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328 ギルドマスターは舞いを差します

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告、ありがとうございます!!

 実際、平安の時代には女御様たちが一堂に会し合奏したり、香を合わせたり、貝を合わせたり、歌を詠んだりすることもあったらしい。

 だからここに、わたしたちが倒した梨壺(なしつぼ)の女御様、麗景殿(れいけいでん)の女御様、弘徽殿(こきでん)の女御様、この三人の女御様が集まったのも特別おかしなことじゃない。


 わかってる


 その(かな)でる(がく)に合わせて(みかど)が舞いを差すところまではわかるんだけれど……いや、わからないか。

 この人、なんで踊ってるの?

 ここで踊る理由がわからない。

 ここでっていうのは場所じゃなくて、この場面でっていう意味ね。

 しかも手首をちょっと返す、それだけで広げた扇が攻撃を放ってくる。


 衝撃波


 最初の一撃を見た瞬間にわたしはそれを 【衝撃波】 と思ったんだけれど、これまたとんだ早とちり。

 鉄扇に風魔法を付与していた梨壺の女御様と同じく、扇に風魔法を付与しているのかもしれない。

 でもわからないから避けておくのが無難かな。


 だって梨壺の女御様が持つ鉄扇の一撃で、恭平さんは胴を断たれて一度落ちている。

 しかもこの帝は 【幻獣】。

 アラートが出るほど格上とはいえ、女御様は 【妖魔】 だったから、それよりさらに格上の 【幻獣】 ともなれば、あんな普通サイズの扇からでも一撃必殺の大技を出してくる可能性もある。

 今も無表情で、女御様たちが奏でる楽に合わせて優雅に舞いを差しながらも、ふとした拍子に手首を返し強烈な一撃を放ってくる。


 もちろんわたしたちだって大人しく攻撃されてはいない。

 一番最初に反撃したのはもちろんクロエ。

 攻撃行動(アクション)が一番速い銃士(ガンナー)のクロエは、恭平さんが狙われた次の瞬間、通常弾での一撃を帝にお見舞いする。

 もちろん狙うのは眉間。

 けれど恭平さんの回避行動とほぼ同じタイミングで、帝は扇を持たないもう一方の腕を顔の前に上げる。

 そうやって直衣(のうし)の袖で顔を隠した刹那、クロエの放った銃弾は直衣に弾かれる。


 反射っ?


 恭平さんの無事に安堵しつつ、銃撃を弾く直衣に緊張が走る。

 幸いにして反射ではなく、弾かれた銃弾は床に落ちて消失する。

 えっとつまり直衣に当たった瞬間弾かれたように見えたのは演出で、ただの無効判定ってことでいいのよね?


「たぶん」

「そう思いたい」


 カニやんと恭平さんが口々に答えてくれる。

 あんなの重そうな……いや、女御様たちはあれを着て、さらに床に長い黒髪を垂れ流しながらも勇ましく戦っていたけれど、十二単に防弾というか、防刃的な効果はなかった。


 皆無


 麗景殿の女御様に至っては、邪魔そうに自分から脱いでたし。

 あれはきっとそんな効果をまったく期待せず、だったら動きやすさを優先するという強い意思表示だったのかもしれない。

 どんだけ戦いに前のめり?

 プレイヤーを前に、後ろ向きじゃいられないのもわかるけれど。

 そんな奥さんたちのことなんて顧みることもなく、その奥さんたちに演奏させながら優雅に踊る旦那さんってどうよ?

 しかも自分だけ 【幻獣】 で高STRに高VIT、おまけに高HPときた。


 狡いよね


「それを狡いっていうのもどうかと思うけど」

「まぁグレイさんだから、そんなもんでしょ」


 あら、今回は恭平さんとカニやんの意見が割れた。

 しかもカニやん、そんなもんでしょとはどういう意味かしら?

 でもいつものようににひっと笑われてこの会話は終わり。


「さてね」

「仕掛ける」

「了解」


 剣を構える恭平さんの声掛けに応えたのはカニやんだけれど、珍しく恭平さんに合わせて斬り込むクロウ。

 いつもだいたい一人で斬り込んでいっちゃうんだけど、剣士(アタッカー)二人で両側から帝に仕掛ける。


 恭平さんの剣を袖で受け止めた帝は、もう一方の腕で、やっぱり袖でクロウの剣を受け止める。

 その時、手に握っていた扇は閉じていた。

 あれってつまり、閉じていると攻撃出来ない?


 防御態勢?


 だったら仕掛けるわ。


「起動……焔獄(えんごく)


 相手は帝一体。

 しかもほぼ位置を変えないから単体魔法で試したものの、その全身を 【焔獄】 の炎が包むところまではよかった。

 でもその瞬間にHPの流出現象(ドレイン)は起こらない。

 つまり被ダメ(ゼロ)

 直後、帝は顔を隠すように覆った両腕を……えっと、ほら、いるじゃない。

 コートの下になにも着ていない犯罪者。

 あの人たちみたいにばっとコートの前合わせ……じゃなくて、袖を広げてみせるとともに自身を包む焔を吹き飛ばす。


 反射!


 離れた場所にいるクロウには悪いけれど、わたしがとっさに庇ったのは近くにいたカニやんとクロエ。

 これはわたしが放った 【焔獄】 の焔。

 その発動に使用したMPの何分の一かを、所持する常時発動(パッシブ)スキル 【愚者の(かご)】 で返してもらうような形ね。

 恭平さんには魔法を反射する常時発動(パッシブ)スキル 【震える鏡】 があるから大丈夫だけれど、四方八方に分散反射された焔獄の焔を、ほぼ避けきるとかどんな運動神経してるのよ、クロウは。

 一つ二つは当たっても、すでに被弾している場合は別として、そもそものHPが高いから現状では問題なし。


 鉄筋


 ただ使ったスキルが 【焔獄】 だから油断は出来ない。

 帝の動きに警戒しつつ後退するクロウも、インベントリから取り出したポーションで回復を図っている。


 いわゆる日本舞踊はそれほど派手に動き回るわけじゃない。

 うん、いや、まぁあれが日本舞踊と表現していいものかはわからないけれど、派手に跳びはねたりすることはないし、移動も(すべ)るような足運び。

 躍動感とはまったく無縁な動きは、あの時代特有の雅やかな日常の所作をつなげたような感じ。

 とても静かで、でも今みたいに、攻撃を仕掛けられた時に見せる俊敏な動きさえも違和感がなく、その雅な一連の動きの中に溶け込んでいる。

 受けた二本の剣を力業(ちからわざ)で跳ね返す動きさえ、雅な優男(やさおとこ)のまま。

 直後に受けた 【焔獄】 を弾き返す動きさえね。


 しかも物理攻撃は刀剣も銃撃も無効。

 魔法攻撃は反射と来た。

 【幻獣】 だから絶対にノックバックしないし、【クロノスハンマー】 のような闇属性の足止めも効かない。


 これ、あれよね?

 【treasure(トレジャー) ship(シップ)】 のラスボスだった骸骨船長。

 でもあれは期間限定イベントだったから黒ひげ危機一発……じゃなくて、都度変わる弱点もありかもしれないけれど、固定ダンジョンでこれはどうなの?


「弱点が潜るたびに変わるかどうかはまだわからないけど」

「だな。

 弱点固定の可能性はある……ってか、固定だろ?

 まだ試してないところで行くわ」


 ん? ちょっと待ってカニやん。

 まだ試してないって?


「貫通攻撃。

 起動…………氷雪乱舞」


 …………うん、反射決定!

 しかも跳ね返ってきた氷の(つぶて)が、ダメージこそないけれどちょっと痛い。

 顔とか、冷たくて霜焼けになりそう。


「ごめん」


 大丈夫!


 常時発動(パッシブ)スキル 【愚者の籠】 は装備に付与してあるわけじゃない。

 わたし自身の所持スキル。

 だから装備の耐久が(ゼロ)になったとしても、【愚者の籠】 は発動し続ける。

 止まるのはわたしが落ちた時だけね。

 それともなに?

 本気で霜焼けを気にしてくれたとか?


「それはない」

「そうよね」


 でもこれで火焔属性、氷雪属性は反射決定。

 あとは地属性と風属性に雷撃属性?

 いやいやいや、ちょっと待って!

 さすがにそんなに反射したらクロウが危ないからやめて。

 わたしも取り置きしてあった 【避雷針】 を発動しようかと思ったけれど、反射されたら絶対にヤバいと思う。

 だからやめる。

 そのクロウに声を掛けられる。


「グレイ、屍鬼(しき)を」

「は~い」


 砂鉄じゃなく屍鬼を使うんだ。

 でもそれでだいたいの狙いはわかった。

 わたしがインベントリから屍鬼を取り出すと、帝を気にしつつ後退したクロウがすぐそこまで戻ってきていてびっくりした。


「あとで返す」

「うん、絶対ね」

『それ、旦那のだよな?』

『なんで返すなんだ?』


 また脳筋コンビったら、余計なところで突っ込んでくるんだから。

 そんなの知らないわよ、クロウに訊いて頂戴。

 答えてくれないと思うけどね。

 その細身の長刀を、スラリと鞘から抜き取ったクロウは改めて帝を見る。


 このゲームの絶対的ルールで、物理攻撃が無効でも絶対に首だけは落とせる。

 一撃で首を刎ねることが出来れば、絶対に落とせるし、絶対に落とされる。

 夏に行われた期間限定イベント 【treasure ship】 では、ラスボスの骸骨船長にだけ例外的措置が施されていたけれど、でも必ず弱点はあった。

 もし帝が首を刎ねても落ちない、あるいは首への攻撃すら通らないのなら、どこか別の場所に、絶対にピンポイントで弱点がある。


 不死身はない


 このゲーム最強の高火力ダンジョン 【富士・火口】 のボス 【スザク】 でさえ落ちるんだから。

 【スザク】 は飛行(とり)(タイプ)のNPCだから、物理攻撃でのみ出来る斬首は出来ないけどね。

 今回の新ダンジョン実装記念期間限定イベントは、この新ダンジョン 【ゴショ】 のラスボスを倒すこと。

 つまり倒せるのよ。

 新たに追加された新エピソードクエストも、このダンジョンのラスボス帝を倒すこと。

 クリア条件は、ラスボスがドロップするアイテムをナゴヤドームの長官室にいるNPC長官に届けることで、倒せなきゃ問題のアイテムはドロップしない。


 絶対に倒せる


 再び仕掛けるクロウと恭平さん。

 反射による二人の被弾を考え攻撃参加の出来ない魔法使い(わたしたち)のそばで、クロエはなぜか帝の足下にその照準を合わせようとする。

 そっか、帝って裸足なんだ。

 いくらあの直衣が超強力な防刃・防弾・防火・防水機能を持っていても……というかそれらの機能が直衣にあるのなら、素肌が晒されている部分は攻撃出来るはず。


 範囲攻撃を持つ魔法使いは高い攻撃力を持つけれど、実は部分攻撃というものが出来ない。

 そして帝が魔法攻撃を反射する以上、その可能性に気づいても攻撃参加は出来ず。

 でも物理攻撃はプレイヤーの任意で狙う場所を決めることが出来る。

 ただクロエのように高い狙撃能力を持つプレイヤーでも、くるぶしのすぐ上あたりで裾を絞って紐を結ぶ指貫(さしぬき)から出る、わずかな素足を狙うのは難しいと思う。

 でも意味はあると思う。


「ところでさ、さっきの弘徽殿の女御ってこいつの奥さんなんだよね?」

「うん? そうね?」


 というか、その前の麗景殿の女御様も、さらにその前の梨壺の女御様もね。

 たぶん今、左右の御簾の内で優雅に(がく)を奏でてるけど。


「まだ口の中が苦くてムカつく!

 嫁の不始末、(ひざまづ)いて詫びろ!」


 え? そこっ?

 っていうかそれは八つ当たりじゃない?

 しかもちょっとDVっぽいこと言ってるし、大丈夫?

 それとも完全に壊れちゃった?


「まぁそこはクロエだし」


 でもこのカニやんの言葉には妙に得心がいったわ。


「吹っ飛べ、クソ親父!」


 それは無理だけどね。

番外あるいは休閑小話として小林君の話と、真田&不破コンビの話がこのあとに控えております。

そしてそして、ついにカニやんが! ・・・まだまだ遠いなぁ・・・ふぅ~

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