32 ギルドマスターは不自由の女神を解放します
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!
わたしの攻めは所詮火力任せ。
クロウやクロエみたいに、トッププレイヤーといわれるような技術はない。
残すメンバーのことを考えれば差し違えてでもノギさんを落とすべきなんだろうけれど、それが出来れば苦労しないんだけどね。
「安心しろ、女を切り刻む趣味もない」
だからって一刀両断ってのもどうなのよ、ノギさんっ?
言っておくけど、わたしだって黙って斬られるつもりはないんだからね。
それこそ切り刻まれたって、ギリギリまで削り返してあげるわよ。
「グラヴィティ!」
ちょっと、カニやんっ? 今はわたしにかまわず女神攻めでしょうが、なにしてるのよ!
剣士にここまで近寄られた時点でわたしには死亡フラグが立ってるの。
援護をするなら、女神攻めをしている仲間でしょう!
「フォグブレス」
でもせっかくの好意だもの、もちろん無駄にしないわよ。
一瞬足を止めるノギさんに毒の先制攻撃を仕掛ける。
被毒は効果時間が長い。
もちろん解毒剤で解除できるけれど、そのためにはインベントリから取り出す手間が掛かる。
でも魔法使い一人片付けるのに時間は掛からないと踏んでるだろうから、ノギさんは解毒しない。
案の定、被毒によるHPドレイン現象なんて気にも掛けず大剣を振り上げる。
その大剣にわたしは自分の杖を打ち当てる。
もちろんステータスが違いすぎる。
有っても無いに等しいわたしのSTRじゃ、ノギさんの大剣を払えるはずも無い。
でもね、長物って力の流れを上手く操作できれば、たいした力が無くてもかわせるものなのよ。
もちろん直撃を避けるだけで被弾は避けられない。
かすった腕にチリッとした痛みが走り、HPドレイン現象が起こる。
まだまだよ
わたしだって、それなりにHPの高い怪物っていわれてるんだから、この程度じゃ落とせないわよ。
でもね、そんなことはノギさんもわかってる。
だから少しでも早く、それも確実にわたしを落としたいノギさんはあからさまに首を狙ってくる。
ほんと、えげつないんだから。
HPが残っているから簡単には落とせないけれど、ノギさんの一撃がわたしのHP残量を上回れば最後。
どれほども削れていないノギさんの高HPを呪いつつ、わたしは最後のスキルを発動させる。
「起動……」
そう、再起動準備が終わったばかりの大技……
「焔獄」
詠唱が終わるのが早いか、ノギさんの大剣がわたしの首を刎ねるのが早いか。
もちろん詠唱が早くても、ノギさんを焔獄で焼いた直後にわたしの首は落ちるんだけどね、最後まで目は閉じずに睨みつけてやる……って決めていたのに……。
「どけ」
クロウのショルダーアタックを食らって、その衝撃で思わず目を閉じちゃったじゃない!
直後、耳を覆いたくなるほどの剣戟がすぐそばで響く。
勢い余って堅いコンクリートに転げたわたしは、慌てて落とした杖を拾って二人を見上げる。
すぐそばで、険しい顔をしたクロウとノギさんが、大剣を打ち合わせた状態で固まっていた。
トッププレイヤーの力勝負って、凄い迫力……。
「下がっていろ」
クロウの声はいつもどおりだったけれど、剣を握る手が、腕が、小刻みに震えている。
焔獄の焔をまとったままのノギさんも、全身でHPドレイン現象を起こしながらも渾身の力でクロウの剣を押し戻す。
わたしがこの距離にいちゃ、クロウは、ノギさんの剣を払うに払えない。
だから力任せに押してくるノギさんの剣を、ギリギリの力加減で受け止めている。
二人から離れつつも援護しようと思ったけれど、離れたところにいるクロエの声がインカムを通して聞こえてくる。
『グレイさん、女神抑えて。
ムーさんたちがヤバい』
クロウが抜けた分を補えず、やりたい放題の女神様が暴れまくってる。
今の、ほんの短い間わたしが抜けていた分はなんとかなったんだろうけれど、さすがに欠けたクロウの火力を補うことは難しい。
わたしが戻ったところでどれほど押し返せるかはわからないけれど、やれるだけやってやろうじゃない。
「離れて!」
焔獄を使ったばかりのわたしはかわりに業火を使おうとしたんだけれど、範囲魔法だからね、前衛も一緒に溶かしちゃう。
でもそこは行動力の塊……いや、危機管理能力?
それも自身に迫る危険に対してだけ、とっても敏感に反応する超高性能センサー。
そんでもって脳筋なのよ。
声を掛けたらすぐさま女神から距離を置き、即座に態勢を立て直しに掛かる。
超高性能危機管理センサー&抜群の運動神経、これって剣士の必須条件?
「起動……業火」
『女神の目隠し、とったらどうなると思う?』
お願いだからクロエ、こんな時に悪戯心を起こさないで。
クロウとノギさんの剣が斬り結ぶ剣戟が、やたらと大きく聞こえて落ち着かないんだって、わたしは。
「あれは 【幻獣】 よ」
『わかってる。
でもさ、さっきからほとんどHPゲージが減らないんだ。
何か対策を考えないと消耗戦になる』
消耗戦になればプレイヤーに分が悪い。
このイベントには制限時間があるからね。
たぶん全員が削り落とされる前に時間切れになる。
だったらいっそ、目隠しをとって 【幻獣】 の攻撃属性を変化させるか。
というかあの目隠しって……
「……そっか……目隠しをとれば、目が見える女神は的確に攻撃してくるんじゃない?」
『どういうこと?』
「目を見えるようにしたら、たぶん女神は的確に狙いを定めてくる。
狙いがわかっている方がムーさんたちは攻めやすいんじゃない?」
もちろんどういう狙い方をしてくるかはわからないけどね。
それこそノブナガみたいに後方支援職から狙ってくるかもしれない。
これは一つの賭けだけれど、クロエの言う通り、三分の一ほど順調に減らしていた女神のHPゲージが、今はいくら攻撃を仕掛けても寸分も動かない。
HPドレイン現象も全く起きない。
あの目隠しや枷がある種の仕掛けだとしたら……
「不自由の女神を解放せよ……か……なるほど」
ちょっとわかったような気がした。
もちろん正解かどうかはわからないけど、でも、迷ってる時じゃないわよね。
「ベリンダ、女神の目隠し、取れる?」
わたしは用心しながら前に出て、前衛職に混じって奮闘しているベリンダに声を掛ける。
ほんと、インカムが使えないって不便。
「え? 取るの?」
「あ、いや、外したいの。
出来る?」
「後ろから近づけばいけるかな?
やってみる」
「気をつけて!」
わたしは声を掛けてダッシュで後退。
なにしろ女神ってば歩幅が大きいから、油断するとすぐに近くまで来ちゃうのよ。
ベリンダの作戦遂行まで、間違って彼女を撃たないよう後方支援は待機。
前衛三人だけで足止めするのは厳しいのはわかっているけれど、少しだけ頑張って。
瞬発力と跳躍力じゃ、短剣使いの右に出る職はいない。
剣の一撃は軽いけれど、身も軽いのよ。
後ろに回り込んだベリンダは一瞬で女神の後頭部に一撃を浴びせる。
次の瞬間ハラリと目隠しが落ち、女神の両眼が見開かれる。
思った通り、目の見えるようになった女神は、自分の周りにまとわりつく剣士三人+ベリンダに対し的確に攻撃を仕掛けてくる。
でもムーさんたちも、何を狙っているかわかるから避けやすくなったみたい。
だけど次の攻略を考える前にわたしは違和感に気づいたの。
さっきから剣士が三人……?
トール君は?
嫌な予感を覚えて振り返る。
まるでタイミングを合わせたように、物陰から飛び出したトール君がノギさんに一太刀を浴びせようとしたところだった。
「このガキがー!」
不意を衝かれたノギさんはトール君の一撃を浴び、怒声を上げならも斬り返す。
「クロウ!」
うん、無理なのはわかってる。
わかってるんだけど、叫ばずにはいられなかったの。
角度的にクロウも厳しかったと思う。
トール君を守ることは出来なかったけれど、クロウに出来る精一杯の仕事をしてくれたと思う。
トール君の胴を真っ二つに断とうとしたノギさんの大剣、その剣筋をギリギリでずらしてくれたの。
おかげでトール君は落ちなかったけれど、腕を落とされた。
『すいませんノギさん。
卑怯だとは思ったんですけど、これ団体戦なんで、ありですよね』
インカムからトール君の声が聞こえてくる。
全然卑怯じゃないから。
トール君の言う通り団体戦だもんね、そんな申し訳なさそうにいう必要なんて全くないから。
『クロウさん、早く戻ってもらわないと困るんです。
女神を落とせってグレイさんに言われてるし』
……わたしの失策ね、ごめん。
そうよ、数の有利を取ってさっさとノギさんを落としてしまえばよかったのよ。
『グレイさん、落ち込んでる時じゃないよ』
「わかってる。
トール君、下がって。
カニやん、女神叩きよろしく」
「あいよ」
クロエはわたしを責めない。
けれど落ち込んだり反省する時間もくれない。
カニやんも、詳しい会話こそ聞こえていないけれど、だいたいの状況は把握していると思う。
若干攻略しやすくなった女神を相手に、剣士三人+ベリンダの支援を続けながら時々指示を出す。
あっちは柴さん、ベリンダとインカムが使えるのよね。
悪いけれど、少しだけその人数で頑張って。
こっちはもう少し掛かりそうだから。
だって硬いノギさんは、トール君の一撃をまともに食らってもまだ落ちないのよ。
かなりのHPドレイン現象を起こしながらも、まだクロウと剣を斬り結んでいるの。
おまけに隙あらばトール君に斬りかかろうとするのよ。
どんだけ貪欲?