312 ギルドマスターはお仕置きを考えます
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元を正せば、いつでもどこでも発動し、わたし以外を敵味方なく誰彼かまわず溶かしてしまうぶっ壊れスキル 【灰燼】 で経験を稼ごうなんて考えた……わけじゃないのよっ!
そういう手もあるなぁ~なんて、うっかり口にしちゃったわたしが悪いのはわかってる。
わかってるんだけど、クロウに突き放されるようなことをいわれて焦っちゃった。
「それ、誤解な」
「俺もそう思います。
だってクロウさん、グレイさんのこと大好きじゃないですか」
「キンキーもこう言ってるし」
にひっと笑うカニやんの顔が、いつもとちょっと違うように見えたのは気のせいかしら?
なにかちょっと焦ってる?
だって慌ててにひっと笑ったように見えたんだけど。
どうかした?
「いや、ちょっと、子どもの素直さにびっくりしてる。
ストレートすぎて……」
なにが?
「なんでもない」
そう?
キンキーもトール君も、素直な子なのはわかってるじゃない。
いまさらどうしたのかしら。
「今さらだから驚いてる」
『油断してやんの』
『カニはアホ』
また脳筋コンビが突っ込んできた。
ほんとこの二人、カニやんが好きね。
『それも誤解な』
『女王のボケでも勘弁して』
「なにがボケなのよ?」
いっとくけど、わたし、全然ボケてないから。
本気で三人は仲良し小好しだと思ってるから……っていい返したら、目の前でカニやんに凄く嫌そうな顔をされた。
どうして?
「どうしてって……筋肉と仲良し小好しって言われても……」
『モヤシと仲良し小好しっていわれても』
『困るってか、嫌だねぇ~』
…………これはつまり、三人とも照れてるのね。
結局 「嫌い嫌いも好きのうち」 ってことでしょ。
もし違ったとしても……違うパターンももちろんあるんだろうけれど、この三人は当てはまるってことにしておくわ。
「強引」
「で、なんの話だっけ?」
「なんだっけ?」
「グレイさんが泣いてた話ですよね?」
「お、ま、え、はーっ!!」
「えっ?」
せっかくわたしとカニやんのあいだで休戦協定が結ばれたのに、気づかないキンキーが協定破りを仕掛けてくる。
その無邪気で強力な攻撃から協定を守るべく、カニやんのプロレス技……あれ、なんていうのかしら?
よくわからないんだけれど、いきなりカニやんに技を掛けられて固められたキンキーは、目を白黒させて驚いている。
STRのない魔法使い同士だと、レベル差でカニやんが勝てるのね。
「あの、俺、なにしましたっ?」
『色々』
『無邪気って重罪』
「グレイさんも同類だけど」
『それな』
『それな』
なんの話?
「美人と子どもは罪作りって話」
「わかりません」
「グレイさんがわかったら俺、首が飛ぶレベルじゃ済まないから。
クロウさんはこういうところ、どうなわけ?」
実はずっといたんだけれど、ずっと黙っていた存在感のないクロウ。
まぁ身長が身長だから、実際はちゃんと存在感もある……というか、すぐ後ろに立たれると威圧感が半端ない。
どうして190㎝越えの長身が、160㎝に足りないチビのすぐ後ろに立つのよっ?
そのクロウをチラッと見るカニやん。
「別にかまわないだろう」
「やっぱ嫌になったりはしないか」
「ならないな。
今さらな質問だ」
「岩並みに揺るがないときた。
しかもしれっと照れずに答えてるよ、この人」
クロウの照れた顔はわたしも一度見てみたい。
でも見られるのはいつも怒ってる顔とか無とか、たまに笑った顔。
案外感情表現が苦手なのかな? ……とか思ったりするんだけれど、そもそもこれもなんの話?
「さぁな」
ストレートにさりげなく訊いたら、案外サラッと答えてくれるかと思ったけれど、騙されない安定のクロウ。
駄目か、また別の手を考えるわ。
「考えなくていいから、今はキンキーの相談」
「それは終わったじゃない。
でも個人的に言わせてもらうと、刀もいいけど、その装備ならお札が欲しい」
「うわぁ~、グレイさんまで腐ってきた」
「失礼ね!」
前にも言ったと思うけど、女の人に 「臭い」 とか 「臭う」 とか 「腐る」 とか言わないでよ。
どんだけ失礼だと思ってるのよ!
『いやぁ~電車とかでさ、香水の匂いきっつい奴いるじゃん。
あれあかんわ、俺』
『通勤時間帯でやられると死ぬ。
ってか死んだことある』
また来たわね、脳筋コンビ。
どうあってもこの二人はカニやんと絡みたいらしい。
そもそもこれ、カニやんの 「腐ってきた」 にどう絡むのかと思ったら……
「付けてる本人は、付けすぎで鼻が麻痺しちゃってるんだろうな。
で、臭わないからどんどん付け足しちゃって」
『無間地獄だな』
『あれは臭いと言ってもいいと思う』
『あそこまでいくと臭いって』
…………そうつながるのね。
でも確かに、冷房が入る前の六月とか。
雨の日の湿気で蒸す車内だと、あまりに匂いがきつくて気分が悪くなることもある。
通勤途中なんて満員だから逃げ場所もなくて、我慢しきれなくて途中下車したこともある。
だから二人……じゃなくて三人の言うこともわかるんだけど、今度はOLなの? って思う。
だって以前、アンチJC&JKの話をしてたことがあるじゃない。
それが今度は通勤OL。
この二人ってドスケベのくせに、案外女性不信とか?
カニやんもちょっとその気があるわよね?
「腐りかけた喪は黙ってろ」
腐ってないわよ!
「だってキンキーのこの装備に札だろ?
どう見たって奴らの好物じゃん」
「ねぇ、腐女子ってどんな生物なの?」
改めて訊くのも何だけれど、ちょっと、その、定義が今ひとつなのよね。
曖昧というか、なんというか……。
「解釈は人それぞれだから曖昧でもいいけど、俺とは共存出来ない生物」
どうやらそれは確定事項らしい。
きっぱりはっきりと断言するカニやん。
『言い切ったな』
『今度ミッキーちゃん見掛けたら言いつけてやろ』
「言えよ。
俺、面と向かって本人に言ってるし」
その時はわたしも呼んで。
是非是非カニやんの妹さんと会ってみたいから。
「あえて会わせる気はないけど、偶発的事案は止めない。
でも俺はグレイさん置いてでも逃げるから、そのつもりで」
ちょっと気になって……というか、今さらなんだけど、二人にこっそり訊いてみる。
「カニやんと妹さんって、仲悪いの?」
『一方的にカニが嫌ってるだけじゃね?』
『そんな感じ。
ミッキーちゃんは結構普通に話してると思う』
ふーん、そうなんだ。
『で、札の話だっけ?』
『カジあたりなら作れそうだけど、そういう小道具って分類どうなってる?』
そうね、カジさんなら何でも作れそう。
でもお札の分類って……なにがなんでも仕分けしなきゃ駄目?
『しないと装備出来ないんじゃないかな?』
カニやんには絡んでこないけれど……からみたい年頃の二人に遠慮してるのか、話が戻ったところで恭平さんの声がインカムから聞こえてきた。
『それこそグレイさんの髪飾りだって、頭部の防具って分類になってると思う』
うん、そう。
でもそう考えればそうよね、うん。
札を手に持つってことを考えれば武器ってことになるんだろうけれど、今のこのゲームには、銃以外の飛び道具は設定されていない。
そりゃ剣とか杖を投げることは出来るけれど、あくまでも剣は剣で杖は杖なのよ。
それこそ手裏剣とかあれば、無理矢理そういう設定にしてしまえば装備出来るし、投げることも出来るはず。
現状じゃ無理だけど
ま、まぁね、でも 「お札」 はあくまでわたしの個人的な案で、すでにキンキーは刀を装備している。
しかもちゃんと自分で使える長さを設定して、りりか様に作ってもらって。
だからそれでいいと思う。
もちろんそういう装備が可能になれば……自分で装備しようかしら、ふふふ。
『ギルマスって女王陛下だし、新装備考えるなら鞭でしょ?』
アキヒトさんの提案に、一斉に笑いだすメンバーたち。
ちょっと待ってよ、それ違うじゃない!
女王違い!!
待って待って、どうしてわたしがS○の女王になるのっ!
あ、あんな装備、絶対に着られないから!
あんなの着せられたら死ぬ。
想像するだけでも恥ずかしくて、頭を抱えてうずくまる。
『蝋燭もいるんじゃないっすか?』
JB、ぶっ殺す!
『ちょ!
プレート誰持ってるんすか?
ギルマス来る前に次のダンジョン生成!』
『俺が持ってます』
『トールくぅ~んじゃなくてトール様、早くして!』
『え? グレイさん、待つんじゃないんですか?』
『おまー!!』
『だって今から来るんですよね、グレイさん』
「うん、行く」
『じゃ、待ってますね』
「はいはぁ~い」
『ちょ、駄目!
俺、殺される!』
「諦めろよ、トール君はグレイさんの下僕なんだから」
ちょっとカニやん、下僕って……自分だってモフの下僕のくせに。
「人類皆モフの下僕!
これぞ正義!」
意味不明なことを大声でいわないで頂戴。
でもモフ、いいわよねぇ~。
ついでにいいこと思いついちゃった! ……ということでルゥを呼び出す。
「ワンコ?
今から潜るのに出しちゃうの?」
「うん、出しちゃうの。
JBに、ルゥの頭突きとバックリのコンボをお見舞いすることにした」
そりゃわたしだって、首をザックリ刎ねるとかやってみたいわよ。
クロウみたいに、一撃ですぱっと!
格好いいし、爽快じゃない。
でも出来ないのよね。
だから考えたの……というか、思いついたの。
PK出来ない前提だと、ルゥのバックリと頭突きが最強じゃないかって。
ねぇ、ルゥ
わたしの呼び掛けに、まるで意味を理解したかのように嬉しそうな声で 「わん!」 とひと吠えするルゥ。
うんうん、今日も可愛いわね。
いい子、いい子。
じゃあ散歩がてら、JBがいるナゴヤジョーまでひとっ走りしましょうか。
前を走り出すルゥの、お尻フリフリ尻尾ブンブンの可愛いこと。
『ちょ! ちょちょ!!
トール様、お願いだからダンジョン生成してください!!!
マジ、ヤバいっす。
お願い、早く!』
ふっふ~♪
トール君、すぐ行くから待ってね。
『はい!』
まとまりのない話になりましたが、次話は、いよいよ3回目のアプデです。