339 ギルドマスターは獣に飼われます
pv&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
どうしてカニやんがお猫様の飼い主なのかと言えば、わたしがそう指定したから。
なにか問題でも?
小林さんからもう一匹ペットを飼わないかと言われ、すっかり忘れているうちに話が勝手に進んでいて、準備が出来たとの連絡をもらってビックリ。
そこで思いついたのが、カニやんに飼ってもらおうというナイスアイディーア。
これ以上はないくらいの妙案だと思わない?
そうしたらきっと自分のペットの世話に忙しくなって、ルゥにちょっかいを出してこなくなる。
バンザーイ!
これでルゥとのイチャイチャを邪魔されなくなるわ。
他の人たちは、ルゥにバックリやられてまでモフろうとは思わないし、それが普通の人だと思う。
カニやんは異常
もうね、獣の下僕レベル馬鹿高で奴隷根性丸出し。
しかも猫アレルギーだっていうから、仮想現実で存分にモフればいいじゃない。
一石二鳥
獣の下僕がアレルギーっていうのはちょっと失格に感じるけれど、こればっかりは本人の意志や努力じゃどうにも出来ない。
小林さんから話をもらった時には、てっきりルゥが二匹になるのかと思ってたんだけど、蓋を開けたらお猫様いらっしゃ~いだったっていうね。
だからそこは偶然なんだけれど、でも丁度いい話じゃない。
アレルギーを克服する必要もなく、仮想現実とはいえ、存分にお猫様にお仕え出来るんだから、そこはもう、誠心誠意全力でお仕えするしかないんじゃない? ……という話はともかく、ちょっと色々あってカニやんの鼻に指の爪をぶっ刺してしまった。
ごめん
足下のお猫様を踏まないように、蹴らないように細心の注意を払ったら、カニやんへの配慮が二の次三の次……まぁようするになおざりになってしまって、距離感を間違えてしまった。
そして指の爪が刺さっちゃったわけなんだけれど、その状態をわたしに抱っこされていたルゥがじーっと見ていた。
だってほら、ルゥにとってカニやんは危険人物で、最大レベルの警戒対象。
そのカニやんがすぐそこにいたんじゃ気が気じゃない……わけでもなかったかもしれない。
残念なAI搭載
たぶんルゥはわたしの真似をして遊んだだけなんだと思う。
でもこういう時に限って自分が 【幻獣】 だという自覚が全くなく……いや、加減は忘れていないから自覚はあるのかな?
あると思いたい。
でも魔法使いが戦闘三職の中でも、紙のようなVITしか持たない弱者だということがわかっていない。
わかっていないから、またしてもカニやんのおでこに向けて、可愛らしくも最凶の肉球パンチを繰り出した。
もちろん小っちゃい爪をシャキーンと出すことも忘れずに。
「あ……」
自分を振り返ってじーっと見ていたルゥが、おもむろに手を挙げるのを見て気づいたカニやんだったけれど、避けるか避けまいか迷った。
もちろんその迷いは致命的で、選択の余地はなく、ルゥの可愛くも凶悪な肉球パンチを食らって額を爪でぶっ刺され、悲鳴を上げて吹っ飛ばされる。
「あ~……」
「あいつ、マジのアホだな」
「そのうち即死するぞ」
「それも本望でしょ」
「俺の負担が増えるからやめて」
いきなり吹っ飛んだカニやんに、しかもそのあと痛みのあまり……ひょっとして喜んでいるのかもしれないけれど、両手でおでこを押さえて地面を悶え転がる様を見て、周囲にいたプレイヤーたちがざわめく。
けれど 【素敵なお茶会】 のメンバーたちは冷静で、そんなカニやんを生温かい目で見ている。
でもね、みんな気がついちゃったの。
そりゃまだ契約を交わしていないからカニやんは飼い主じゃないけれど、でもね、お猫様ったら吹っ飛ばされて痛みに悶え転がるご主人様(仮)を見て、慌てふためくこともない。
それどころかやっぱり耳が痒いのか……さっきも掻いていたけれど、また耳の後ろを掻き掻きしてる。
まるで何も見なかったかのように平然と耳を掻いていて、そのまま毛繕いを始めてしまった。
これは間違いなくあれね。
「また究極に残念なAIが来たな」
呆れる恭平さんの呟きに、まるでタイミングを合わせるようにお猫様は大あくび。
それからようやく立ち上がり、のっそりとカニやんに向かって歩き出す。
「まぁこいつも飼い主がカニだしな」
「飼い主がカニなら丁度いいんじゃね?」
いわれているのはカニやんだけれど、なにか引っかかりを覚える脳筋コンビのぼやき。
さりげなくわたしのこともディスってない、この二人。
「気のせい」
「考えすぎ」
物凄く嘘っぽい。
ねぇ、ルゥ……と同意を求めれば、カニやんを成敗してご機嫌なルゥはきゅっ! と短く鳴く。
一方のお猫様は、地面に寝転がるカニやんのそばまで行ってまたお行儀よくおすわり。
そしてなにかを待つようにじっとカニやんを見つめるだけ。
「ちょっとカニやん、早くしてあげてよ。
待ってるじゃない」
まさかと思うけれど、これでカニやんが飼い主になるのを拒否したら……これ以上ルゥを守り切れるかどうか。
その動向を見守りつつ、わたしはルゥをぎゅっと抱きしめる。
「それ、違うから」
「相変わらず思考が斜め」
「そこまでしてチビ助をモフらせたくないなら、クロウさんに用心棒でもしてもらえば?」
いつもわたしを馬鹿にしかしない脳筋コンビと違い、なかなか建設的な提案をしてくれる恭平さん。
でもそれはちょっと難しくない?
クロウにルゥの用心棒って、下手をしたらクロウがルゥにバックリされちゃうじゃない……という話は置いといて、ちょっとカニやん、どうするのよ?
「どうって、マジ、これ、痛いんだけど」
そりゃそうでしょう。
手加減しているとはいえ、超絶可愛くてもルゥは 【幻獣】 なんだから。
カニやんの、霞みたいなVITが耐えられるはずがないでしょ。
鉄筋のクロウでも無理だけど。
まだ痛む額に手を当てながら体を起こすカニやんはやっぱり男前で、クソムカつく。
そのカニやんを前に一歩だけ近づくお猫様だけど、またお行儀よくおすわりをして待つ。
ちなみにお猫様は 【幻獣】 じゃなくて 【妖獣】 だから、ルゥよりちょっとひ弱です。
「でもSTRで勝てるわけないし」
それは当たり前です。
【妖獣】 といっても、それこそそこらにいる、踏みつけるだけで落とせるような雑魚から 【幻獣】 に近いステータスを持つ強力なものまで、実に様々。
ペットとして飼わせてもらえるくらいだから、たぶん雑魚レベルじゃないと思う。
それこそ 【幻獣】 に近いステータスを持っているかもしれない。
だって創造主があの小林さんだからね。
その辺はまったく侮れません。
「この話、小林は知ってるわけ?」
「この話って?」
「このヌコ様は俺が飼うって」
「もちろん」
だからそう設定してもらったのよ……というか、わたしが勝手にそう決めて色々と設定を変更してもらったの。
それこそカニやん仕様にね。
「俺仕様って、どんな?」
「さぁ?」
そんなこと、わたしにわかるわけないじゃない。
飼い主を変更したいってメッセージを送ったら 「具体的に誰?」 と訊いてきたから 「カニやん」 と答えただけ。
そうしたらちょっと設定を変えるので納品を待って欲しいって返事があって、やっと本日納品です。
「なんか、ヤバい爆弾仕込まれてそう」
なに言ってるんだか。
こんな可愛いお猫様にそんなもの仕込めるわけないでしょ。
だいたいカニやんだって、グダグダ言いながらもお猫様を見る顔がすっかりその気になってるくせに。
もうね、目尻とか下がっちゃってただのスケベ親父みたい。
でも男前なのがムカつく。
「はいはい、飼えばいいんでしょ」
「素直じゃない」
地面に座りこんだままのカニやんはもう一度お猫様の丸い頭に手をかざし、ようやくのことで出て来たステータス画面に対して名前を決める。
status 名前を決めて下さい
「お前の名前はタマ」
………………これで登録されちゃったから今さらなんだけれど、このお猫様の名前があとで色々と物議を醸すことになるなんて、誰も思わないわよね。
もちろんこの時点でも結構なブーイングはあった。
「センスねぇ」
「カニにセンスを求めるな」
「チビ助がルゥなんて可愛い名前なのにね」
「覚えやすいですけどね」
「遠慮するな、トール。
言いたいことを言ってやれ」
「いえ、俺は別に……」
「俺の中でタマは三毛猫なんすよね。
それ、茶トラっしょ?
イメージじゃないっすよ」
「いかにも猫って感じの名前すぎ」
「だって猫じゃない。
あんまり言うとカニやんが可哀相よ」
「ゆりこさんは優しいねぇ」
「ありがと」
「もっと噛みそうなくらいややこしい名前にすればいいのに」
………………どれを誰が言ったかはご想像にお任せするとして、最後の謎発言はアキヒトさんです。
あまりにも謎すぎて、さすがに責任が生じた時用に誰の発言かを明記しておきます。
そしてこのあとはお約束のあれ。
ルゥの時は頑健そうな鎖が飛び出してきたけれど、タマちゃんの足下から瞬時に伸びてきたのは草の蔓。
それがカニやんの首に巻き付き……え? 首っ?
ちょっとちょっと、首はさすがに駄目よ!
そのまま縊られたら落ちるじゃない!!
絶対的弱点
わたしとルゥが契約を結ぶ現場に居合わせていたカニやんだったけれど、さすがに首は予想外中の予想外で焦ったみたい。
しかもタマちゃんったら力加減を間違えたのか、わたしと一緒で距離感を間違えたのか。
わからないけれど、ちょっと絞めちゃったみたい。
カニやんったら 「ぐえっ」 と変な声を上げ、蔓を解こうと首を掻きむしる。
苦しそうに藻掻きながらもやっぱり男前は男前で、さらに絞めてやりたくなるくらいムカつくわ。
これが現実なら、よくきく吉川線なるものが出来るんだろうけれど、ここは仮想現実で、わたしたちのこの体はデータに過ぎない。
幸いにしてそのデータで創られたアバターには痣も出来ず。
おかげでしょっちゅう転ぶわたしの膝もいつも綺麗なまま。
カニやんの首にも傷は出来ずHPの流出もなく、蔓が消えたあとには金色の……えっと、これは首輪?
うん、どう見ても首輪よね。
首輪?
わたしの手首にはルゥの目と同じ真っ赤な腕輪がある。
これがルゥとわたしの 【契約の証】。
そしてカニやんの首には、タマちゃんの目と同じ綺麗な金色をした首輪が現われた。
それがきっと二人の 【契約の証】 なんだろうけれど、ちょっと待って。
首なのっ?
しかもその経緯を考えると、ね。
「ちょっと待て!
これって、ヌコ様が飼い主ってことかっ?
俺が飼われるのかっ?!」
やっぱりカニやんもそう思うわよね、わたしもそう思ったわ。
もちろんみんなもね。
「そういうことじゃね?」
「見事な首輪だな」
「ついに正真正銘、獣の下僕」
「完全体っていうか、完成というか」
「カニやんったらチョーカーなんてしちゃって、お洒落さんね」
「ゆりこさん、優しすぎ」
「そう?」
「あの、俺もチョーカーみたいって思いました」
「トール、そんなに気を遣うな」
「そうそう、もっと自分に正直になっていいんだぞ」
「いえ、俺はそんな……」
みんな言いたい放題の状態で楽しそう。
わたし個人の意見としては……りりか様かハルさん、鈴とか作れない?
『鈴?』
先に答えてくれたのはりりか様。
そして続くハルさんの声がインカムから返ってくる。
『あのリンリンいう鈴?』
そう、その鈴。
牛が付けるカウベルっていうの?
ああいうのも想像してみたんだけれど、ちょっと違うみたい。
で、無難にドラ○もんが付けているみたいな、ノーマルな可愛い鈴。
『……なに考えてるかわかった』
そりゃそうよね、ドラ○もんなんて具体例を出しちゃえば誰にだってわかるわ。
笑いたいのを堪えているハルさんの声。
すでにりりか様はもちろん、周りにいるメンバーたちも大笑い。
もちろんこの会話はカニやんにも聞こえていて、イケメンのまま怒られた。
可愛いと思うんだけどな。
付けちゃ駄目?
ようやくミッションコンプリートです。
本人は忘れてるみたいですけどねw
タマちゃんの残念なAIっぷりは、これから存分に発揮いたしますのでお楽しみに。
ついでにカニやんの、飼い主として駄目駄目っぷりも・・・