34 ギルドマスターは運営に抗議します
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!
投稿前に確認しているのですが、投稿後に気づく誤字脱字の数々。
お恥ずかしい限りです。
すぐに修正しているのですが、お気づきの点がございましたらどうぞお知らせ下さい。
(早速修正しました・・・涙)
「ギルマス、なにかましとんじゃー!」
「ごめん」
わたしがうっかり放った範囲魔法スパイラルウィンドに、危うく巻き込まれそうになったムーさんから怒声が飛んでくる。
うん、これは本当のうっかり……なんだけど……またごっそり持ってかれるのよねMPを。
ちょっと……辛いかな……。
しかもクロエってば、離れたところにいるくせに……
『トール君より先にグレイさんが落ちそうだね』
「こっち見ないでくれる?」
『見えただけ、照れない照れない』
『グレイさん、落ちそうって……あの、大丈夫なんですか?』
トール君は自分の心配をしてね、結構HPがギリギ、リ……じゃなくて、もうヤバい!
慌てるわたしにクロエが追い打ちを掛けてくる。
ほんと、性格悪いんだから。
『トール君、グレイさんより先に落ちたらお仕置きされるからね』
『お仕置きって首切り?』
しません。
それより問題はトール君のHP残量よ。
ううん、トール君だけじゃない。
パパしゃんも、くるくるも結構余裕がないと思う。
それでも盾剣士のパパしゃんは、HPが減ってもそれなりに硬いけど、くるくるは銃士だもんね。
さっき、結構なトーチ攻撃に遭ってたから、たぶんHPゲージがイエローゾーンくらいには入っているはず。
いや、まぁわたしもさっきノギさんに削られちゃったから、女神の直撃を受けたら即死するんだけど、魔法は命中率はあんまり関係ないから逃げながらでも撃てるのよね。
うん、結構逃げるのは上手いのよ、わたし。
女神との殴り合いは、数の有利を取って与ダメのほうが勝ってはいるけれど、柔らかいところ、つまり後方支援職を狙われると結構な被ダメが個人に出るのは仕方がない。
でも仕方ないとはいっても、せっかくここまで辿り着いたんだから、一人も落としたくはない。
だから辛いとかいってられない。
そんなわたしの決心を、やっぱりのぞき見でもしてたのかしら、クロエは。
インカムでトール君に指示を出す。
『トール君、下がりなよ。
僕のいる場所わかる?
この辺りまで下がっておいで』
『クロエさん?』
『君、そのままだと巻き添えで落ちるから』
「クロウ、焔獄の発動と同時に全員退避」
「代わりに俺がフレイ撃つんで、グレイさんは詠唱を始めてよ」
「カニやん?」
わたしの考えを先読みしたっていうより、カニやんなりに状況を把握してのことだと思う。
柴さん経由で、パパしゃんのHPがイエローゾーンに入っちゃったって報告があったんだって。
うん、これはもう潮時ね。
「せっかくの団体戦、みんなで削れりゃよかったけどさ」
「わたしの我が儘でごめん。
でも……」
「俺たちはギルマスに従う。
いつも言ってるだろ、いい加減覚えてよ」
うん、カニやんもいい男よね。
こっちに来て、ギリギリまで女神の足止めを、インカムを使って前衛に指示し始める。
「柴やん、よーく聞けよ。
これから女王が絨毯爆撃始めるから、俺がフレイ撃ったら即後退。
ベリンダは先に戻れ。
巻き込まれて落ちたら首が飛ぶぞ」
……なんか、引っかかりを覚える指示ね。
うん、ベリンダを先に戻すのはわかるんだけれど、絨毯爆撃ってなによ?
女神一点攻撃だから絨毯じゃないと思うんだけど……言いながらこっちを見てにひって笑ってるってことは、確信犯よね。
もういいわ、さっさと始めましょ。
時間がないわ
タイミングはカニやんに任せたんだけど、トール君とベリンダが後退し始めるのを見て発動って、結構鬼じゃない。
安全圏まで下がるのを待たないんだ。
合図代わりにカニやんが放ったのはファイアーボールの上位魔法フレイ。
その連続に範囲魔法のフレイルを放ったのはおまけかしら。
多少はカスタマイズできる威力を、たぶん最大にしてるんだと思う。
地響きのような衝撃音が、それこそ爆撃みたいに聞こえる。
うん、やっぱり重火力。
「起動」
さて、わたしもお仕事を始めるわ。
これまでの経験からいえば 【幻獣】 には、被毒をのぞいた神経系の魔法はほとんど通じない。
たぶんグラヴィティやクロノスハンマーも。
だから火焔系と氷結系、雷撃系をメインに、範囲魔法もお構いなし。
すでに全員が後方に退避してるからね。
「演蛇……束縛」
『今度は女神様を相手にSMプレイ?』
蛇を象った焔が女神の体に巻き付き、その動きを封じる。
それを見てクロエが茶化してきたの。
わたしの、次々に繰り出す魔法攻撃の、余波を受けない安全な場所に位置取っているのはさすが銃士よね。
演蛇に束縛された女神は両手両足の自由を再び失い、トーチを振るうことも出来ず魔法攻撃も放てない。
ここからは、単体、範囲、かまわず使える限りの大技をぶっ放す。
MP制限がないから、比較的再起動準備の短いスキルを、業火、焔獄を中心にリレーさせる。
威力の大きさのわりに、この二つは再起動準備が短いのよ。
「すっげ地響き」
「さっすが女王様の絨毯爆撃」
そこの脳筋オッサンコンビ、うるさいんですけど?
気が散るから黙ってて……っていうか、なんでわざわざ近くに来るのよ?
クロウまで……いや、ま、クロウはいつものことだからもういいけど、なんであんたたちまでここに来るのよ?
あ、カニやんもいるからか。
ムーさんはともかく、柴さんはカニやんのパーティーだもんね。
万一の事態に備えて一応サポートに入ってるんだと思う。
なにしろ相手は 【幻獣】 だからね。
「カーニー、ギルマスに負けてっぞ。
もっとガンガン行けや」
「邪魔すんな、脳筋漬け物。
溶かすぞ」
柴さんの最大HPなんて知らないけど、溶かせるかもね、今のカニやんの火力なら。
とりあえず静かにしててよ、スキルリレーの順番を間違えるじゃない。
詠唱で噛んだらどうしてくれるのよ?
気が散ると意識が遠ざかりそうになるからやめて……。
『グレイさん、あと少し。
トール君も、もうギリ』
うるさいのよ、クロエ。
わかってる、女神のHPゲージがギリギリなのはわたしにも見えてる。
だからとどめを刺してあげることにした。
「起動……避雷針」
わたしの詠唱が終わった直後、耳をつんざく雷鳴が轟き、生木を裂くような衝撃とともに女神が雷撃に撃たれる。
放たれる閃光の中、やっとの事で女神が消失。
音のせいか、光のせいか、衝撃のせいか、あるいはその全部が悪かったのか、わたしはちょっと立っていられなくなった。
さすがに大技の連発は、魔力ごっそりなんてレベルじゃなかったわ。
気が遠くなりそ……実際、一秒か二秒くらい、気を失っていたみたい。
たぶんイベント終了の合図だと思うんだけど、空襲を思わせるサイレンの音を聞いてハッとしたら、クロウの腕の中にいたとか……
恥ずかしすぎる!
しかもカニやんとか、ムーさんとか、柴さんとか、心配そうに顔をのぞき込んでて……穴があったら入りたい。
ついでに誰か、上から土をかけて埋めてくれない?
もう一つついでだけど、上から抑えて土を固めてくれると嬉しいわ。
せめてもの情けだと思って……お願い……いやいやいや、そうじゃなくて!
うん、今はそうじゃなくてトール君よ!
『リバティ島において、不自由の女神、種族 【幻獣】 撃破』
運営の音声インフォメーションが入る中、わたしは慌ててトール君の姿を探した。
わたしたちからは少し離れた場所、クロエのそばにいたトール君は、クロウに抱えられるように立っているわたしを見て、顔を赤くしながら半笑いを浮かべていたんだけれど、わたしが安堵する間もなく消えた……えっ? 消えたっ? なんでっ?!
ちょ、マジッ?!
「終了でしょ!
なんで落ちるのっ?」
「さぁ、なんでだろう?」
「……落ちた、んだよな?」
さすがのクロエもビックリしてた。
いつもの余裕の悪態が出てこないくらいビックリしてる。
わりといつも平静なカニやんも、言葉がすぐには出てこなかったくらい驚いてる。
同じく、すぐに言葉が出なかったらしい脳筋コンビだけれど……
「やべ、首が落ちる!」
「俺の首がー!」
……自分の心配なの?
あんたらは……あとでお仕置きしてあげるから、ちょっと待ってなさい!
脳筋オッサンコンビ二人への怒りで……八つ当たりの間違いだけど……ま、どっちでもいいわ。
とりあえずわたしは怒り任せで自分を奮い立たせようとしたんだけど……ダメだ、立っていられない。
まさかの事態に驚いちゃって、腰を抜かすようにその場に座り込んじゃった。
「……ごめん、クロウ」
「いいから、大人しくしていろ」
気遣ってくれてるのはわかる。
クロウの声って凄くいい声なんだけど、あまりにも体がだるくってこのまま甘えちゃいたいくらいなんだけど……うん、他に誰もいなければね。
みんなまさかの事態に驚きつつ、にやけた顔でこっち見ないでくれるっ?
『最終攻略プレイヤー、アールグレイ。
所属ギルド 【素敵なお茶会】 主催者』
わたしたちがまさかの事態に驚いているあいだにも、まるで何も知りませんといわんばかりに、淡々と運営の音声インフォメーションが続いている。
わたしたちのパーティーに、女神撃破報酬の100Pが入るのはわかったけど、このままなにも知りませんとは言わせないわよ。
さらなるインフォメーションがあって、カウント終了後にわたしたちも通常エリアに戻される。
先に戻っていたトール君とはナゴヤドームで再会できたんだけど、これで終わりだと思わないでよ運営!
いつも以上に口悪くなっちゃうくらい怒っていたんだけれど、どう頑張っても自力じゃ立てないのよ。
なんなの、このしんどさ……
いやいやいや、今は運営!
このまま終わりにはさせないわよ!
「あの、俺は別にいいです。
パーティーとしてはポイントも入りましたし、問題はないんじゃないかと……」
人のいいトール君はそんなことを言うんだけれど……だから、なんで赤い顔をして半笑いなのよ?
それもこっちを見て。
うん、こっちを見るんだけど、わたしとは目を合わせないのよね。
なんとも言いようのないもやもやに、八つ当たりよろしくクロウの腕に噛みついていたら、目が合ったカニやんには、いつものようににひって笑われたんだけど、それ、どういう意味のリアクション?
「……とにかく、抗議するわ。
女神撃破の時点でイベントは終了でしょ?
そのあとに落ちるとか、あり得ない」
「ポイントには影響しないし、また問題なしで返ってくるんじゃないの?」
にひっと笑った顔から元に戻ったカニやん。
いつものクールなご意見をありがとう。
もちろんその可能性は大なんだけど、わたしだってわかってるけど、でもこのまま黙ってるのは性に合わないの。
いつものようにウィンドウを開いてメッセージを打ち込んでいたら、クロエにも言われたわ。
「また運営に難癖つけるんだ」
「だから違うって、ぃ……ちょと、ごめ……」
やだ、なにこれ?
酷い目眩が……治まるまでちょっと待っててくれる?
ゲーム内でこんなことになるなんて予想外……VRじゃなくてリアル側での不具合なんだろうけど、体が冷えていくような感覚を覚えてしばらくグッタリしてたんだけど、やっぱりちょっとだけ気絶してたみたい。
気がついたら完全にクロウにもたれかかっていたっていう……恥ずかしすぎる……。