318 ギルドマスターは押し倒されます
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この時代の摂関家って藤原氏だっけ?
中大兄皇子ことのちの天智天皇を助けて大化の改新を為さしめた中心人物にして、その功績を讃えられ、大織冠の位を賜った中臣鎌足こと藤原鎌足。
藤原性を賜ったのを機にそれ以前の中臣氏とは決別し、鎌足の息子だけが藤原性を継いでいるから、平安時代に隆盛を極めた藤原氏は鎌足の子孫たち。
鎌足は、日本史において屈指の栄華を極めた藤原氏の、その礎を築いた人物。
でも中臣氏はもともと渡来人といわれ、占いなどの神事や祭事を司る神道系の中央豪族。
それこそ聖徳太子死後くらいの飛鳥時代。
中臣氏は排仏派として、物部氏とともに蘇我氏と対立して敗北。
当然乙巳の変で鎌足が頭角を現わすまで日蔭者。
それがあれよ。
この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば
かの有名な望月の歌を詠んだ藤原道長。
蘇我氏に負けて、その蘇我氏を乙巳の変で滅ぼしてからの見事な再興。
そして道真の歌につながる栄華。
もちろん紆余曲折あって、藤原四家も北家以外は残らなかったみたいだけれど、全ての最初が藤原鎌足なのよね。
その子孫とおぼしき左右の大臣。
alert 平安貴族サダイジン / 種族・妖魔
alert 平安貴族ウダイジン / 種族・妖魔
ラスボスではないから 【幻獣】 でこそないけれど、わざわざアラートが出るくらいだからそれなりに強いと思う。
これまでもかなりの強さだったのに、それよりも強いとか、ほんと、とんだ重火力ダンジョンだわ。
もちろん負ける気はないけど。
でもね……これはわざとなの?
そんなわたしたちの意気込みを削ぐように、マメとカニやんがまたパ○ツネタを……またなのっ?
このパ○ツは、パ○ツはパ○ツでも例の海パンのこと。
カニやんが持っている、稀少な装備のことね。
まぁその話の結果、わたしたちが思っている以上に脳筋コンビがカニやんを好きだとわかった。
「違うから!」
『キモ!』
『やめれ』
三人とも照れちゃって慌てて否定するんだから。
そんなことしなくてもいいのにね。
大丈夫よ、邪魔はしないから。
「それも違うから!」
『ギルマス、話はちゃんと聞け!』
『その耳、どうなってるんだよっ?』
どうしてこうも三人は必死なのかしら?
邪魔しないっていってるのに。
一つだけカニやんには訊いておきたいんだけれど、その……例の海パン、今も穿いてるの?
「…………そこ?」
動き出す左右の大臣を前に、わたしの質問を受けたカニやんはがっくりと膝を折り、そのまま四つん這いになってうなだれる。
ん? わたし、なにか変なこと訊いた?
「さぁ? わからないけど、さっさと働けよ、そこのヘボ」
わからないまではわたしへの返事で、その先はカニやんに言ったみたい。
しかもクロエったら、その……カニやんのお尻を本当に撃っちゃうんだから。
PK出来ないからHPは削れないけれど、被弾はするし痛みもある。
刹那、カニやんは上体を起こしながら悲鳴を上げる。
「いって!!」
「ちょっとクロエ、駄目よ」
「ごめん、誤射」
「絶対嘘だろ!」
「カニやんが汚いケツをこっちに向けるからだろ」
ねぇお願い、そろそろ下○身から離れてくれない?
パ○ツの次はお尻って、ほんとにもう勘弁して。
そもそもクロエってばみんなの後ろにいるんだから、当然みんなクロエにお尻を向けてるに決まってるじゃない……って、わたしのお尻は撃たないでよ!
「撃ったら僕が殺されるじゃん」
「悪い、パ○ツと尻ネタはその辺にしてくれない?」
あの動きにくそうな装束で、いきなり大きく踏み込んできた左……いや、右かな?
同じ顔をして同じ束帯姿だから、動き出すともうわからない。
一瞬で、それこそピカピカの床を滑るように、一瞬で恭平さんの眼前に迫った大臣。
当然構えた剣でそれを受けるんだけれど、大臣が武器にしているのは笏。
丈夫ね
もう一体の大臣はクロウが。
でも、何度も言っているけれど、クロウは元々スピードプレイヤー。
同じように笏で撃ちこんで来る大臣に、自分から突っ込んで先に自分の間合いに捉える。
距離感を狂わされた大臣は、自らクロウの剣に突っ込む形で袈裟懸けに一太刀を浴びる。
直後、仕切り直しを目論んだ大臣は、クロウとの距離をとるため後方へ、またしても滑るように下がる……と思ったら、あ、えっと、下がったんだけれど、笏を握った腕……じゃなくて、腕じゃ物は握れないから握ってるのは手なんだけれど、腕が伸びて、後退する大臣の本体を逃すまいと踏み込もうとしたクロウに打ち込んでくる。
腕が伸びたっ?!
……じゃなくてクロウが直撃を受けるっ?
でも援護しようにも、うっかりクロウと大臣とわたしの立ち位置が一直線。
「起動……」
「撃て!」
それでも詠唱だけは始めたら、クロウが声を上げつつ自身の体を捻るようにかわして道を空ける。
「焔獄」
クロウの声を聞いてから発動したから、いつもより一瞬遅い。
でも笏がクロウの体を打つ前に……というか腕を伸ばした分、本体に届くより早く焔獄を受ける羽目になる大臣。
その体が焔獄の焔に包まれるのを見ながら体勢を立て直すクロウ。
大臣が動きを止める数秒で体勢を立て直し、間合いを取り直す。
「ロックフォール」
眼前に迫るもう一体の大臣と力比べをしていた恭平さんは、自力で脱出を試みる。
あれ? カニやんまで、恭平さんと大臣と一直線の立ち位置なのね。
「うっかり」
「ヘボ」
申し訳ない……とぼやくカニやんの耳元をかすめて飛んだクロエの銃弾が、大臣の額を撃ち抜く。
その衝撃で面のような顔に大きくヒビが走り、後ろにのけぞるようにノックバックする。
「【幻獣】 じゃなかったっけ」
クロウと同じく間合いを取り直した恭平さんに、クロエがわざとらしい溜息を吐きつつ返す。
「恭平さんまで。
しっかりしてよ。
そこのヘボ二人、使い物にならないんだから」
ヘボって、わたしとカニやんのことよね?
くっ……悔しいけれど反論出来ません。
二人揃ってうっかり直線上に立つなんて、確かにとんだヘボよ。
わかってます
でもあえて言われると腹が立つし、クロエの言い方も癪に障るのよ。
それがクロエだってわかってるけどさ。
だってクロエから毒を抜いたらただの美少年じゃない。
それはそれで癪に障るというか、面白くないというか……。
「人形なんだよな。
しかもよりによって絡繰り人形」
「動きが人間臭いから、ついついうっかりしてた。
腕が伸びるのかよ」
「でも 【幻獣】 じゃないし、やりようはあるわ」
「いつもながら前向きだね」
こっちを見てにひっと笑うカニやん。
当然じゃない。
これは攻略対象なんだから、勝たなきゃ意味がないでしょ。
「行くわよ、クロウ。
起動……クロノスハンマー」
とっくに再起動準備を終えたスキル 【クロノスハンマー】。
【幻獣】 ほどではないにしても、大臣たちもそれなりにVITは高いと思う。
もちろん 【幻獣】 以外にもノックバックしないNPCはいるけれど、クロエの 【徹甲弾】 でノックバックしたってことは 【クロノスハンマー】 も効くはず。
わたしが詠唱を終えた直後、大臣の頭上に半透明のハンマーが何本も現われる。
もちろんこれはただの視覚効果なんだけど、その打ち下ろされる様子に合わせて大臣の体がびくっと硬直する。
効いた
【クロノスハンマー】 の影響下にある限り身動きがとれない大臣に、一瞬でその眼前に迫ったクロウが一撃で首を落とす。
直前に、仲間を助けようとしたのか、もう一体の大臣がクロウに向けて腕を伸ばしてきたんだけれど、クロウは首を刎ねたあとの剣を即座に切り返し、その腕を手首に近いあたりで斬り落とす。
これで新たに手が生えてきたらお手上げだけど、さすがにそれはなかった。
よかった
腕を斬り落とされたもう一体の大臣は、伸ばした腕を縮めつつさらに後退。
それを追い詰めるように大きく踏み込む恭平さん。
もう相手は丸腰だもの。
そりゃVITは高いだろうけれど、首を落とされれば一巻の終わり。
まして反撃の手段を持たないのなら遠慮はいらない。
そう考えた恭平さんは、両手に握った剣を振り上げて大臣に迫る。
でもちょっと詰めが甘かった。
いくら相手が丸腰とはいえ、アラートが出るほどの高STRと高VITに、たぶん高HPの持ち主。
そうそう簡単に落ちてくれるはずもなく。
しかもさっき仲間を助けようとしたじゃない。
つまりその程度には知能のあるAIを搭載してるってことみたい。
隙だらけの恭平さんの腹部を狙い、残ったほうの手で掌底……じゃなくて、これは張り手か。
突っ張り?
どっちだろう?
相撲には詳しくないからよくわからないんだけれど、恭平さんの腹部を張り飛ばした大臣は、そのまま腕を伸ばして恭平さんを吹っ飛ばす。
クロウがその腕も切り落としたんだけれど間に合わず、吹っ飛ばされた恭平さんはクロエを巻き込んで床を転がっていった。
「グラヴィティ」
「グラヴィティ」
【クロノスハンマー】 は再起動準備で使えない。
代わりにほんの一瞬だけ足止めをしてくれるグラヴィティを発動したら、カニやんと声が被る。
でもクロウにはその一瞬で十分。
直後にはもう一体の大臣も首を落とされていた。
「二人とも、大丈夫?」
「無事かっ?」
慌てて床を転がっていった二人を振り返ったら、クロエが恭平さんを押し倒してたっていうね。
クロエってば、実は美少年じゃなくて美少女だったの?
凄く絵になる図よ。
見ている側が、恥ずかしさのあまり思わずクロウにしがみつきたくなるくらいね。
でも真相は、吹っ飛ばされた恭平さんが頑張ってクロエを庇ったってことらしい。
身を挺して仲間を守るなんて、さすが! ……と思ったのに、やっぱりクロエはクロエだった。
「恭平さんのミスなんだから、それぐらいは当たり前でしょ」
「きっついな、お前。
たまには加減しろよ」
「そんなことしたらキャラ崩壊するじゃない。
嫌に決まってるでしょ」
…………クロエが加減をしないのにそういう理由もあったなんて、初耳だわ。
あ、でもやっぱりたまには加減して欲しいな。
たまにはほら、大人の対応とか。
ね、よろしく。
「嫌だね」
冒頭部分については諸説ありますが、飛鳥・奈良・平安時代のことですから不明なことも多く。
現在進行中の新ダンジョン 【ゴショ】 の雰囲気を少しでも出せたらな……という趣旨で放り込んでおります。
そしてクロエはどこまでもクロエですw
ただの美少年になるのが嫌なら、いっそ美少女になれば・・・ゲフゲフ・・・(汗