329 ギルドマスターは舞いの名手です
PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!
最初のクロエの一撃もそうだったけれど、帝は素肌を晒している頭部を庇った。
頭部というか、顔というか。
眉間
最近、眉間を狙うのがクロエのマイブームなのか。
あとでくるくるとぽぽに訊いてみるとして、帝本体が物理攻撃無効で魔法攻撃無効なら、ああいう仕草はいらなくない?
わたし、女御様の時に十二単を役立たずみたいな言い方をしたけれど、この直衣は超高機能だと思う。
奥さんの服と旦那さんの服に、こんなに機能差があるのはちょっと納得が出来ないんだけれど、あの金ぴかな色とか、ちょっと宇宙服っぽくない? ……といったら、クロウを除いた三人に全否定の表情を返された。
なんでよっ?
いや、まぁその、金ぴかっていうか、銀ぴかっていうか……ちょっと違うか。
クロウだけは笑ってたけれど。
今日も安定の男前です。
もちろんみんなも男前です。
否定派のカニやんの話では、最新の宇宙服は、某アニメのパイロットスーツ並みにお洒落でスマートなデザインなんだって。
そういえばちょっと前にTVのニュースで見たような、ないような……。
ロボットアニメに興味のないわたしが宇宙服を想像したくらい高性能で金ぴかな帝の直衣だけれど、その直衣を着る本体にその機能はない。
だから素肌を晒している部分を狙えば攻撃が通るかもしれない。
もちろんそれが正解なら帝は防御してくるだろうけれどね、それはそれでかまわない。
足下を庇うために屈めば、その分だけ首の防御が手薄になる。
狙い目よね。
銃撃だって、それこそ斬首こそ出来ないけれど、首を直撃させられればそれなりにHPを削ることが出来る。
どのみち狙い目だと思う。
魔法使いには出来ないけど。
でもだからってぼんやりとしていたら首を飛ばされちゃう。
だって帝ったら、広げた扇を投げてきた。
こう……ブーメランみたいに?
操舵手だっけ?
操舵輪を思い切り投げてなかったっけ?
色々と被りがあって、【treasure ship】 を思い出させてくれるダンジョンだわ。
しかも質が悪いことに腕が伸びるのよね。
だから投げた扇を腕を伸ばして取りに行ったり、伸ばした状態から投げてきたり。
それを代わらず舞いを差しながらやってのけるって、どんな上級者?
名取り級?
クロエに狙われていることもわかっているのか、絶妙なタイミングで足をすっと引いたりして上手く躱してるし。
もちろんそれも舞いの一部。
右手から攻める恭平さんの剣を易々と袖で受けたかと思ったら、後ろに回り込んだクロウの屍鬼が、その長さを生かして襟元に斬り込む。
今回はNPCが人形をしているから余計に錯覚しやすいっていうか、ついつい人間と同じ構造で考えちゃうのよね。
だから死角があると思ってしまう。
クロウもそう考えて、恭平さんが前方に気をひいている隙を衝いて後背をとり、すかさず攻め入る。
人形なのよ
このダンジョンに出現するNPCのモチーフは、人間じゃなくて人形。
でもきっと人形のモチーフは人間だからややこしいんだけれど、あくまで人形なのよ。
屍鬼の鋭い切っ先を帝の首の突き立てようとした次の瞬間、首がぐるんっと勢いよく180度回転。
真後ろを向いたと思ったら、右腕を左肩に回すようにし、そのまま肘から先を伸ばして閉じた扇で屍鬼の刃を打ち返す。
そのまま体を反転させてクロウを正面に捉えると、再び扇子を開いて手首を返す。
まさかその至近距離で首を狙ってくるなんてね。
とりあえずわたしは、首が180度回転したのを見て腰を抜かしそうになった。
「さっきも見ただろ?」
「あれは90度」
「角度の違いだって。
あの首は回るもの、そういうものなんだよ」
それこそ一回転してもおかしくはないと冷静なカニやんに、とりあえずしがみついておく。
いや、うん、時々ここまで扇が飛んでくるから油断は出来ないんだけどね。
でもちょっと待って、腰が……。
「最悪、俺が抱えて逃げるんかいっ」
「お世話になります」
先にご挨拶しておくわ。
だってクロウってば、あんなに遠くにいるんだもの。
しかも邪魔出来ないし。
このへんなタイミングで邪魔に入ったら、それこそクロウか恭平さんの首が飛びかねない。
「そのぐらいしなよ、役に立たないんだから」
「へいへい。
クロエこそ、さっさと撃てよ」
「微妙すぎて絞れない」
人形のモチーフは人体。
腕が伸びたり、首が180度……というか、たぶんカニやんの予想通り360度まわると思う。
首が一回転したりと人間には出来ない動きをする帝だけれど、関節の数などは同じ。
つまり腕が肘と手首以外の場所で曲がることはなくて、その不自由さを補うために体を反転したのなら、今度は恭平さんが後背についたことになる。
でもあれ、そのうち腰から上だけ反対を向いたりしない?
「するかもね」
「注意する」
肯定するカニやんに、恭平さんがちょっと緊張した声で答える。
クロウはなにも言わないけれど聞こえてはいると思う。
今は恭平さんが後背につく形になっているけれど、気持ちの上では 「うしろ」 という感覚は持たない方がいいかもしれない。
下手をしたら上半身だけでも一回転しそうで……すると思う?
「思う。
動く関節に角度は関係ないと思う」
「うん、そうよね」
つまり関節部分は自由自在に動く、そう思ったほうがいい。
だから例えば……関節技っていうの?
ああいうのを仕掛けようとしても、そもそもあれは人間の構造を利用して決める技だから、本来は動かない方向にも動くのなら決められない。
しかも 【幻獣】 だから放り投げるなんてことも出来ないし。
当然蹴り飛ばすことも不可能。
面倒臭い
あ、でも死角がないわけじゃないのか。
しかも人形だから腕は二本しかない。
今プレイヤー側の攻め手は二人。
もしこれが三人になったら帝はどう対応する? ……というわたしの思考を読むように、弧を描いて飛んできた扇が鼻先をかすめる。
これはこれで厄介で、耐久が続く限り杖で打ち払えるけれど、まるでワイヤーででも操っているかのように扇は決して床に落ちず、落ちそうで落ちない紙飛行機のように帝の手元に戻る。
場合によっては腕を伸ばして回収に来ることもあるけれど、絶対に床に落ちないし、必ず帝の手に戻る。
それこそ超低空にある時に踏みに行けば落ちるのかと思ってしまうけれど、帝の腕が伸びてくるのよ。
そして回収し、すかさず手首を返してくるから迂闊に近づけない。
でも死角はある
狙うならそこかな。
人形の構造上、前後にプレイヤーを配するのは不利と見たのか、帝は流れるような動きで体を90°だけ反転。
再びクロウと恭平さんを左右に据える。
依然恭平さんを左手に、クロウを右手に配して舞いを差し続ける帝。
先に仕掛けるのはクロウ。
身を低く構えつつも首を狙うと見せかけた攻撃の直後、閉じた扇で打ち払われた屍鬼の切っ先を、偶然踏み出された帝の足の甲に鋭く突き立てる。
読みどおり、屍鬼の脇から流れ出るHP。
「あれ、足落としちゃったほうが早くない?」
クロウに先を越されて面白くないクロエ。
でもそれは駄目よ。
「どうして?」
「クロエにしては珍しいこと言うじゃん」
「足首を落としたら、狙える箇所が首しか残らないじゃない」
そんなことをしたら、帝よりプレイヤーのほうが詰んじゃうわ。
もちろん首は狙っていく。
でもそれ以外の場所から削っていく方法と並行で攻めないと、先の展開次第では本当に詰んでしまう。
クリアが目的なんだから、それは避けたい。
「まぁ先に言っておくと、ここがラスボスってもうわかってるから、もし最後の一人になったらグレイさんは 【灰燼】 使っちゃって。
そんでとりあえずクリアでよろしく」
ちょっとカニやん、なにが 「よろしく」 よ?
全然よろしくない!
しかもわたしが最後まで生き残るとは限らないし。
「どこまでいってもグレイさんだな」
「そういう人だしね」
「馬鹿なの?」
カニやんと恭平さんのいっている意味はよくわからないんだけれど、クロエの言葉はわかる。
わたしを馬鹿だって言ってるんでしょ!
ぷぎゃー!!
「また噴火してる」
「グレイ、その時は 【灰燼】 を使え。
いいな」
クロウまで……。
さすがのクロウもやり辛い相手だっていうのは見ていてわかる。
速さで押しても全然効かないし、屍鬼の刀身の細さと長さを生かし、隙間を狙って突きを繰り出すとか、多彩に攻めても難しい。
でもね、かすりはするの。
首を刎ねる振りをして屍鬼を振りつつ、帝が袖でガードするのを見てすかさず切り返し、隙間を狙って刃を差し込む。
いつも使っている砂鉄ではなく、屍鬼を装備したクロウの選択は大正解。
砂鉄では刀身自体が太くて隙間は狙えない。
肩とかに当たればそこで止まってしまうから。
例えるならフェンシングみたいな感じ?
あんな華麗なポーズはとらないけどさ。
でもここで刃を差し込んでそのまま首を刎ねる……そう出来たらいいんだけれど、すかさず閉じた扇で刃を打ち返してくる。
帝の関節は、人間じゃ動かない方向にも動くからね。
風を起こす時のように軽く手首を返すだけ、プレイヤーごと吹っ飛ばす勢いで刃を弾き返す。
さすが 【幻獣】
みごとなSTRよ。
一瞬クロウも体勢を崩しそうになるけれど、そこを狙って踏み込んでくる帝に対し、辛うじて体勢を立て直し斬り返した屍鬼で開いた扇を打ち払う。
恭平さんもこの隙をついて、クロウが上に狙いを定めているから逆方向ってことで足下を攻撃。
帝の注意を分散させるためにね。
でもこれも、ストレートに狙うとすっと足を引かれちゃうのよね。
しぶとい
「こんな言葉知ってる?」
なにも出来ないもどかしさに拳を握りしめて二人と帝の攻防を見ていたら、ふと思い出したように呟くカニやん。
「武に通ずれば舞いとなす」
なんとなく意味がわかる。
帝が舞いを差しながらも戦っているのを見ればなおさら。
えーっと待って、帝の動きって、いわゆる日本舞踊はそれほど派手に動き回るわけじゃない。
もちろんあれを日本舞踊と表現していいかはわからないけれど、派手に跳びはねたりすることはないし、移動も滑るような足運び。
躍動感とはまったく無縁な動きは、あの時代特有の雅やかな日常の所作をつなげたような感じ。
とても静かで、でも今みたいに、攻撃を仕掛けられた時に見せる俊敏な動きさえも違和感がなく、その雅な一連の動きの中に溶け込んでいる。
受けた二本の剣を力業で跳ね返す動きさえ、雅な優男のまま。
つまり何?
平安時代独特の、あの雅やかな日常の所作って、実は格闘技の基本みたいなものってことっ?!
じゃあ雅であればあるほど、実は熟練の格闘家ってこと?
恐るべし、平安貴族!!
いよいよ、いよいよだ・・・たぶん(汗




