙するギルドとのあいだにたむろする天使たちが、ルゥの放った、あのかまいたちのようなスキルによってほぼ全滅する。
わたしたちを切り刻み、あの堅牢な岩屋を破壊したスキルね。
そればかりか相手の前衛剣士たちをも切り刻む。
「柴、ムー」
声を掛けつつも走り出すクロウに、脳筋コンビが続く。
もちろんわたしたちもそのあとに続くけれど、プレイヤースキルとしての基礎体力が違いすぎる。
おまけに三人は高レベルでステータスも高いから、同じ剣士でもトール君たちには追いつけない。
恭平さんやJBは追いつけると思うけれど、ここで本隊を放置するわけがないもの。
あとこの三人に追いつけるのは、速さ勝負の短剣使いベリンダだけだと思う。
全職の中で一番のAGIを誇るもの。
三人と一緒に駆け出すベリンダだけれど、剣士と違ってSTRやVITはさほど高くはない。
だから三人を追い抜いたりはせず、その後方から。
三人が相手ギルドの前衛剣士と接触するのを待って、その後方にいるはずの支援職を攪乱するのが彼女の主な役目。
無理をして落とす必要はないの。
三人の支援をさせないよう攪乱してくれればいい、その速さで。
クロエたちは……
「ベリンダ、当たったら鼻で笑うから」
「やれるものならやってみなさいよ」
ベリンダの支援なんだけど、ま、いいわ。
とりあえずわたしは、みんなと一所懸命走りながらルゥをモフっておくことにした。
あ、違うわよ。
ルゥを褒めてあげてるの!
そりゃまぁちょっとはわたしも癒されてるけど……




