333 ギルドマスターは構成を変えます
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実装当日から週末の金曜日までのあいだに、新ダンジョン 【ゴショ】 をクリア出来たメンバーは意外に少ない。
重火力の剣士は必須だから脳筋コンビにはさっさとクリアしてもらったし、カニやんとクロウはエピソードクエストもクリアした。
ちなみに予定どおり、クロウと一緒にNPC長官のところに報告に行ってきました。
いつもそうだから、カニやんと脳筋コンビもいつも一緒に行っているのかと思ったら、本当に別々だったらしい。
どうして?
ちょっと他の人と仲良くしたら、焼餅妬くくらい仲良し小好しなのにね。
変なの。
「変なのはそっち」
「小学生じゃあるまいし」
「甘いな。
高校生になっても一緒にトイレに行くんだよ、女子ってやつは」
「あ~だな~」
それはつまり、わたしを小学生女児って言いたいわけ?
おトイレくらい一人で行くわよ!
ぷぎゃー!!
「酷いと思わない?」
朝一番の鼻チューご挨拶をしながらそのことをルゥに愚痴ったら、鼻をくっつけたまま器用に首を傾げたルゥは、わたしの鼻をぺろりとなめる結論を出した。
うん、今日も超絶に可愛いです!
どんな結論での行動かはわからないけど、慰めてくれたんじゃないかと勝手に解釈しておく。
『それ、俺が突っ込まないと駄目ですか?』
トール君ほどじゃないけれど、ちょっと遠慮がちなくるくるの声がインカムから聞こえてくる。
こんな早朝からいたの?
今日は土曜日だけれどまだ早い時間だし、しかもみんな、翌日が休みだってことで昨日は遅くまでいたから今朝はゆっくりかと思ったわ。
『いました』
「他にも誰かいる?」
『たぶんいないと思いますけど……あ、マメさんはわかりません』
うんマメはね、わたしもわからない。
じゃあ今ログインしているメンバーは三人だけってことね。
『クロウさん、いるんですか?』
「いるっていうか、いまログインしてきた」
ギルドルームでルゥと二人きり、イチャついているところにログインしてきたクロウ。
どこからくるくるとの話を聞いていたかはわからない。
「おはよう、クロウ」
『おはようございます、クロウさん』
「おはよう」
ルゥをぎゅっと抱きしめて存分にモッフモッフしているわたしを見下ろして、少し眠そうだったクロウがちょっと笑ったような気がする。
なに?
「髪が……」
言い掛けながら、床に座り込んでルゥとじゃれ合っていたところに近づいてきたクロウは、腰を屈めるようにしてわたしの髪を、頭を撫でるように手櫛で梳いてくれる。
どうやら気づかないあいだにルゥにくしゃくしゃにされていたらしい。
酷い癖っ毛のルゥはわたしのストレートヘアがお気に入りで、油断をするとすぐくしゃくしゃにするんだから。
めっ! って一応叱っておいたんだけれど、きゅっという可愛いひと鳴きで懐柔されるわたしは、やっぱり駄目飼い主ね。
『グレイさん、クロウさん、お願いがあるんですけど、いいですか?』
「うん、なに?」
『【ゴショ】 付き合ってもらっていいですか?』
「そういえば、くるくるはまだクリアしてないんだっけ」
『はい』
「エピソードは?」
『そっちも、出来たらクリアしたいですけど』
今のところ 【easy mode】 だと巻物は一巻しか出ない。
もちろんクロウとくるくる三人なら、すでにわたしとクロウはクリア済み。
だから巻物はくるくるに献上出来るんだけれど、【ゴショ】 は 【easy mode】 でも三人じゃクリア出来ない。
つまりあと二人をどうにかして確保しなければならず、その二人次第ではくるくるに献上出来るかわからない。
そこはくるくるもわかってくれているから、どうしても言葉が遠慮がちというか、苦笑交じりになる。
でも攻略自体はお手伝いするから、くるくるさえよければ今からでも行く? ……というか、今、どこにいるの?
『今ですか?
ナゴヤドームです。
俺もついさっきログインして、武器屋で銃弾の補充をしてました』
「そう。
じゃあ出入り口で合流しましょ」
『わかりました』
早速ギルドルームを出ようと立ち上がって、まるでわたしたちの会話を聞いて全てを理解したように、先に扉に向かうルゥのフリフリお尻を見て思い出す。
そうそう、ルゥを連れていることをくるくるに言っておかないと。
このまま 【ゴショ】 まで散歩もしたいし。
『おチビちゃんですか?
わかりました、気をつけます』
くるくるは穏やかな性格だから、あえてルゥを怒らせることはしないから大丈夫だと思うけど、一応ね。
前を歩くルゥは、いつものようにフンフンフンフン……楽しそうに臭いを嗅ぎながら、お尻をフリフリ尻尾をブンブン。
短い足で……じゃなくて問題は、あと二人のメンバーね。
少なくともあと一人は剣士が必要で、遠距離、中距離が一人ずついるから五人目は攻撃型魔法使いか剣士か。
ただ土曜日とはいえまだ時間が早いし、野良でPTを募集して、そう都合のいいメンバーが集まってくれるかしら。
【ゴショ】 の火力を考えたらちょっとレベルも欲しいし。
そんなことを考えながらルゥのお尻を見ていたら……じゃなくて、歩いていただけ!
ルゥが視界の隅に入っちゃうのは仕方がないの。
だって完全に目を離したら危ないし。
「一応危険物だってわかってるんですね」
危険物じゃないわよ。
こんな可愛い危険物がどこにいるの?
そりゃこんなもっふりボディをして、最強の 【幻獣】 だけど。
このあいだカニやんを、額に爪を立てて吹っ飛ばしたけど。
「十分危険物です」
その場にいたくるくるは、その時のことを思い出したかのように顔を引き攣らせる。
大丈夫よ、ルゥになにもしなければ、ルゥもなにもしないから、たぶん。
「そのたぶんが不安です。
それであと二人、どうするんですか?」
「あと二人がどうした?」
不意に割り込んできたのは、【ゴショ】 前にたむろするプレイヤーたちの中に居た真田さん。
【特許庁】 がこんな時間にログインしているなんて、珍しいわね。
何かよからぬことの前兆?
「朝っぱらからひでぇ言われようだ。
なぁワンコ」
「あ、真田さん、そのワンコにちょっかい出したら……」
せっかく串カツさんが忠告してくれようとしたけれど、ちょっと遅かったみたい。
フンフンと足下の臭いを嗅いでいたルゥの頭を撫でようとして……下を向いているから大丈夫とでも思ったのか、うっかり手を頭にかざしてバックリやられた真田さん。
上がる悲鳴に、【ゴショ】 前にたむろするプレイヤーたちの視線が集まる。
「言わんこっちゃねぇ」
呆れる串カツさんに、手にルゥをぶら下げる真田さんは激しく痛がる。
ルゥの牙は小っちゃいけれど、とっても丈夫な顎をしているから、いくら腕を振ったところで振り落とせるはずもなく。
どんな鉄筋でも、プレイヤーのSTRで太刀打ち出来る相手じゃないのよ。
甘いんだから
「ちょ、かっちゃん、落ち着いてないで助けろよ!」
「俺じゃなくて、こういう時は飼い主に言えよ。
このクソ親父、まだ寝てるのか?」
呆れる串カツさんがわたしを指さすと、真田さんは今さらながら思い出したようにわたしを見る。
ちょっと真田さん、ひょっとしてルゥを野良狼とでも思ってたの?
ちゃんと飼い主がいるのよ、躾は全然出来ないけど。
「グレイちゃん、助けて!
これ、虫歯より痛い!
注射より痛い!」
……それ、なんの例え?
虫歯とか注射って、子どもじゃないんだけど?
「すいません。
この人、その辺はノーキーと同類だと思ってください。
ああ見えて、実は不破も同類なんですけどね」
真田さんとはそれなりに長い付き合いだと思っていたけれど、実はこんな人だったのね……というか、こんな一面もあるのね。
しかも不破さんまで。
ビックリ
とりあえずルゥ、おいで。
抱っこしてあげる……と呼んだらいつものように、興味を失ったおもちゃのように真田さんをペッと吐き捨て、喜んでわたしに飛びついてくるルゥ。
ここで下手に屈むと頭突きを食らうから要注意……という緊張感を見て串カツさんをさらに呆れさせてしまった。
「なんか、動物飼うのも大変そうですね」
「うん、ここの運営はあれだから」
「ああ、ここの運営はあれですからね」
「ところでお二人はここで何をしているの?」
新ダンジョン 【ゴショ】 の門前に集まる、結構な数のプレイヤーたち。
中にはギルドやフレンドとの待ち合わせをしている人もいるけれど、ほとんどが野良でのメンバー探し中。
その中にいたってことは、ひょっとして二人もそうなの?
「そうなの。
いま 【特許庁】 でログインしてるの、俺と串カツしかいないから」
「さすがに二人じゃ 【ゴショ】 は無理っしょ。
で、誰かいないかと思って物色中」
わたしの口まねから話し出す真田さんに、続きを串カツさんが受けて話す。
なるほど。
真田さんと串カツさんがいくら鉄筋剣士とはいえ、【ゴショ】 の火力を考えれば、確かにそれなりにレベルの高いプレイヤーをメンバーにしたい。
しかも野良で探すならなおのこと。
わたしはこういう言い方は好きじゃないんだけれど、あからさまな寄生目的のプレイヤーもいるしね。
もちろん互いに了承してパーティを組むならいいんだけれど、今は期間限定イベント中でクリアが目的だから、足を引っ張られるのはちょっと勘弁して欲しいかな。
それこそギルドメンバーならかまわないというか、そもそも助け合いも一つの遊び方としてギルドを創設し、メンバーを増やしてきたわけで、今も非戦闘職のクリア方法を模索中。
でもその前に出来ることを……ということで、戦闘職のメンバーから先にクリアを目指してるんだけどね。
くるくるは今日、このあと用事があってログアウト。
夕方には帰宅予定で、夜にはいつもどおり再ログイン出来るらしいんだけれど、夜にはほとんどのメンバーが揃って順番待ちになってしまうから、あえて人の少ないこの時間にログインしてみたらしい。
「ということは、そっちもメンバー探してる?」
しめた! ……という顔をする真田さんに、にっこり笑って 「探してる」 と答えれば、串カツさんの意見も聞かずに誘ってくる。
「丁度銃士もいるじゃん。
ラッキー」
「真田さん、勝手にその気になってますけど、いいんすか?」
わたしは全然かまわないし、チラリと見たクロウも異議はない感じ。
表情の乏しい男前が、答える代わりにチラリとこちらに視線をくれるんだけど、目が合うとちょっと恥ずかしいからさりげなく逸らしておく。
でもちょっとくるくるの様子が変ね。
どうかした?
「この重火力の中に俺、いてもいいのかなって。
ちょっと恥ずかしいというか」
気にしなくていいんじゃない?
「だって俺以外ランカーじゃないですか。
気後れするっていうか、場違いっていうか」
「そういうのは気にすんなって。
銃士がいてくれるのは助かるし。
さっき真田さんとも話してたんすよ、銃士欲しいなって」
まぁわたしも最初の予定と違うし、剣士三人っていう構成も初めてだけれど、このメンバーならやってやれなくもない気がする。
でも一つだけ、パーティを組む前に決めておかなければならないことがある。
それは巻物のこと。
どんなメンバーで潜っても、たぶん 【easy mode】 では巻物は一巻しか出ないと思う。
わたしとクロウはいらないけれど、くるくるのためにわたしたちは巻物が欲しい。
やっぱり真田さんたちも欲しい……わよね?
「巻物?
ああ、クエストの。
俺、まだ 【ゴショ】 の前を終わらせてない……っていうか、その前もまだだっけ?」
「俺もまだ、あと五つくらい残ってた気がする。
真田さんもまだなら、巻物はそっちでどうぞ。
銃士の兄さん、欲しいんだろ?」
「俺らは銃士と攻撃型魔法使いが欲しい」
ちょっと真田さん、その言い方だとクロウはいらないみたいじゃない。
嫌な言い方をしないで。
「いらないも何も、そのむっつりはどうやったってグレイちゃんに付いてくるんだから。
要る要らないの選択肢は、最初から存在してないの」
どういう意味?
「いいから、いいから、グレイちゃんは気にしなくて。
さっさと組んで潜ろうぜ。
【特許庁】 のメンバーがログインしたら邪魔しに来やがるから」
「【特許庁】 の銃士、ノーコン過ぎるから。
ほとんど乱射魔」
本当に人材豊富なギルドよね、【特許庁】 って。
でも時間ももったいないし、せっかく人数も揃ったんだから始めましょうか。
ちょっと慣れないメンバーにくるくるだけは緊張気味なんだけれど、その緊張がわたしにまでうつる前に始めるわ……と言っている間にちょっと心臓がドキドキしてきた。
ヤバい、もううつってるっ?!
本当は前話で真田と串カツが登場する予定だったのですが、ついついルゥとイチャつきすぎて(カニやんがねw)入りきらず。
やっと二人の登場です。