334 ギルドマスターは仕返しをします
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た、確かにわたしもちょっと緊張しやすいタイプではあると思う。
でもここは仮想現実で、しかも真田さんも串カツさんも初対面じゃない。
同じギルドではないけれどそれなりに付き合いも長いし、一緒に戦ったこともある……はずなのに、なぜかこの二人と組むことに緊張してきた。
駄目だ、完全にくるくるの緊張がうつってる。
「ちょ、ちょっと待って。
ちょっと落ち着きたいから」
飼い主の異変に気づくはずもない果てしなくマイペースのルゥは、変わらずわたしの腕の中でご機嫌モード。
胸にしがみついて、その柔らかな頬毛ですりすりすりすり……それを無理矢理やめさせて引き剥がすと、そのもっふりしたお腹に顔をぼすっと突っ込んでみる。
そして思いっきり深呼吸。
はぁ……落ち着く
そんなわたしの様子をくるくるはそろそろ見慣れてきたけれど、見慣れない真田さんと串カツさんは顔を見合わせて囁き合う。
「これはあれか?
お前の親父臭に耐えられない?」
「真田さんのほうがオッサンでしょ」
大丈夫よ、二人ともまだおっさん臭はしてないから。
ちょっと落ち着いてきたから誤解を解いておくわ。
「俺は全然落ち着きませんけどね」
だからって、その緊張をわたしにうつさないでちょうだい。
せっかく落ち着いてきたんだから、このまま攻略を始めるわ。
くるくるもきっと、潜ったら緊張なんてしている余裕はなくなるんじゃない。
だって 【ゴショ】 は最初の大量湧きで銃士大活躍だもの。
ルゥを 「またあとでね」 と腕輪に格納し……もちろん悲しそうにきゅーきゅー鳴かれたけどね。
わたしも一緒に泣きたくなるのを堪えて格納。
そうして潜ったダンジョン 【ゴショ】 最初の試練は、紫宸殿へと続く廊下の大量湧き。
両側を固い壁で作られた幅のない直線廊下を、前から来る束帯姿の平安貴族とその護衛をする随身。
二人と最初に接触するのは、わたしたちの先頭を歩く串カツさん。
当然来るのはわかっていたからあらかじめ構えていた串カツさんだけど、進んで先頭を歩いていたわけじゃない。
真田さんの命令というか、蹴り飛ばされたというか。
「いつものことなんでいいですけど、ねっ!」
幅のない廊下は、剣を縦に振り回すのがコツらしい。
それでもやっぱり狭そうよね。
体格がいいだけでなく、背も高いから腕も長いし、そこに刀身が加わるから余計に狭いと感じるんじゃないかな。
串カツさんが平安貴族と接触した次の瞬間、大量に湧き出す武官たち。
玉砂利の上を、固い足音を立ててバタバタと走ってきたと思ったら、階段を上ってわたしたちを取り囲もうとする。
そのうしろから、刀を手に斬り掛かってくる武官を援護すべく、弓使いが援護射撃。
それをくるくるが撃つんだけれど、固いのよね。
だってあのクロエですら文句を言っていたくらいだもの、相当な固さだと思う。
「俺、ここが一番嫌い」
串カツさんと二人、位置をずらして平安貴族と随身の前進を阻んでいる真田さん。
やっぱりこの廊下に剣士二人は狭すぎて、時々剣が当たっているのはわざとか偶然か。
PKが出来ないことはわかっているけれど、くれぐれも首はやめてよ。
【特許庁】 はどこまで冗談で、どこからが本気かわからないんだから……と心配していたら、おもむろにじゃんけんを始める二人。
は? じゃんけん?
どうしてこのタイミングでじゃんけん?
え? ごめん、ちょっと……というか、全然意味がわからない。
だって今、じゃんけんなんてする必要があるっ?
そのあいだもひたすらに前進してくる平安貴族と随身なんだけど、真田さんも串カツさんもぞんざいに蹴り飛ばしたりして。
一応向こうから仕掛けてくる攻撃は剣で受けるんだけど、それこそ面倒臭そう。
「俺の勝ち!」
「あ、クソ!」
「んじゃ、行ってきます!」
「いてらー。
さっさと片付けてこいや。
落ちても救済不可!」
「マジかー!」
「今の俺に復活が出来るか、アホ」
勝ったのが串カツさんだってことは、この自己申告でわかった。
で、続くこの会話がなんなのかと思ったら、会話の後半途中でいきなり踵を返す串カツさん。
どこ行くのっ?
「ちょいとごめんよ」
前方から来る平安貴族と随身の相手は、鉄筋の剣士二人をあてているから大丈夫と思い、後方の大量湧きを捌くクロウとくるくるの支援を主体にしていたわたし。
そのわたしをちょっと通路の隅に押しのけるようにして後方に向かう串カツさんは、片膝をついて銃を構えるくるくるを長い足で跨ぎ……本当に足が長くてムカつく! ……っじゃなくて、えっと跨いで、さらにクロウまでも押しのけるようにして……って、その先は! ……と思っているあいだにも我先にと、押し合いへし合いクロウに襲いかかろうとしている武官の前に飛び出す。
なにしてるのっ?!
「ちょっと弓の奴、落としに行こうとしてるんですが、いつもより抵抗が……」
その状態からっ?
え? ひょっとしてそれ 【特許庁】 の攻略方法?
「だーかーらー、【特許庁】 の銃士、超ノーコンなんだって」
すっかり武官に囲まれて身動きのとれなくなった串カツさんに代わり、一人で平安貴族と随身の相手に忙しい真田さんが説明してくれようとするんだけど、ちょっと待って。
先にこの状況をなんとかしないと。
状況的にクロウはその場を離れることが出来ない。
だってクロウが離れたら大量湧きした武官が通路に入り込み、わたしとくるくるは漏れなく死亡。
真田さんも挟撃にあって、以下同文。
と言うわけでクロウは守備の要だから動けない。
だからわたしがなんとかしないといけないんだけれど、これ、真田さんもヤバい?
「起動……クロノスハンマー」
あと数秒だけ串カツさん、踏ん張って。
とりあえず平安貴族と随身の足止めをしたら、ほとんど剣を横に振るうことが出来ない狭い通路なのに、器用の前にいる平安貴族の首を落とす真田さん。
これであとは随身だけ。
一体だけなら全然平気よね! ……と勝手に決めつけて、すっかり武官に囲まれて身動きのとれない串カツさんを見る。
「サブマース、HPが激ヤバ!
また失敗かも!」
前にちょっと説明したけれど、魔法使いのHP残量が危険領域に入るのと、鉄筋剣士の串カツさんのHP残量が危険領域に入るのとは全然違う。
魔法使いのHP残量が危険領域に入ったらもう本当に駄目だけれど、剣士の串カツさんはまだ保つ……はず……。
しかも一見無鉄砲に突っ込んだように見えたけれど、左手の壁沿いを走っていて、一方を壁にして完全に囲まれるのを避けている。
しかも左側を選んだのは、串カツさんが右利きだからだと思う。
利き手と反対側、つまり剣を持っていない方を壁にしてるの。
考えて行動してるのかしてないのか、本当によくわからない。
さすが 【特許庁】 だわ。
でも振り回され慣れていないわたしは一人であたふた。
「起動……業火」
平安貴族を落とし、随身と一対一になった真田さんがしてくれた説明によると、これはさっきも言っていたけれど 【特許庁】 の銃士はちょっと射撃センスに問題がある。
「あるどころか乱射魔だって」
PK出来ないことが前提とはいえ、結構な弾数を味方に当てるらしい。
これはひょっとして、わたしといい勝負かも? ……というのは内緒です。
「結構なというより、味方に当ててる数のほうが多い」
火力としてはあてにならないため別の攻略方法を模索した結果、剣士が一人、この大量湧きをした武官のあいだを抜けて後背にまわり、支援している弓使いを先に落とすという方法を思いついたらしい。
確かに方法としてはありかもしれない。
プレイヤーが、階段を上った広いところに群れる武官を片付けても、後方支援職の弓使いは近づいてこない。
中・遠距離攻撃型のNPCだから。
銃士がいなければ、剣士が武官を片付けたあとで階段を下り、残った弓使いを片付けに行かなければならない。
でもそれをすると、右側から片付けると左側から狙われ、左側から片付けると右側から狙われる。
もちろん剣士二人で左右に分かれればいいんだけれどね。
ただ武官を全滅させるのに時間が掛かるし、それまでに結構なHPを削られてしまうというのが 【特許庁】 の性格に合わないというか、なんというか。
せっかちよね。
しかも攻略が地味すぎて面白くないんだって。
ちなみに弓使いを放置すると、一定距離を置いて追ってくるのよ。
これはこれで面倒臭い。
ずっと背中から射られ続けることになるし。
だから 【特許庁】 の作戦もありかと思ったけれど、決定的な問題点として、敵の数が数だから、一人で突っ込むとすぐさま囲まれてしまうため、その状況でも耐えられるVITが必要になる。
これまでに真田さん、ノーキーさん、串カツさん、ちゅるんさんという 【特許庁】 が誇る重火力ランカー剣士が試したけれど、まだ誰も成功していないらしい。
あら、不破さんは?
「あいつは堅実。
こういう作戦には乗らない」
いつも平安貴族と随身を相手にするほうを選ぶらしい。
不破さんらしいわね。
でも今回じゃんけんに勝ったのは串カツさんなのに、その場に残ったのは真田さん。
逆じゃない?
「あのねグレイちゃん、じゃんけんというのは勝ったほうに選ぶ権利があるんだよ」
うん、だから串カツさんのほうが選べるんでしょ?
「だから奴は面白いほうを選んだんだけど?」
真田さんの答えは、わたしの意表に近いところを衝いてきて驚いた。
な、なるほど、そういう意味か。
どこまでも 【特許庁】 的思考だわ。
わたしは、考えるまでもなく堅実な不破さんタイプ。
でも堅実じゃなくてただの小心者だけどね。
だから突っ込む役は絶対にしないけれど、支援はちゃんとするわよ。
如何に目立つか、如何に楽しむかが第一の 【特許庁】 に、調和とかバランスなんて言葉は存在しない。
でもね、だからっていきなり勝手に突っ込むのはやめて欲しかった。
支援にもタイミングってものがあるじゃない!
だからわたしも 【特許庁】 のメンバーを真似るように、串カツさんにも報せず業火を放ったけど。
あ、言っておくけど違うわよ!
仕返しってわけじゃないからっ!!




