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340 ギルドマスターは八方美人に悩まされます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 information 運営の小林 からメッセージが届いています


 information 運営の小林 からアイテムが届いています


 無事にミッションコンプリートをした翌日、いつものように仕事から帰宅してログインしたら、いきなり連続でウィンドウが出た。

 ログアウト中にメッセージが届くなどのお知らせ事項があれば、ログインしてすぐ表示するのは初期設定。

 この設定はユーザーの任意で変更することが出来るけれど、解除すると新規のお知らせがあることにわたしは気づかないと思う。

 だから変更も解除もしていない。

 おかげでいつも驚かされる。


 しかも今日はお知らせが二通あって、開いたウィンドウは二枚。

 でもそのどちらも運営の小林さんから。

 なにかしら? と思いながらウィンドウをポチりつつ、どこかにいるメンバーにログインの挨拶をする。


「アールグレイ、ログインしました」

『グレイさん、こんー』

『こんばんは』

『お、来た来た』


 インカムから返ってくる挨拶を聞きながらウィンドウを確認してみたら、運営の小林さんから一足早いクリスマスプレゼント。

 それは届いたアイテムなんだけれど、メッセージを読んでみれば、そのプレゼントはルゥ宛てだった。

 これはひょっとして、可愛いクリスマスコスかしら?


 ふふふ


 ちょっと楽しみね……なんて一人、誰も見ていないと思ってにやけていたら足下に何かを感じる。

 ふわっとした生暖かいこの感触は、案の定、タマちゃんがズボンの上からわたしの足に、体をこすりつけるようにすりすりしていた。


「タマちゃん、こんばんは」


 挨拶を返すつもりで、その丸っこい頭を撫で撫でしてあげる。

 今日も艶やかな毛皮……じゃなくてストレートヘアはモフモフでうっとりしちゃう。

 タマちゃんもにゃ~んと甘えた声で一声鳴いてお返事。


 今日も可愛いわね


 でもね、ここでわたしも気がついたの。

 だってタマちゃんがギルドルームにいるということは、カニやん(飼い主)はどこにいるのよ?

 恐る恐る顔を上げて周囲を見回してみれば、やっぱりカニやんがいた。

 珍しいことに、クロウと一緒に椅子にすわって何か話していたらしい。

 わたしがログインした時にカニやんがギルドルームにいるのも珍しいけれど、クロウとなにを話していたの?


「内緒」


 カニやんはわたしの問い掛けにいつものようににひっと笑うんだけれど、その目が猜疑に満ちている。

 わたしはわたしで、さっきのにやけ顔を見られていたことが恥ずかしくて……カニやんがなにを疑っているのかはもちろんわかってます。

 だから顔を赤くしながらもちゃんと宣言しておきます。


「盗らないわよ、カニやんじゃあるまいし」

「人聞きの悪い」


 だって狙ってたじゃない、ルゥのこと。

 そういえばルゥはどこに?

 昨日もまたしまい忘れてログアウトしたことを思い出したわたしは、ギルドルーム内に、わたしと一緒に出現したはずのルゥを探そうとしてクロウに呼ばれる。


「グレイ」

「なに?」


 わたしを呼びながら立ち上がったクロウは、そのまま近づいてきて……えっ? ちょ、ちょっと、なに?

 いきなり、その……そ……抱きしめられた。


 なにっ?!


 わたしがクロウの腕の中で目を白黒させている横で、寸前に頭突きを躱されたルゥが、目標を失ったついでに勢いを失い、床にポテッと落ちた姿はつちのこ。

 またお耳をぺったんこにして、つちのこスタイルのまま、きゅ~きゅ~と悲しそうに鳴いている。

 これはつまり、ルゥの頭突きに気づいて助けてくれたってことね。


「ありがと」

「いや」


 理由がわかったところで動悸が治まらない。

 ちょっと心臓が口から出そうです。

 とりあえず少し落ち着くまでクロウにしがみついておく。

 顔も隠したいし。


「そいつさ」


 不意に口を開くカニやんが、物憂げにテーブルに頬杖をつく。

 その目はわたしとクロウじゃなくてタマちゃんを見ている。

 つまり 「そいつ」 というのはタマちゃんのことね。

 話が逸れて気も逸れて、ちょっと……いや、まだ駄目だ、動悸が治まらない。


「ワンコと違って、俺以外にもすりすりしていくんだよ。

 平気で撫でられてるし」


 そこはだって、タマちゃんは愛され女子だから仕方がない。

 カニやん的には、みんなが撫でるところまでは許せるけれど、タマちゃんからすりすりしに行くのが許せないらしい。

 まさかと思うけれど、そのことをクロウに相談していたとか。


「んなわけないっしょ」


 そうよね。

 それ、クロウにする相談内容じゃないもの。

 じゃあなにを話してたの?


「内緒」


 凄く気になるんだけれど、でも気にしてませんって風を装って訊いてみたのに、やっぱりカニやんにはにひっと笑われる。

 うん、これは絶対にバレている。

 顔とか、まだ赤いと思うし。

 と、とりあえず、まだ床でつちのこ状態のルゥを回収します。

 こうやって大人しく鳴いていてくれると捕獲しやすくていいんだけれど、お耳だけでなく尻尾までぺったんこなんだから。

 どんだけしおれてるのよ。


 よいしょっ


 ルゥを跨ぐように立って腰を屈め、両手で抱え上げる。

 そしていつものように鼻チューでご挨拶。

 ほんと、ルゥたら寂しがり屋さんなんだから。

 タマちゃんは新しいギルドの仲間でしょ。

 ルゥも仲良く……これ、仲良く出来るの?


「犬と猫って仲悪くない?」

「犬猫の多頭飼いって、普通にあるけど?」

「そうなの」


 だったらいいんだけれど、でもルゥとタマちゃんが仲良くなるにはちょっと時間が掛かりそうね。

 しかもどちらもAIだから、そういうプログラム(・・・・・・・・・)がされていたら絶対に仲良くなれないし、残念度によっては大変なことになるかもしれない。

 でもそこは、飼い主初心者のわたしと違って、かなりの奴隷経験値を積んでいるカニやんに任せるわ。


「うるせーよ」


 奴隷経験値については 「うるせーよ」 だけれど、笑っているということは、トラブルが起きた時にはお任せってことでいいのよね。

 了解しました。

 話しているあいだにも、わたしとのご挨拶を終えたタマちゃんはカニやんのところに戻り、しなやかなジャンプで軽々とテーブルの上に飛び乗ったと思ったら、頬杖をつくカニやんの顎下に入り込んでいる。


 あら、かわいい


 しかも飼い主が男前だから絵になる……ムカつく!

 カニやんも、さりげなくタマちゃんの顎下とかこしょこしょしてるし。

 なんかこう、寄り添う感じに見えて、相思相愛の恋人っぽくて羨ましいというか、(ねた)ましいというか。


 う~


 思わずルゥを抱きしめる腕に力がこもる。

 その癖っ毛に顔を埋めてカニやんを睨んだら、優越感を返されて余計にムカついた。

 出会ってまだ一日しか経っていないのに、その、長く連れ添った相棒みたいな息の合った感じはなに?


「何と聞かれても、ヌコ様は気まぐれだから。

 たぶんこれはグレイさんじゃなくて、ワンコに見せつけてるんじゃね?」


 そういう意味なのっ?


『猫って結構性格悪いよね』


 どこかにいるクロエの声がインカムから聞こえてくる。

 タマちゃんを……というよりお猫様全般を悪く言われて怒るかと思ったら、カニやんはいたって平然としたもの。


「ワンコも色々だけど、ヌコ様も色々。

 プログラムで動いてるこいつら責めてもなぁ」


 そうよね、責めるなら小林さんよね。

 ルゥなんて最強のNPCなのに、【幻獣】 のプライドなんてすっかり忘れちゃって、タマちゃん登場から負かされっぱなしというか、泣かされっぱなしというか。

 よちよち、泣かないの。

 わたしは強いルゥも好きだけれど、こうやって泣いてるところも可愛くて好きよ。


『そんなこと言って、八方美人に泣かされてるくせに』

「放っておいてくれ!」


 ある意味、カニやんもタマちゃんの残念なAIに泣かされているといってもいいかもね。

 確かにルゥの誰彼かまわずバックリも困るけれど、タマちゃんの誰彼かまわずすりすりも飼い主泣かせだもの。


 両極端


 まぁ制作者(創造主)があの小林さんだから仕方がない。

 そう思って諦めるしかないんだけれど、カニやんがなにをクロウに相談していたのかといえば……


「死亡後の回復時間?」


 ああ、そういえばルゥも最初は三日とか巫山戯(ふざけ)たことを言われたわ。


「だろ?

 タマも取扱説明書(トリセツ)を見たら24時間になってて、巫山戯(ふざけ)るなっての」


 取扱説明書?

 そんなものが付いてたの?

 わたしの時はなにもなかったわよ。

 だからクロウに全部問い合わせてもらって……あ、カニやんがクロウになにを相談していたかわかった!

 小林さんとどうやって交渉したか、でしょ。


「正解」

『またしょーもないことを』

『旦那にも迷惑だな』

「やかましいわ!」


 いやいやいや、わたしはカニやんが怒る気持ちがわかるわよ。

 凄くよくわかる。

 思わず拳に力がこもるくらいよくわかる。

 ここはクロウのレクチャーを……いや、いっそクロウに交渉してもらったら?

 脳筋コンビには呆れられたけれど、わたしは本気です。

 とりあえず小林さん、ルゥの取扱説明書も作って頂戴!


「それ、いまさらいる?」


 要る!

あれ? この話はもう終わりだったような気が・・・(汗

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